「…………」

仕事中。
黙々とPCに向き合いながら、視界の端で存在を主張する小さなキーホルダーに視線を落とした。

「〇〇ちゃん」
「……あ、永瀬くん」
「お疲れ。一緒に昼行かん?」
「もうそんな時間か、」

デスクに置いていたスマホの画面をタップすると、時刻とともに表示されるキーホルダーと同じキャラクターのロック画面。

「あ、それ〇〇ちゃんが好きなやつやったん」
「え、」
「紫耀も昨日、それとおんなじキーホルダー持っとったから」
「……これ?」
「おー、これこれ。なんやねん、お揃いかい」

昨日、飲み会に行く前に貰ったキーホルダーを見せながら言うと、それをジーッと見つめた永瀬くんが嫌そうな顔をする。

「平野に貰ったの、これ」
「ほー。あいつマジでゾッコンやん……………っとぉ、」
「あ、大丈夫。知ってるから」
「え、なに、紫耀告ったん?」
「まぁ……多分、」
「待って。ちょおちゃんと話聞きたいから外行こ」

そう言って、永瀬くんが連れて来てくれたのは、会社の近くにある定食屋さん。
どれも全部美味いから、という全く参考にならない彼のアドバイスを聞き流し、店主のおばあちゃんがススメだと言うアジフライ定食を注文した。


「で?何があったん。実は〇〇ちゃん出てった後、紫耀もすぐ帰ったんよ」
「え、そうなの?」
「そーそー。紫耀は〇〇のこと大好きだからねぇ」
「ていうか橋は何でいるの?」
「えー、いいじゃん俺もちょうど腹減ってたし」

二人がここ入ってくとこ見えたからさぁ、と相変わらずマイペースな橋が取り分けただし巻き卵を受け取る。

「ちにみに彼氏とはどうなったの?」
「どうって、どうもなってないかなぁ、」
「彼氏と別れた後告られたってこと?」
「いや、」



* * *

「月9やん」
「なにその胸キュン展開」
「俺が紫耀に惚れそうやわ」

だよね。分かる。

言われた言葉に、心でうなずきながら油の付いた口元を拭うと、その瞬間、平野にキスされたことを思い出し、顔が熱くなるのを感じた。

話は端折って伝えた為、キスのことは話していない。

それでも、少し思い出すだけでしっかりと蘇るあの瞬間の感覚に、思わず大袈裟な咳払いをしてしまった。


「で、その後結局どっちと帰ったの?」
「どっちとも。一人になりたかったから、歩いて帰った」
「それよく紫耀が許したね」
「さすがにあんましつこく出来んやろ」
「でもあの紫耀だよ?〇〇に対してどんだけゾッコンだったか知ってる?」
「知らん」
「ね、もう時間」

このまま話を聞いていたら、平野が知られたくないことまで聞かされそうで、すぐに会社へ戻ろうと二人を促す。


「〇〇ちゃん今日飲み行かん?」
「行かないです」
「俺昨日彼女と別れたんよ」
「え、」
「ありゃ、ついに?」
「そう。ついに」

レジでお金を払いながら、なんて事無さそうに言う永瀬くんに、渡した千円札を返される。

「えぇよ。俺から誘ったんやし」
「じゃあ廉俺も〜」
「最初からそのつもりやろ」
「さすが!おっとこまえ〜」

ニコニコ笑って、ぎゅっと永瀬くんの腕に抱きつく橋は、そのままお店を出ても彼の腕にピッタリとくっ付いていたが、本人達が何も言わないので、わたしもそのまま二人の密着をスルーして口を開いた。

「あの、ほんとに別れちゃったの、?」
「そーよ。言うたやん、浮気しとったって」
「でも、」
「好きやったよ、そりゃ最初はな。でも浮気されてまでこの子と一緒におるくらいなら、もっと自分のこと大切にしてくれる子探そかなって」
「そっか」
「おん。だから〇〇ちゃん、俺のこと好きになってもえぇで」
「それはないです」
「ガハハハ!即答!」

恋人と別れたというのに、とてもスッキリした顔でそう言う永瀬くんが、少しだけうらやましくなった。

「彼女美人だったのにね」
「へぇ、そうなんだ」
「確かミスコンとってたよね?」
「あー、なんか言うてたなぁ、大学ん時やろ」
「うそ、凄いね」
「でもミスコンなら紫耀の方が凄いよ」
「出たー、不動の4連覇」
「は、?」
「ふざけとるやろ?アイツ在学中ずっと優勝やねん」
「え、」
「ちなみに廉はその影で準連覇」
「言わんといて恥ずかしいから笑」

大学のミスコンなんて、出れるだけでも選ばれた一握りの人達なはず。
それを連覇。しかも在学中ずっとだなんて。

改めて平野の異次元さに驚いたところで、不意に、どうしよもなく不安になった。

「ちょっとビックリしちゃった?」
「、まぁ」

どうして、そんなに凄い人が、わたしなんかを好きなんだろう。

貰ったキーホルダーがカチャリと音を立てるのを見て、咄嗟にそれをポケットの中へ押し込んだ。