「どういうこと、?」

新が夜間専門救急で働き出し、2日。
休日だったわたしは、夜中に突然振動したスマホの明かりで、目を覚ました。

「新……?」

電話の向こうにいる恋人は、もしもしの言葉も無しに、俺ダメかも、と呟いて、それっきり。

何があったのか。
今どこにいるのか。
聞きたいことはたくさんあったが、一向に返ってこない返事に、スマホを握る手に汗が滲んだ。

「新、聞こえる?」
「……うん」
「お仕事、お疲れ様」
「うん、」
「まだ病院?」
「ん、今休憩中」
「そっか」

普段、明るくわたしの名前を呼んでくれる声は、情けなく掠れていた。


きっと、それだけ過酷な現場なのだろう。

慣れない環境で疲弊し、自信を無くしてしまったのなら、元気付けてあげたい。
しかし、彼の仕事のことなど何も分からないわたしには、慰め方が分からない。

どうしたの、の一言を飲み込み、なるべく普段と同じように会話をすること数分。
やがて、小さくわたしの名を呼ぶ彼の声に、ん?と首をかしげる。

「起こしてごめんな」
「ううん、起きてたから」
「嘘つくなって。声で分かんだよ」

少し笑いながらそう言われ、電話口の声が途切れる。

そして、もう一度、〇〇と名前を呼ばれ、返事をする。

「ありがとな」
「……」
「ほんとは今すぐ会って直接言いてーけど、我慢するわ」
「うん、」
「ほんと、すげー会いてぇ」
「ん、わたしもだよ」

ボソリと、静かに呟かれた言葉が、耳に直接響いてドキドキした。


結局、ダメかも、という言葉の真意は分からない。
しかし、これまで何事にも真面目に向き合って来た彼が、どうか報われる結果であってほしい。

「〇〇」
「ん?」
「好き」
「ふふ、どうしたの」
「いや、なんか、なんとなく?」
「変なの。浮気でもした?」
「はあ!?ばっ、しねぇよ!」
「うん、知ってる」

出会った頃から、バカが付くほど真っ直ぐで、不器用な彼のことだから、好きになった。

付き合い始めてすぐ、冗談で同じことを言った時から、何も変わらないその反応に、ホッとする。

「新」
「ん?」

わたしが仕事で落ち込んだ時、彼はどうしてくれたっけ。

「今日、ご飯作りに行く」
「え、」
「お休みだから、そっち行って新が帰って来るの待ってる。だから、一緒にご飯食べよ」

一から十まで、全部話してくれなくてもいい。
しかし、何か嫌なことがあった時に、それを共有し、軽くしてあげることは出来るはずだ。

以前、仕事で行き詰まり、もう嫌だと泣いたわたしに、嫌な顔一つせず、笑ってくれた彼のことを思い出す。

「〇〇、料理出来ねぇくせに」
「新の為なら頑張るよ」
「何それ、可愛いこと言うなよ、」

始発の電車が動き出すまで、あと数時間。
少し寝て、朝になったら、それと同時に帰って来る彼を迎えて、お疲れ様と言おう。

暗闇の中、最後におやすみ、と呟いた彼の言葉にうなずき、電話を切った。