「仲良いの?あの後輩」
「岸くんのこと?」
「そうそう、岸くん」

一ヶ月ほど前、わたしのチームに新しく配属されて来た岸くんは、今時珍しいほどの好青年だった。

少し要領が悪く、物覚えも良くはないが、それを補って余りあるほどの勤勉さは、自分も見習わなければと思わされる。


そんな岸くんと、今日初めてご飯に行った。
イメージ通り、出てきたご飯を美味しそうにかき込む姿は、とても幸せそうだったけど、結果的には、少し申し訳ないことをしてしまったと思う。

「〇〇が誰かとご飯行くなんて珍しいから」
「そうかな?」
「うん、しかも楽しそうだった」
「岸くん、面白い子だからかな」
「楽しかった?俺といる時より」

大きな目が、ジッとわたしのことを見つめている。
表情はにこやかなのに、優しい雰囲気ではない。

「〇〇」
「ん?」
「俺、そういうの無理」

仕事が出来て、カッコよくて、みんなの憧れ。
そんな紫耀と、ただの同期から恋人同士になったのは、彼からの告白がキッカケだった。

普段なんでもそつなくこなす紫耀が、わたしの前で、顔を真っ赤にしながら好きだと伝えてくれた。
ごめんね、カッコ悪くて。そう言って、恥ずかしそうにハニかんだ顔が愛しくて、この人とずっと一緒にいたいと思った。

「〇〇の一番って誰なの?」
「紫耀だよ」
「ほんとに?」
「うん。紫耀以外に、わたしが一緒にいたい人なんていないから」
「………」
「世界一の彼氏だよ」

後ろから腕を回され、優しく包まれる。
頬をすり寄せ、耳元で名前を呼ばれると、とても幸せな気持ちになれた。

本当に、優しくてカッコ良い。
わたしには勿体無い人だと思う。

「よし、ご飯にしよっか」
「ねぇ〇〇」
「ん?」
「次からは、もうやめてね」
「?」
「人前で、あんなにご飯ガツガツ食べてると、品ないよ」
「…….そうだよね、ごめん」
「あと飯も、外食はなるべくしないでって言ったのに」
「ん、ごめん」
「分かってよ、彼女なんだからさ」
「……うん」

彼がそう言うのなら、そうしなきゃ。
素直に言うことを聞けなかった代わりに、もうしないから、と笑うわたしに、紫耀は、ホッとしたように微笑んだ。

「ありがとう、〇〇」
「うん、」
「じゃあ、一個お願い聞いてくれる?」
「……お願いって?」
「俺、今日〇〇のせいで一日イライラしちゃったから、安心させてほしいんだよね」
「………」
「俺が〇〇の一番だって、証明してよ」
「ん、わかった」

ブラウスの裾から、ゆっくりと素肌に触れる手はとても優しいのに、どうして、この人の視線は、こんなにも怖いんだろう。