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(あぁ、良い風…)



あれから私たちは、来た道を引き返す形で、港に向かった。
ネイサンさんは、私をさらった奴らに出会わないかって心配してたけど、会うはずはない。
私はさらわれてなんていないのだから。
でも、そこは、私も演技をしたよ。
ネイサンさんには申し訳ないけど、そうするしかなかったから。



モルド行きの船はけっこう大きな船だったけど、なんとそれは帆船だった。
人気のある海賊の映画で見たような船。
なんと、モルドには一か月くらいかかるという。
今までに何度か船旅はしたことがあったけど、その船の揺れといったら…
私は完全に酔ってしまい、こんな調子では、モルドに着くまでに死んでしまうんじゃないかって思った程だった。



アルバートさんとオスカーさんが個室で、私たちは大部屋だったんだけど、私の船酔いが酷いからオスカーさんが部屋を使わせてくれて、さらに、船酔いの薬もどこかから調達して来てくれた。
そのおかげで、一週間くらい経った頃から少しずつマシになって来て…
なんとか船旅を楽しめるようになって来た。
とはいえ、見えるのはただただ青い海ばかりなんだけど…
でも、なんだか癒される。



その反面、不安もあった。
死者は、船に乗ってあの世に行くとかいう話を聞いたことがあったから。
私は、もう死んでしまったのかもしれない。
モルドっていうのが、実はあの世なのかもしれない…私はどこか諦めた心境だった。
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