An opposite thing
暗闇の中、どこからか二対の光が無機質な床を照らしている。
その光の中央に、2人はいた。赤い髪を逆立てたバーンと、白い髪を横へ流したガゼルだ。
静かに瞑目しているガゼルに対し、バーンは苛立ちを隠そうともせず眉間に深い皺を刻んでいる。
「聞いたか、ガゼル。ジェネシスの話を」
「ああ。まさか、あの御方がジェネシスにガイアを選ぶとはな……」
溜め息を吐くかのように、ガゼルは答えた。カッと目を見開いたバーンが当てずっぽうに蹴ったボールが、どこかの柱を抉る。
「ガイアがジェネシスだとは認めねえ! 雷門に引き分けたお前はともかく、俺はグランに負けちゃいねえ!!」
「……引き分けたのは結果に過ぎない。私は彼らと勝負を楽しんでいただけだ」
叫び戦慄いたバーンに、ガゼルはほんの少しだけ眉を動かしてそう返した。
舌打ちしたバーンは、固く目を瞑る。
「──どうだ? 大暴れしてみる気はないか」
そして、しばらく考え込んだようだったバーンが、ふいにその金色に輝く瞳をガゼルに向けた。
ガゼルはその挑戦的な瞳に、すうっと目を細める。
「……私と組もうと言うのか?」
「そんな甘っちょろいもんじゃねえ」
間髪入れず答えたバーンが、伏せていた顔を上げる。
揺れた髪はまるで炎のようで、今の彼の怒りを表現しているかのようだった。
「2人であのグランに思い知らせてやるんだよ。上には上がいるってことをなぁ……!」
「……面白い。その話、乗ってやろう」
やや口角を上げたガゼルが頷いたのを見、決まりだな、とバーンは犬歯を剥き出して笑う。
「グランを倒し、ジェネシスの称号を奪い取ってやる……!」
「そしてジェネシス計画に相応しいのは誰かと言うことを、あの御方に示すのだ…!」
赤と青の光が混ざり合う。炎と氷が共存する。2人は固く手を結びあった。
「ネオジェネシス計画を、ここに発動す
る!!」
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:
──東京某所、帝国学園。
突如、麗らかな昼下がりスタジアムから立ち上った一筋の光に、近くに止まっていた鳥たちが一斉に羽ばたいていく。
「これは……」
その光源にいた円堂は、ごくりと唾を飲んだ。
てん、と軽やかな音を立てて転がったボールに、一瞬遅れて喜びと興奮に体が震える。
「すごい……! すごいぞ、鬼道!!」
「どうにか完成したな。これが……デスゾーン2だ!」
額に滲んだ汗を払い、鬼道は満足げにボールを見下ろした。
離れて様子を見守っていた雷門イレブンと帝国イレブンが、息急き切って3人に駆け寄っていく。
「記録したか、御鏡」
「ええ、ばっちりです!!」
興奮した面持ちで、織乃は何度も頷いて見せた。
出来上がったばかりの必殺技を、あっという間に次の段階へ進めてしまった。惚れた欲目抜きに、鬼道の手腕に織乃は目を輝かせている。
「やったな、鬼道!」
「佐久間……」
そこへ、松葉杖を突きながらゆっくりと佐久間がやって来た。
佐久間はちらりと織乃を一瞥してから、鬼道に笑いかける。
「帝国のチームカラーは、全員の意思統一。雷門はうちとは全然違って、個性のぶつかり合いだ。お前はそれを利用し、デスゾーンを成長させたんだ!」
軍隊のよう、と称されるようなプレイスタイルが基本の帝国と、自由かつ型破りなプレイスタイルを貫く雷門は、言わば光と闇、炎と氷、相反する存在だ。
その片方の一片がもう片方に交わればどうなるのか。水面に投石するように、小さな波紋はやがて大きく広がっていく。信じられないような化学反応を巻き起こす。
デスゾーン2は、鬼道が雷門の一員になったからこそ出来た必殺技。これは、彼が雷門にとってのひとつの石だという何よりの証明だった。
「お前の個性が発揮される、一番輝く場所は雷門なんだ。良いチームを見つけたな、鬼道……!」
「佐久間……」
清々しく笑った佐久間に、鬼道はゴーグルの奥で目を細める。
こちらに向けてそれぞれ笑みを湛えた帝国イレブンたちに、鬼道は一度でも彼らが自分を恨んでいるのではないかと思ったことを恥じた。
鬼道にとって、帝国は始まりと終わりの場所で、出会いと別れの場所で、出発地点であり帰る場所でもある。
相反するものは反発し合うとは限らない。所属するチームが変わっても、鬼道は帝国イレブンの仲間に変わりはなかったのだ。
「……よし。ここまで来たら、時間の許す限りデスゾーン2を強化するぞ。行こう、円堂、土門」
「ああ!」
ぐ、と一度唇を噛み締めた鬼道は、真っ赤なマントを翻す。
その背を追いかける円堂と土門に他の仲間たちが続き、顔を見合わせたマネージャーたちもベンチへ戻っていく。
「──鬼道は変わったな」
「はい。初めて会った時とは、大違いです」
ぽつりと溢した佐久間に、織乃は嬉しそうに頷いた。
帝国時代の鬼道は、師である影山を模していたのか高圧的かつ合理的な性格だった。だが、今はそれが彼のほんの一部であることを知っている。
あの頃の優しさは非常に分かり辛くて織乃も何度彼の言葉で落ち込んだか分からないし、些細な笑顔でさえ固い鉄面皮の下に隠されているのが常だったので、初めて笑った顔を見た時は衝撃的だった。
「お前も変わったよ。あいつと同じくらい」
「そうですか?」
目を伏せて、織乃は苦笑する。
自分はあの頃と何も変わらないと思っていた。弱くて泣き虫で、無力なままだと。
ただ、あの頃と違う思いがある。
勝利への渇望、立ち向かうべきものへの熱、鬼道を恋慕う心。改めて思えば、今まで過ごす中で色々なものを抱えてきたものだ。
「──なあ、御鏡。お前たちがここを離れる時で良いんだが……ひとつ、聞いてほしいことがあるんだけど、良いか?」
「? はい」
特に深く考えずに頷いた織乃に、佐久間は眉を下げて微笑む。諦めたような、それでいて納得したような、不思議な笑みだった。
「俺も、変わりたいんだ」
「佐久間さん……?」
呟いたその意味を、追求しようとしたその時。
キィン、と遥か上空で空気を切り裂くような音がした。
「あれは……」
その音に真っ先に気付いたアフロディが、長い髪を靡かせ頭上を仰ぐ。
それに釣られ一同が空を見上げるのと、上空からそれ≠ェ落ちてくるのはほぼ同時だった。
──ずん!
軽く地響きを立て落下したそれが、スタジアムのフィールドにめり込み光を放つ。
一瞬の瞬きの内に、光の中から現れた人影に円堂が息を飲んだ。
「ガゼル……バーン──!!」
光が収まり、名を呼ばれた2人はゆっくりと伏せていた目を開ける。
ガゼルとバーンは、それぞれ自分の率いるチームの選手を何人か伴っている。丁度2人を合わせ、チームが1組出来上がるような人数だ。
「……エイリア学園のマスターランクが、2人も揃ってお出座しとはな。用件は何だ」
「用件? そんなもの、決まってんだろ。お前らに挑戦状を叩きつけに来たのさ」
固い声で問いかけた鬼道に、バーンは鼻を鳴らして自信の胸を叩いて言った。
「俺たちはカオス! 朱き炎プロミネンス──」
「深遠なる冷気、ダイアモンドダストが融合した、最強のチーム!」
バーンの言葉をガゼルが引き継ぐ。
太陽の光を思わせるバーンの金の瞳と、北風を思わせるガゼルの青い瞳が、円堂を射ぬいた。
「我らカオスの挑戦を受けろ、雷門イレブン!」
「宇宙最強が誰なのか──証明しよう!!」
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