For shopping!
場所は福岡某所。立向居の加入が決定した、翌日のことだ。
いつもならすぐにでも沖縄に発ちたいところなのだが、突っ走る円堂に瞳子が待ったを出したのである。
『沖縄の炎のストライカーが、豪炎寺くんとは限らないのよ?』
彼女の言い分も当然は当然。
エイリアの情報はその都度理事長たちが集めているため確実なものだが、今回はまだ信憑性のない噂程度の情報なのだ。
しかし、それでもと言って聞かない円堂に、瞳子は大きく溜め息を着いて提案する。
私が一足先に飛行機で沖縄に飛んで下調べをするから、あなたたちはキャラバンと船を経由してきなさい。
──しばらく円堂はぐずっていたが、秋たちの説得でやっとのことで折れてくれた。
しかし、何故全員で飛行機の乗らないのかと織乃が素朴な疑問を口にすると。
『……全員分の飛行機代、いくらかかると思う?』
そんな、大人の事情で説き伏せられた。
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「ショッピング行くで、織乃!」
「……はい?」
陽花戸のグラウンドに停車したキャラバンにて。
ステップを駈け上がるなりそんなことを言って来たリカに、織乃はすっとんきょうな声を上げる。
よくよく見てみれば、彼女の腕はがっしりと、一之瀬ではなく珍しく塔子の首根っこを掴んでいた。
「はあ……い、いってらっしゃい」
「ちゃうやろ! あんたも行くんや!」
ガオー、と効果音が聞こえてきそうな程吠えるリカに、織乃は思わず耳を塞ぎそうになる。
「沖縄と言えば海! 海と言えばビーチやろ!」
「……どゆことですか」
「水着、買いに行きたいんだと……」
げんなりとした様子で答えた塔子に、織乃はやっとリカの意図を汲むに至った。
要するに、だ。
「可愛い水着を着てカズくんにアピールしたい、と……」
「さっすが織乃、話が早いわ〜!」
「なっ、なっ? 行こうや」リカはズイズイと身を寄せて、目を輝かせる。
織乃は開きっぱなしだったモバイルの蓋を閉じて、溜息を吐いた。
「ダ・メ、です!」
「ええーッ! 何でや!」
ピシャリと言った織乃に、リカの腕に力がこもる(塔子の首が更に絞まった)。
素知らぬ顔でモバイルと資料を小脇に抱え、ステップを降りていく織乃をリカは慌てて追いかけた。
「なぁなぁ織乃、何でアカンのー!?」
「リカさん……私たち、旅行に行くわけじゃないんですよ。それに、買ったとしても着る機会があるかどうかも分からないでしょう」
ジトリとした目で振り返った織乃に、リカはぐうっと言葉を詰まらせる。
彼女の言うことも最もだ。第一、我らがキャプテンはそこがどんな場所であろうがサッカーを始める、生粋のサッカーバカ=B
波の打ち寄せる美しいビーチで、いつものユニフォームを着て汗まみれになりながらサッカーをする自分を思い浮かべたリカは、苦虫を噛み潰したような表情をした。
織乃が態度を変える様子は依然ない。ならば、と彼女は話の矛先を変更する。
「なっ、ダーリンはウチの水着姿見たいやろ?」
「へ?」
ぐるりと顔の向きを変えた先にいたのは、当然の如く一之瀬だ。
突然巻き込まれた彼は体の良い言い訳を思い付く暇もなく、ぱくぱくと口を動かす。
「えーと、別にそうでもないかも……」
「見・た・い・や・ろ!?」
「あ、はは……どうだろー…」
ただの恐喝じゃねーか。塔子は心の中で呟いた。
冷や汗を垂らしながら、チラチラとこちらに目で助けを訴えてくる一之瀬に、織乃はもうひとつ溜め息を吐く。
「……分かりました、じゃあこうしましょう」
「お、何や?」
一転、キラリと目を光らせたリカに、織乃は厳しい表情のまま言った。
「今日の身体データ収集……全部のカテゴリーの数字が上がってたら、一緒に買い物に行きます」
「何や、そんなことかいな。それでええで!」
「ただし、古株さんが戻ってくるまでですからね!」
「分かっとるて!」釘を刺した織乃に、リカはヒラヒラと手を振り笑う。
何でこんなことに。塔子はもう片方の手でリカに掴まれたまま、重たい溜め息を吐いた。
「……はぁ。皆さーん、ちょっと集まって下さい! 昨日言ったデータ収集、始めますよーっ」
「ん、おう!」
声を大きくすると、聞き付けたイレブンたちがぞろぞろと集まってくる。
人数が揃ってるか指差し確認して、織乃は続けた。
「えーっと。今回は立向居くんも初参加なので、いつもより多目にデータを取りますけど……良いですね?」
「ああ!」
「データ?」
1人、円堂の隣に並んだ立向居が首を捻る。
ああそうか、と織乃は昨日、立向居が帰宅した後にこの話をしたのを思い出した。
「まぁ……簡単に言うと、学校でやる体力テストみたいなものかな? あまり固くならなくていいよ」
「あ、はい。分かりました!」
言うと、立向居は素直に頷く。
織乃はモバイルを開くと、後ろに控えた秋たちを振り返った。
「ごめんなさい、秋ちゃんたち……準備とか手伝わせちゃって」
「ううん、気にしないで。織乃ちゃんの仕事は、チームの為にも大事なことだもの」
にこりと笑って小首を傾げた秋に、織乃もつられて微笑む。
「うっしゃ、やったるで!」ただ1人、異様に鼻息の荒いリカに、鬼道が眉を顰めて塔子に尋ねた。
「今日のリカは、妙に張り切ってないか……?」
「え? ああ……全部のデータが上がってたら織乃と一緒に水着買いに行くって約束したんだ」
「み、」
「水着ですって?」
鬼道が言葉を詰まらせた瞬間、単語を聞き付けた春奈が驚異的なスピードで2人に駆け寄る。
その勢いに気圧されながらも、塔子は頷く。
「織乃がいたら、ナンパされる確率が上がるとか何とか……」
「何だと?」
「織乃って、パッと見ふわふわ〜ってした雰囲気だろ。そーいうのが男を寄せ付けるんだって、リカが言ってたよ」
眉間にギュッと皺を寄せた鬼道に、塔子は肩を竦めながら言った。
むっすりと仏頂面に拍車をかけた兄には気付かず、春奈が更に尋ねる。
「でも別にここで買わなくたって、別に現地にも水着は売ってますよね?」
「うん、私もそう言ったんだけどさぁ……」
──アホぅ! あっちで買ったら、現地の人とかと被る可能性があるやろ! それに都会の方が可愛い水着売ってるやん!
と言うのが、彼女の言い分だったそうだ。
「はは……何て言うか、リカさんらしいですね」
「だな。でも、だからってこっちまで巻き込まないで欲しいよ」
はぁ。塔子は今日で何度目か分からない溜め息を吐く。
そうこうしている間に、織乃はとうとうリカのデータ収集を始めていた。
「よっしゃあ! 新記録出したる!」
「はいはい、頑張って下さいね」
織乃は織乃で、既に色々なことを諦めているようだ。気怠げな様子で、パチパチとキーボードを叩いている。
彼女のモバイルに納められているデータはこうだ。
総合体力、技を出す気力、ボールを蹴る脚力とスピード。それを単純に数字化し、それらに基づいて、技の精練を行う。
本人としてはかなり真面目に仕事をしているので、リカのような理由でやる気を出されるのはあまり芳しくはないのだが。
「(まぁ、リカさんだし……今更だよね、そういうのは)」
小学校時代、短い期間とはいえ彼女には散々振り回されて来たのだ。今更どうこう言うほど心は狭くない。
ふ、と息を吐くと同時に、隣にいた夏未がピッとタイムウォッチを鳴らす。
「どや! ウチの足、早ようなってた!?」
「ちょっと待って、……そうね、少しではあるけど、タイムは縮まってるわ」
やった! とリカはその場で跳び跳ねた。
ショッピングに一歩近付いたのもあるのだろうが、純粋に嬉しかったのだろう。
「さぁ、次や次!」そのまま勢いに乗ったリカは、仲間と混じって順調にデータ収集に協力した。
──そうして、1時間は経っただろうか。
「+5……+2……5、6、……全部上がってますね」
「せやろ! さっすがウチや!」
モバイルの画面を目で追いながら言った織乃に、リカは鼻高々で胸を張る。
にわかに覇気の無くなった織乃に対し、リカはにんまりと嬉しそうに笑った。
「約束やんなぁ、織乃! 古株さんが戻ってくるまでショッピングタイムて!」
「……まぁ、約束ですから仕方ないですね」
そう呟き、織乃は苦笑する。
しかし、そんな彼女の肩をふいに鬼道が叩いた。
「どうやら、もう時間切れのようだぞ」
「え?」
言うと、鬼道はいつものニタリ顔で校門の方を指差す。
その先には、丁度近場の旅行代理店で船の予約を取って戻ってきたらしい古株の姿が見えた。
「おーい、予約が取れたぞ! 今から出発じゃ!」
「……まぁ、そういうことだ。諦めろ」
「そっ……そんなー!!」
頭を抱えリカは悶絶し、織乃はほっと溜め息を吐く。
結局、リカの機嫌は船乗り場に着くまで直らなかったとか。
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