「そんなことか…それなら先程言っただろう?
私は、温厚で…」

「慈悲深いってんだろ?
……ってことは、もしかしたら、これは俺をほんのちょっと懲らしめるためにやったことで、すぐに元に戻してくれるつもりなのか?」

本当はそんな風には考えちゃいなかった。
なんせ、エルフの怒り方は尋常じゃなかったから。
確かに、その気持ちもわからないでもない。
アレクシアがいなければ、こいつは元の世界に戻れない。
この世界で暮らせないこともないだろうが、そうはいっても違う世界で暮らすとなればそれは相当心細いことだと思う。
俺が逆の立場だったとしても、きっと相手をぶちのめすくらいのことはしていたと思う。
ほんの少しお灸をすえるためにこんないたずらまがいのことをやってやろうとは、なかなか思えない筈だ。
でも、それはあくまでも俺の考えだ。
こいつが本当に慈悲深い性格だったら、そういうことだってないとは限らない!



「全く、面白いことを言う奴だな…」

エルフは俺を小馬鹿にしたような瞳でみつめ、そして、声を押し殺して肩を震わせた。
実に気に食わない態度だ。
笑うならもっと大きな口を開けて笑えば良いじゃないか。



「何が面白いってんだ!」

苛々して、俺はつい大きな声を上げてしまった。
エルフはそんな俺を鼻で笑い、長い髪をさっとかきあげる。



「おまえは大きな罪を犯した…」

俺の質問には答えず、まるで詩か何かを朗読するようにエルフは感情のこもらない声を発した。



「そんなことならさっきも聞いた。」

「だから…おまえにとって一番辛い罰を与えた。」

「それが女にすることか!?
なぜ、それが一番辛い事なんだ?
殺した方が良かったんじゃないのか?」

エルフは俺の言葉に、小さく口端を上げた。



「おまえ…忘れたのか?
今日は、おまえの人生で最高の日だと言ってたことを…」

「え…?あ…あぁ、そうだ!その通りだ!
俺は、ようやくエリーズから良い返事をもらえて……」

そう言いかけた時……俺の頭の中に、なんだもやもやとした想像が思い浮かび、それがだんだんとはっきりした形に変わっていくのを感じた。
……何年も口説いてたエリーズからやっと良い返事をもらえて舞い上がってた俺にとって一番辛い事……それは、エリーズと結婚出来なくなること……だから!……




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