「あれ、これ〇〇さんのか」
家に着いて、鞄を開けたら知らない資料が入っていた。
作成者の欄には、直属の上司である彼女の名前。
明日も平日だし。夜だし。少し迷ったものの、一応連絡だけはしておこうと、彼女に電話を掛けることにした。
「あの、〇〇さん今だいじょう、」
「きしくん、っ」
「え……」
電話の向こうから、知らない声がした。
正確には、聞いたことない〇〇さんの声が。
「え、ちょ、〇〇さん大丈夫っすか、?!」
「、きしくん……痛いよぉーー…」
「え?!、痛い?〇〇さん今どこにいるんすか!?」
「分かんない………どっかの路上……もう足痛くて歩けない、」
「はあ?!何でそんなところに、つか足痛いって…大丈夫っすか?怪我したんすか?」
「裸足で走った……」
「いや分かんねぇって……マジ分かんねぇから、」
とりあえず一回、頭を整理させてほしい。
矢継ぎ早の情報で、ウッカリ素になってしまった事にも気付かず、とりあえず車の鍵を手に取り家を出た。
「〇〇さん、いいですか。とりあえず今から俺行くんで、電話このままにしといて下さい」
「うん……」
「周りに何か見えますか?」
「……なんにも無い、街頭だけ」
「いやほんとマジ危ないっすから!何してんすかもう、!」
「………」
「あ、いや、怒ってないっすからね?俺は心配してるだけっすから!」
「うん……ありがとう、」
「近くに電柱とかあったら、番地とか書いてあるか、見てほしいんすけど、」
「うん、分かった…」
幸い、彼女が言う通りに電柱を見つけてくれたおかげで、だいたいの居場所は分かった。
教えてもらったその辺りは、ナビによると住宅地。
裸足で出てきたって言うくらいだから、きっと何かあったんだろう。
「〇〇さん、」
「……きしくん……」
ぼんやり光る街灯の下。薄暗い中、俺を見上げる〇〇さんが、いつもとは別人のように見えた。
「ほんとに来てくれたの……」
「そりゃ来ますよ、心配っすもん、」
「………」
「歩けないっすよね?……はい、乗ってください」
「でも、」
「ここまで迎えに来させといて、今さら遠慮とか無しっすよ」
「………」
「ほら、いつまでもここに車止めておけないんで」
「うん、」
いつもは綺麗に整っている髪が、乱れていたこと。
キラキラ光るピアスも、ネックレスも付いていなかったこと。
探せばいくらでも見つかる彼女の異変に気付かないフリをして、助手席のドアを開けた。
「失礼します、」
「……」
「大通りでどっか店寄るんで、それまで足は我慢してください」
「うん、」
「大丈夫っすよ。ほんと、大丈夫ですから」
「……うん」
情けなくうつむいた〇〇さんの頭を、思わず撫でそうになった。
どんなに弱っていたとしても、〇〇さんは上司で、ただの先輩。
しかも、恋人だっているんだから。
俺なんかが簡単に触れてはいけないと、なんとか彼女のシートベルトを代わりに締め、体を離した。