Rest after the end of the war

「そろそろどこかと試合がしたいなー……」

彼がそんなことをぼやいたのは、とある放課後のこと。エイリア学園の事件が収束して、もうじき1ヶ月が経とうとしていた頃のことだった。

「確かにここしばらく、ずっと試合していないものね」

ぼやきの主、円堂に同調して頷いたのは、部室で春奈と共にタオルを畳んでいた秋である。

それと言うのも、長らくバラバラの状態で活動していたせいでプレーがぶれてしまった雷門イレブンの調整が中々終わらないことに原因があった。
とどのつまりは、千羽山戦の焼き増し。数ヶ月分の空白を1ヶ月ないしそれ以下の期間で埋めるため、鬼道と織乃には随分頑張ってもらっていた。

今ではすっかり元通り。旅を続けていた円堂たち、途中離脱した風丸たち、参加できなかった半田たちのプレーは、世宇守戦来の──それ以上のチームワークを発揮するまでに回復している。

「それについては、俺たちも賛成だな」
「あ。鬼道、豪炎寺」

開け放した扉から、ボールを抱えた豪炎寺と鬼道が部室に入ってくる。大方いつまで経ってもグラウンドに来ない円堂を呼びに来たのだろう。

「どれほどチームプレーが回復したか見るには、実戦が1番だからな」
「だよなだよな! よぉっし音無、早速どこかの学校に練習試合の申し込みだ!」

「はいはーい!」すぐさま右手を天に突き上げた春奈が、机に置いてあったノートパソコンを開いた。
何度か画面を操作したところで、あれ、と彼女は目を瞬く。

「キャプテン、丁度他校から練習試合の申し込みメールが届いてますよ?」
「えっ、ホントか?」

目を丸くして、円堂はピンク色のノートパソコンの画面を覗き込んだ。
文頭は、『雷門イレブンの皆様へ』と丁寧に始まっている。円堂は慣れない手つきで画面をスクロールしながら、そのメールを読み上げた。

「先の一件、まことにお疲れ様でした。宇宙人もどきを倒したそのパワー、我々ももう一度体感したいのです=c…」
「差出人は…………ああ、秋葉明戸からですね」

どんがらガッシャン。
突然聞こえてきたけたたましい音に、部室にいた全員が肩を揺らして音のした方を振り返る。
そこにいたのは、唖然とした表情で棒立ちした織乃だった。足元には彼女が今し方落としたのだろう金だらいが転がっている。

「は…………あ、す、すいません」
「びっくりしたー」

ハッと我に帰った織乃は金だらいを拾い上げて部室に入ってきた。
気を付けてくれよ、と胸を撫で下ろした円堂はもう一度メールに目を落とす。

「日にちは……3日後か。その日って何もなかったよな?」
「うん。部長会議は明日だし、少なくともそれ以外の予定は今週はないと思う」

円堂の問いに答えたのは秋だ。
金だらいを定位置に戻した織乃は、若干覚束無い足取りで振り向きながら空咳を繰り返す。

「えっと〜……練習試合の、申し込みですか?」
「うん! 丁度頃合いだし、受けようかなって」
「…………どこと?」
「秋葉明戸!」

──今度こそ、織乃の表情は凍り付いた。
明らかに様子の変わった彼女に流石の円堂も気付いたのだろう、ん? と首を傾げる。

「どうした、御鏡?」
「円堂さん……どうやら私、3日後の試合には行けそうもないです」
「んぇっ、何で?」
「胃痛で」

「えっ、予言?」円堂がキョトンとしているその隙に、それでは──とそそくさと立ち去りかけた織乃の肩を、鬼道ががっしりと捕まえた。

「御鏡……気持ちは分からなくもないが、諦めろ」
「うう……っ鬼道さんは、また私に視界の暴力になれと言うんですか!?」

泣きそうでも有り怒りそうでもある複雑な表情で向かい合った織乃に、鬼道は言葉を詰まらせる。
そして思わずあの時のことを思い出して──成る程確かにあれは一種の視界の暴力だった、と赤くなった顔をササッと彼女から背けた。

それを見た織乃は勘違いを増長させて「ほらやっぱり!!」と頭を抱える。

「鬼道、御鏡……お前たちひょっとして、帝国にいた頃秋葉明戸と戦ったことでもあるのか?」
「…………察しの通りだ」

豪炎寺の問いに、鬼道はゴホンと空咳をひとつして頷く。ああ、と何か納得したらしい春奈がにっこり笑った。

「メイド服のことが気掛かりなんですね? 大丈夫、織乃さんのメイド服姿もばっちりカメラに収めますよ!」
「違う、春奈ちゃん、逆!」

着たくないんだよ、と織乃は首を激しく横に振る。きっと春奈は半分分かっててやっている──それを薄々感じてはいても、後輩の女の子に強く言えないのが織乃と言う人間だった。

「織乃ちゃん、そんなにメイド服着るの嫌?」
「秋ちゃんは嫌じゃないんですか……?」
「私は……う〜ん。普段着る機会のないものだし結構楽しかったけどなぁ」

秋は知らない。彼女が秋葉明戸で着た服と、織乃が着せられた服は、若干デザインが異なることに。

「と……とにかく、私はあんな服を着たままじゃ集中出来ないんです。仕方がないので、当日は観客席から応援してハーフタイムになったら降りてくるって流れで……」
「それはなりませんね!!」

突然響いてきたのは、目金の張り上げた声だった。
驚いて振り返ると、彼はいつにも増して真面目な顔で部室の前に仁王立ちしている。

「彼らは御鏡さんが雷門イレブンに参入したと聞いて以来、ローズナイトミリアの衣装を作り再び雷門と戦うことを夢見てきたのですから!」
「そ、そんな理由で……って言うか何でそんなこと知ってるんですか!?」
「当然です、その情報をリークしたのは僕ですから」
「何てことをしてくれたんですか!!」

俗に言うマジ切れだった。涙目で目金の肩を掴みガクガク揺さ振る織乃を鬼道と共に宥めながら、そう言えば、と豪炎寺が円堂を振り向く。

「雷門もあの服を結構嫌がっていたよな……大丈夫なのか?」
「ん? あー……」
「私が何ですって?」

目金に引き続き、騒ぎを聞きつけたらしい夏未が部室にやって来た。
丁度良かった、と駆け寄ってきた円堂に、彼女は僅かにたじろいだ様子を見せる。

「次の練習試合、秋葉明戸とやろうと思うんだけど、良いよな?」
「良くないわよ!」

──咄嗟に逃げ出した夏未と反射的にそれを追いかける円堂の全力の鬼ごっこが終わったのは、それから5分後のことだった。




「行っても──良いけど──私は──もうあんな服は着ないわよ!!」
「お前も御鏡みたいなことを……」

息を切らしながら眦を吊り上げる夏未に、円堂は困ったように頭を掻く。
別に円堂からすれば、あの服に特に重要性はないのだ。ただ練習試合が出来ればそれだけで彼は十分なのである。

「大体、何でよりによって秋葉明戸なの? 学校は他にも色々あるでしょう」
「いやぁ、それがですね……」

苛立ち混じりの夏未に、春奈がパソコンを弄りながら言った。

「どうもエイリアの一件以来、雷門イレブンは他校から敬遠されてる……と言うか、ちょっと遠巻きにされがちなんですよね」
「そうなのか?」
「はい。ハイソルジャーを倒したチームだから、自分たちが戦ってもどうせ勝てない……みたいな噂が立ちつつあるんですよ」

「そんなことないのに」眉間に皺を寄せて、円堂は憤慨した様子を見せる。
確かに試合をする以上は負けたくない。だからいつも全力で戦う。だが、そんな気概が他校のチームの戦意を削ぐとは思ってもみなかった。

「でもそんなこと言ってたら、いつか雷門と戦うチームがいなくなっちゃうよ」
「ええ! だからこの秋葉明戸との試合を切欠に、少しずつこの下らない噂を払拭するべきです!」
「あ、結局そこに論点が戻るんだ……」

復活した織乃は、拳を握り締めて力説する春奈にがっくりと肩を落とす。
ここまで来ると、もう諦めるしかない。それを悟った彼女の目は死んだ魚のようだった。

「もう、好きにしなさいよ……」
「じゃあ、良いんだな!」

長い溜息を吐いた夏未は、織乃と並んで肩を落とす。
返信のメールの文章を打ち込みながら、ふと思い出したように春奈が口を開いた。

「……確かメイド服の着用って、あの学校内だけの話でしたよね?」
「え? ああ……確か、そんなことを言ってたような」

その時のことを思い出しながら、秋が頷く。我が校で試合をする際はこの服の着用を義務づけられている──そんな風なニュアンスのことを。
それならば、と春奈は夏未たちを振り向いた。

「雷門のグラウンドで試合するように日程を組めば、2人ともメイド服着なくても済むんじゃないですか?」
「…………!!」

──かくして、秋葉明戸イレブンの申し込みは無事に受諾された。夏未が職権を行使してグラウンドを1日サッカー部の貸し切りにし、確実に雷門で試合を開けるように取りはからって。
当日、秋葉明戸はローズナイトと言うアニメのコスチューム持参で雷門に赴いたのだが、それに織乃がどう対処したのか──それは神のみぞ知ることである。