Get over a high wave

煌々と輝く太陽の下、ビッグウェイブスとイナズマジャパンの白熱の試合は続いている。

「ウルフレジェンド!!」
「グレートバリアリーフ!!」

放たれた吹雪の必殺技と、相手キーパー、ジーンの必殺技激突はしる。フィールドを覆うように立ち上った大きな波は、ウルフレジェンドを勢いごと飲み込んだ。
挑発するようなジーンの笑みが、彼が何を言わんとしたいかを如実に示している。これしきのシュートでゴールを割れると思うな、と。

「くっ……!」
「まだだ!!」

ジーンが中盤を走るシャインへ向かってスローインする。
それをシャインが受け取ろうとするのを、無理矢理体をねじ込み防いだ豪炎寺は体を捻りそのままシュート体勢に入った。

「爆熱ストーーム!!」

放たれた爆熱ストームは赤い軌跡を描きゴールへ直進。だが、これもまたグレートバリアリーフで押し止められてしまう。ああ、と観客席のサポーターから落胆の声が漏れた。

「豪炎寺さんと吹雪さんでもダメだなんて!」
「せっかく良い流れだったのに……」

春奈がじたばたと足踏みをする傍らで、苦しげに眉間に皺を寄せた秋が呟く。
誰もがこれなら勝てるかもしれない、と思っていたところのこの状況だ。世界の強豪を相手取っているのは理解しているとは言え、やはり期待をした分落ちた時のダメージは大きい。

「あっ……相手は選手交代するみたいですね」

試合が再開するや否や、ボールをコート外に蹴り出したビッグウェイブスのプレーに織乃が反応する。
投入されたのはMFとDFだ。ビッグウェイブスの監督、ロベルトとニースがアイコンタクトを取ったのが遠目から見える。

「ふむ……? ボックスロック・ディフェンスを発動する素振りが見えませんね。諦めたのでしょうか?」
「……いえ……あれは」

眼鏡を押し上げながら呟いた目金に、ややあって織乃はギュッと目を細めて返した。
ドリブルで進むのは緑川だ。それに対し、チェックに入るのはDFが1人。今までのビッグウェイブスのプレーに倣うのなら、4人1組で止めに掛かるはずだ。けれど、彼らの表情には既に先程までの焦りはない。

「グレイブストーン!!」
「うわあッ!?」

雄叫びと共に大地が揺れ動き、突然フィールドからせり出した岩に弾かれた緑川の体が、勢いよく宙に投げ出された。

「リュウジくん!」
「緑川!」

テクニカルエリアの織乃の声と、フィールドにいるヒロトの驚愕の声が重なる。
地面に叩き付けられた緑川は幸いにも大したダメージは受けなかったようだが、案の定ボールは奪われてしまった。
ビッグウェイブスたちは口元に余裕のある笑みを浮かべ、イナズマジャパンを睥睨している。ロベルトはボックスロック・ディフェンスが通用しないことを悟り、個人技で攻める戦法に切り替えたのだ。

「これが世界か……!!」

体力、スピード、テクニック、戦術の切り替えの速さ。全てが今まで戦ったチームより飛び抜けている。
ごくりと息を飲み、立向居はちらりと久遠の横顔を見上げる。彼はこうなることを予測して、自分たちにアップしておくよう指示していたのだ。

しかし、個々の勝負となればイナズマジャパンも負けてはいない。ボールを奪っては奪われ、奪っては奪われ、互いに攻め手を欠き、試合は膠着状態に陥ってしまう。

「前半、あと3分です!」

ストップウォッチを覗き込み、春奈が半ば叫ぶように言う。得点は現在0対1。前半で追いつかなければ、後半は更に厳しい戦いになるだろう。
妹の声が聞こえたのか否か、ドリブルで掛ける鬼道のスピードが上がった。

「奴を行かせるな!!」

ニースが声を張り上げるのと同時に、DFたちが駆け出す。
連続したスライディングに鬼道は応戦したが、1人目の足を避け鬼道の無防備になってしまった足首を、2人目の足が的確に捉えた。

「ッぐ……!」
「お兄ちゃん!」

衝撃で勢いよく前に倒れ込み、足首を押さえて呻く鬼道に春奈が思わず悲鳴を上げる。
織乃もまた声を漏らしそうになったが、寸でのところで堪え鬼道の様子を伺う。大丈夫か、と差し伸べられた風丸の手を取り鬼道は起き上がったが、眉間に深い皺が寄ったままだ。

鬼道が立ち上がったのを確認し、審判が試合再開のホイッスルを吹く。けれど。

「──鬼道さん!!」

ついに織乃は悲鳴を上げる。走り出そうと足を踏み出したその瞬間、あまりの痛みに思わず患部を押さえ蹲った鬼道に、試合は一時中断されると同時に前半終了のホイッスルが響いた。

円堂の肩を借り苦悶の表情でベンチに戻りながら、鬼道はスコアボードを見上げる。
結局、一点リードされたままハーフタイムになってしまった。最悪のタイミングでの負傷に、鬼道は奥歯を噛み締める。

彼がベンチへ腰を下ろすなり、手早く患部の確認をした織乃は顔をしかめた。
スパイクがぶつかった足首は所々内出血し、ひどく捻ったのか紫掛かった赤に変色して痛々しい。熱を持つそこに慎重に包帯を巻いていくが、時折漏れる鬼道の苦痛の声に織乃は耐えきれず久遠を見上げて言う。

「この状態じゃ、試合は無理です!」
「っこれくらい大丈夫だ……!」

声を荒げ、鬼道は立ち上がろうとする。その肩を押さえ、ベンチに留めたのは円堂だ。

「鬼道、気持ちは分かる。だけど無理はするな!」
「円堂……」

円堂の表情は真剣そのものだ。ここで無理矢理試合に出れば、鬼道の怪我は酷くなる。最悪のケースも有り得る。それでは、この試合に勝てたとしても意味がない。
円堂の目からそれを理解し、ゆっくりと俯いた鬼道に、久遠が声を掛ける。

「鬼道。交代だ」
「……はい」

不満げながらも、鬼道は確かに頷いた。
それを確認し、久遠はアップを済ませた選手たちを振り返る。

「後半頭から行くぞ。虎丸」
「は、はいッ!」

名指しを受けて姿勢を正した虎丸に、ベンチから腰を上げ掛けていた不動がどすんと元の位置に戻る。それに気付かない虎丸は、緊張した面持ちで円堂たちに頭を下げた。

「みなさんに迷惑の掛からないプレーを心掛けます……!」

よろしくな、と笑顔を向ける円堂に虎丸が表情を緩めたのを一瞥し、久遠は続け様に指示を出していく。

「後半の指示を伝える。吹雪、お前は中盤の底に下がって、相手の攻撃の芽を摘め」
「はい!」

一辺の迷いも見せず、吹雪が力強く頷く。シュートを止められたのが悔しかったのだろう、前半よりもその表情からは闘志が満ち溢れている。

「虎丸はそのまま鬼道のポジションに入れ。前にボールを繋げろ」
「そ、そんな大事なポジション、俺で良いんですか?」

いきなり重要な役割を言い渡された虎丸は明らかに動揺する様子を見せたが、久遠は指示を変える素振りを見せず、言葉を重ねた。

「お前がやるんだ」
「……! はい!」

その語気の強さに久遠から並々ならぬものを感じた虎丸は、表情を強張らせながらもしっかりと頷く。その背中を、綱海が笑いながら軽く叩いた。

「まっ、気楽にやれって! 後ろには俺たちが着いてっからよ」
「はいっ、頑張りま……」
「それから綱海!」

虎丸の言葉を掻き消す険しい声に、綱海はギクリと身を竦める。

「綱海。お前は俺の指示を聞かず、外へ出て特訓をしていたようだな?」
「えっ? あー……ばれてた?」

サーッと顔を青くして、綱海は頬をひきつらせる。
──そもそも、あんなにおおはしゃぎしながら出ていって、潮でパリパリになって帰ってきて、ばれていない方がおかしいのだ。仲間たちは彼を擁護する言葉が思い付かず、明後日の方向へ視線を向けた。
まさか罰として交代か、それとも。固唾を飲む綱海に下された久遠の指示は、彼らの予想から外れたものだった。

「ならば、点を取れ綱海。新たな必殺技でな」
「新たな必殺技?」

円堂たちは首を傾げたが、当人の綱海は一人小さく肩を揺らして真剣な目で久遠を見上げた。

「知ってたのか……?」
「え?」

仲間たちの驚いた視線が、一斉に綱海へと向けられる。
しかし彼はどことなく表情を曇らせ、言葉を濁した。

「けど、まだ全然出来てなくてよ……」
「完成していないのは、頭にビジョンがないからだ。奴らを倒すためにどんな必殺技が必要なのか……お前には分かるはずだ」

自身の米神を叩き、次に久遠はフィールドを指差す。倣ってそちらを見れば、目の前に広がるのは何の変哲も無い緑色の芝生。
だが、彼らは知っている。勝利への鍵はいつもあそこにあるのだと言うことを。

「ヒントは、フィールドにある。誰にだって自分のステージがあるんだ。──行け! 海はお前のものだと証明しろ!!」
「ッはい!!」




ハーフタイムも終了間近となり、選手たちが続々とフィールドに戻って行く。

「ヒントか……」

呟いた綱海は試しに芝生に耳をくっつけてみたが、聞こえるのは回りの歓声と壁山の「綱海さん、もう試合始まるッス!!」と言う声ばかりだ。

「だ、大丈夫かしら……」
「綱海さんを信じるしかありませんね……」

端から見ればかなりマヌケな格好になってしまっている綱海に、秋や織乃が顔を引き攣らせる。
仲間たちの心配をよそに、とうとう後半開始のホイッスルが鳴り響いた。前半で取れなかった点をここで取り返し、更にもう1点。ハードルは中々高い。

真っ先に飛び出していったのは虎丸だ。
先程までの緊張しきった様子はどこへ行ったのか、伸びやかな動きで向かってきたジョーとリーフのワンツーパスを器用に奪い取る。

「すごいぞ、虎丸!!」

ハッと声を上げた円堂に、虎丸は肩越しに嬉しそうに笑って見せた。
歓声は一際大きく、イナズマジャパンを鼓舞する声が湧き上がる。虎丸は他の選手と比べデータが少なく、相手チームに取って能力が未知数であることは明白だ。
そんな彼が、いとも容易く鮮やかにボールを奪っていった。ビッグウェイブスの警戒は一気に彼へと集中する。それは同時に、試合の流れがイナズマジャパンに良い方向に向いたことを示していた。

「(この短期間で虎丸の才能を見抜き、最高のタイミングで投入したのか……)」

鬼道はベンチに腰掛けたまま、フィールドを見つめる久遠の背中を見遣る。前半から首を擡げていた疑問が、彼の中で着々と大きくなっていく。

「だーッ! もうヒントってどこにあるんだ!!」

そして一方フィールドの綱海は、苛々した様子で叫びながら走っていた。言葉のままフィールドを見下ろして走っても、足元が覚束なくなるばかりで一向にヒントになるものが見つからない。
彼がやきもきしている間にも、ボールは風丸からヒロトへ、ヒロトから虎丸へ、虎丸から豪炎寺へと渡っていく。
そのまま豪炎寺の爆熱ストームが発動し、それをジーンのグレートバリアリーフが飲み込んだのを見たその時、綱海の中でふいに何かが閃いた。

「──ヒントはフィールドの中にある、か……随分手ごわそうな波じゃねえか!」

高く聳え消えていく大波を見上げ、綱海は目を輝かせる。
一進一退、攻めきれないまま時間が過ぎる。その間も綱海は、ボールと相手の動きをつぶさに観察していた。

一瞬の隙を突いた虎丸が、ボールをDFの股下を潜らせ緑川にボールを回す。
緑川渾身のダイレクトシュートはまたしてもグレートバリアリーフに阻まれたが、その瞬間が最後の鍵になった。

「見えた……! よっしゃあ!!」

ジーンがボールを大きく振りかぶり、中盤のマットへ投げ渡す。
だが、受け取ったボールをドリブルする間もなく体をねじ込んだ虎丸が奪い取った。掛け出す虎丸の隣をすり抜け様、綱海が叫んだ。

「俺に回せ!!」
「! はい!!」

瞬時に虎丸から綱海の眼前へとボールが渡る。
力強い跳躍でボールに食らい付いた綱海は、そのまま体を捻りシュート体勢に入った。

「喰らえぇええッ!!」

波に乗るかの如くボールを操ると、綱海を起点に大波が沸き立ちゴールに襲いかかる。
それに応戦しジーンが再びグレートバリアリーフを発動すると、綱海のシュートはやがて勢いを殺され完全に威力を打ち消されてしまった。

「その程度で乗りこなせると思うなよ」
「ぐっ……!」

ボールを手中に収めたジーンはにやりと口角を上げ、キックでニースへパスを回す。そのまま息つく間もなくダイレクトパスでホリーへ、土方のチャージをスライディングで避けジョーへとボールが渡る。
イナズマジャパンの選手は前線へ集中し、ゴール前は手薄になっている。一点目を取られた時と同じシチュエーションだ。がら空きになったゴールに、ジョーのメガロドンが炸裂する。

「この技は一度見た!!」

しかし、二度目のピンチに動じる円堂ではない。
部屋で特訓していたのと同じように、目を閉じて、周囲の音に集中する。サポーターたちの歓声をシャットアウトし、目の前に迫る音だけを聞き取る。やがて耳に届いたシュートが風を切り裂く音に、彼はカッと目を見開いた。

「──見えた!! 正義の、鉄拳ッ!!」

宙に顕現した黄金の拳が、ジョーのメガロドンに炸裂する。
ギリギリと激しい音を立て鎬を削ったのも束の間、やがて円堂の正義の鉄拳はメガロドンを完全に打ち返した。

「あの特訓が……役に立った!!」

長い放物線を描き、ボールはビッグウェイブス陣内へと飛んでいく。
それに誰よりも早く、誰よりも力強い跳躍で綱海は辿り着いた。ボールを受け取り、そのままシュート体勢に移る。

「俺に乗れねぇ波はねえ!! 行けーーーーッ!!」

放たれたシュートは1回目より鋭く強く、強烈に回転をしながらゴールに襲い掛かる。だがジーンとて負けてはいない。発動されたグレートバリアリーフが、二度目のシュートも飲み込まんと勢いよく押し寄せた。

「海は俺のモンだぁあ!!」

綱海の雄叫びに押されたように、彼のシュートは力を増す。やがて水飛沫を散らし、そのシュートはグレートバリアリーフの大波を貫いた。

「やったぜ、綱海!!」
「ぃよっしゃあーー!!」

その瞬間ワッと沸き立つ歓声に負けないほど、綱海や円堂たちの喜びの声がフィールドに響き渡る。着地に失敗して仰向けに倒れながらも拳を突き上げた綱海に、仲間たちが一斉に駆け寄った。

「やった! 同点です!!」
「あれぞ正に、ザ・タイフーン≠ニ呼ぶべき技でしょう!!」

テクニカルエリアの興奮も最高潮に達し、最早目金の命名は誰も気に止めていない。ただ、一人だけを除いては。

「──御鏡」
「!」

鬼道の視線を受け、彼が何を言わんとするか察したのだろう。織乃はすぐさま頷くと、鬼道に肩を貸し立ち上がらせた。

「久遠監督!」

数歩その背中に近づき、声を掛ける。久遠が肩越しに振り返り、他の仲間たちが何事かと織乃に肩を借りた鬼道に視線を向けた。

「俺たちがオーストラリアと互角に戦えているのは、監督の采配のおかげです」

それはボックスロック・ディフェンスを打ち破った時から感じていた疑問だった。虎丸を投入するタイミング、綱海の素質を見抜いた目、その采配の全てが確実にイナズマジャパンの力になっている。
それなのに、彼がかつて一つのサッカー部を潰したと公式の情報が残っているのも事実。鬼道はそれが解せなかった。

「俺は、あなたがチームを駄目にするような監督とは思えない。桜咲木中で、何があったんですか……!」
「……お前が知る必要はない」

鬼道の言葉に、久遠はやや間を空けて背を向けたまま視線をフィールドに戻す。
「待て」それ以上本当に何も話すつもりがなかったのだろう、数歩ベンチから離れた久遠を、嗄れた声が呼び止めた。

「俺が説明しよう」
「! 響木監督……」

脇から現れたのはそれまで静かに試合を静観していた響木だった。久遠は一瞬だけそちらを見て、またすぐに視線を戻す。

「10年も前のことだ。桜咲木中サッカー部は、フットボールフロンティア地区予選の優勝候補の一角だった」

そのチームを率いていたのが、当時の若かりし頃の久遠である。息の合ったチームプレー、互いを生かし合う個人技、そして久遠の采配も相俟って、桜咲木中サッカー部の地区大会優勝は濃厚だとまで言われていた。

「だが、最強のチームとの決勝前日、部員たちは対戦相手と喧嘩し、怪我をさせてしまった」
「!! 最強のチームとはまさか……」

ハッと鬼道が声を上げる。確か桜咲木中の所属する地区は、今の雷門中も属する地区だったはずだ。それならば、必ず当たらなければいけない相手がいる。そしてそこは、かつて40年間無敗≠貫いていた。

「そう……帝国学園だ。恐らく影山が仕組んでいたんだろう」
「……!」

思わぬ関わりに、鬼道は息を飲んで思わず俯く。僅かに震える彼の唇に、織乃は悲痛な表情になった。

「事件が公となれば、サッカー部は無期限活動停止となり、部員たちはサッカーをする場を奪われてしまう」

そこで当時の久遠は考えた。それならば自分が問題を起こしたことにして、決勝を棄権すれば良い。そうすれば今年の大会出場は叶わなくとも、来年のチャンスをまた掴むことが出来る。そして彼は、選手たちの制止を聞く間もなくそれを実行した。
サッカー協会は久遠の言い分を受け入れ、彼の指導者資格を停止。全ての真実は、その時既にサッカー協会の最深部で暗躍していた影山によって、闇に葬られたのだ。

「あれから10年。ようやく資格停止処分が解け、俺は監督就任を要請した。何故なら、久遠のサッカーへの情熱は衰えず、研究を続けていた。彼の素晴らしい指導力こそ、この代表チームに必要だと思ったからだ」

そして響木の判断は、間違っていなかった。
鬼道はゆっくりと息を吸い込み、動揺していた心を落ち着かせる。
「大丈夫ですか?」眉尻を下げこちらを気遣う織乃に頷き、押し黙る久遠の背中を見る。10年の長い間、彼≠ゥら背負わされた罪に耐えてきた背中を、贖罪とどうしようもない罪悪感を込めて。

ビッグウェイブスは点を取られたことでまた作戦を変更するつもりなのだろう。再び選手交代し、中盤の選手を投入する。
綱海を徹底マークするための人員だ。これ以上彼に得点させないための采配だろう。綱海と言うロングシューターを封印され再び攻めてを失ったイナズマジャパンは、守ることしか出来ず試合はまた膠着状態に陥った。

「男ならこんなネチネチやってねーで、ガツンとぶつかってきやがれ!」

やがてしびれを切らした綱海が、半ば強引なタックルでマークを引き剥がす。
「綱海さん!!」それにいち早く気付いた虎丸がパスを回したが、ボールを受けとるなり再びニースたちがチェックに入る。今度は4人係りだ。

「くそ──っ行け、壁山!!」
「えっ!? あわわわ!」

完全に包囲される寸でのところでボールが回ったのは、中盤で手持無沙汰に右往左往していた壁山だった。
慌ててパスを受け取るも、ビッグウェイブスは全員でのマンツーマンディフェンスに切り替えたのか、どこを見ても味方にマークが付いてどこにもボールが出すことが出来ない。
勿論迷っている暇など相手が与えるわけもなく、こちらに向かって駆けるジョージに壁山は思わず逃げ出すように走り出した。

「ひぃぃ! どうすれば良いッスー!?」
「1人で持ち込めェ!!」
「ええっ!?」

後ろからジョージが追い付き、ボールを奪おうと執拗にタックルを仕掛けてくる。
肘や肩のぶつかった箇所が痛む。だが、まだボールは彼の足元だ。歯を食い縛り痛みに耐えた壁山は懸命に足を動かした。

「ううっ……ま、負けないッスぅーー!!」

思い切り腕を振り抜けば、それを避けようと体を捩ったジョージのスピードが落ちてくる。
いつの間にかマークをドリブルで振り切った壁山は、今まで出たこともない前線、敵陣内の中にまで駆け込んでいた。

「ナイスドリブル、壁山ー!!」

遠くから円堂の声が聞こえ、彼はハッと思い出す。
守ることしか考えていないディフェンスなど、私のチームに必要ない──練習初日、久遠はそう言っていた。

「……! あれは、自分で持って上がることも必要だっていう意味だったんスね!?」

顔を上げれば、DFラインを守っているだけでは見られない景色が広がっている。
目を輝かせ、壁山は力一杯ボールを送り出した。

「虎丸くぅん!!」
「!!」

パスを受け取った虎丸が、更に敵陣深くドリブルで持ち込んでいく。
マンツーマンでイナズマジャパンの動きを封じていたビッグウェイブスのゴールは、ジーン以外守る選手がいない。虎丸を止めるべく、豪炎寺のマークについていたマットが思わず走り出した。

「行かせるかぁ!!」
「……!」

飛び掛かってきたマットに目を見開いた虎丸だったが、それも一瞬のこと。すぐに表情を引き締めスライディングでそれを掻い潜ると、体勢を立て直して振り向き様にサイドへ回り込んでいた豪炎寺へボールを送り出す。

「豪炎寺さんッ!」
「っ!」

虎丸を一瞥し、豪炎寺はゴールを睨む。
グレートバリアリーフを突破するヒントは、綱海の技で見極めた。一息に息を吸い込み、豪炎寺は地面を蹴る。

「はああああッ!!」

咆哮と共に、熱い炎を纏う螺旋のシュートが炸裂する。限界まで回転を掛けたシュートは分厚い水の壁を蒸発させ、突き破り、それを阻もうと手を伸ばしたジーンの体ごとゴールに押し込んだ。

「爆熱スクリュー=I!」

息巻いた目金の命名の声を、マネージャーとサポーターたちの大きな歓声が掻き消していく。
スコアは2−0──数字が切り替わった次の瞬間、長い笛の音がピッチ一杯に響き渡る。試合終了の合図だ。

「ぃやったーー!!」

一呼吸置き、初戦を突破した事実を受け止めた円堂が力一杯叫べば、仲間たちが挙ってそこに駆け寄っていく。
互いの肩を叩き健闘を称え合う選手たちを眺めたまま、響木は独り言ちるような染々とした声音で久遠に言った。

「見事な采配だったな」
「……」

久遠はそれに対し、何も答えない。相応しい答えを持っていなかったのか、それとも他に理由があるのかは分からない。
けれど鬼道は、この試合で感じ取っていた。言葉こそ少なく厳しいものの、確かに久遠がイナズマジャパンを勝たせるため力を尽くそうとしていることを。

「(久遠監督なら、世界に連れて行ってくれるかもしれない……)」

これはまだ、世界へ行くための第一歩だ。この先何があるかは予想もつかないが、彼を信じることが鍵になると、彼は確信したのだった。