Girls' bath talk

「そういやウチ、さっきから織乃に聞こうと思てたことあんねん」
「はい? なん……何ですかリカさんその手は」

かぽーん、と床に置いた洗面器が音を立てる。
ニヤニヤ笑いを張り付け、両手をわきわきさせながらにじり寄り始めたリカに、織乃は顔をひきつらせて後ずさった。

「織乃……あんたのそれ、服着てるときより大きなってるように見えんねんけど」
「そ、それって何ですか……」
「何って、ち」
「あー、やっぱり良いです言わなくても!」

壁際まで追い詰められ、織乃は胸元に伸びてきた手をガッと阻止する。
ぐぐぐ、と手に力を込めながら、リカが口を尖らせた。

「ええやんちょっと揉むくらい……!」
「ちょっとも沢山も無いですよ……!」
「目の前にデカイ乳があったら揉むやろ、常識的に考えて!!」
「どこの世界の常識ですか!?」

押しても引いても食い下がるリカに、織乃はちらりと夏未たちへ救助を求める。

「な、夏未さん秋ちゃ……」
「木野さんあっちにサウナがあるみたいよ、行ってみましょう」
「え、ええ」
「うわぁぁ2人ともぉぉ!!」

そそくさと湯船から離れる2人に、心の中で織乃は涙した。寧ろ少し泣いたかもしれない。
「じゃあせめてカップ!!」意地でも引かないリカに業を煮やしたのか、織乃はついに口をへの字に曲げる。

「……び、B」
「はい嘘! 春奈、ブラチェックや!!」
「ラジャー!!」
「は、春奈ちゃん!?」

まさに風のごとく、凄まじいスピードで湯船から飛び出した春奈は、止める間もなく脱衣場へ駆け込んだ。
そして5秒としない内に戻ってきた春奈は、湯船に戻るなりリカに耳打ちする。

「──ハハ〜ン、やっぱりな。織乃、あんた……サイズ小さいブラ着けて胸の大さ誤魔化しとるやろ!!」
「うぐっ……!?」

ビシッとこちらを指差したリカに、織乃は喉に何か詰まったような唸り声を上げた。
それを肯定と取ったのか、リカは不満げに鼻を鳴らす。

「何でそないなことしてんねん! ウチなんてバストアップのために日々努力を続けてるっちゅーのに!」
「だ、だってぇ……!」

困った顔になった織乃は、胸元を隠して湯船に深く沈んだ。
第一、胸が大きくても百害あって一理ない──と言うのが織乃の本音である。

「大きくたって良いことありませんよ……重いし動きにくいし、下手すると痴漢に遭うし」
「ちかんん?」

「あったことあんの? 中学生なのに!?」塔子が心底驚いた風に、目をクリクリと丸くした。
1回だけ、と頷いた織乃は、嫌なことを思い出したのか苦い顔をする。

「やっぱり、そういうのってあるんですね……その時はどうしたんですか?」
「何かもう、とにかくびっくりしたから思わず相手の指を」
「折ったんか」
「お、折りませんよ!」

真面目な顔で口を挟んだリカに慌てて首を振り、織乃は自分の指を掴んで見せた。

「とりあえず、突き指に留めた程度です。……多少腹も立ったんで、鳩尾にも1発肘を入れさせてもらいましたけど」
「うわぁ、……あれ?」

痛そう、と言うように口許を押さえた春奈が、ふと首を捻る。
「どうした?」尋ねた塔子に、春奈は首を捻ったまま続けた。

「ほら、前にみんなで温泉に入ったことあるじゃないですか」
「うん」
「もしかして織乃さんが瞳子監督の用意してくれた水着が入らなかったのって、胸の大きさ誤魔化してるからだったのかなって……」

バッ、と般若のような形相になったリカが織乃へ視線を変える。
織乃は明後日の方向を見ながら、唇を真一文字にギュッと結んでいた。額には、湯船のせいとは言いがたい汗が浮かんでいる。

「……織乃……」
「……何でしょうか」

がし、とドスの利いた声で言ってリカは織乃の肩を掴むと、そのまま激しく前後に揺さぶった。

「あんたそんな胸がいらんのなら周りに分け与えたらどうなんや! とりあえずウチに片方100グラムずつ千切って寄越し!!」
「い、嫌ですよ、そんな、グロテスクな!!」
「きぃぃっ、こうなったらあんたがベソ掻くまで揉みしだいたる!!」
「何でそうなるんですか!?」
「じゃ、じゃあ私もお手伝いを……!」
「は、春奈ちゃん? しなくて良い、しなくて良いから、うわ、ちょっ、待っ……!」

──織乃の涙声の悲鳴を聞きながら、我関せずを決め込んでいた塔子は頭にタオルを乗せて大きく欠伸をする。

「明日も特訓頑張らなきゃな〜」
「助けて下さいよ塔子さぁああん!!」