「どうしたんだ?
なにか話しにくいことでもあるのか?」

「だから…それは……」

エルフは腕を組んで眉間に皺を寄せ、何事かをじっと考えるように黙りこんだ。
その様子からして、相当大変な理由なのだろうと感じられ、簡単に訊ねてしまったことを俺は少し後悔した。



「あ、言いにくかったら…」

「アレクシアを勝手に持ち出したのだ。」



折悪く、俺の言葉にエルフの言葉が重なった。



「なんだって?
今、アレクシアを勝手に持ち出したって言ったのか?」

「……そうだ。」

「さっき、おまえはアレクシアが鍵だって言ったよな?
エルフと人間の世界を繋ぐ門には結界が張ってあるとも言った。
ってことは、つまり……もしかしたら、おまえは然るべき許可を得ずに、勝手にアレクシアを使ってこっちに来たってわけなのか?」

エルフは、決まり悪そうな表情を浮かべながら、小さく頷いた。



「やけに物分りが良いじゃないか。
いかにも、その通りだ。」

「やっぱりそうか。
でも、なんだってそんなことを…?
何か、やむにやまれぬ事情でもあったのか?」

「いや…単なる気まぐれだ。」

「……き、気まぐれ?」

「そうだ…
エルフの世界は、実に穏やかで平和で静かな世界なのだ。
それはありがたいことなのかもしれないが、時々、とてもつまらなく感じられてな。
その点、人間の世界は面白い。
くだらないことで泣いたりわめいたり争ったり笑ったり…
至る所でなんらかの騒ぎが起きている。
たまに、そういう下等な感情表現を見ると、刺激になるというのか、なんというのか…」

「下等……」



エルフって種族は元々こんな風に威張り腐ったな奴らなのか、それともこのエルフがたまたまそういう性分なのか…
おそらく、こいつの性分なんだろう
理由はないが、なんとなくそんな気がした。




「……ってことは、アレクシアを逃がしてしまったからには、おまえは元の世界には戻れない。
その上、万一、アレクシアを勝手に持ち出したってことが発覚したら、おまえはお偉方からお咎めを受けることになるわけか!?」

「その通りだ!
だからこそ、おまえはその罰を受けたのだ!」

男は激昂して立ち上がり、険しい顔つきで俺を指差した。



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