「…………爆発事故、?」

駅前の賑わいが、普段の穏やかな喧騒ではなく、不穏な何かだと気付いたのは、通りかかった交番の前で、何人もの警官が慌てふためいていたから。

近くの祭り会場。
みなとみらい。
花火大会。

聞き覚えのあるその単語に、爆発事故という言葉が並び、一瞬で全てを理解した頃には、走り出していた。

「っ心美ちゃん、!」

慌ててスマホを取り出し、トーク履歴の一番上にあった名前をタップする。
1コール、2コールと、規則的な機械音だけが鳴り響くスマホに、不安と恐怖で、足が止まりそうになる。

しかし、どうにかして、安否を確かめなければと、コール音だけが鳴り響くスマホを片手に、休日の人混みを駆けている最中だった。


「…………ちゃ、」
「心美ちゃん!?」
「……〇〇、ちゃん、」

本当に、本当に小さな声だった。

振り絞るように、今にも消えそうな音が、確かに、わたしの名前を呼んでいた。

「心美ちゃん!?大丈夫?今どこに、」

もしかすると、爆発に巻き込まれたのかもしれない。

苦しそうな声で、わたしの名前を呼んだ後は、話をするのも辛そうな呼吸音だけが聞こえる。

心美ちゃんの場合は、持病のこともある。
電話口の音声が、彼女の声以外は聞こえないところを考えると、もしかして、話せないのは怪我をしたからではないのかもしれない、と思い至る。

もちろん、それが良い訳ではない。
怪我をしていなくても、むしろ、その方が彼女にとっては致命的だ。

せめて彼女が今いる場所さえ分かれば、とスマホを握る手に力が籠った瞬間、〇〇ちゃん、と、もう一度自分の名を呼ぶ彼女の声が聞こえた。

「心美ちゃん?」
「………の、外れ……」
「え、」
「……海、すぐ…………」

おそらく、必死に今いる場所を伝えようとしているのだろう。
みなとみらいの祭り会場なら、そこまで広くはないはずだ。
賑わいの外れで、すぐそばに海が見えるところ。

情報が少な過ぎて、見つかる可能性なんて無いかもしれない。
しかし、諦めることは出来なかった。

「心美ちゃん、大丈夫。すぐに行くから」
「…………ん、」
「頑張って。大丈夫だからね」

既にパニック状態の会場が近付き、こめかみに嫌な汗が流れる。

大丈夫、大丈夫、と何度も口にしたのは、自分の為でもあった。

大丈夫。見つけられる。
大丈夫。彼女は助かる。

大丈夫。
だいじょうぶ。


「っ、心美ちゃん……!」

会場の外れで、見慣れた彼女が倒れているのを見つけ、すぐにそばへ駆け寄った。




「彼女、血管に疾患があるんです!多分、その発作で、いつもなら薬を常備しているはずなんですけどっ、」
「その薬、何か分かりますか?」
「はい、」

心美ちゃんが救急車に乗せられ、病院に搬送されている間、彼女を観てくれると乗り込んで来た先生に、色々なことを聞かれた。

「貴女は、この子のお姉さん?」
「あ、いえ、わたしは、」

彼女の、兄の恋人です。
普段なら、迷わず言えたはずの言葉が、詰まって上手く言えなかった。

別れた訳じゃない。
ただ、少し喧嘩しただけ。
それでも、こんなに辛い。

「あの、」
「……大事な子なんです。恋人の、妹で、でも……わたしにとっても、家族と同じくらい、大切で、っ」
「そうですか」

大丈夫です。
絶対に助けますから。

さっきまで、繰り返し口にしていた言葉をかけられ、グッと強く握っていた彼女の手に、力を込めた。


「心美ちゃんっ、大丈夫?病院着いたからね、!」

救急搬送され、数分後には着いた病院。
救急隊と、中にいた先生がストレッチャーを下ろしながら何か話している横で、必死にその手を握り続けた。

大丈夫。
もう平気。
これで助かる。

お願い。
彼女を助けて。


「………っ、心美、?」

病院の入り口。
心美ちゃんを待ち受けていたであろう先生達の中に、見覚えのある顔があった。

「……っ…あらた、」
「……〇〇、何で、……心美が、」

そういえば、彼は夜間専門の救急医になったんだった。


「ったすけて、」
「……っ」
「、あらたっ……助けてよ、!」

仕事が嫌だ。
俺には出来ない。
辞める。

今朝、苦しそうに呟いた新のことなんて、今は頭に無かった。