The tiger which awakes

ずば抜けたサッカーのセンスを持つ少年がいると、彼の存在はその界隈で早くから噂になっていた。
彼の出た試合は毎回大量の得点差をつけて勝つのが当たり前。それもほとんどの得点が彼のシュートによるもので、少年は入団後瞬く間にチームのヒーローになった。

しかし、それも英雄譚も長くは続かない。少年の行動はチームを勝利に導くと同時に、仲間の活躍の場を奪うものでもあったのだ。
仲間たちは少年の才能を疎み、かくしてヒーローは華々しい活躍劇から一転、一人孤独な身となってしまう。

そこで彼は考えた。自分がチームの活躍を奪うのなら、自分が活躍しなければいい。ただシュートを繋ぐ中継役に徹すれば、仲間にも見せ場が戻ってくる。
それから少年は、シュートチャンスが来ても自らは打たずに、チームメイトにボールを回すようになった。
例えそれがどんな絶好のシュートチャンスであっても、仲間にボールを譲る。彼が場を整え、送り出されたパスを受けた選手は、自分でするよりも容易にシュートを決められるようになった。
それにより心に余裕が出来た仲間たちは、少年が望んだ通りまた少しずつ彼を受け入れるようになる。
少年は思った。『良かった、これでまたみんなと楽しくサッカーが出来る』。彼は自分の自由と引き換えに、安寧を手に入れたのだ。

それが響木の知る、少年──虎丸の真実である。




「みんな、来たぞ!!」

後半も終盤に差し掛かり、イナズマジャパンの勝利は目前だ。猛然とイナズマジャパンゴールに迫るデザートライオンの選手たちに、額を流れてきた汗を拭いながら円堂が叫ぶ。

「止めてやる!」
「邪魔だ!!」

ザックの進路へ果敢に飛び出して行った立向居が、乱暴なタックルに思いきり弾き飛ばされる。
肩から強かにフィールドに叩き付けられた彼に構わずザックの送り出したパスを受けたビヨンは、円堂を睨め付け必殺技の体勢に移った。

「食らえ……! ミラージュシュート!!」

放たれた熱がシュートコースに蜃気楼を作り出す。歪んだ幻がボールの姿を惑わせたが、それに怯む円堂ではない。

「正義の、鉄拳ッ!!」

力強い踏み込みと同時に発動した正義の鉄拳が、ビヨンのミラージュシュートとぶつかり合う。ぎりり、と鍔迫り合いの後、大きく弾かれてコートの外へ跳ねていったボールに、ビヨンは小さく舌打ちした。
ふう、と短く息を整えた円堂は、先程突き飛ばされた立向居の方を振り向く。

「大丈夫か、立向居!」
「す、すみません、平気です……!」

肩を押さえながら立ち上がる立向居は、患部が痛むのか顔を歪めながらもしっかりと頷いた。
どうやら大した怪我ではないようだ。胸を撫で下ろし、スコアボードを見上げた秋が祈るように呟く。

「みんな頑張って……あとちょっとよ……!」
「ロスタイムに入りました!」

ストップウォッチを握り締める春奈の張り詰めた声に、テクニカルエリアにもより一層緊張が走る。得点は2対1でこちらがリードしている。ここをしのげばイナズマジャパンの勝利だ。
コーナーに立ったビヨンに、選手たちが身構える。

「みんな、守り切るぞ!」
「おう!」

ホイッスルが鳴り響いたその瞬間、ビヨンが地面を蹴る。シュートを防ぐべく、ゴールの方へ一斉に選手たちが動き出す。
しかし──ビヨンが上げたのは、クロスボールではなくショートコーナーだった。

「何ッ!?」

完全に意表を突かれたイナズマジャパンの選手たちに対し、デザートライオンの選手たちは事前に打ち合わせていたのだろう、流れるようにボールを受け取ったセイドが走り出す。

「コースを切れ!!」

弾かれたように叫ぶ鬼道を筆頭に風丸、飛鷹がセイドのチェックへ駆け出したが、今一歩間に合わない。隙間を狙い澄ましたセイドのシュートが、3人の間をすり抜けた。

「止める──!」

その時、咄嗟に身構えた円堂の眼前へ影が射す。
FWのザックだ。セイドの放ったそれが、シュートに見せ掛けたザックへのパスだったと気付いた頃にはもう遅い。

「しまっ……!!」

予想外のプレーに対応しきれなかった円堂の頭上を、ヘディングシュートが飛び越していく。
呆気なく揺れるゴールネット。無常に鳴り響く得点のホイッスル。2対2に切り替わるスコアボードに、選手たちは愕然とした。

「この土壇場で追い付かれるなんて……!」
「……ふん」

悲鳴のような声で呟いた織乃に、未だ不貞腐れたままの不動が『そら見たことか』と言わんばかりに鼻を鳴らす。
「く、っそおお!!」力無く転がるボールに、歯を食い縛った円堂は拳をフィールドに叩きつけた。

「あとちょっと……あとちょっとだったのに……!」
「お父さん……」

頭を抱えて悔しげに呻く春奈の隣で不安げな表情になる冬花は、何も言わない父の背中を窺う。
残された時間は僅かだ。織乃は閉じたモバイルを力一杯抱き締めながら、忙しなくフィールドを観察し勝機を探す。

「(ここでもう一度デザートライオンを突き放さないと、もう勝ち目は……! 何か、突破口は──)」

それに、ここに来て久遠が何も考えていないとは思えない。彼の采配と照らし合わせ、彼女は1つの考えを導き出した。

『さっきの虎丸のプレー、どう思う』
『──ただシュートを打つつもりはない、か』

ふと脳裏に甦ったのは、選考試合の時の豪炎寺の言葉だ。
思い返せば、この試合でも虎丸は活躍はすれど一度もシュートを打っていない。それがどんなに傍目から見て絶好のチャンスであってもだ。

もしかすると、虎丸の投入には自分や選手たちが想像しているよりも、もっと大きな理由があるのではないか?
──その疑問が浮かぶと同時に、試合再開のホイッスルが鳴った。

「豪炎寺さん……!」

虎丸からボールを受け取った豪炎寺は、一瞬苦い表情を受かべながらも走り出す。

「みんな諦めるな! 攻め上がれ!!」
「おおっ!!」

仲間を鼓舞する鬼道の声が先程よりも覇気がなくなっているのは明らかだ。彼らは懸命にデザートライオン陣内へ切り込んでいくが、やはりその足取りは重たい。
後半から投入された選手も、相手の激しいラフプレーの影響で既に消耗している。この状態で延長戦に突入しようものなら、まず勝ち目はないだろう。

その中でも1人、デザートライオンの強い当たりを躱してきた虎丸の軽快なプレーは一際鮮やかだ。ドリブルでディフェンスを突破し、ぐんと敵を引き離す走りにはまだまだスタミナの消耗は見られない。
まだ油断は許されない──警戒した表情でナセルが身構える。ゴールを目前にし、虎丸が叫んだ。

「豪炎寺さんッ!」
「……!!」

ボールはゴールではなくサイドへ。短い軌道のパスを受けた瞬間、豪炎寺の顔が歪む。次の瞬間だった。

「──うわぁっ!?」

激しいシュートの音と、唐突な叫び声。観客がどよめく中、ボールがコートの外へ転がっていく。
予想もしていなかったその光景に、敵も味方も驚いて口を丸く開く。豪炎寺がシュートしたのはゴールではなく、パスを繰り出してきた虎丸だったのだ。

「い、って〜……!」尻餅を突いた虎丸は、ボールをぶつけられた肩を擦りながら眼尻を釣り上げ豪炎寺を見上げる。

「何するんですか、豪炎寺さん!!」
「さっきから何だ、お前のプレーは」

間髪を入れず返ってきたのは謝罪ではなく、怒気に満ちた静かな声だった。
明らかな怒りに燃える瞳に見下ろされ、虎丸は唇をぐっと結ぶ。

「試合時間は残っていないんだぞ。精一杯、ベストと思えるプレーをしろ!」
「ッこれが俺のベストです! 俺のアシストで、みんなが点を取る……それが一番なんですよ!!」

弾かれたような虎丸の声がフィールドに響く。仲間たちも、そして観客席でおろおろとそれを見守っていたたえも、苦痛の悲鳴にも似たその叫びを聞いた。

「そうすれば俺が、みんなの活躍を奪うこともない……みんなで楽しくサッカーが出来るんです!!」
「ふざけるな!!」
「っ!」

激高した豪炎寺に、虎丸は思わず肩を竦める。怖々とこちらを見つめ返す後輩に、豪炎寺は一歩退いて自分の周囲を指し示した。

「そんなサッカーは、本当の楽しさじゃない。見ろ」
「……?」

豪炎寺が指した手を、虎丸の目が迷ったような緩慢な動きで追う。そこには、事を真剣な表情で見守っていた仲間たちの姿があった。

「ここに集まっているのは、日本中から集められた最高のプレーヤーたち。そして、敵は世界だ! 俺たちは世界と戦い、勝つためにここにいるんだ。それを忘れるな!!」

こちらを見つめる視線の中に、虎丸を責めるようなものは一つもない。それはテクニカルエリアの選手やマネージャーたちも同様だ。

「そうだぞ、虎丸」
「!」

揺れていた瞳を見開き、俯いてしまった虎丸の元に円堂がしゃがみ込む。
柔らかい声音に虎丸がおずおずと顔を上げると、いつもと変わらない笑顔の円堂と目が合った。

「全員が、全力でゴールを目指さなくちゃ……どんな試合にも勝てないぜ。もっと俺たちチームメイトを信じろって!」
「チームメイト……」
「そうだ!」

ぽつりと反復した虎丸に、円堂は大きく頷いてその肩を力強く叩く。

「今の思いを、サッカーに全部ぶつけろ! 俺たちが全部受け止めてやる!」
「キャプテン……」

円堂の熱い言葉が心にゆっくりと染み渡っていく。虎丸はゆっくりと仲間たちの顔を見回した。
──お前がいると、僕らは楽しくサッカー出来ないんだ。かつて、言外にそう言って自分を孤独に追いやったチームメイトたちがいた。傷付けることが、傷付くことが怖くなり、自分を守るために檻に閉じ籠ってきたけれど。

「虎丸。ここには、お前のプレーを受け止められない柔な奴は1人もいない」
「やろうぜ、虎丸!」

今、その檻を壊そうとしている人たちがいる。自分を広い世界に連れ出してくれる人たちが。
目を輝かせ、虎丸はすっくと立ち上がった。

「──良いんですか? 俺、思いっきりやっちゃっても!」

ニカ、と歯を見せて笑うその様は、今までの彼とは思えないほど溌剌としている。
きっとこれが虎丸本来の顔なのだ。僅かに眉を上げた豪炎寺は、期待の籠った目でこちらを見上げる後輩に好戦的な笑みを返した。

「……俺を驚かせてみろ、虎丸!」
「はいっ!!」

力一杯の返事がフィールドに木霊し、仲間たちは顔を見合わせ頷き合う。
試合再開だ。ホイッスルが鳴り響き、ザックのスローインから再び戦場は動き出す。残り少ない時間で、攻め上がるデザートライオンに対しどうにか流れを変えなければならない。

「みんな、絶対止めるぞ!!」
「〜〜うっす!!」

汗を散らし、吼えた円堂にいの一番に返事をしたのは飛鷹だ。これまで活躍らしい活躍もほとんど出来なかった彼は、癖で髪を手櫛で整えると雄叫びを上げながらザックに特攻する。

「うわ、っと──ビヨン!」

勢いに怯んだザックは、咄嗟にサイドへ走り込んできたビヨンへボールを回そうと踵を返した。

「通させるか!!」

そこへすかさず風丸が飛び込み、ビヨンへのパスをインターセプトする。飛鷹は一瞬足を緩めると、「良いぞ! 飛鷹、風丸!!」という円堂の声に呼吸を整えてまた走り出した。
溢れたボールを鬼道が抑え、ついにイナズマジャパンに反撃のチャンスがやってくる。これを逃すわけにはいかない。期待と確信を込め、鬼道はボールを打ち上げた。

「──虎丸!!」
「行かせん!!」

パスを受けとり、ドリブルで駆け上がる虎丸に対し、デザートライオンのDFたちが3人がかりで立ちはだかる。

「うおおおおッ!!」

気合の雄叫びを上げ、前傾姿勢になった虎丸が加速した。
DF3人を一息にごぼう抜きするという大胆かつ鮮やかなプレーに、観客がうねるような歓声を上げる。
そしてその興奮と驚きはテクニカルエリアにも広がっていた。それまで剣呑な表情でフィールドを眺めていた不動は虎丸のプレーに目を見開くと、ハッと何かに気付き久遠の背中を振り仰いだ。

「分かっていたって言うのか……あいつの実力を」
「……」

残り時間が刻々と迫る中、虎丸は猛然と切り込んで行く。
ジャメルのスライディングを軽快なジャンプで回避し、再び駆け出す様は野原に放たれた獣のようだ。
激しいチャージを躱す体のしなやかさ。崩されても倒れないボディーバランス。あれは特訓して身につくものではない。

「あれが虎丸くんの個性、才能……! あの子実力を見抜いていて、このタイミングで投入したんですね……!」

何故虎丸が今まであの才能を隠していたのか、正確な理由は彼らには分からない。だが、今目の前にある事実は、この試合の中心にいるのはまさしく彼だと言うことだ。
息を飲み、大きく見開いた目を久遠に向けた織乃の言葉に、そうか、とヒロトが呟く。

「彼を存分に動かすためには、敵を消耗させておく必要があった……それが出来たのは、みんなが特訓で鍛えた体力があればこそ、ということですね?」
「──選手には活躍すべき場面がある。チームには勝つべき状態がある。選手たちの能力を結集し、出し切らない限り、勝ち続けることは不可能だ」

フィールドを見据えたまま、久遠は淡々とした口調で告げた。けれどその声には、明らかな熱意も籠っている。このチームを勝利へ導く、監督としての静かな情熱がそこにあった。

「力を出し惜しんでいける世界はない!」
「……!」

一瞬目を丸くした不動は、顔をしかめて久遠の背中から視線を外す。
「あと1分です!!」テクニカルエリアに春奈の絶叫が響いた。

「風丸さん!!」

中盤を突破した虎丸が、前方から迫るDFに対しサイドに大きく振るパスを打ち上げる。
残った僅かな力を振り絞った風丸は、後輩のプレーに応えるべくその名に相応しい疾風のような走りを見せた。

「行くぞ、虎丸!!」
「(──! 届いた!)」

戻ってきたボールを受けとり、虎丸は喜びと興奮に鳥肌が立つのを感じる。以前のチームにいた頃は、あんなパスを取れる選手は1人だっていなかった。
肩越しに振り返れば、追走する豪炎寺と鬼道が見える。視線のかち合った豪炎寺は、今度こそ確信を持って叫んだ。

「行け、虎丸!!」
「──はい!!」

目を輝かせ、虎丸は更に加速する。
もう独りじゃない。このフィールドには、自分と一緒に走ってくれる──一緒に戦ってくれる仲間がいるのだ。

「来いッ!!」
「ずっと封印してきた俺のシュート……! 行っけえェ!!」

ゴールを守るべく身構えるナセルに、虎丸は1歩足を踏み込み武道にも似た構えを取る。その瞬間、一気に練り上げられた闘気が雄々しく吠える虎へと変貌した。

「タイガードライブ!!」
「ストームライダー!!」

咆哮と共に放たれたシュートが空気を震撼させる。
黄色い閃光を放ちながら砂嵐を突き抜けたタイガードライブは、ナセルの腕をすり抜け雷鳴のようにゴールへ深々と突き刺さった。
試合終了を目前にした、デザートライオンを突き放す強烈なゴールだ。わっと観客席から大きな歓声が上がる。その中で、フィールドに佇む愛息子の姿にそっと目尻に浮かんだ涙を拭った。

「良かったねえ、虎丸……あんな素敵な仲間に出会えて……!」

──終わらない歓声。これが今だけは、全て自分に対するものなのだ。虎丸は半ば呆然としながらも、徐々に喜びに頬を上気させていく。

「あれが虎丸の本当の力か……」
「すげえ……すごいぞ、虎丸!!」

感嘆に呟く鬼道に対し、円堂は興奮した様子で叫ぶ。ふと虎丸が振り向くと、満足げに微笑む豪炎寺と目が合った。
良くやったな──そう言われたような気がして、彼は更に表情を輝かせる。

その瞬間、炎天下の空に試合終了のホイッスルが高らかに鳴り響いた。3対2──大接戦を制し、イナズマジャパンがFFT決勝戦へと駒を進めたのだ。

「やったやったー!」
「決めてくれましたね、虎丸くん!」
「うん……! ほんとにすごかった!」

余程ホッとしたのか、秋は両手を上げて喜び、抱き合った春奈と織乃も弾けるような笑顔で選手たちを見つめる。
「本当にギリギリの勝利でした……!」滲んだ汗でずり落ちてきた眼鏡を定位置に戻しながら、目金もまた胸を撫で下ろす。

「みんな……すごい……!」

噛み締めるように呟いた冬花は、ぎゅっと胸の前で両手を握りしめる。ビックウェイブスとの戦いも凄まじかったが、今回の試合もまた激戦だった。彼らが日々進化していることを、彼女は改めて思い知らされる。

「っよおし、やったぜ!!」

疲れも忘れ、駆け出した円堂は走りすがら立ち竦んでいた飛鷹の背中を叩いた。

「飛鷹もよくやったな!」
「っ、何のことっスか」

さっと取り出した櫛で髪を整えながらつっけんどんに顔を背ける飛鷹に笑い掛け、虎丸の方へ駆けていく。
虎丸はスコアボードを見上げたまま、放心したような笑みを浮かべていた。

「勝ったんですね……俺たちが……」
「──あれがお前の本気か?」

ハッと顔をそちらに向けると、先に見せた穏やかな笑みとは対照的な、挑戦するような笑みを湛えた豪炎寺がいる。

「俺たちについてくるには、まだまだ時間が掛かりそうだな? 虎丸」
「……でも俺、まだ本気出してませんから。先輩!」

──きっと彼はまた謙遜するのだろう。そう予想していた豪炎寺たちは、一拍空けて不敵に笑った虎丸に意表を突かれたように目を丸くした。

「こいつ……」
「さっ、次の試合も勝ちますよー! アジア予選くらいで立ち止まってられませんからね!」

腕を元気良く振り上げ、おーっと声を上げる様はまるで別人のようだ。その変わりように、鬼道が小さく肩を竦める。

「……何か性格変わってないか?」
「良いじゃないか! 俺は大歓迎だぜ!」

なぁ、と振り返った円堂に、首を振るような仲間はいない。
そこで、ふと何か思い出したらしい壁山が、素朴な疑問を投げ掛けた。

「……でも、なんでこんなすごいやつがFFに出てこなかったんっスかねぇ?」
「そう言えば……」

あんな能力を持った選手が、全国大会に出られないわけがない。首を傾げた円堂たちに気が付いた虎丸は、振り返って少し照れた風に言った。

「出られないんですよ」
「何で?」
「だって俺……まだ小6ですから!」
「しょっ……」

小6ぅ!? ──円堂たちの驚愕の声と同じく、テクニカルエリアにも同じ言葉が木霊する。
ただ1人リアクションを取らなかった織乃は、ややあってから「あれ?」と目を丸くしている春奈たちに首を傾げた。

「そうですよ? ……えっ、みんな知らなかったんですか!?」
「は、初めて知りました……」

呆然としながらも真っ先に頷いたのは、てっきり虎丸が同い年だと思い込んでいた春奈だ。どうやら響木の用意した代表選手候補のデータを持ち帰ってまで熟読したのは、織乃だけだったようである。

「なるほど……そうだったのですか」
「どういうこと?」

1人得心が行った風に呟く目金に、秋がそちらに目をやると、目金は待ってましたとばかりにすっくと立ち上がりながら、声高々に言った。

「FFは中学生の大会! しかし──」
「FFIは世界各国の事情を考慮して、15歳以下の選手なら誰でも参加出来るんです」

正確には、言おうとしたのだが。
言葉が一度途切れたところに、大会のルールを把握済みの冬花が説明を重ね、目金は勢い余ってその場に倒れ込んだ。

「な〜るほど……だからFFのデータに、虎丸くんのことが乗っていなかったんですね!」
「だからそれ僕の台詞ですぅ!!」

またもや自分の見せ場を取られ、おいおいと泣き崩れる目金には最早苦笑いを返すしかない。
地団駄を踏む目金に一瞥をくれて、豪炎寺は得意気に鼻を擦る虎丸を見下ろした。

「小学生だったのか、お前……」
「だからって甘く見てたら、エースの座はいただきますよ? いつか俺、豪炎寺さんを越えて見せますからね!」

──どうやら本来の彼は、随分と生意気盛りのようだ。一瞬目を丸くした豪炎寺は、楽しそうに破顔する。

「頼もしい仲間が加わったな、豪炎寺!」
「──ああ、そうだな」

肩を叩いてきた円堂に、豪炎寺は笑みを緩めて頷く。
越えられるものなら越えてみろ、とこちらを見下ろす先輩に、虎丸は舌を出して悪戯っぽく笑って見せた。