All the truth
「雷門イレブンを、ホロビジョンルームに誘導しました」
鹿威しの音に混じり、聞こえてきた事務的な声に彼は顔を上げる。
手にしていた湯飲みを静かに置いて──吉良星二郎は、菩薩のようにゆったりと微笑んだ。
「結構。これで瞳子も、私の意図を理解するでしょう」
その口調は、ただ反抗期の娘の所行に呆れている父親のそれにしか聞こえない。
だが、そうではない。その裏には、そんな暖かみなど一切含まれていないのだ。
そこにあるのは、ただの狂気。静かに、毒のように染み渡っていく、黒い願望にしか過ぎない。
「例の件、準備は出来ていますか?」
「はい。いつでも始められます」
部下である剣崎は、その問いに頭を深く下げたまま淡々と答える。
そうですか、と満足げに頷いた吉良は、衣擦れの音を立てながら腰を上げる。その丸い面差しからは、何も感じ取れない。
「いよいよ、最終段階ですね」
全ての終わりが、静かに訪れようとしていた。
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「何だ? この部屋……」
小さな光の通路に導かれ、大きな扉を潜り抜けた雷門イレブンは辿り着いた部屋をぐるりと見渡す。
学校の体育館と同じぐらいの広さだろうか。やはり明かりは点いておらず、暗がりにうっすら見える球状の天井に、まるでスノードームの中に入ったかのような錯覚を覚えた。
その時だった。
突然方々から青白いスポットライトが部屋の中央、中空を照らし出す。
無機質な音と共に空中へ立体的に映し出されたその人物に、瞳子はハッと息を飲んだ。
「お父さん……」
「この人が……!?」
呟いた彼女に、雷門イレブンたちは一斉にそのホログラムを見上げる。
大仏のような柔らかい面差し、ふっくらとした小柄な体型。とてもじゃないが、世界征服を企んでいるような男には思えない。
「(園長さん……)」
あの頃から変わっていない。織乃はある種の安堵を覚えながら、瞳子を窺った。瞳子は空中に映る父を見据え、唇を噛み締めている。
そして吉良は、ゆっくりとその口を開いた。
『──日本全国首脳陣の皆様、お待たせいたしました。只今より我が国が強大な国家として世界に君臨するためのプレゼンテーションを始めさせていただきます』
「首脳陣だって?」一之瀬が眉を顰める。次の瞬間、吉良の背後──壁一杯に、とある映像が映し出された。
ジェミニストーム、イプシロン、そして破壊される数々の学校。エイリア学園が猛威を奮うその映像に、マネージャーたちが小さく息を飲む。
『もう皆様は、エイリア学園をご存じでしょう。ご覧の通り、その力は絶大です』
「そうか……この映像は、俺たちだけに配信されているわけじゃないんだ」
故に、プレゼンテーション。吉良は雷門イレブンたちを気に掛ける様子はない。恐らく彼らがこの部屋にいることは知っていても、会話しようと言う意図はないのだろう。
両手を広げ、吉良は続けた。クイズ番組で答えを解説する司会者にも似た口振りで。
『さて、今日は謎に包まれたエイリア学園の衝撃の真実をお話するといたしましょう』
「真実……!?」
にわかにざわついた仲間たちに、織乃は思わずポケットに入れっぱなしにしていた手紙と──あの石の残骸に、手を宛がった。
『自らを星の使徒と名乗る彼らでありますが、その正体は実は宇宙人ではないのです』
「えっ……!?」
円堂は思わず呼吸を忘れそうになった。
宇宙人ではない。あの脅威の力で日本を震撼させたレーゼやデザームたちが。
では、彼らは一体何だと言うのか。織乃は鬼道の視線が自分に向かっているのを感じながら、じっとホログラムを見上げ唇を引き結ぶ。
『全ては、そう。5年前に飛来した隕石から始まったのです──』
そうして吉良は語り出す。事の発端、終わりの始まり。
富士山麓に落下した隕石。その調査に携わっていた吉良財閥は、その隕石から人の潜在能力を最大限に引き出す物質を発見した。
その名は、エイリア石。人の心、詳しく言えば脳に働き掛ける、地球には存在しない不思議な物質。
その物質に可能性を見出した吉良は、政府には隕石が落下したこと≠セけを報告し、秘密裏にエイリア石の研究を始めた。
持ち得る限りの財力と知識、そして犠牲を払い、エイリア石の解析が完了したのはそれから半年ほど後の事。
試行錯誤と工夫を重ね、エイリア石は吉良の理想とする形へと進化した。
脳に働き掛けることで人間の身体能力を飛躍的に引き上げ、使いようによれば対象の記憶や心まで操る事ができる。
人間を根本から変えることを可能にする、吉良の望んだ世界を掌握出来る力に。
『私は総理大臣……財前総介に、このエイリア石を使って強い戦士を作る計画を提案しました。それがハイソルジャーです』
「ハイソルジャー……?」
また新しい単語が出てきた。
首を傾げた円堂に、瞳子はより一層険しい顔つきになりながら忌々しげに答える。
「……人間を戦うマシンに変える、恐ろしい計画よ」
「え!?」
「パパにそんなことを……!」低く呟いた塔子は、吉良を睨み付けた。
財前総理は一度彼らに拉致されている。恐らくあれも、この1件が関わっていたから起きた事件だったのだろう。
『しかし、事もあろうに財前総理はこの夢のような計画を撥ね付けました。財前総理……あなたは正義のヒーローを気取っているが、何も分かっていない』
何だと、と叫びそうになった塔子をマネージャーたちは慌てて押しとどめる。
その一人娘がここにいることを知ってか知らずか、吉良はそのまま続けた。物分かりの悪い子供に、一から言葉を教えるように。
『そこで、私は財前総理にハイソルジャーの素晴らしさを教えて差し上げようと考えました』
──大のサッカー好きであると言う総理に、一番分かり易い方法で。
その言葉に、円堂の肩が強張る。話の続きを予想した鬼道が、まさか、と掠れた声で呟いた。
『即ち、それがエイリア石によって身体能力を強化した子供たち──エイリア学園なのです』
「エイリア学園が、人間……!」
信じられないようなものを見る目で、円堂たちは壁に映った光景を凝視する。
雷門中を破壊し、仲間の多くを病院送りにしたジェミニストーム。戦いに飢え、計画的に雷門イレブンを追い詰めてきたイプシロン。圧倒的な力で自分たちを苦しめてきたダイアモンドダストやカオス、それにグランたちが──宇宙人と信じて戦ってきた彼らが、人間。
「(玲名ちゃん……)」
織乃は降ろした拳を握り締める。
彼がどうしてこんな凶行に走ったかは、織乃も聞いていない。少なくとも幼い記憶に残った吉良は、施設の子供たちを思いやる良い園長だったはずなのに。
「──これが謎の全てよ。エイリア学園は宇宙人じゃない。エイリア石によって人工的に強化された、……人間なの」
円堂の脳裏に、薄く笑顔を浮かべて光に掻き消されたデザームが蘇る。彼は最後に、円堂たちとの試合を通じてサッカーの楽しさを知ってくれたと思っていた。
しかしそれは、もしかすると思い出した≠セけだったのかもしれない。強制も何もされず、ただ仲間たちと楽しくサッカーをしていた頃のことを。
「何てことを……!!」
彼らが自分たちと同じ人間であるなら、歳だってさして違いはないはずだ。
大好きなサッカーを汚すだけでは飽き足らず、子供たちを物のように扱い野望を果たそうとしている男が、ここにいる。円堂は怒りに複雑な感情を織り交ぜて、吉良を睨み付けた。
『私、本日ここにエイリア学園最後の地、最強のハイソルジャーをご紹介します』
壁の映像が切り替わる。映し出されたのは、陽花戸中学校で邂逅したヒロト──グランの率いる11人。
風丸や栗松を離反させ、円堂を再起不能寸前までに追いやった、最強にして最後のチーム。
『究極の戦士、その名はザ・ジェネシス。その素晴らしき能力、完璧なる強さを、最高の舞台でご覧入れましょう』
完璧なる強さ。その単語に吹雪の肩が一瞬びくつく。
「ヒロト……」映像の中で唇を持ち上げたグランに、瞳子は無意識に呟いた。
『ジェネシスと戦う最終決戦の相手は、雷門イレブンです』
「……!」
彼は自分たちでさえこのプレゼンテーションに組み込むのか。ジェネシスの隣に映し出された雷門イレブンの映像に、彼らは歯を食い縛る。
『財前総理、聞こえていますか。あなたもジェネシスを知れば考えを改めるでしょう。必ずね……』
スポットライトの光が薄くなっていく。何の余韻もなく消え失せたホログラムに、さっきまで見たものは夢だったのではないかと錯覚すら覚えた。
──しかし、今起きたことは紛れもない現実だ。
再び真っ暗になった部屋に、正面から目映い光が差し込む。
逆光の中現れた細面の男に、瞳子は眩しさに目を細めながら彼を睨め付けた。
「剣崎……!!」
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