海「〇〇ちゃーん、今暇?ご飯行こうよー」
『今日は忙しいからダメ』
海「えぇー、もう夜じゃん」
『うん、だから急いで全部終わらせるの』
海「じゃあ邪魔しないから行ってもいい?」
廉「海人が行くだけで邪魔やろ」
岸「間違いない」

電話の向こうで、海人と岸くんが喧嘩している声を聞きながら、オーブンに入れていた完成間近のタルト取り出した。

『ねぇ用事無いならもういい?忙しいから切………ごめん、ほんとに切るね』
海「え、ちょっと〇〇ー!」

言葉の途中で、来客を知らせるインターホンが鳴る。

なんて素晴らしいタイミングだろう。

通話を切り、モニターホンを確認したところで、もう一度気分が降下した。

『…………なんの御用でしょう』
紫「いーれーて!」
神「あーけーて!」

わたしが断れないよう、しっかり手土産を見せてくる辺り、常習犯。

仕方なくロックを解除すると、ウキウキしながら「ちょっと待っててねー!」「すぐ行くからねー!」とモニターからいなくなる二人に、扉の鍵だけでも閉めといてやろうか、と思った。









神「あ!〇〇エプロンしてるじゃん!」
紫「ほんとだ!はいコレお土産。賄賂」
神「俺からもねー」
『ありがとうございます』

2月13日。
バレンタイン前日の夜。
女の子が一番忙しいこの時間に押し掛けてくるなんて。

貰ったお菓子を冷蔵庫に入れ、仕方なく食器棚からマグカップを二つ取り出した。

『コーヒーでいい?』
紫「え、別にいいよ」
『でももうお湯入れちゃったし、なんならコーヒーも出来た』
神「聞く気ゼロじゃん笑」
『はいどーぞ。寒かったでしょ』
紫「ありがと!」
神「あ、これ俺があげたマブカップじゃん」
『うん。大事に使わせていただいてます』
神「えぇー、嬉しい照れちゃうな」
紫「そんなん言ったら〇〇が今着けてるエプロンは俺があげたやつですー!」
神「え、むり。ジェラシー。今すぐ取って」
『……二人とも飲んでる?』
紫「全然。超シラフ」











紫「で、今年は何作ってくれたの?」
『タルト』
紫「ケーキ?」
『うん、まぁ似たようなものかな。もうちょっとで完成』
紫「やった!」

我が家のキッチンは、カウンター式になっている。

向かい側から、嬉しそうにこちらのぞき込み、ニコニコ笑っている紫耀は、まるで子どものようだった。


紫「ねぇ、なんか手伝うことある?」
『んーん、大丈夫。ゆっくりしてていいよ』
紫「神宮寺が寝たから暇なの」
『え、寝たの!?』
紫「うん、アイツちょっと飲んでるから」
『あぁ、そういうこと……じゃあ、フルーツ乗せるだけだけど、やってみる?』
紫「まかせなさーい」








紫「せんせー、だいぶ終わりましたー」
『おぉ、綺麗!』
紫「でしょ?めっちゃ頑張った!」
『ほんとありがとう。後は切り分けるだけだから、座ってていいよ』
紫「じゃあ、俺お茶淹れる」
『何言ってんの、紫耀はお客さんなんだから、』
紫「勝手に押し掛けるのはお客さんじゃなくてただの友達だよ。〇〇疲れたでしょ」
『……どうしよう今ちょっと惚れそうになった』
紫「え、ほんとに?付き合う?」
『付き合わないけど』
紫「えぇー、なにもうめっちゃ期待させるじゃん」
『紫耀が彼氏になんかなったら、毎日ヤキモチ妬いて大変そうだからイヤ』
紫「理由めっちゃ可愛いな」

6つに切り終えたタルトを箱に詰め、隣で余ったフルーツを食べていた紫耀に、そのうちの一つを手渡す。

『ハッピーバレンタイン、紫耀』
紫「え、?でもまだ日にち、」
『作ってるうちに変わっちゃった』
紫「まじか……ほんとだ、え、いいの?これもう俺の物?」
『うん。いつもありがとう』
紫「〇〇ーっ!」
『わっ、』










紫「俺の方こそいつもありがとう!大好き!」
『……さすがに照れちゃうのでやめてください』
紫「あはっ!照れてんの?か〜わ〜い〜い〜!」

どうやら、とても喜んでくれたらしい。

隣にいたわたしをぎゅうぎゅうに抱き締め、大声で言う紫耀。

さすがの馬鹿力で抵抗も出来ず、されるがままになっていると、その声を聞きつけたジンが目を覚ましたのか。紫耀うるさいよ、という声とともに、体を後ろに引っ張られた。


神「なにしてんの、」
紫「うわだっる、機嫌最悪じゃん」
神「〇〇に触んないで」
紫「お前は〇〇の彼氏か」
神「そうなりたいです。出来れば」
紫「だってさ」
『酔ってない時にお願いします』
神「……フラれた」
『はい。いいからジンは腕離して。お水飲んで』
神「やだ」
『ちょっと、拗ねないでよもう……』

後ろから、ぎゅっと抱きしめられ、わたしの肩口にジンのおでこが当たる。









紫「ちょっと〜俺置いてラブラブするのやめてくれる?」
神「紫耀帰っていいよ」
紫「やだね!絶対帰んねーし」
『いいからジンはお水飲んで、はい』
神「〇〇が飲ませてくれたら飲むー」
『紫耀わたしのフリして口移しする?』
紫「バカか」
神「ねぇ〇〇他の男と話しないで」
紫「神宮寺って彼女出来たらこんな感じなのかな」
『さあ、知らないけど……とにかく重いから離してほしい』
紫「じゃあ、俺にお願い紫耀くん♡って可愛く言ってくれたら、」
神「紫耀のばーーーっか!」
紫「おっまえ、!笑」

結局、その後しばらくわたしの腰に抱き着いたままだったジンが満足するまで、彼の奇行は続いた。