ちゃんと話したいから、会いたい。

ちゃんと話したいから、少し時間くれない?



仕事中、しばらく見れていなかったスマホを開くと、ほとんど同じ時間帯に、別の二人からメッセージが届いていた。


会いたいと送ってきたのは、優太。
正直、昨日の今日ですぐに顔を合わせる気にはなれなくて、彼への返事は後回しにした。


時間くれない?という平野からのメッセージには、大丈夫とだけ返して、連絡を待つ。


「〇〇」
「え、平野」

確かまだ返事は来ていなかったはず。

それなのに、突然現れた平野の姿を見て、遠くで橋がニヤニヤと下品な笑みを浮かべていた。







「何飲む?」
「ん〜……」
「ねぇ見てこれ。チョコだって」
「へぇ、冬季限定かぁ。わたしこれにしようかな」
「じゃあこのチョコのやつと、アイスコーヒー1つ」
「あ、あとチーズケーキもお願いします」


ショーケースに並んでいた美味しそうなチーズケーキは、当たり前に平野が食べる物だと思っていた。

しかし、席に着くなりそのチーズケーキとチョコレートのモカはわたしの目の前に置かれ、平野からは、どうぞ、と声を掛けられる。

「え、何で」
「何でって、〇〇好きでしょ」
「……何で?」
「だから、」
「いやそうじゃなくて。何で知ってるの」

わたしは、平野にそんな話をした覚えは無いし、もちろん、平野の前でチーズケーキを食べたこともないのに。


「まぁ、見てたっていうか……」
「見てた?」
「そうだよ。見てたの」
「えっと……」
「ふはっ、すげぇ困った顔、笑」
「だ、だって、!」

頬杖をつきながら、ジッと目を逸らさずに言われて、狼狽えない方が無理だ。

真剣な瞳に、急激に高まった緊張が、平野の笑顔でふわりとほぐれていく。


「ごめん、変に意識させちゃったよね」
「いや、」
「まぁ意識してくれた方が嬉しいんだけどさ」
「平野、」

「昨日はごめん」

呟くと同時に、テーブルにおでこを付ける勢いで頭を下げた平野。

「勢いで、お前の気持ちなんも考えずにあんな事して、マジで悪かったと思ってる」
「うん、」
「でも、生半可な気持ちであんな事したわけじゃない」
「………」
「ただ、どうしても好きだって知ってほしかった」

下げていた頭が上がるのと同時に、少し上目遣いでこちらを見つめる平野と目が合う。

昨日と同じ。
真剣な瞳で、真っ直ぐわたしに気持ちを伝えてくれる姿に、どうしたって胸が騒いだ。


「改めて、ちゃんと言っていい?」
「え、」
「まぁダメって言われても言うんだけどさ。俺、お前のことが好き」

2回目の告白は、少し照れ臭そうに、でも凄く優しく笑う平野の顔が印象的だった。


「恋人いるのは知ってたし、別に奪ってやろうと思ったこともなかったよ。〇〇、アイツのこと好きだって言ってたし」
「うん、」
「でも、昨日のアレ見たらさすがに我慢してらんなくてさ、何でだよって、悔しくて、すげー腹立った」

わたしのことなのに、わたし以上に怒ってくれる。

思えば、昨日の平野も、こうしてわたしの気持ちをとても大切に扱ってくれた。


「ありがとう」
「嬉しい?」
「ん?」
「〇〇は、俺に好きって言われて、少しでも嬉しかった?」



平野に好きと言われてから、知らなかった彼色々な一面を知る。


「ふふ、」
「え、なに」
「平野、子どもみたい」

不安そうに、こちらの様子をジッと伺いながら問いかける姿も。

思っていたよりずっと自信無さげな謙虚さも。


「ありがとう、凄く嬉しいよ」


もし、今の彼氏と出会う前に、平野と出会っていたら———。

そんな無駄なたらればを考えて、理想とはあまりにも掛け離れた現実に悲しくなった。

「〇〇」
「ん?」
「俺、お前のこと諦めないから」

「平野、」
「絶対、俺のこと好きにさせるから」





「———以上。同僚平野の決意表明でした」

言い終わるなり、置いてあったコーヒーの約半分を一気に飲み干した平野が笑う。

「ふはっ、くっそ恥ずかしいわ、」

見れば、ほんのり赤く染まった耳や頬が目に写って。

あぁ、平野も凄く緊張していたんだな。
そう思ったら、不思議と凄くホッとした。


「ケーキ、一緒に食べない?」
「え、」
「平野も好きでしょ?甘い物」

前に連れて行ってくれたレストランで、美味しそうにケーキを食べていたのが印象的だったから、よく覚えている。

「俺、そんなこと言ったっけ?」
「ううん、言ってないと思う」
「じゃあ何で、」
「見てたからかな」

わたしの場合、平野とは少し意味が違うかもしれないけど。

言えば、嬉しそうに目を細めて、口元を手で覆う平野、にわたしもつられて笑ってしまった。


「平野」
「ん?」
「ありがとう」
「うん」
「ちゃんと、平野のこと考えるから」
「うん」
「少しだけ、時間ちょうだい」