わたしはジャムのようだ、と感じるときがある。
例えば、辰也くんがわたしに言葉をかける時、わたしがどれだけ失敗しても、情けなくとも、彼は私の手を取って、額にキスを落として「大丈夫」と声をかける。「大丈夫だよ」「すきだよ」耳にするだけでわたしの身体の奥へ染みていく彼の低い声はずるい。辰也くんも、ずるい。
彼はその優しい言葉のあとに必ずと言って良いほど「俺はそう思うよ」と付け足すのだ。そう思っているのが自分だけだと、伝えるのだ。わたしのことを許して、認めてくれているのは辰也くんだけだとわたしに教え込むみたいに。
けれどもきっとその通りなのだろう。私のすること全てを容認して、甘やかしてくれるのは辰也くんだけなのだ。だから私には辰也くんが必要なのだ。そうでなければ、誰も私のことなんて見てくれなくなってしまう。彼の長い腕に包まれて、子どものように抱きしめられていると思わずにはいられなくなる。
たとえわたしにかけてくれる優しく甘い言葉が全て彼自身のためのものだったとしても。
わたしには辰也くんが必要で、きっと辰也くんにも、非力でドジでなんにもできないわたしが必要なのだ。
辰也くんの優しい言葉はまるで砂糖のように甘い。とびきり甘いお砂糖を沢山わたしに与える。
わたしを抱きしめる体温はとても暖かい。自分の意思なんて簡単に溶けて沈んでしまいそうなくらい。
わたしという人間は掻き混ぜられて熱されて、原型がどんどん無くなっていく。
甘い甘いお砂糖を加えて辰也くんの好みの味にしてくれたら良い。
わたし、それで 幸せだ。
<とける>
(氷 室 辰 也)
2014
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