「え、夜間専門救急、?」
それは、初めて聞く言葉だった。
数日ぶりに会う恋人は、首をかしげるわたしに、そうなんだよ、と、頬杖をつく。
「なんか、働き方改革の一環?みたいな施策で、当直を廃止する代わりに、夜間専門のチームを作るんだと」
「それで、そこに選ばれたの?」
「選ばれたっつーか、体よく押し付けられただけだけど、」
「でも押し付けるにしたって誰でもいいわけじゃないでしょ。選ばれただけ凄いじゃん!」
どうやら、気乗りしないらしい。
わてしの言葉に、うーん、と口を尖らせる彼は、医者だ。
専門は、内科。
医療のことにさほど詳しくないわたしでも、それが"救急"とは異なるものだという事くらいは、なんとなく分かる。
「不安?」
「まあ、ね」
残り半分ほどになったパスタを、くるくると巻き付けながら笑う。
ふにゃりと下がった彼の眉が、その不安をよく表していた。
彼は元々、仕事に対して熱量が高い方ではない。
真面目で、堅実。
必要なことには、努力も惜しまない。
しかし、それ以上は、決して求めないのだ。
普通でいい。
それなりに働いて、それなりに幸せなら、充分だ。
目の前の現実に、過剰な結果は求めず、無難に生きて行こうとする彼の言葉には、その人間性がよく表れている。
「でも、そっか、新が夜に働くなら、あんまり会えなくなっちゃうね」
「ごめん、」
「ううん、仕方ないよ。わたしもなるべく休み合わせるようにするから」
頑張って、という言葉は飲み込んだ。
しかし、だからといって、新なら大丈夫と、無責任なことを言うのも、違う気がした。
過剰な期待は、かけたくない。
新が新しい場所で頑張って、少し疲れたな、と思った時に、逃げられる場所になろう。
最後の一口になってしまったパスタを頬張りながら、幸せそうに笑う目の前の恋人を見て、そう思った。
これが、ほんの数日前の話だ。