「じゃ、また会社でな」
「うん、今日は本当にありがとう」
「俺が勝手に色々やっただけだから」
「それでも、凄く嬉しかった」
「そっか……なら良かった」

わたしの部屋があるマンションの前に着くと、車を止めた平野が、自分のシートベルトも外そうとする。

「大丈夫。もうここでいいから」
「うん、多分そう言うと思ったんだけど、一応ね」
「中入るまで見届けてくれるの?」
「そ。良い男でしょ」
「ほんとにね、笑」

どこまで出来た男なんだろう。
車から降り、助手席にわたしの忘れ物がないまで確認してくれた彼に、もはや降参と笑みを向ける。

「じゃ、最後にもう一個良い男していい?」
「え……」







「誕生日でしょ、はいこれ」

いつの間に用意したのか。
後部座席から大きな袋を取り出した平野が、それを手渡してくれる。


「………プレゼント?」
「だね」

恥ずかしそうに、少しはにかみながら笑う平野に、再び涙腺が緩む。

「ほんと……優しいよね、っ」
「だから、俺は別に優しいわけじゃないって」
「だって、これ……わたしが好きなやつ、」
「うん、海人にリサーチ済み」
「……っ、ありかとう、」

大きな袋から出てきた、大きなぬいぐるみを抱き締め、我慢出来なかった涙を隠す。

「、うぅ〜〜……」
「はは、ごめん、また泣かしちゃった」
「っほんとだよ……っ、ひらのの、ばかぁ、っ」
「口悪いな、笑 返してもらうよ」
「ぜったいやだ、!」
「っはは、子どもみてー笑」
「ほんっとに嬉しい、っ」
「うん、」
「ほんとに、……本当に、ありがとうっ、」

実際は、今日が誕生日じゃないなんてもうどうでも良かった。









「〇〇」
「ん?」
「男って、お前が思ってるよりずっとたくさんいるから」
「うん、」
「〇〇に今の彼氏はもったいないよ」
「え……」
「お前が彼氏に費やしてる時間もそうだけど、何より、〇〇の大事な好きって気持ちを、今の彼氏が無駄にしてる感じが、すっげぇもったいない……」
「平野、」
「ちゃんと、同じだけの好きを返してくれる相手と、一緒にいた方がいいよ」

その先を、平野は何も言わなかった。
けれど、言いたいことは、手に取るように分かる。

「うん、ちゃんと……話す」
「うん」
「平野、ありがとう」

抱きしめていた大きなぬいぐるみの位置を下げ、きちんと平野に目を合わせる。


こうしてわたしの為に何かをしてあげようと思ってくれた人が、一人でもいてくれた事が、本当に嬉しかった。







「〇〇」
「ん?」
「どうしても一個だけ言っておきたいから、言わせてもらうけど、」
「?うん」
「俺が優しいって思うのは、多分〇〇だからだよ」
「……ん?」
「他の人は、多分そう思わないから」
「?……うん」
「ははっ、まあ分かんないよね!今はまだそれでもいいや」
「なに、なんの話?」
「ううん、気にしないで。……じゃ、そろそろ俺も行くから」

早く家入って、と、わたしのことを見送ろうとする平野の言葉に、釈然としないままうなずく。

「目、ちゃんと冷やしなよ」
「うん」
「また明日」
「うん、また明日ね」

エントランスに入り、姿が見えなくなるまで、ずっとそこにいてくれた平野に、手を振って別れた。