「〇〇さん、また飯それだけっすか?」
左手に持った食べかけのおにぎりを見て、ムッと眉を寄せる岸くん。
彼もこれからお昼なのか、手にはコンビニのサンドイッチと、美味しそうな菓子パンが握られていた。
「岸くんだって、それだけでしょ」
「俺のはオヤツっすよ、飯は飯でちゃんと食べました」
「また蕎麦?」
「はい!蕎麦っす!」
わたしが教えたお店以外にも、たくさんのお店を開拓したらしい彼は、お昼から戻る度いつもご機嫌だ。
あれ以来、一緒にお昼を食べたことはないけど、きっと今日も幸せそうにご飯を食べていたんだろう。
「とりあえずこれ、どうぞ」
「え、」
「お昼それだけじゃバテちゃいますって」
差し出されたのは、メロンパン。
中にクリームが挟まったそれは、とても美味しそうだけど、今それを貰うわけにはいかない。
「ありがとう」
「はい!」
「でもこれは岸くんが食べて」
「え、」
「本当にお腹いっぱいなの」
「………」
「ありがとう」
最後の一口になったおにぎりを手に、笑顔を作る。
きっと岸くんには、この言葉が嘘だということもバレているだろう。
わたしが素直に「ありがとう」「本当はこれじゃお腹いっぱいにならなくて」と言えたら、こんな心配そうな顔は、させなくて済んだはずなのに。
「〇〇さん」
「ん?………っ、?!」
呼ばれて、振り向いた瞬間だった。
声を発する間もなく、グッと口に何かを押し込まれ、目を見開く。
「ちゃんと食ってください」
「、きしく、」
「それ、元々〇〇さんの為に買ってきたんで」
「え、」
「甘いもの、好きですよね」
あれ。そんなこと岸くんに言ったっけ?
無理矢理押し込まれたメロンパンを咀嚼しながら、ぼんやり考える。
「はい、もう一口」
「え、」
「いいから口開けてください」
「いやいやいや、」
「食べないならまた突っ込みますよ」
「?!」
いつになく強い口調で言う岸くんに、思わずたじろぐ。
仕事中は誰にでも低姿勢で、いつもニコニコ笑っているのに。どうして、こんな時だけ強引なんだろう。
「もう、分かった、食べるから、」
「全部っすよ!」
「うん、ちゃんと食べるから」
意地悪ではない。
これは、彼の優しさだということが分かっているから、嫌な気はしなかった。
「うまいっすか?」
「、うん」
「良かったっす!」
くしゃっと目元にしわを作って笑う岸くんは、やむぱり、とても優しい子なんだと思った。