War comrade's pride

「な、何だ!?」

1対1。互いに一歩も譲らないこの状況で、突如遠くから大きな爆発音が響く。
地響きはスタジアムに木霊し、フィールド全体が小さく揺れて思わぬ自体に選手たちもつい立ち止まってしまった。

「何が起こったの……!?」

短い悲鳴を上げてしがみついてきた春奈の肩を支えながら、織乃は頭上を見上げる。天井の接続部分からはパラパラと砂埃が落ちてきていて、否応なしに帝国スタジアムで起きたあの事件を思い出してしまう。
彼女の携帯が着信を訴えて震えたのは、揺れが十分に収まった頃のことだった。こんな緊急事態に、と思いながらも日頃の癖で携帯を取り出してしまった織乃は、サブディスプレイに表示された名前に目を瞬いた。

『もしもし、織乃ちゃんか?』
「お、鬼瓦さん?」

沖縄で別れて以来聞いていなかった嗄れた声。間違いなく鬼瓦警部の声である。
何故、と問い掛ける前に、鬼瓦が送話口に詰めていた息を吐くのが分かった。

『ジェネシスの選手たちにエナジーを送っているシステムを破壊した。これで彼らの身体能力は普通の人間と同じになるはずだ』
「えっ!?」

「どうしたの織乃ちゃん」大きな声を上げた織乃に、周囲を窺っていた瞳子が振り返る。
織乃は送話口を塞ぐのも忘れて、混乱の収まらない頭で答えた。

「鬼瓦さんが、 ジェネシスの選手たちにエナジーを送っているシステムを破壊したって……」
「何ですって?」

瞠目して、瞳子は観覧席の吉良を見上げる。吉良は相変わらず悠々とした様子でそこにいる。
計画を潰されたのも同じと言うのに、あの余裕はどこから来るのか。そんな疑問が彼女の頭を過ぎった次の瞬間、拡声器を通して吉良の声がスタジアムに降ってきた。

『ご苦労様、鬼瓦警部。しかしあなたたちの苦労も残念ながら無駄だったようです』
「え……!?」

その言葉は、明らかにこの研究所にいる鬼瓦に向けてのもの。円堂たちは先程の爆発が鬼瓦の手による物と理解し、困惑した表情で観覧席の吉良を見上げる。

『あなたたちの考える通り、確かにエイリア石から出るエナジーには、人間を強化する効果があり、エナジーの供給が切れると元に戻ってしまう……』

日本首脳陣に向けてのプレゼンテーション。その宣言に違わず、自社の商品を説明するような口調で、吉良はエイリア石の欠点を述べた。

『では、そのエイリア石で強くなったジェミニやイプシロンを相手に人間自身の能力を鍛えたら?』

──まさか。瞳子の頬を冷や汗が伝う。
そして吉良は、曰った。彼女が恐れたことを、あって欲しくないと願ったことを。

『そう。ジェネシスは──ジェネシスの力は、真の人間の力。弱点などない、最高最強の人間たちなのです』

それは、悪魔のような言葉だった。 人間の限界を超える。ただの人間が、簡単にそこまで辿り着けるわけがない。つまり、その道中で多くの時間と犠牲を払い、精神力を費やしたと言うこと。
自らの野望の為に、 ただひたすら人外的な強さだけを求め、 彼は子供たちを出口のない地獄へ突き落としたのだ。

『ジェネシスこそ、新たなる人の形。ジェネシス計画そのものなのです』
「ッお前の勝手で! みんなの大好きなサッカーを悪いことに使うな!!」

青ざめていた円堂が、一転我に返り吉良へ向かって叫ぶ。
許せなかった。サッカーが悪事に使われていることも、ヒロトたちが彼に振り回されていることも、全部。

「──君たちに、崇高な考えの父さんを理解出来るはずがない」
「っヒロト!!」

眦を吊り上げたヒロトが──グランが、ボールを持って走り出した。この状況でも、まだ試合は続いているのだ。

「これが──ジェネシスの力だ!!」

グランに続き、並走したウルビダとウィーズが油断したDFの隙を突き雷門陣内に切り込んでいく。
ゴールを前に、3人を中心に闇色の輝きが渦を巻いた。闇はやがて暗黒の塊になって中空へ浮かび、グランたちもそれを追い跳躍する。

「スーパーノヴァ!!」

超新星の名前を与えられたシュートが、芝を蹴立て雷門のゴールに迫る。立向居の繰り出したムゲン・ザ・ハンドを粉砕して、スーパーノヴァは空間を歪めながらゴールネットに突き刺さった。

「そんな……!」

フィールドに手を突き何とか起き上がりながら、立向居は薄く煙を巻いて転がるサッカーボールを呆然と見つめる。
ムゲン・ザ・ハンドは確かに進化した。それなのに、ああも簡単に破られるとは予想もしていなかった。

「これが、訓練で強くなった人間の力……」

円堂たちに背を向けるグランを見つめ、己の見た物が信じられずに半ば呆然とした鬼道が零す。
スピーカーから追い打ちを掛けるように、再び吉良の穏やかな声が聞こえてきていた。

『さぁ、分かったでしょう。ジェネシスこそ、世界を支配する真の力を持つ者たちなのです』
「違う……こんなの、サッカーじゃない!! お前はサッカーを汚してるだけだ!!」

頭を振り、円堂はもう一度吉良に向かって叫ぶ。
「どう言う意味ですか?」吉良は理解しかねると言った風に、ガラスの向こうで首を傾げた。

「力って言うのは、みんなが努力して付けるものなんだ!! お前のやり方は間違ってる!!」
『何が間違っているものですか』

眉根を歪め、吉良は円堂の言葉に鼻白む様子もなくせせら笑う。

『あなたたちも、エイリア石でパワーアップしたジェミニやイプシロンと戦うことで強くなった。エイリア石を利用したと言う意味では、ジェネシスも雷門も同じなのです 』
「く……!」

その言葉に気後れしたのは、円堂たちだけではない。瞳子は降ろした拳を握り締めて、父を睨み付けた。
自分のやって来たことは父と同じなのかもしれない。それを円堂たちは否定してくれたが、結果論だけを突きつけられれば彼女に言い訳する術は存在しないのだ。

『雷門もすっかりメンバーが変わり、強くなりましたね。ですが道具を入れ替えたからこそ、ここまで強くなれたのです』

出発から始まり、今までの旅路で加わってきた仲間たちを上から見下ろして、吉良は言う。子供たちを道具と呼び、毒を吐く。
それをさせたのは自分の所業だと言うことを、一切顧みることもせずに。

『我がエイリア学園と同じく、弱い者を切り捨て、より強い者に入れ替えることで……』
「ふざけるなッ!! 弱いからじゃない!!」
『いいえ、弱いのです』

一貫して変わらない声音で、吉良は激高する円堂に語りかける。毒を吐き続ける。チームを離れて行った仲間たちの姿が、円堂の脳裏を駆け巡った。

『だから怪我をする、だからチームを去る。実力がないから脱落していったのです』
「違う!!」
『彼らはあなたたちにとって、無用の存在』
「違う……違う、違う! 違うッ!!」

淡々と続けられる言葉は、まるで彼を洗脳しようとしているかのようだった。激しく頭を横に振り、円堂は耳を塞ぐ。
怪我をしても、心が折れても、彼らは絶対にまた戻ってくる。一緒にサッカーが出来る日が必ずやって来る。円堂はそう信じて、今までもキャプテンを務めてきたのだ。──それを今更、否定するわけにはいかない。

「あいつらは弱くない!! 絶対に違う!! 俺が証明してやる!!」

吉良がほくそ笑んだのを最後に、スピーカーはまた静かになる。
思い出されたように再開された試合に、円堂は雄叫びを上げながら臨んだ。ただただボールを目指して一直線に、自分の信じるものを貫くためにフィールドを走る。
しかしその様子は明らかにいつもの彼のプレーとは違い、ただ怒りをボールにぶつけているだけにしか見えなかった。

「円堂くん──キーパーに戻りなよ」

哮る円堂のチャージを軽々と避け、地面に倒れた彼を見下ろしてグランが冷ややかに言う。

「君がキーパーじゃないと、倒しがいがないよ」
「黙れぇッ!!」

怒りに瞳を燃やし突進してくる円堂を躱して、グランはウルビダとウィーズを伴い雷門陣内に飛び込んだ。
発動されたスーパーノヴァはディフェンスたちを押しのけて、ムゲン・ザ・ハンドを打ち砕く。

しかし、ゴールラインを超える直前。
ギリギリのところで前線から駆け戻ってきた豪炎寺と吹雪が、ゴールラインとボールの間に飛び込んだ。

「う、ぉおおお!!」

息を詰め、力の全てをボールを捉えた足に込める。垣間見えた2人の闘気が渦巻き、シュートの威力を弱める。
寸でのところで打ち上がったボールはポストにぶつかり、コート外に放物線を描いて飛んでいった。

それを見送り、グランはゴール前に跪く立向居を一瞥しながら冷たい声で囁く。

「全員でカバーしなければならないキーパー……君たちの弱点であり、敗因となる」

そこからの雷門は、完全に防戦一方の状態に追い詰められた。攻め上がるジェネシスの攻撃は先程より一層激しくなり、守りもまた強固になる。
新しくネロの繰り出した『時空の壁』は吹雪のウルフレジェンドを弾き、1つ、また1つと雷門は決め手を失って行く。

それでも円堂たちは諦めなかった。
怒りに身を任せるようにして、叫び、走り、ボールを追い掛ける。
あいつらは決して弱くない。俺が証明してみせる。そんな思いをプレイにぶつける彼の姿は、まるで──悲鳴を上げているかのようだった。

「──あんな円堂くん、初めて見た……」

秋が悲しげに呟くのと同時に、前半終了のホイッスルが鳴り響いてしまう。
雷門イレブンがかなりの体力を消耗しているのに対し、対岸のテクニカルエリアに戻るジェネシスイレブンは特に息切れしている様子はない。あれもまた、自分たちと同じように特訓で身につけたものだと思うとやるせなかった。

「──円堂くん」
「……風丸たちは、弱くない。俺が証明します」

フィールドにどっかりと胡座を掻いた円堂に声を掛けた瞳子に、彼は振り向くことなくつっけんどんに答える。

「しなきゃならないんです……俺が……!」

俯き、 ジャグを押し潰す手は、行き場のない怒りで小さく震えていた。
そんな彼に、瞳子は崩れた前髪を耳に掛けながら目を伏せる。次に彼女の口から漏れたのは、とても優しい声だった。

「──私も最初はそう思っていた。私1人の力で、父を目を覚まさせようって」

「瞳子お姉さん……」細い肩に、織乃は手にしたタオルを握り締める。
今なら分かる。彼女があれほど必死に、執拗なまでにチームに強さを求めていた訳が。そして今の瞳子が、その考えを改めていることも。

「でも、出来なかった。誰かの心を……考えを変えさせるなんて大変なこと、1人の力でなんてとても出来ない。ただ……」

結局、心を変えられたのは自分の方だった。
父を正気に戻そうと必死になって、何も顧みずに自分も周囲の人間も傷付けて回って、子供たちに導かれて辿り着いたのはたった1つの答えだけ。

「1人では無理でも、みんなの力を合わせればどんなことでも出来る。それを教えてくれたのは、円堂くん──あなたたちよ」

そう言って瞳子は柔らかく、この状況で場違いな程に優しく、微笑んで見せた。
一瞬、虚を突かれて目を丸くしていた円堂は、ふと座り込んだまま仲間たちを見回した。13人。マネージャー4人と、2人の指導者。一様に、自分を見つめている。

「俺たちの……」
「そうだよ、キャプテン」

瞳子の言葉に同調したのは吹雪だった。迷いのない瞳は初めて会った時と同じ色をしていたが、それが金色に染まることはもう二度とないのだろう。

「僕を間違った考えから解き放ってくれたのも、雷門のみんなだ」
「……みんな」

晴れやかな笑顔を浮かべる吹雪に、やがて円堂は膝小僧の埃を払ってゆっくりと立ち上がった。
順繰りに仲間たちの顔を見回していって──突然歯を食い縛り、思い立ったように右手で自分の頬を打つ。

「!? 円堂く──」
「ごめんッ!!」

驚いた夏未の声を遮り、円堂は大きく頭を下げた。
一拍空けて、深く下がった後頭部に、溜息を吐いた豪炎寺の言葉が降ってくる。

「円堂。怒っているのはお前だけじゃない」
「俺たち全員、ここに来れなかった奴らの気持ちを引き継いでいる」

「豪炎寺、鬼道……」静かに叱咤する2人に申し訳なさそうに眉根を寄せながら、円堂は顔を上げる。
後輩、同輩、新しく加わった仲間たち。円堂は胸の熱くなるのを感じた。自分は1人じゃない。今までもこれからも、独り切りなんてことはただの一度もなかった。

「そいつらが弱くねえってこと、証明しようぜ!」
「やろう、円堂。一緒に!」

初めはみんな、バラバラの考えを持っているのは当たり前だ。廃部に追い込まれた時もそうだった。だから──また、同じ事をすれば良い。
世界を掌握せんとする吉良や、それに付き従うジェネシスたちの心を、みんなで変えるのだ。

「ああ──俺たちは絶対に、勝つ!!」
「おお!!」

雷門イレブンは今再び1つになる。世界を、サッカーを、仲間たちの誇りを守るために。
「頑張って!!」激励するマネージャーたちに見送られて、雷門イレブンは気持ちを新たにフィールドへと駆け戻って行った。

「今更足掻いたって無駄だよ、円堂くん」
「そんなこと、やってみなくちゃ分からないさ!」

センターサークルを挟んで相対したグランは、先程までと雰囲気の変わった円堂に僅かに目を細める。
──きっと気のせいだ。そう自分に言い聞かせ、彼はドリブルで駆け上がってくる円堂に立ち向かった。

「君に俺を抜くことは出来ない……!」
「……!」

一瞬、円堂とグランの視線が真っ正面から交わる。
グランの足がボールに向かって振り抜かれた次の瞬間、円堂の肩が何かに反応して微かに動いた。

「何──!?」

ボールを奪われる直前の、ヒールパス。踵で軽く上げられたボールを鬼道が受け取り、そちらに気を取られた数秒の間に円堂はグランの横を通り過ぎていく。
ワンツーパスだ。気付いた頃にはもう遅く、鬼道の上げたボールは再び円堂の足元に戻っていた。

「前半とは違うと言う訳か……!」

怒りにも似た悔しさに目を細め、奥歯を噛み締めたグランはもう一度ボールを奪うべく円堂を追い掛ける。
「それで我らジェネシスに勝てると思うな!」怒号を響かせ突進してきたウィーズをギリギリまで引き付け、ボールは次は一之瀬へと渡る。そのままパスを連続で繋いで、ジェネシスが触れる隙を与えない。

「(俺には仲間がいる……ここまで戦ってきてくれた仲間が、新しく加わってくれた仲間が、いつも見守ってくれた仲間が!!)」

走りながら、円堂は清々しい気分を感じていた。みんなと一緒ならどこまででも、相手が誰だって戦うことが出来る。その勇気が沸いてくる。
その勇気を、否定されるわけにはいかない。

「俺たちの強さは、そんな仲間たちと共にあるんだ!!」

叫んだ円堂、そして追随して跳躍した鬼道と土門のデスゾーン2がジェネシスなゴールに炸裂する。
ネロの繰り出した時空の壁を突き破り、ゴールを割ったデスゾーン2にスコアボードの数字が2対2の同点へと変わった。

「よォし!!」
「やったぁ!!」

円堂たちがガッツポーズを取ると同時に、秋と春奈が手を取り合って飛び跳ねる。
僅かに安堵の溜息を吐いて、瞳子は観覧席を一瞥した。

「(これが、私を変えた雷門のサッカーよ──父さん)」

少しずつで良い。願わくば、父にこの思いが届くように。フィールドに戻した視線の先で、円堂はグランと相まみえている。

「見たか、ヒロト! 仲間がいれば、心のパワーは百倍にも千倍にもなる!」
「……仲間を、思う心」

そんな曖昧なものが、本当に彼らをレベルアップさせていると言うのか。
怒りを飛び越し困惑すら覚えるグランに気付いたのか、観覧席の吉良は微かに眉根を寄せる。

──だが、とグランは思い直した。

「(俺には父さんがいる! 父さんさえいれば、仲間など必要ない!!)」

ウルビダとウィーズと共に3人がかりで雷門のDFを突破したジェネシスのスーパーノヴァが、再び雷門のゴールに襲いかかる。

「あ……!」

肩を強張らせ、立向居は息を飲んでムゲン・ザ・ハンドを繰り出した。
迷いの出た技は直ぐに形が崩れ、金色の腕はシュートを受け止めるや否やあっと言う間に霧散してしまう。

しかし、ゴールラインを超えるその一瞬、シュートの間に体をねじ込んできた円堂が、メガトンヘッドでボールを打ち返した。
「何!?」飛んできたボールをトラップで受け止めながら、グランはネットに倒れ込んだ円堂に目を見開く。

あのスピード。それにパワー。彼はあれも、仲間を思う力だと言うのだろうか。

「そんなこと──有り得ない!!」

三度、スーパーノヴァがゴールに襲いかかる。
緊張と恐怖で口を渇かしながら、立向居は呆然と迫るシュートを見つめた。
どれだけパワーアップしても、自分ではあのシュートは止められない。微塵も、歯が立たないのではないか──そんな恐れに飲み込まれそうになった彼の背を、円堂の怒号が叩く。

「立て、立向居……!」
「え、円堂さ……」
「雷門のキーパーは、お前だ立向居……! 雷門のゴールを守るのは、お前なんだ!!」

息を呑む。冷えていた汗が一気に散っていく。
──そうだ。自分はずっと憧れだった存在にゴールを託された。仲間たちの全てが懸かったゴール。最後の砦が弱気になって、どうする。

「みんなのゴールを、俺が──守る!! ムゲン・ザ・ッハンドぉーーーーーーッ!!」

フィールドを踏み締め、よろめきながら立ち上がった立向居の体が沸き立つ金色の闘気が、また強靱な腕となりシュートに伸びていく。
深い闇に負けそうになる。指先が痺れてくる。それでも、もう負けたくなかった。

「う、ああああああああッ!!」

叫びと共に輝きを増した腕が、更に力強くスーパーノヴァを抱え込む。
次の瞬間ボールがあったのは──ゴールラインの中ではなく、立向居の手の中だった。

「……!! やっ──」
「何だと……!?」

「やったな、立向居!!」起き上がった円堂が、立向居の肩を何度も叩いている。
ぐらつく視界でそれを捉えたグランは、思わずフィールドに膝を突いていた。

最強のジェネシスが、2点も取られた挙げ句強力なシュートまで止められた。あれが思いの力。心の強さ。
そんなものが、長い年月を掛け作り上げられた技と体を持つ自分たちに打ち勝つなど、到底信じられない。このままでは──

『グラン。リミッターを解除しなさい』
「っリミッター解除……!?」

最悪の事態を口にしかけたグランを現実に押し戻すかのように、スピーカーから吉良の声が聞こえてきた。
父と仰ぐその人の言葉が信じられずに、グランは瞠目して観覧席を見上げる。

「父さん! そんなことをしたらみんなが、──」

その瞬間、グランは当たり前のことのように浮かんだ考えに反射的に口を噤んだ。
父について行くと決めた時、甘い考えは捨てたはずだ。なのに、何故今更そんなことを気にする。これでは、まるで。

『怖じ気付いたのですか、グラン。あなたにはがっかりです』

彼の言わんとしたことを察したのであろう、吉良は憐憫にも近い目でグランを見下ろし、平然と告げる。
そして彼は、グランの傍らに佇むウルビダへとその矛先を変えた。

「ウルビダ。お前が指揮を執りなさい」
「はい、お父様」

迷うことなく頷いて答えたウルビダは、困惑する雷門イレブンを吊り上げた目で睨み付ける。
明らかに雰囲気の変わったジェネシスに──ウルビダに、織乃は思わず自分の肩を抱き締めた。

「大丈夫? 織乃ちゃん……」
「は、い。でも、何だか──」

とてつもなく、嫌な予感がする。
こちらを気遣う秋に頷きながら、織乃は漠然とした不安に身を凍らせて、祈るように手を組み合わせた。

「(玲名ちゃん……!)」