秋は好きじゃない。視界が赤に染まるから。
赤は好きじゃない。嫌いな奴の色だから。
ずっとそう思っていたはずなのに、いつのまにか染まる木々を歪めずに眺められるようになっていた。頭上に広がる赤や黄色を綺麗だとすら思える自分に驚く。
余りにも真直ぐすぎる友人に、閉じこもっていた殻を壊してもらったお陰だ。認めたくはないけれど、毛嫌いしていたアイツーー父からの歩み寄りが無いわけではなかったのだろう。
俺たちは少しずつ、取り戻そうとしている。止めていた時間、失っていた感覚。遅すぎることなどないのだと、今ならば思える。
意固地になって周りを見ないようにしていた自分が、今となっては恥ずかしい。少し視野を広げるだけで、物事には意味があったのだと気づかされた。
自分が嫌悪していた赤が、目を凝らせば色づいた木々の様相であったように。
***
休日、買い物に付き合って欲しい、と七詩に誘われた。
断る理由もなく、恋人という関係になってから二人で出かける機会など殆ど無かったから、一つ返事で同意した。
七詩は顔を綻ばせて、実は映画も見たかっただの、あそこの紅茶が美味しいと八百万に教わっただのと堰を切ったように話し出すから、彼女も出かけることを楽しみにしていたのだとわかって嬉しくなる。
彼女と一緒にいると、自分がこんなにも柔らかい感情を抱くことができたのかと、気づかされるのだ。
「紅葉、綺麗だね。実はこれも一緒に見たかったの」
週末になると紅葉はさらに深まり、街路樹は首を垂らして深紅や黄金色にその身を染め上げていた。
隣を歩く俺よりも背の小さい彼女は首が痛くなりそうな姿勢で紅葉を眺めている。
綺麗だ、綺麗だと繰り返して上ばかり見ているから、足元が覚束ない。人にぶつかったり、転んでしまったら困る。できるだけ自然に見えるように、七詩の手をとった。
その手は小さくて、思わず「もみじみたいだ」と口にすれば七詩が「ちがうよ」と言った。街路樹を指さしては教師のような口調で続ける。
「あのぎざぎざしてるのはカエデの葉っぱ。秋になって、葉が落ちる前に赤くなることを、紅葉とか、もみじって呼ぶの。だから、サクラもイチョウも秋になればもみじ」
「へえ。じゃあ、あながち間違いでもない」
「なに?」
「秋だもんな」
一生懸命説明する彼女の頬がどんどん赤に染まっていくのを見ていたら、つい余計なことを言いたくなった。
俺の言葉を受けて、七詩は自分の頬を冷やすように手のひらを当てた。それでも、もう片方の手はしっかりと俺の指を掴んだままだ。
「……あなたもね、もみじくん」
こつんと肩に頭をぶつけてくる彼女に言われて、思わず頬に触れる。確かに、掌よりも遥かに熱い。
自分の頬にも熱が集まっていることに言われてから気づくのだから、俺もずいぶん舞い上がっているらしい。
<紅葉の上を綱渡り>
2018
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