仕事は楽しい。
人間関係にも恵まれ、プライベートも、そこそこ充実している方だと思う。

二十代も半ば。きっと、このままなんとなく結婚して、なんとなく幸せになるんだろうな、と。ずっと、そう思っていた。


「どういうこと。俺言ったよね、外でご飯食べるのやめてほしいって」
「だから食べてないって。あれは、ただ一緒に買い物してただけで、」
「でもその間ずっと一緒にいたってことでしょ?俺はそういうのが理解出来ないって言ってるんだけど、何で分かんないの?」

元々、わたしの行動をなんでも把握したがる彼のこういうところが、苦手だった。

「そもそも岸ってさ、ただの部下でしょ。今までそんな頻繁に部下とどっか行ったりとかしてなかったじゃん」
「仕方ないでしょ、岸くんはまだ入って来たばっかりなんだから。中途で同期もいないし、わたしが直属の先輩なんだから、」
「そんなことどうでもいい」
「………は?」
「ただ俺は、〇〇がそうやって自覚ないことばっかするから、」
「なに。自覚って」
「〇〇は俺の彼女でしょ?なら他の男と二人っきりで出掛けるとか良くないって分からない?そもそも岸のことだって、ただの部下とか言うけど……ほんとのところは、どうなんだろうね」
「、どういうこと……?」
「好きなんじゃないの?岸のこと」
「………」

あぁ、これは本気で疑われているんだ。
わたしが何を言っても、多分この人には伝わらないんだ、と思った。

「なにそれ……」
「……」
「そうだね、好きだよ。岸くんのこと」
「え……」
「一生懸命で、何事にも全力で、いつもわたしのこと心配してくれる。今日だって、わたしが忙しくて休憩入れてないことに気付いて、連れ出してくれた。きっと、岸くんが気付いてくれてなかったら、わたし……ずっと疲れてしんどいまま、仕事してたと思う」
「は?なら俺に言ってくれれば、!」
「言えるわけないでしょ」
「え……」
「紫耀に、言えるわけない……」

彼女には、いつも綺麗でいてほしい。
仕事もきちんと頑張って、努力している人がいい。
上品で、マナーがきちんと守れる人で、強い人。

俺の彼女なら、分かるでしょ。
最初は嬉しかったその言葉が、どんどんプレッシャーになっていったのを、この人は何も知らないんだろうな。


「………やだ、」
「え、?」
「もうやだ、」
「……〇〇、?」

視線を下に向けると、いつか紫耀に貰った、ハイブランドのパンプスを履いた自分の足がそこにある。

パンプスだけじゃない。ピアスもネックレスも、鞄もメイクも。彼が好きだと言うから必死にケアした長い髪も。

全部全部、見ているだけで吐き気がする。

「………っもうむり、」
「え……」
「…ッ大きらい、!」
「っ!?」

外せる物は、外せるだけ外して。
靴も履かずに、外へ飛び出した。