「寿司食べるんじゃなかったっけ」
「タコはタコじゃん」
『かりゅぱっ、』
「なんて?笑」
『かるぱっ、ちょ』
「ふはっ、ギリギリじゃん。いい?かーるー」
『かーるー』
「ぱっ、ちょ」
『ぱっ、ちょ』
「っはは!」

何が面白いのかは分からないが、居酒屋のテーブルに突っ伏して笑う平野の楽しそうなことといったらない。

結局、良いお店が見つからず居酒屋を予約したと伝えた時には、もっと不満げだったのに。

「ほらー、紫耀悶えてないでちゃんとして。〇〇が可愛いのは分かったから」
『え、』
「これ好きが爆発して悶えてんだよ。もう〇〇に告ったからって隠す気ないの」
「やめて、」

急に声のトーンが落ちたかと思えば、頭を伏せたままポツリと呟く平野に、今度は橋が笑い声を上げた。

「紫耀ね、ほんとに〇〇のこと大好きなんだよ」
「もうその話はいいって」
「あはっ、照れちゃった。ごめんね〜。ほらこれ食べな」
「ありがと……ってうわ、!椎茸!」
『本当に嫌いなんだね』
「ね。椎茸かわいそ。〇〇あーん」
「こらっ」

橋から差し出された椎茸を口に入れ、わざとらしく美味し〜!と笑みを向ければ、平野からうるせぇ、という言葉と共におでこを弾かれた。

『いった、!』
「もぉ〜、紫耀力加減分かってないから。ほらスマホ落ちてる」

痛みにのけ反った衝撃で、テーブルから落ちてしまったスマホを受け取る。

待ち受け画面には、見慣れたわたしと彼の顔。

そこに、しばらく表示されなかった着信のお知らせが来ているのを見て、思わず黙り込んでしまった。

「〇〇?」
『あ…ごめん』

12分前と、5分前。
立て続けに連絡をくれた彼は、わたしに何を話そうとしていたんだろう。

「気になるなら掛け直せば?」
『え、』
「彼氏でしょ。名前までは見えなかったけど」
『あー、…まぁ、』
「いいよ。俺達なら平気だし」

平野が平気でも、わたしが平気じゃない。

電話を掛けて、もしそのまま別れようなんて言われたらどうすればいいの?

すぐに会いたい。
話したい。

今このタイミングで、彼にそう言われたとして、わたしは、平野を置いて行ける?


『次、電話きたら出る』
「そう。じゃあどうぞ」
『……ん。』
「おいし?」
『っ、あつい、』
「ふはっ、ごめん冷めてなかったわ」

悶えるわたしに、笑う平野。

それを見て、頬杖をつきながら仲良しだねぇ、と呟く橋と目が合って、急につい数秒前までのやり取りが恥ずかしくなった。

「良かったね紫耀。自分もあ〜ん出来て」
「お前さぁ、ほんっと……」
「あはっ、紫耀顔赤っ〜!」
「うるせぇっ」
「ぎゃ!」




次に連絡が来ても、多分気付けない。

それを分かっていながら、その場ですぐに電話を折り返さなかったのは、やっぱり、この時間が凄く楽しかったからだと思う。


「ごめん。結局電話取れなかったね」
『ううん、わたしも確認しなかったから』

途中で気付いた2件の後、一度だけ来ていた電話はついさっき。

普段あまり連絡を寄越さない彼にしては、多い方だと思う。

しばらく時間が空いたせいか。
仕事?大丈夫か。という二言だけのメッセージに、罪悪感が募った。


仕事だといえば嘘になる。

ご飯に行っていた。これだけ送れば、納得してくれるだろうか。


『…………』
「………出な?」

悩んでいる間に、着信へと切り替わった画面に彼の名前が表示される。

隣を歩いていた平野は、言葉と同時に立ち止まり、少しだけ寂しそうな顔をしていた。

「いいの?早く出ないと切れちゃうよ」
『うん、』
「……あのさぁ、この状況でそういう顔されると、せっかくカッコ付けた意味が無いんだけど」
『ごめん……出るから、』
「ん」

ジッと見つめられ、少し緊張しながら応答ボタンを押すと、電話特有のガサガサとした機械音と同時に、彼の声が聞こえた。

「〇〇?」
『うん、』

なんだか、凄く懐かしい。

「ごめん。ずっと、ちゃんと話せなくて」
『ううん、電話くれてありがとう』
「なんか、こうやって改めて話すと緊張すんな」
『ふふ、凄い伝わってるよ』
「マジか?!カッコわる!」

きっと、電話の向こうで照れ臭そうに笑っているんだろう。

何事にも全力な彼らしい、大きな声が聞こえてホッとした。


ほんの数ヶ月前まで、この大きな声を隣で笑う日常が当たり前だったはずなのに。

わたし達は、一体どこで間違えてしまったんだろう。


「いま、家?」
『ううん、これから帰るところ』
「飯?」
『うん。タコばっかり食べたの』
「え、」
『急にね、最近お寿司食べてないなって』

キッカケは、平野の不貞腐れた顔だったっけ。

目の前で、ジッとこちらを見つめて、あの時と同じように少しだけ口を尖らせた平野と目が合う。


『優太』
「ん?」

今日は何をして、どんな一日を過ごしたの?

以前なら、聞かなくても知っていたそんな些細な事にさえ、胸が苦しくて、泣きたくなった。


『仕事、忙しいんだよね』
「うん、」
『落ち着いたら、話したいことがあるの』