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「……どうかしたのか?」
「い、いえ…あの…ネイサンさんはファーリンドに来られたばかりなんですよね?
それで、なぜ、あのお城に…?」
「実は、船の中で路銀を盗まれてしまったんだ。
犯人は、船の中にいるのは間違いないのに、探し出せず…
野宿しかないかと考えていたのだが、港でこの城のことを聞いてな。
野宿よりはマシかと思い、来てみたのだ。」
不思議だな。
ネイサンさんは、船に乗ってここにやってきたみたいだけど、港でお城のことを誰かに聞いたようなことを言った。
ってことは、その話をしてくれた人も死にかけてるってことだよね?
ここには、そんなにたくさんの人がいるんだろうか?
それに、お城のことを知ってるのも不思議だし。
「あの…さっきのお城は誰も住んでないみたいですが、それはなぜなんですか?」
「……君はファーリンドの者なのだろう?
なぜ、そんなことを知らない?」
「え?……つ、つまり、記憶がなくなってるので……」
「あ…そうだったな。
あの城は、オルリアン城だ。
ファーリンドで一番大きな国・オルリアンのことも忘れてしまったのか?」
「え…は、はい、覚えてません。」
「それは困ったものだな。
もうずいぶんと昔、オルリアン城は内陸の方に場所を移したんだ。」
「そうなんですね。」
なんでだろう?
ネイサンさんは、確信を持ってさっきのお城のことを話した。
まるでここのことを本当に知ってるみたいに。
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