「というわけで………まぁ、そういうことだから」
「あ、うん……」
「ごめん、勢いで色々、」
「ううん、」

あれから、ずっと手は繋がれたまま。
静かな住宅街を歩くわたし達の間には、生暖かい夜の風が吹いていた。


「改めて言うけどさ、」
「うん、」
「俺、お前のこと好きなんだ」
「……うん」

「彼氏いるのは知ってたけど、別に奪ってやろうとか思ったこともなかったし、お前が幸せならそれでいいと思ってた」
「うん、」
「でもごめん。今日のアレ見ちゃったら、さすがに我慢してらんないわ、」

優しい平野らしい、優しい理由だと思った。


「まー、〇〇的には色々気まずいと思うけど、会社では今まで通り接してくれると嬉しい」
「それは、全然いけど……」
「俺は別に大丈夫だから。普通にな」
「……うん」

無理に彼との関係を壊そうとはしない。
ただ笑って、いつも通りに接してくれる平野の距離感が、今はとても心地良かった。







「…………え、まじで言ってんの」
「まじで言ってる、」
「言えよ〜!そいうことはさ〜!」
「ちょ、」

昼時の食堂で、興奮したように話す橋の箸から唐揚げが落ちる。

「な〜んか二人とも様子おかしいとは思ったけど、まさかそんなことがあったとはねー……」
「紫耀もようやるわ、男持ちの女に」
「ね。やってることほぼ月9の主人公じゃん」
「おー、それなら〇〇ちゃんも主演やろなぁ」
「やっばぁ、三角関係じゃん。どっちとくっ付くと思う?」
「えー、俺は紫耀の方いってほしいけどなぁ」
「お願いだから本人の前でそういう話しないでくれる?」

いつの間にか、すっかりわたし達の中に溶け込んでいる永瀬くんも怖い。