こせいじこ1
わたしは早々に敵の「個性」に戦闘不能にされてしまった。個性は割愛、エッチなビデオによくある感じの個性で、わたしの醜態が形に残される前に、救出されたってだけ。
まあ女性ヒーローには良くあることで、そういった類のものが出回ると非常に仕事はやりにくくなる。
わたしは自分がその標的になったこと、それから避けられなかったと言うことを深く恥じ入っていた。だって、そうでしょ。わたしは鈍くてひ弱で、消費されるものだと思われている。そして、それは真実だったわけだ。だから、わたしは自分の恋人に会うのが怖かった。彼は怒るだろう。敵に対して、それから、女性を消費する世の中の見方に対しても嫌悪感を示す。わたしがきっかけで。それが、情けないのだ。
「…………や!」
ああ、わたし、本当にダメかも。
自分で自分の出した声に驚いてしまった。それから、
環くんの手を振り払ってしまったことに後悔が押し寄せ
る。
迎えにきてくれた環くんに連れられて、家に帰ったまでは良かった。事の詳細を聞いた環くんはわたしに「頑張ったね」と言ったきりで、わたしは彼が何を考えているのか気になって仕方がなかった。弱いわたしのことを嫌いになってしまったんじゃないか、とか、またSNSで叩かれたら嫌だなぁとか、関係ないことを悶々と考えていたら、つい。環くんは個性が解けないわたしのことを心配して手を伸ばしただけで。それだけなのに。
「七詩さん」
「や、ごめ……。ち、ちがうの、ごめん」環くんは表情を柔らかくして、「大丈夫だよ」と言った。
違うのよ、環くん、わたしね、今すごく、良くないことばかり考えてるの。身体が熱くて堪らないの。頭が痛くて、息がうまくできなくて、心臓がずっと騒いでいて、あなたに、ううん、誰かに触れられたくて仕方がない。だから、そんな姿を見て欲しくなかった。いいとこ無し、なんだもの。
「ごめん、環くん」
*
「わたし、今日はソファで寝る、から」
七詩さんは自分の手を握り締めながら言った。言葉と一緒に堪えきれない吐息が痛れている。いつもの彼女なら絶対にこのあとフォローをいれるのだが、その余裕もないようだった。ごめんね、と七詩さんはシャワーも浴びずに上着を脱いでソファの上で丸まってしまった。
あのさ、と言いかけて発声前の声を押し止める。彼女を傷つけたくは無い。ただでさえ気落ちしている彼女を怖がらせたり、悲しませるために俺は彼女の特別な立場にいるわけでは無いのだ。
考えるよりは動いた方が良い。これは親友を見習っている行動だが、なるほどどうして中々良い方向へ進む。俺は徐に七詩さんをソファから抱き上げて寝室へと向かった。腕の中でバタついた七詩さんもまた言葉を選んでいるようで、俺の肩口でもにょもにょと囁いた後に「……今日は一緒にねないんだってば」と言った。
「ん、俺がソファで寝るから。きみからベッドを奪うくらいなら俺は外で寝るよ」
「や、」
すん、と鼻を啜る音。七詩さんが泣き出してしまったのがわかって、俺は彼女を抱えたままベッドに腰掛ける。
泣いている方が感情を我慢しないでくれるので、早々とダムが決壊してくれてよかった。七詩さんは泣いている自分を面倒な存在だと譲らないが、そんなことはない。逆に、感情の波を殆ど露わにしない七詩さんの鉄壁のガードが緩んで安心するくらいだ。言ったら気味悪がられそうだから言わないけれど。
「環くん、はなし、て……..わたし、恥ずかしい」
「恥ずかしいの?」
「そ、情けなくて、はずかしい……」
何処のどいつが、彼女をこんなに追い詰めたのだろう。
憎き敵は他のヒーローが片付けてくれたようだが、叶うことなら自分の手で片したかった。彼女は戦闘向きのヒーローじゃない。ヒーローには適材適所があって、だからチームで動く。他人のせいにできるほど強い人じゃないのも分かるけれど、自分の力不足ばかりを責められては堪らない。
「君は立派だよ。俺が自信を持って言える、数少ないことのひとつを奪わないでくれ」
「うう……」
俺の胸を押して逃れようとしていた腕が、ようやく首に絡められた。
「……ありがとう。……よし、シャワーあびよう!」
七詩さんが俺の頬にキスを落として、それから離れようとするので引き寄せた。
「環くん?」
「明日で良いだろ、気に入らなかったら寝具は俺が洗うよ」
彼女の強がりは美徳の部類に含まれるが、我慢をさせたいとは思わない。ノミの心臓と揶揄された俺の懐が深いとは逆立ちしても言えないが、彼女の癇癪を受けても壊れないことくらいは約束できる。
「だから、楽になることだけ考えて欲しい」
*
擦り傷のできた頬を撫でる。ブラウスの上から背中を撫でれば身体が強張って小さな身体が押し付けられた。
「たまき、くん……、くるし、い……あつ、いよ、」
俺の膝の上で身動ぎするすくいさんは薄暗い部屋でもわかるくらい蕩けた表情をしていて、身体は熱を持っている。
あつい、と呂律の回らない舌で呟いてはブラウスのボタンを自ら外そうとするので、それを制してボタンを奪う。なあ、少し待ってくれ。もう君の服に手間取ったりしないから。
キャミソールの肩紐を下ろしてブラジャーを抜き取る。
大人しくしていたすくいさんは、自分の上半身が露わになっていることに気付くと慌てて肩口を押さえた。力任せに掴まれた指の跡が法になっている。爪の痕が鬱血して痛々しい。
「……もう遅い、あとで冷やそうな」
「お、おこんないの…?」
「どうしてすくいさんに怒るんだ。きみに怪我をさせた敵がここにいたら絞め殺してたかもしれないけどね」
照れ隠しに滑らかな額に唇を落とせば冷たいものが顎に触れる。はたはたとすくいさんの瞳から涙が落ちていた。
「うわ、ごめん」
「ち、ちが、す、好きだなあっておもって......。すき……」
すき、すき、と譜言のように泣きながら続けるすくいさんをあやすように頭を撫でる。俺もきみが好きだよ。きっと、俺が知るすべてのものの中で一番。言葉にすると軽くて飛んでいってしまいそうだから、取っておくけれど。
すくいさんが目を瞑ったので好都合と唇を攫った。いつまで経ってもキスのタイミングがわからないのだと言えば笑われるだろうか。けれどもきっと今は中々良いタイミングだった。後頭部に手を回して、酸素を求めて開いた唇に舌を這わせた。すくいさんは俺のシャツにしがみ付いて小さく声を漏らしている。
満足してから唇を離せば、金魚のように唇を開閉していたすくいさんが自分の唇を舐めた。その素振りが名残惜しそうに見えたから、彼女をベットに沈めて、もう一度唇を重ねる。隙間なく合わせて、物足りなさなんか感じないように。
*
「つ、たま、き、く...うぁ、それ、あっ、あ!あう、
うう〜っ!」
まだ中に挿れてもないのに、愛撫だけで先程から何度も達してしまうすくいさんはベッドの上で身体を震わせてい
る。
「きゃ、や、っ、! も、もうさわっちゃだめ……」
「満足できたなら、良いけど」
いや良くはない、こっちとしては良くはないのだけれど、彼女を傷つけるくらいなら理性で欲望を抑えてみせる。自分で処理すれば良いだけだ。
すくいさんは首を振った。声が小さくて聞こえない。身体を近づければ顔は真っ赤だ。
「お、なかが、さみしい、です・•・・・」
よくできました、と俺が言葉にできたかは記憶にない。
掛け布団を握りしめているすくいさんの足首に絡まる下着を取り払って、脚の間に指を這わせた。もう解す必要もないほどに濡れそぼるそこに指を潜らせれば、すくいさんは悲鳴じみた声を上げる。
「平気、かい」
「だ、め、だめだめだめ……っ、きもち、くて、へん、なの、おかしくなる……」
「いいよ、俺しか見てない」
すくいさんが目を閉じた。明るくらかで健康的で、普段の彼女は性を感じさせない。時折見せる伏せた睫毛が長いこと、茎のような手足や腹部に対して、女性らしい膨らみが不安になるほど柔らかいこと、最近伸ばし始めた髪の柔らかさ、身体を重ねたときの火照る顔、俺しか聞いたことがないだろう甘い声。これからも誰にも知られなきゃいい。彼女本人と、現在俺しか知ることを許されていないその秘密を暴こうとする奴がいたことに、酷い憤りを覚えるのだ。
「ん、環くん、だけが、いいんだよ……」
*
「ひゃ、あっ、……く、うっ! ん、そこ、だめっ、すき……うぅ……っ」
「は、っ、ここ、好きなんだ……。普段、も、言ってよ……」
「うあ、あ、ア…♡ ひ、ひんっ....! だ、て、はずか、し…、あ、そこ、やぁ、すきしおかし、なるっしから、だめぇ……」
情けないことに俺は彼女に夢中だ。泣きながら声を枯らしてあられもなく喘ぐすくいさんは普段はどうやら遠慮があったらしい。考える余裕もないだろうに、咄嗟に出た自分の発言に驚くのが可愛らしくて堪らない。
どこが気持ち良いのか、どんなことが好きなのか、教えてもらえたら俺は嬉しいのだけれど、そこは彼女にとって譲れないラインなのか、すくいさんはいつも首を横に振っては声を抑えてしまう。
「た、あったまき、く…っ♥も、たす、け….、しんじやうっつきもちくて、しんじゃ、う…・・・・・」
かわいい。目の前の恋人が余りに可愛くて、気持ち良くて、こっちが死んでしまいそうだ。脚を抱えてゆるく奥を突いた後、手前を擦ればすくいさんは身体を丸めて痙攣を繰り返す。一度弛緩した輪郭を指先で撫でれば敏感な身体はまたひくひくと反応を返す。息も絶え絶えの彼女が「もう終わってよお」と泣言を言い出すので、汗ばんだ頬にロ付けた。
「まだだよ。何にも考えられなくなってくれ」
終わりのことなんか考えなくて良いから、余裕も遠慮も全部手放して、恐れも不安も全部見せて欲しい。知ってただろ、強欲なんだ俺は。
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