VS.Neo Japan
昼下がり、麗らかな日差しがグラウンドに降り注ぐ。
けれどそんな穏やかな天気とは裏腹に、フィールドは張り詰めた緊張感で満たされていた。
「(瞳子お姉さん……)」
用意されたネオジャパンのテクニカルエリアに佇む瞳子を、織乃は不安と動揺の入り交じった目で窺う。
瞳子から電話が来たのはつい最近のことだ。偶然にしてはあまりにもタイミングが良すぎる。だが、瞳子はもう父の凶行を止めるべく焦燥に駈られていたあの頃とは違う。自分達の事情を何も把握していないマネージャーから事情を得るなど、騙し討ちのようなことはしないだろう。
「(でも……あの電話が最後の一押しになったのかもしれない)」
あの時、電話の向こうで瞳子は織乃の答えに『楽しみね』と確かに返した。
今思い返すと、あの時の声はどこか決意が固まったような、そんな声音に聞こえたような気もする。その真意こそ分からないが、彼女は本気なのだ。
「まさか瞳子監督のチームと試合をすることになるとはな……」
「だが、やると決まった以上全力でやるだけだ」
低く考え込むように呟いた鬼道に頷いた豪炎寺は、フィールドに並んだネオジャパンの選手たちに鋭い視線を向けると、ハッとその切れ長の目を見張る。
胸をそびやかしフィールド中盤に仁王立ちしたのは、砂木沼だったのだ。
「デザームがMF……!?」
「あいつ、キーパーかFWじゃなかったのかよ!?」
かつて彼と戦った選手たちはそれぞれ大きく反応を示す。織乃もまた開き掛けたイプシロンのデータから目を離し、ポカンと口を開けた。
「これが瞳子監督の新しいチーム……よぉし! 受けて立つぜ!」
ただ1人、目を輝かせ好戦的な笑みを浮かべた円堂の反応を予測していたのだろう。砂木沼もまた目を細め、ライバルを見据える。
そんな彼の横顔を見つめ、瞳子は数ヵ月前の出来事を思い出していた。
『頼む。この私を強くして欲しい……!!』
それは選考試合が行われた当日、夜のこと。激しく降り注ぐ雨に打たれながら、瞳子の元を訪ねた砂木沼はそう言って深く頭を下げた。
日本代表を選ぶ選考試合。それにすら呼ばれなかった彼は、自身のレベルを痛感すると同時に世界と戦うことに強く焦がれた。
何故自分はあの場に立てないのか、戦う権利すら与えてもらえないのか──悔しさと焦燥に駈られた砂木沼は、藁にもすがる思いで瞳子を頼ったのだ。
「(私は忘れない。私を訪ねてきた、あの日の彼の顔を……)」
数ヵ月の期間を経てようやく落ち着いた生活を取り戻した瞳子は、エイリア学園の件以来サッカーからは身を引いたつもりだった。だから、最初に砂木沼がやって来た時は、その頼みを断るつもりだったのだ。
それが出来なかったのは、彼の目に確固たる強い意思が籠っていたから。その熱意に押されてしまったから。結局、彼女もまたサッカーから離れることが出来なかったのだろう。
砂木沼の頼みを承諾した瞳子は、早速次の日から、選手を集めて回った。その中で彼女は改めて知る。どの選手の中にも、世界を相手に戦いたい、そんな思いがあることを。選ばれなかったからこそ、燃え上がる熱い思いがあることを。
「(その思いに応えることが、サッカーに関わった者としての私の使命。彼らは私が、必ず世界へ連れていく!)」
瞳子がイナズマジャパンのテクニカルエリアへ視線を送ると、その気配を察したのかほぼ同時に久遠が面差しを上げる。
「──見せてもらおうか、あなたが作り上げた、最強のチームを。鍛え上げられた、選手たちのプレーを!」
その声は決して大きすぎる声量ではなかったが、不思議と良く通った。選手一人一人の能力を見抜かんとするつもりではないかと思うほど鋭い視線に、彼を見上げた秋の胸に一つの不安が過る。
「(まさか、久遠監督は良い選手がいたら、代表メンバーを入れ替えるつもりで……!?)」
この大会では選手の入れ換えが可能だ。引き抜きも降格も、有り得ないことではない。
懸念が消えないまま、試合開始のホイッスルが鳴り響いた。キックオフはイナズマジャパンからだ。ボールを持ち一気に駆け上がる吹雪に、猛然と霧隠が迫る。
「行かせるか!!」
「吹雪!」
鬼道の上げた声に反応した吹雪は体を翻し、素早く霧隠のチャージを躱す。中盤に入り込んだ吹雪の背中を振り仰ぎ、砂木沼が叫んだ。
「郷院、寺門ッ!!」
砂木沼の指示を受けた郷院と寺門は、その巨体に似合わぬ俊敏さで吹雪の進路を塞ぐ。
吹雪は一瞬走る速度を緩めると、素早く辺りを見回す。そして二対の壁の向こうに走り込む小さな影を認めると、咄嗟にパスを繰り出した。
「っ虎丸くん!」
郷院と寺門の隙間を突いたパスが通り、虎丸がボールを受け取る。それを見るが早いか、砂木沼が続けざまに声を上げた。
「成神!」
砂木沼が叫ぶと同時に、横から飛び出してきた成神のスライディングが虎丸の足元からボールを弾く。立ち上がった成神は振り返った寺門が小さく頷き合うと、一瞬だけ織乃に視線を向けてニッと口角を上げた。
「虎丸、吹雪、その調子だ!」クリアされたボールにベンチ陣は落胆したが、円堂はいつもと変わらぬ笑顔で二人を激励する。
「相手も中々の強さのようですね……」
「ええ……瞳子お姉さんにかなりしごかれたんでしょう。最後に取ったデータとは比べものにならないくらい、みんな強くなってます」
これでは以前のデータは役に立たない。目金の剣呑な呟きに答えながら、織乃はモバイルの縁を握り締めた。
これが練習試合であれば、寺門や後輩である成神の成長を称賛したことだろう。だが、今回の試合は訳が違う。
フィールドの砂木沼は、中盤まで突破されたというのに余裕の笑みすら湛えている。その顔はかつてのデザームと同じ、戦いを楽しんでいるものだ。
「(でもきっとそれだけじゃない。今の治お兄さんは、サッカーを楽しむためにここに来た訳じゃないんだから……)」
そう考えると、織乃は自然と小さく息を飲み込んだ。木暮のスローイングで試合が再開され、受けたボールを高く打ち上げながら「上がれヒロト!!」と鬼道が叫ぶ。
「改、石平!!」
砂木沼の一声で、三度イナズマジャパンは進行を阻まれた。
その後もイナズマジャパンは果敢に攻め込んでいくが、砂木沼を司令塔に据えたネオジャパンのディフェンスは堅く、中々破れない。
その流れを観察していた久遠はふと、風丸を呼びつけた。
「──風丸」
「! はい」
ひと言ふた言、指示を受けた風丸は、頷くとどこかへ走っていく。マネージャーたちは応援に夢中で、彼がいなくなったことには気が付かない。
一方で、イナズマジャパンは再び攻撃のチャンスを迎えていた。霧隠と改のディフェンスを抜けた虎丸が、吹雪へパスを上げる。
「吹雪さんッ!!」
ボールを受け取った吹雪は一息に体を大きく傾け加速すると、打ち上げたボールに蹴撃を浴びせた。
「ウルフレジェンド!!」
放たれた吹雪の必殺技に、これで1点、と得点を確信した塔子やリカが握り拳を作る。
だがしかし、その喜びもつかの間のことだった。迫り来るシュートに焦るでもなく不敵な笑みを浮かべた源田が、高々と片手を頭上へ翳す。
「──ドリルスマッシャー《V2》!!」
天高く発現した巨大な鋼鉄のドリルに、円堂たちは大きく目を見開く。特に驚きを隠せないのがヒロトと緑川だ。あの技は、エイリア石の力を手に入れたデザームが編み出した彼の必殺技の筈だったのに。
「源田の奴、いつの間に……!」ドリルの回転に押し負けたボールを手に収め、ふっと目を細めて笑う源田に、鬼道は思わず呟く。そんな彼らの反応を楽しむように鼻を鳴らした砂木沼が、源田を振り仰ぎ声を上げた。
「驚くのはまだ早い……源田!」
「おう!」
大きく弧を描き投げ入れられたボールを受け取り、砂木沼は颯爽と走り出す。
「ヒロト!」
「ああ!」
咄嗟に我に返った鬼道は、すぐそばにいたヒロトに声を掛けその進路へと飛び出した。
だが、砂木沼は余裕ともとれる笑みを浮かべると、2人の目前でボールに大きな回転を掛ける。
「イリュージョンボール《改》──!!」
「何ッ!?」目の前で揺らめき分身するボールに目が眩む。まばたきをした頃には、砂木沼は既に彼らを追い越していた。
デザームのドリルスマッシャー、帝国のイリュージョンボール。次々と繰り出される既知の必殺技に、織乃がまさか、と呟く。
「行かせないぜ!!」
猛進する砂木沼に、怯まず立ち向かった土方がその場で深く腰を落とした。けれど、彼の必殺技スーパーしこふみの発動を待たず、砂木沼は続け様に繰り出したダッシュストームで強引に駆け抜けていく。その瞬間、予感が確信へと変わった。
「今度は世宇子中の必殺技でヤンス〜!」
「まさか……あいつら他の選手たちの必殺技をマスターしているのか!」
砂木沼からボールは改へ渡る。放たれたのは、かつて幾度となく雷門イレブンを苦しめた神の槍、グングニルだ。
「円堂くんッ!!」
辛抱堪らなくなった秋が弾かれたようにベンチから立ち上がる。その直後、砂埃を巻き上げ直進してくる神槍と、円堂の振りかぶった正義の鉄拳が激突した。
火花を散らし、ぶつかり合う互いの必殺技。やがて押し負けたのは、円堂の方だった。
「ぐぁッ──!!」
正義の拳を貫き、グングニルがゴールに突き刺さる。
思わぬ試合の展開に、イナズマジャパンは半ば唖然とした。よろめきながら上体を起こした円堂は、まだ痺れの残る手を見つめる。
「何なんだよ、今のパワー……!」
呟いた彼の頭上に、ふと影が差す。ハッと顔を上げると、目の前にはいつの間にか砂木沼が立っていた。
「円堂守。私はお前から、サッカーとは熱く楽しいものだと学んだ。だが……同時に勝負とは、辛く険しく、厳しいものなのだ!!」
彼の脳裏に浮かぶ、選考試合の風景。自分はあそこに立つことすら許されなかった。あの悔しさを忘れることは決してないないだろう。その思いを、抑えきれなかった熱を力に変え、──彼らは、ここにいる。
「……日本代表の座は必ず勝ち取る!!」
その咆哮は、ネオジャパン全員の総意だ。円堂はいつもの屈託のない笑顔も忘れ、真剣な表情で砂木沼を見つめる。
そして、その声に怯えるかのように木野先輩、とすがってきた春奈に、秋は何も返せなかった。
イナズマジャパンは各地から集められた強力な選手たちを、更にふるいに掛けて出来上がったチームだ。
これまでの試合で何度も窮地に陥りはしたが、それも全てはね除けてきた来た。そんな彼らが、こんなところで躓く筈がない──そんな油断が、心のどこかにあったのかもしれない。
「っまだまだ1点! 取り返すぞ!!」
呆気に取られた空気を振り払うかのごとく、鬼道の大きな声が響く。それに我に返った仲間たちもまた再び走り出した。
「次は絶対止めて見せる……!」
小さく呟いた緑川は、自陣へ戻っていく砂木沼の背中を睨み付ける。一度追い抜いたあの背中に、負ける道理などない。
緊張のより極まった空気の中、試合が再開される。先取点を奪われたイナズマジャパンは攻撃の手を更に激しくしたが、ネオジャパンのディフェンスは中々破れない。
「(破れるものか……この日のために、我々がどれほどの試練を乗り越えてきたか!!)」
イナズマジャパンのディフェンスを抉じ開けながら、砂木沼は目指すべきゴールを睨み付ける。
瞳子に頼み込み始まった、暗闇の中でもがき続けるような地獄の日々。彼らは体力の限界に挑戦し、互いに必殺技を鍛え上げてきた。その努力は、イナズマジャパンに勝るとも劣らない。
「改!!」
砂木沼からボールは改へと渡る。即座に身構えた改の放った二度目のグングニルが、円堂に襲い掛かった。
「円堂くん!」
「これ以上点はやらないぜ!!」
秋の悲鳴を掻き消す雄叫びと共に、顕現した黄金に輝く鉄拳は神の槍の進入を阻む。コートの外へ放物線を描いていくボールを目で追った改は、悔しげに舌を打った。
「良いぞ円堂ー!!」
「究極奥義に完成なしや!!」
僅かに垂れた冷や汗を拭い、塔子とリカは円堂に声援を送る。
「守くん、すごい……」騒がしい声に挟まれながらもじっと試合に見入っていた冬花が、ポツリと声を漏らした。
「流石は円堂守……だが、我々は負けはしない!!」
唸るように呟いた砂木沼の目は爛々と輝いている。一度シュートを防がれた程度では、彼の執念の炎は消せないのだ。
ホイッスルが短く鳴り、早速ボールを奪った砂木沼は正面から中盤深く切り込んでいく。
「行かせるか!!」
「お前などに……今の私は止められぬ!!」
向かってきた緑川のディフェンスを強引に突破し、砂木沼の放ったパスは瀬方へと渡った。
ダイレクトシュートで打ち込まれたリフレクトバスター《V2》を円堂がもう一度正義の鉄拳で防ぐと、ベンチ陣から短い歓声が上がる。
一方で、緑川は信じられないと言う面持ちで離れた場所にある砂木沼の横顔を凝視した。
「(俺が抜かれるなんて……あの時は確かに超えたはずなのに!)」
悔し気に顔をしかめ、今度こそ、と緑川は走り出す。
その時、一進一退の攻防を繰り返す試合を固唾を呑み見守っていたマネージャーたちは背後から誰かが走ってくる音を聞いて振り返った。
「──監督!」
息せき切ってやって来たのは、つい先程久遠の指示でいつの間にかどこかへ姿を消していた風丸だった。
マネージャーたちはその姿を見るなり、ギョッと目を見開いた。一体いなくなっている間に何をしていたのか、彼の額からは大量の汗が止めどなく流れてきている。
「風丸くん!」
「どうしたんですか、その汗!?」
慌てた様子の春奈からタオルを受け取りながらも、風丸はその疑問に答えない。
久遠はしばらく彼の茶色い瞳を見つめると、やがて審判を買って出ていた古株に声を上げた。
「……選手交代だ!」
瞳子が鋭い視線を久遠に向ける。
イナズマジャパンは虎丸に代わり風丸がMFに、土方がDFに下がった。軽く屈伸をした風丸は、織乃から現在の試合状況を短く聞くとフィールドに駆け込んでいく。
「(今ここで風丸を入れてくると言うことは……)」
鬼道が少し遅れてやって来た風丸に目を向けると、視線に気付いた風丸は小さく握り拳を作って見せる。
その表情に確固たる自信があることを察した鬼道は、彼を信じて小さく頷いた。
試合はヒロトのスローインで再開される。
ボールは弧を描き緑川の元へ飛んでいったが、彼がそれを受け止める寸前、飛び出してきた砂木沼が体を捩じ込みボールを奪い去った。そのままドリブルで走り去っていく砂木沼を追い掛けながら、緑川は奥歯を強く噛み締める。
「(どうして……何が足りない!?)」
砂木沼は力強いドリブルでどんどんと雷門陣内へ切り込み進んでいく。だが、それを放っておくイナズマジャパンの選手たちではない。
彼の死角からマントを翻し飛び出した鬼道は、一瞬虚を突かれた砂木沼の隙を逃さず素早くボールを奪取し風丸へ向かって打ち上げた。
「風丸ッ!!」
「ああ!!」
すかさずチャージに走ってきた郷院に対し、風丸は一呼吸置くと、前傾姿勢から一気に加速する。素早い動きは相手を翻弄し、爆発的な風を生み出した。
「──風神の舞!!」
砂埃を巻き上げた風は瞬く間に大きな竜巻へと変貌し、郷院の巨体を吹き飛ばす。
新しい必殺技を見事発揮し、振り向き様に一瞬「よし!」と拳を握り締めた風丸に仲間たちもまた驚きと喜びに大きく目を見開いた。
「(ここで間に合わせてきたか……!)」
次の試合までに新しいオフェンス技を完成させる──予定よりも期限は早まったが、彼は鬼道からの課題をクリアしたのだ。ネオジャパンのディフェンスに手をこまねいていた今、タイミングも最良と言える。
「豪炎寺!」
「おう!!」
ネオジャパンの分厚い風を突破した風丸から、ボールはゴール前まで走り込んだ豪炎寺へ渡った。
砂塵を蹴立て放たれた爆熱ストームは、源田の繰り出したドリルスマッシャーを打ち砕く。ついに取った1点目に、短く歓声を上げた秋が勢い余って隣に腰かけた冬花の手を取った。
「やった! ……あっ、ごめんなさい!」
「い、いえ……」
顔を赤らめた2人が照れながら離れたところで、前半終了のホイッスルが鳴り響く。
一呼吸置いた仲間たちは、示し合わせたように前半のMVPであろう風丸の元へ駆け出した。
「風丸!」
「お前いつの間に!」
肩を叩かれ背中を叩かれ、風丸は苦笑いしながらも嬉しそうに頬を緩めている。だが、その一方で対照的に沈んだ表情をしているのが緑川だ。
体調は万全、調子だって良かった筈。なのに、一度ならず二度までも押し負けてしまった。臍を噛むその横顔を、ヒロトが気遣わしげな表情で窺っていることに彼は気付かない。
「いやはや、少しヒヤッとしましたが流石は我らイナズマジャパンですね!」
「ええ……でも、ネオジャパンがあれで終わるとは思えません」
額を拭う目金に、風丸の風神の舞をモバイルの画面に映しながら織乃はちらりとネオジャパンのテクニカルエリアで瞳子に指示を仰ぐ砂木沼に視線を送った。
「(治お兄さん……)」
砂木沼の執念は本物だ。そして、彼を中心に集まった選手もまたしかり。しかし、イナズマジャパンもアジア大会決勝を目前に負けるわけにはいかない。
「御鏡、あのチーム……お前はどう見る」
ふと、話しかけてきた鬼道に織乃はハッと視線を戻すと、モバイルの過去のデータを呼び出した。
「ネオジャパンの選手はステータスが予想以上に底上げされてます。特に体力面の向上……守りに徹していたのに、スタミナの消耗がこちらより少ない。そこが厄介ですね」
「ああ……流石瞳子監督の采配と言ったところか」
瞳子のスパルタ式特訓の厳しさは鬼道や織乃もよく知っている。選考試合から今日までの期間であそこまで鍛えたとなると、余程険しい特訓を受けたのだろう。
「千羽山、世宇子……全員が他の選手の技を使えることを考えると、多分──」
「更に強力な技を使ってくる可能性もある、か」
鬼道も織乃と同じ見解だったのだろう、顎に手をやってしばらく考え込んだ鬼道は、「ディフェンスを破る術が出来たとは言え、油断は出来ないな」とドリンクを呷った。
織乃はモバイルを閉じて、ネオジャパンのテクニカルエリアの方を窺い見る。
いつもだったら真っ先に飛び付いてきそうな成神も、それを宥めいさめる源田や寺門も、今は真剣に瞳子の指示に耳を傾けている。
「(みんな、どんな気持ちでいたんだろう)」
それを知ったところでどうしようもない。けれど、考えてしまうのだ。彼らは一体どんな気持ちで、あの時の選考試合を観ていたのだろう。
複雑な表情で俯いた織乃に、鬼道は密やかに眉を下げた。
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