「ねえ、伸一郎。天国ってあると思う?」
その日は雲一つない晴天だった。敵兵の残党を仕留めながら俺と七詩は呑気に会話をしていた。
銃弾を撃ち込まれた人間から噴出した赤と、空の色のコントラストに目が痛くなる。
「んなもんねーよ」
空の上にある死者の国。そこでは苦痛もなく飢えもなく、誰もが清らかで満たされているのだという。
天国の話をしながら剣を振るう。神様も怒るのではないだろうか。
倒れこんでいた敵兵はまだ息があった。銃剣を逆さにして相手の首筋を裂く。肉を裂く感触はいつになっても慣れない。慣れてたまるか。
「あったらいいなって、思わない?」
なあ、七詩。天国のどこがいいんだよ?
戦場で舞うように命を刈り取る女は泥のついた顔で笑う。
「まあ、私は天国には行けないんだけどね」
一通り敵の兵士を片付けた後に、七詩があきらめたように言った。
「無いとは思うけど、お前なら行けるさ」
誰よりも優しく美しく、他人を想うお前が天国に行けない訳が無い。もし門番がお前を弾くようなら俺が撃ち殺してやる。どうせ平和ボケして見る目も腐っているんだ。
「みんなも、いけるかな」
笑みを浮かべる七詩の存在は戦場には似合わない。女神だなんて呼ぶやつもいるんだぜ。どいつもこいつもロマンチストだよなあ。
「俺たちは大分殺してるし、恨みも買ってる。お綺麗な天国には似合わないさ」
「そうだよね。だから、私も行けないの」
俺たちの女神さまはお優しい。地面を見て微笑む様は正に、と言ったところだろうか。そう。この土地は随分仲間達の血を吸った。骨を埋めるなら軍人らしくこの土地に埋めたい。彼女もそう望むのだろうか。
本当は、銃など持って欲しくはなかった。守られるお人形でいるつもりは無いのだと彼女は言ったけれど、敵国の兵士を殺す時、味方に止めを刺す時、ほんの少し曇るその表情を見られないようにする七詩は哀れだった。
天国が本当にあるのなら、連れて行ってやったっていい。穢れのない綺麗な真っ白い国で、血と泥にまみれた俺たちを見下ろすのだ。その綺麗な顔に微笑みを湛えて。
「俺たちなんかに着いてきたって、良いことなんざ無えのにな」
「皆と一緒がいいの。私、寂しがり屋だから」
何も持っていない左手は手袋を外していた。白い手は血と泥に濡れている。俺は銃を持ち替えて右手でその手を取った。力を籠めて握れば握り返すその力に笑みがこぼれた。
「嬉しいことで」
血塗れの手では天国の門は叩けない。ドアを叩く手は俺が握っているのだから。
< 使われない天国のこと >
(枡 伸 一 郎)
2015
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