VS.Desert lion
ついにカタール戦当日がやって来た。
空は雲一つない晴天で、燦々と輝くまぶしい太陽がピッチを焼き、彼らの顔を照らす。
そして、精悍な顔つきでフィールドを見据える選手たちを見守る人物が観客席にふたつ。
「連れて来て下さって、ありがとうございます」
「今日は、お店が定休日とお聞きしましたのでね」
席にどっかりと腰かけている響木の隣にいるのは、穏やかな笑みを湛えた女性──虎丸の母、宇都宮たえである。
「でも、大丈夫なんでしょうか。あの子、練習も満足に出来ていないのに……」
虎丸は毎日、体の弱い母に代わり定食屋を切り盛りしている。故にチームでの練習も夕方には切り上げ、いつも途中で帰ってしまうのだ。
けれどその事実は久遠と響木、昨日それを知った円堂と豪炎寺、そして居合わせたマネージャーたちしかまだ知らないこと。相手チームにとっても、そんな個人の事情は練習不足の理由にはならない。
不安の滲む表情でピッチの虎丸を見る彼女に、響木は髭を震わせた。
「……今日の試合、彼が鍵になるかもしれません」
フィールドに並んだ選手たちが相対し、両チームのキャプテンである円堂とビヨン・カイルが握手を交わす。
選手たちは各ポジションに散らばり、両陣営を見渡した審判がホイッスルを吹き鳴らした。
「攻めてけー!」
ゴールで吠える円堂に応えるように、ヒロトがボールを持って攻め上がる。切り込んでいった彼に、相手FWのザックが猛然と迫る。
「もらった!」
「!」
ザックの鋭いスライディングを食らったヒロトの体が一瞬ぐらついた。しかし一瞬で体勢を直したヒロトは、ボールをキープしたまま再び走り出す。
「何っ!?」
「鬼道くん!」
瞠目する相手選手たちの視線を背中に受け、不敵に笑ったヒロトは素早く鬼道へパスを送った。
マントを翻し、駆ける彼の目前に迫る相手のDF。ベンチに座った春奈が「行けぇ、お兄ちゃん!」と腕を振り回す。
「抜かせんぞ!!」
「ぐ、う……!」
どし、と重量感のあるタックルを食らい、鬼道が一瞬怯む。しかし、鬼道さん、と耳に届いた微かな声に、彼は足を踏み出した。
「う、おおおッ!!」
「ぬあッ!?」
雄叫びと共に、踏み込んだ鬼道は力強いタックルを強引に押し退ける。よろめいたDFは舌打ちすると、一拍遅れながらも彼を追いかける。
「流石、我がイナズマジャパン! 素晴らしいチームプレーです!」
素早いパス回しでデザートライオンを翻弄するイナズマジャパンに、目金が感嘆に唸った。
それにここ数日の走り込みの成果か、激しい当たりにも負けていない。誇らしげにチームを見守る一方で、気になるのはデザートライオンのプレースタイルだ。
「しかしデザートライオンは、ラフなプレーが目立ちますねぇ……」
「ええ……何事もなければ良いんですけど」
額から滲んできた汗を拭いつつ、織乃はそっと空を見上げる。流れてくる雲は一筋もなく、気温は上がる一方だ。日陰にいる織乃たちですらこの暑さだ、走り回る選手たちの体感気温はきっとこれ以上のものだろう。
「これ以上進ませるな!」
「おう!」
パスを受けた豪炎寺を睨み、鋭く叫ぶビヨンに応えて相手のDFがこぞって彼の進路を塞ぎに掛かる。だが、そうなることを予測していた豪炎寺はスライディング直前の隙を突き、フリーの吹雪にパスを上げた。
「しまった!」
「させるか!!」
シュート体勢に入る吹雪の進路へ、ビヨンが飛び出していく。吹雪は一瞬目を細めたが、怯むことなく技を繰り出した。
「ウルフレジェンド!!」
「ぐ、おおッ!!」
狼の咆哮のごとくうねりを上げ、芝を削りゴールに迫るウルフレジェンドにビヨンは果敢に向かっていくも、シュートの勢いは止まらず彼の体を撥ね飛ばしていく。
「バカな!?」
「うおおおッ!!」
フィールドに転がったビヨンが「止めろ!!」と叫ぶと同時に、キーパーのナセルが横っ飛びからのパンチングでぎりぎり防ぐ。
シュートそのものは止めきれずとも、僅かばかり威力が弱まっていたのだろう。ライン外へ転がり出るボールに観客席の日本サポーターたちが落胆の溜め息を吐いたが、円堂はそんなことは気にしない。
「良いぞ、吹雪! その調子だ!」
「──うん!」
元気一杯の円堂の声に、悔しげに顔を少ししかめていた吹雪の表情が落ち着いたものに戻る。
試合再開はイナズマジャパンのコーナーキックからだ。キックを任された風丸が、緊張した面持ちでライン際に立つ。
「緊張の一瞬です……!」
「──大丈夫。きっと上手く行くよ」
ごくりと唾を呑む春奈に、織乃は膝の上の拳を固めてしっかりとした声音で言った。彼女もこの数日、ただマネージャーとしてあくせく業務に追われていただけではない。
『なぁ御鏡、ちょっと新しい技のことで相談があるんだけど……』
『新しい技?』
──その裏で、トレーナー見習いとして着々と選手のレベルアップに貢献していたのだ。深呼吸を一つ。その場で軽く飛び跳ねて、緊張を解した風丸は地面を蹴る。
「これが俺の新必殺技だ!!」
思い切り蹴り上げられたボールが、フィールド上空へ高く舞い上がる。おおよそ仲間に向けるパスとは思えないに周囲がどよめく中、ボールは中空で突然急カーブを描いた。
それは仲間たちですら予想だにしていなかった軌跡で、当然デザートライオンの選手たちも咄嗟に反応できるわけがない。
「このっ……!」
ふいを突かれたキーパーの手は届かず、風丸の放ったコーナーキックはそのままゴールに突き刺さる。
予想外の先制点に、わっと沸き立つ観客たち。「よし!」と拳を固めた風丸に、驚きと喜びの表情を隠せない仲間たちが駆け寄った。
「やった! やりました!」
「大きく弧を描いてゴールを抉るシュート……そう! 名付けるなら、」
「《バナナシュート》!」
声高だかな目金を遮り、ピンと思い付いた冬花が口を挟む。
何で先に言っちゃうんですか、といじける目金を気にせずに、織乃はモバイルのキーを叩きながらホッと息を吐く。成功率が高かったとは言え、初めての技を繰り出された時は緊張するものだ。それが自分が関わったものなら尚更である。
風丸のおかげで流れは完全にイナズマジャパンに向いた。デザートライオンのプレーに気後れしなければ、このまま完封も出来るかもしれない。
「(でも、何だろう──何か、見落としてる気がする)」
額の汗を拭い、言い様のない不安を感じながらも織乃は再び試合に集中する。
先制点を取られたことで戦意が上がったのだろう、デザートライオンの猛攻はより激しくなった。
「行くぞ! 邪魔する奴は吹っ飛ばす!!」
「思う念力岩をも徹すと言ってね……!」
ドリブルで向かってきた相手FWに、自身に言い聞かせるように呟いた緑川が相対する。
相手のタックルをギリギリでいなし、隙を掻い潜りボールを奪う。デザートライオンのプレーが荒さが目立つ分、その足捌きはより鮮やかだ。
「努力は必ず報われるものさ!」
「っ奴を止めろ!」
デザートライオン陣内の深く切り込む緑川に、ビヨンの指示を受けDFたちが2人掛かりでのマークに掛かる。
不利を悟った緑川は瞬時に辺りを見回し、すぐさまボールを後方へ打ち上げた。
「吹雪!」
「! 奴だ、マークに着け!!」
けれど今回は相手の方が上手であった。パスの先を既に読んでいたビヨンが叫ぶと同時に、吹雪の目前へDFたちが迫る。
しかし既にボールは打たれた後だ。軌道は変わらず、真っ直ぐに吹雪の元へ落ちていく。「あのままじゃ取られちゃう!」と秋の悲鳴が上がった。
「……!」
一瞬の逡巡の後、吹雪の足元をボールが過ぎ去っていく。ミスではない──彼は敢えてパスを見送ったのだ。
「何だと!?」
パスのスルーに虚を突かれ、デザートライオンたちに僅かに動揺が走る。吹雪に代わりボールを受け取ったのは、完全にフリーのヒロトだ。
ボールを打ち上げ、旋回する彼の軌跡に星が散る。
「流星──ブレード!!」
爆発的なキック音と共に放たれた流星ブレードは、その名の通り流星のような勢いでゴールに降り注ぐ。不意を突かれたキーパーの頭上を掠め、ヒロトのシュートはゴールに突き刺さった。
「よっし! やったな、ヒロト!」
ゴールで腕を振り上げ喜ぶ円堂に軽く手を振り、ヒロトは晴れやかな笑顔で吹雪とハイタッチを交わす。
これで2点リードだ。マネージャーたちも手を取り合って優勢を喜んだが、まだ油断は禁物だ。前半は残り僅か。波に乗ったイナズマジャパンは攻め続ける。
「もうすぐ、前半終了ですね……」
「しかし、よく走りますねぇデザートライオンは」
ストップウォッチを覗き込み、春奈が呟く。額の汗をハンカチで押さえながら目金が言う通り、デザートライオンの選手たちは試合開始直後から全くスタミナが衰えている様子がない。
やがてホイッスルが鳴り響き、前半が終了する。戻ってきた選手たちを、タオルとドリンクを用意していたマネージャーたちは笑顔で出迎えた。
「みんな、良い感じよ!」
「よし、後半もこの調子で行こうぜ!」
秋からもらったタオルで顔を拭い、振り向いた円堂は──はたと、困惑に眉根を寄せる。
「あ、ああ……」
返事をした緑川を始め、仲間たちのほとんどがまだ息を整えられていないことに気が付いたのだ。
「大丈夫か?」と思わずそばにいた吹雪に声を掛けると、即座に平気だよ、と返ってくる。その声もまたどこか疲れが滲んでいるように感じて、円堂は首を傾げる。
その様子を見て、織乃は難しい顔で俯いた。
「このままの調子を保てば、きっと勝てる……でも」
「保てれば、の話だろ」
空になった籠の持ち手を握り締め、小さく呟いた彼女の声を拾ったのは意外なことに不動だった。
ハッとそちらを振り向くと、暇そうにベンチの背もたれに背中を預けた不動が、「何だよ」と小馬鹿にするように鼻を鳴らす。
「俺、何か間違ったこと言ったかよ?」
「……いいえ」
一拍間を空けて僅かに顔をしかめた織乃は、緩く首を数度振り、彼から視線を逸らす。
そう、不動の言う通り、『この調子を保っていれば勝てる』。けれどそれが難しいことは、今の選手たちの様子を見れば明らかだ。
考え込みながら、織乃はそっと久遠の横顔を見上げた。
久遠は一瞬こちらを横目で見たが、何も言わずに視線を前方に戻してしまう。選手たちにも何も言わないということは、恐らくこのまま続けるべきだと彼も考えているのだろう。
肩で息をする選手たちに背を向けて、織乃は不安そうに眩しい太陽を見上げた。
「これじゃあ、虎丸の出番はないかもしれませんね」
「……さて、どうでしょうな」
一方で、観客席のたえはリードしたままのスコアボードとテクニカルエリアから出てこない息子に苦笑しながら響木に話しかけた。
髭を撫で付け、響木はデザートライオン陣内のテクニカルエリアを険しい目つきで眺めている久遠を見やる。
ハーフタイムも終わり、後半戦が始まった。
デザートライオンは監督の指示でFW3人の攻撃的な布陣に切り替えたようだ。ホイッスルを合図に、その3人が一斉に切り込んでくる。
「緑川、チェックだ!!」
「っ任せておけ!」
緑川を伴い、鬼道が2人でチェックに走る。しかしドリブルで突き進むザックの力強いタックルに、2人はいとも容易く撥ね飛ばされてしまった。
「緑川!」背中を強かに打ち付けた緑川を一瞥し、鬼道もまたぶつかった胸を押さえながら離れていくザックを振り仰ぎ、自陣のディフェンダーたちに叫ぶ。
「っ詰めろ、土方、木暮!!」
「おお!!」
指示を受け、土方と木暮が走り出す──が、その動きはどこか鈍い。ザックはボールを捌き強引な突破で2人のチェックを掻い潜ると、瞬く間にイナズマジャパンのゴール前へ辿りついてしまった。だが、ここで諦めるイナズマジャパンではない。
「行かせないッス!」
「遅い!」
ゴールまであと数歩、というところで飛び出していったのは壁山だ。しかしその走りも空しく、壁山が防御を整えるより先にシュートを打たれてしまう。
「ッ正義の鉄拳!!」
咄嗟に必殺技を繰り出した円堂の右手が、寸でのところでゴールを死守する。弾かれたボールは即座に走り込んできた風丸がクリアし、試合は一時中断された。
体勢を直しながら、円堂はライン外で転がるボールを呆然と見つめる。
「何でこんな簡単にペナルティエリアまで……」
思わず呟いたその時、突然何かがどさ、と倒れるような音に円堂はハッと視線をフィールドに戻した。
見ると、驚くことにフィールドに倒れ込み、動かない緑川の姿がある。
「み、緑川!?」
「大丈夫か!!」
ギョッとして緑川に駆け寄っていく選手たち。テクニカルエリアの面々も息を呑み、マネージャーが短い悲鳴を上げる。直ぐ様立ち上がった織乃は、素早く保冷バックを開け処置の準備をしながら久遠を振り仰いだ。
「監督!」
「……選手交代。立向居、緑川をこちらに」
「は、はい!」
久遠が冷静に審判に告げると、審判は頷いてホイッスルを鳴らす。名指しされた立向居は慌てて立ち上がり、フィールドに駆け込んだ。
鬼道に背中を支えられ、上体を起こした緑川は憎々しげに言うことを聞きそうにない自身の足を睨み付ける。
「どうしたんだ? こんなに簡単に息が上がるなんて……」
「……ずっと、特訓を続けてきたツケが、回ってきたみたいだ」
鬼道の問いに、緑川は悔し気に顔を歪めた。
先日から彼は織乃の忠告を無視し、度々隠れて時間外の特訓を行っていたのだ。勿論休憩の時間も取っていたが、それでも体を休めるには不十分だったのだろう。だが、それも今となっては後悔してもどうしようもない。
「過ぎたるは及ばざるが如しか……!!」
緑川は一瞬、ベンチに腰掛けた不動をちらりと見る。度々自分をわざとらしく焚き付けた彼だけには負けたくなかったのに──そんな緑川の胸の内を察したかのように、不動はニヤリと口角を上げた。
「すまない、みんなの足を引っ張って……」
「緑川……」
立向居に肩を借り、緑川は足を引きずるようにしてテクニカルエリアへと戻っていった。ベンチに座らされた彼は、すぐさま準備していた織乃に処置を施される。
緑川に代わり、フィールドに入ったのは栗松だ。駆け込んできた栗松に「一緒に頑張るッスよ!」と壁山が手を振った。
試合はデザートライオンのスローで再開される。
MFのセイドが投げたボールをザックがすぐさま回そうとするが、パス経路に飛び込んだ栗松が素早く阻止した。
「一気に追加点でヤンスよ!」
身軽なフットワークで相手の妨害を掻い潜り、栗松はデザートライオン陣内へと切り込んで行く。
しかし彼はふと妙な違和感に気付き、肩越しに後ろを振り返った。
栗松の後方にはヒロトと吹雪が追走している。それだけなら普通のことだが、何かがおかしい。
着いてくるのが遅い──特に吹雪の足の早さは栗松もよく知っている。なのに、2人は必死に走っているにも関わらず栗松との距離が縮まらないのだ。
「これは……」
円堂もそこで初めて異変に気が付く。栗松が投入されなければ、もうしばらくしないと気付かなかったかも知れない。
「……? 後半が始まったばかりなのに……」
「みんなの動きが前半よりも鈍くなってる?」
選手たちの異変を訝しみ、冬花や秋が首を捻る。
フィールドとモバイルの画面を見比べた織乃がそうか、と声を上げるのと、ビヨンが口角を上げるのはほぼ同時だった。
「罠に掛かったようだな……みんな、狩りの時間だ!!」
「おう!!」
鋭い咆哮を合図に、駆け出したビヨンが栗松からボールを奪い取る。
ビヨンはそのまま鬼道のマークを振り切ると、仲間を伴い一気に攻め込んで来た。
「くそっ、早い!!」
「来るぞ! ディフェンスを固めろ!!」
体勢を直した鬼道が叫ぶも、スタミナ切れを起こしたイナズマジャパンたちはデザートライオンの動きについていけない。それだけでなく、相手は前半であれだけ激しい当たりをしていたというのに、スタミナが落ちている様子が全くないのだ。
ビヨンからザックへとパスが渡り、チェックに入ったヒロトがるが簡単に突き飛ばされてしまう。
「ぐわぁっ!」
「ヒロト!」
「だ、大丈夫……!」声を荒らげる円堂にヒロトはすぐさま起き上がろうとするも、その足はふらついて自身の体重を支えきれていない。
デザートライオンの猛進は止まらず、壁山と綱海がボールを持ったザックの前へ躍り出た。
「させるかぁ!!」ザックは壁山のマークを振り切りマジディへパスを繰り出し、ヘディングシュートの体勢に入った彼の目前へ綱海が飛び出していく。
「ぐ、う、おおお!!」
「うわ──!」
いつもは力でごり押しする綱海も、スタミナが切れた今は出せる力も残っていない。ボールを挟み、マジディのヘディングを受け止めた綱海の体が中空で大きく傾いた。
「綱海っ!!」
咄嗟に綱海を庇うようにその背中を支えようとした円堂もろとも、マジディはボールをゴールへ押し込む。
ごうとうねるようなサポーターの歓声が上がる。よたよたと上体を起こした円堂はずり落ちたヘアバンドを押し上げて呻いた。
「何て力だ……、!」
起き上がりながら、円堂はハッと辺りを見回す。自分のすぐ後ろに綱海が倒れているのを見て、彼は大きく目を見開いた。
「綱海? おいっ、綱海!」
綱海は俯せになったまま動かない。急いで肩を支えて体を起こすと、綱海は苦しげな呻き声を漏らす。
「ここからが俺たちのサッカーの始まりだ」
降り注いだ声に円堂が弾かれたように顔を上げると、太陽を背にビヨンが二人を見下ろしていた。日に透けた髪が彼の顔に濃い影を落とし、その姿をどこか不気味なものへと変貌させる。
「俺たちは灼熱の太陽と砂漠のフィールドで育った。鍛え上げられた体と無限の体力……それが俺たちの最大の武器! 昨日今日特訓しただけの連中に、着いてこれるわけがない」
ビヨンは血に飢えた獣のような獰猛な笑みを浮かべ、言い放つ。
ようやく胸に引っ掛かっていたものの正体を知り、織乃はぎりりと奥歯を噛み締めた。
「彼らの目的は、イナズマジャパンの体力を削ぐこと──前半のラフプレーはそのための布石だったんですね……!」
「! だからみんなあんなに消耗を?」
口許を押さえた秋が眉根を寄せる。改めてフィールドを見ると、栗松以外の選手たちが異常に消耗しているのが分かる。前半の攻め易ささえ、もしかするとデザートライオンの作戦の内だったのかもしれない。
「しかも、今日はこの気温の高さ……このままじゃ……!」
燦々と輝く太陽は、今や選手たちに仇なす天敵だ。
イナズマジャパンは最早、砂漠に砂漠に迷い込んだ旅人も同然である。相手からすれば、あとは息の根が止まるのを待って屍を貪れば良い。フィールドという獅子の狩り場で、彼らは今まさに喉笛を噛み切られようとしていた。
prev
|
index
|
next
TOP