「っバカじゃないの……」

ICUと書かれた病室の外で、情けなくうつむく彼の肩を押した。


あの後、すぐに手術が行われ、心美ちゃんは助かった。
今は容体も安定し、静かに眠っている。


しかし、わたしが許せなかったのは、その後だ。

今にも泣きそうな新が、心美ちゃんの受け入れを断ったと、例えそれが妹だと知らなかったとは言え、彼女のことを見殺しにするところだったと、そう言った。

自分には、技術も知識も無い。
そんな中途半端な状態で、誰かの命を預かることは出来ないと、あれだけ弱音を吐いていたのだ。
新の気持ちも、分からない訳ではない。

「っ、新のばか……っ!」
「ごめん……」
「わたしに、謝ったって……」
「ほんと、……ごめん、」
「っ、」

攻めたい訳ではない。
きっと、今この瞬間も、一番辛いのは彼のはず。

本当なら、泣いて苦しむ彼のことを、一番に支えてあげなければならないのに。

「……ごめん、新だって分かってるよね、」
「………」
「心美ちゃん、無事で良かった……ちゃんと、そばにいてあげてね」

昨日から、余計なことばかり言ってしまう。

新のことは、全部受け入れてあげたいのに。話せば話すほど、何も上手くいかない。

「……また、帰るの、」
「ごめん、」
「〇〇、俺、」
「落ち着いたら、また連絡して、」

昨日と一緒だ。
今は、きっとそばにいない方がいい。

お互い離れて、冷静になってから話そう。

そんな意味も込めて、何かを言いかけた新に、背を向けた。




「そういえば深澤さ、彼女大丈夫?」
「え、深澤!あんた彼女いたの?!」
「、?なに、大丈夫って、」
「ねぇなになにどんな子?綺麗系?可愛い系?」
「あ〜可愛い系じゃないかな、目とかパッチリしててアイドルみたいだったし」
「うっわ〜!そうなんだ!えぇー!気になる写真とかないの?」
「あっても見せねぇし、てか朝倉、なんだよ大丈夫かって、」
「あぁ、」

〇〇と喧嘩し、心美が運ばれて来てから数時間。
慌ただしかった院内もようやく落ち着き、引き継ぎまであと数分という頃だった。

思い出したように、俺に声を掛けてきた朝倉は、何故か〇〇のことを知っていた。


「あの子がアンタの彼女だってこと知ったのは心美ちゃんのこと搬送してる時に恋人の妹だからって言ってたからなんだけど、前の日にも、寮で泣いてるところ見てさ、」
「え、」
「救急車で、なんか見たことあるかもって思ってたんだけど、アンタと話してるところ見て思い出したの」
「朝倉、それっていつ、」
「今日……ていうか昨日の朝?ゴミ出しに出たら鉢合って、顔も見たことなかったし、違う科の先生かな?くらいに思ってたんだけど、あの子、アンタの部屋から出てきたってことだよね」
「………」

はあ?深澤何してんの。彼女泣かすとかサイテー。
朝倉の話を聞いた高岡が、早速俺に突っかかってくる。

事情も何も知らないくせに、俺が悪いこと確定かよ。
すぐに言い返そうと思ったが、あれは俺が悪い。冷静になればなるほど、全部俺が悪かったのだ。

「深澤〜何したの?相談なら乗るけど」
「お前面白がってんだろ、」
「えぇ、そんなことないって!俺達仲間だろ、話してみろって!」
「そうそう深澤、いいから話してみなさいって〜!」

調子の良い二人に挟まれ、まぁ話してみるだけなら良いか、と口を割った俺が、その後烈火の如くキレ散らかした高岡に、しばらく説教をされたのは言うまでもない。