「ねぇ、七詩ちゃんは好きな人っていないの?」
え。驚いて私がぱちぱち瞬きすると玲央ちゃんが銃を構えて私の頭の横でぶっ放した。振り向けば迷彩服の男が頭を撃ち抜かれて倒れている。流石、百発百中。
「やだ、よそ見したら危ないわよ」
「玲央ちゃんが変なこと言うから。九死に一生を得たわ」
好きな人、ねえ。
私の隣で銃を磨いている玲央ちゃんこそ、好きな人の一人や二人いそうなものだけれど。
けれどそれを聞くのは怖くて、私は真似して彼の隣に座って銃を磨くのを手伝った。
「で、どうなの?」
しかしこの話を玲央ちゃんは続けていたいらしく、私の顔を覗きこむ。
近くで見る玲央ちゃんの顔は綺麗だ。睫毛も長いし、肌だって整っている。それなのに決して中世的な美しさではなく、やっぱり男の人としての魅力を持っている。
対して私はどうだろう。この環境の中でお肌はボロボロ、睫毛だって元々過疎っている。女の子としてどころか、人間としても魅力的ではない。ぼろくそだ。
「好きな人かあ。えぇと、…えと」
「まあ、こんな状況じゃあ出会いも何も無いものねえ」
遠くで銃声が聞こえた。
私たちは磨き終えた銃に弾丸を詰めて戦闘に備える。
立ち上がると玲央ちゃんは私の頭に自分のヘルメットを被せた。危ないから、女の子だから気をつけなくちゃ駄目でしょう。だってさ、だっさいヘルメットつけたら、女の子かどうかもわかんなくなっちゃうよ。
狙いをつけるときは一瞬だ。人影を見つけたらとにかく標準をあわせて引き金を引くのだ。それが戦場のルールである。勝手がわからなくてうろうろしていた私を助けてくれた玲央ちゃんが私を撃ちぬかなくて本当に良かった。
今は戦争の真っ只中だ。世界情勢に詳しくなかった私はさら地になってしまった学校の跡地を見て腰を抜かしたものだった。どこの国の人だかも解らないような兵士が私たちを襲う。誰かの捨てた銃を拾って私たちも銃を向ける。
ここって本当に日本?と疑ってしまいそうな世の中になった。
走り出した玲央ちゃんを追いかける。
私は玲央ちゃんの背中に向かって叫ぶ。彼の背中を追いかけていれば、なぜだか大丈夫な気がする。
「平和になったらさー!」
「なによー!」
「玲央ちゃんわたしのためにイケメン揃えて合コン開いてよお」
「良いわね。イケメン揃えて気合入れて挑みましょ」
合コンだなんて、しばらく聞いていない響きだ。
でもね、玲央ちゃん。もし合コンを開いてくれて、どんなイケメンが雁首揃えたってね、あなたが一番かっこいいよ。素敵だよ。
気づいていないのかなあ。つり橋効果だと笑うかなあ。私ね、玲央ちゃんが好きなんだよ。出会いなんて無くても良い。
いつか頭を撃ち抜かれる前に、あなたの事が好きだと伝えられたらいい。わたしのヒーロー。
ぱぁん。銃声が、響く。
<終末物語>
(実 渕 玲 央)
2015
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