VS.Fire Dragon
澄み切った青空に空砲が打ち上がる。大勢の観客が見守る中、ピッチへと踏み出したイナズマジャパンは緊張感と興奮に胸を高鳴らせた。
大きく息を吸い込み、「よし、集合!」と声をかけた円堂に倣い、スターディングメンバーは円陣を組む。
「みんな、いよいよ決勝戦だ! 絶対に勝って、世界に行くぞ!!」
「おーッ!!」
意気揚々と拳を突き上げる選手たちの表情に曇りはない。世界を目指すその瞳は、煌々と闘志に燃えている。
そんな彼らの元へ、悠々と歩み寄る人影があった。
「元気そうだね。それでこそ、全力で倒す価値があるというもの」
好戦的な物言い、中性的な声。誰もがそちらに注目を向ける。
陽の光に輝く金糸の髪、磨き上げたルビーのような深紅の瞳。少女と見紛うその見覚えのある姿に、彼≠ニ面識のある者たちはそれぞれ驚愕の表情を浮かべた。
「あ……アフロディ!?」
かつて世宇子イレブンを率い、いつかの戦いでは共闘もした戦友──アフロディの登場に、イナズマジャパンのテクニカルエリアに動揺が走る。
そして、続けざまに彼の後ろから現れた2人の人物に、驚きは更に加速した。
「やっと会えたね」
「長くて退屈したぜ、決勝戦までの道のりは……!」
並び立つ赤と白。待ちきれなかったとでも言いたげに現れたのは、エイリア学園の選手として雷門イレブンと死闘を繰り広げた、バーンとガゼルであった。
「ガゼル!」
「バーンまでもが、何故ここに……!」
予想もしていなかった2人の登場に、同じ組織に属していたヒロトと緑川も目を見開く。
その名前はもう捨てたんだ、と演技掛かった声音で首を振るガゼルに、アフロディは小さく笑った。
「涼野風介、南雲晴也。彼らもまた……僕のチームメイトだ」
「それじゃあ、まさか……」
声を上げかけた円堂は気付く。アフロディの背後には、いつしか赤いユニフォームを身に纏った選手たちが勢揃いしていたのだ。
「そう──僕たちが韓国代表、ファイアードラゴンだ!」
まさかここに来て旧知の相手と戦うことになるとは思っても見なかった円堂は、怒濤の展開に目を白黒させ続けている。
それでも、胸に引っ掛かったものを放っておかずにはいられなかった織乃が、おずおずとアフロディに誰もが思っていただろう疑問を投げ掛ける。
「で、でも、どうして照美ちゃんが韓国のチームに……?」
「おや、イオ。別に不思議ではないだろう? 僕が母国のチームに選ばれても」
「母国?」頭を振りながら答えたアフロディに、豪炎寺が思わずと言った風に反芻する。どうりで珍しい名字なわけだ、とでも言いたげな目だ。
アフロディの左右へ並ぶように進み出たバーンとガゼル──もとい、南雲と凉野は挑戦するような視線をイナズマジャパンにぶつける。
「俺たちは、アフロディにスカウトされてこのチームに入ることを決めた」
「もう一度、君たちと戦うためにね……!」
そこで円堂たちは思い出す。以前、プロミネンスとダイアモンドダストの複合チームカオス≠ニ戦った時は、ヒロトが2人を止めに入った為に勝負が着かなかったことを。
薄い笑みを称え、アフロディは目を細めた。
「かつての僕たちと思わないことだ。各々が過酷な特訓を重ねた……そしてこのチームには、チェ・チャンスウがいる」
「チェ・チャンスウ……?」
名指しされたことで彼の前へ進み出てきたのは、アフロヘアーのやや長身の少年だった。左腕にはキャプテンマークを着けている。
チャンスウは元から細いらしい目を更にきゅっと曲げると、礼儀正しく会釈した。
「初めまして、イナズマジャパンの皆さん……良い試合にしましょう」
「……ああ!」
一瞬たじろぎはしたが、円堂もまたいつもの笑みを取り戻して大きく頷く。
チャンスウは口角を持ち上げると、踵を返しながらこう言った。
「でも、気を付けて。決勝戦のフィールドには、龍がいますから……」
「りゅう?」
おうむ返しした円堂に、チャンスウは答えない。そのまま自陣へと戻るチャンスウに続き、ファイアードラゴンたちはその場を後にする。
「まさか、照美ちゃんたちが相手なんて……」
「ですが、警戒すべきはあのチェ・チャンスウです」
遠ざかる赤い背中を見送って、僅かに張り詰めていた息を吐き出しながら呆然とした様子の織乃が呟くと、傍らにいた目金が険しい目付きで言った。
「そんなにすごい奴なのか?」
「知らないんですか?」
尋ねてきた円堂に呆れた様子を見せながらも、目金はゴホンと空咳で喉を整え、真面目な顔で解説する。
ファイアードラゴン背番号7番、チェ・チャンスウ。彼はフィールドを支配する韓国の司令塔であり、チームのキャプテンである。その巧みなゲームメイクは完全なる戦術と呼ばれ、これまでの試合であらゆる敵を打ち砕いてきた。
「まさに稀代の天才ゲームメイカー。龍を操る者──そう呼ぶ人もいます」
「龍を操る者……」
天才ゲームメイカーと言う単語に何か感じるものがあったのだろう。小さく独り言ちた鬼道がそっと眉根を寄せる。
それに対し、一呼吸置いて目を輝かせたのは円堂だ。
「すっげえな……」
噛み締めるような呟きに、仲間たちが円堂を見る。足元を見ていた円堂は顔を上げ、晴れやかに笑った。
「でも、面白いじゃないか!」
「──ああ」
その言葉に、仲間たちは反論しない。力強く相槌を打つ豪炎寺に円堂は大きく頷き返し、もう一度拳を振り上げる。
「よーし、やろうぜみんな! 決勝戦だ!!」
「おお!!」
天高く突き上げられる仲間たちの拳。一際沸き立つ選手たち。祈りに手を握りしめるマネージャー。
──そんな中で、久遠は1人険しい目つきをしていた。アップを始める選手たちを、彼はベンチに深く腰掛けじっと観察する。
そして一通り選手たちを眺め終わると、久遠は声を上げた。
「円堂」
「はい!」
名を呼ばれた円堂は元気良く返事をして久遠の元へ駆け寄る。久遠はベンチに座ったまま、視線だけを円堂に向けた。
「この試合、イナズマジャパンは勝てると思うか」
「え?」
いつもながら──下手をすれば、いつもより低い声。その問いに円堂は一瞬戸惑った様子を見せたが、すぐ笑顔になって頷く。
「勿論です、監督! 俺たちは絶対勝ちます! 勝って世界に行きます!!」
そう答えるのは、円堂にとって至極当然なことだった。仲間たちを信じている。負けられない理由もある。
だが、久遠は眉間の皴を深くするばかりだ。睨むような一瞥をくれて、どこか怒気すら籠った声音で彼は言う。
「──お前には、何も見えていないようだな。キャプテンでありながら」
「え……?」
冷たく言い放たれた円堂は、今度こそ困惑に眉根を寄せた。
久遠は更に眉間に皺を寄せながら続ける。
「今のままでは、イナズマジャパンは絶対に勝てない」
「な──」
円堂が二の句を告げぬ内に、立ち上がった久遠はライン際まで歩いていくと、フィールドに視線を向けたまま彼を切り捨てた。
「それが分からないお前は、キャプテン失格だ」
「え……ど、どういうことですか、監督!」
一瞬の間が空く。他の仲間たちやマネージャーも、2人の様子に気が付いたようだった。少しばかり声を潜め、事の成り行きを見守っている。
久遠は肩越しに振り返ると、溜め息混じりに告げた。
「今のお前は必要ないと言うことだ。このチームにはな……」
「──!」
スターティングメンバーを変更する──無慈悲な久遠の宣告が、円堂の耳にはどこか遠く聞こえた。
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両チームが整列し、開始の挨拶を済ませそれぞれがポジションに着く。
試合開始まであと僅かだと言うのに、観客たちはどこか落ち着かない様子でどよめいている。理由は明白だ。いつもゴールにいるはずの円堂が、今日に限ってベンチスタートだからである。
キーパーを勤めるのは、普段控えに甘んじていることの方が多い立向居だ。彼も突然のオーダー変更に戸惑っているのだろう、手持無沙汰にグローブを着け直しては手の感触を確かめている。
「どうして監督は、キャプテンをベンチに下げたんでしょう……?」
「分からない……でも」
固い表情でベンチに腰掛けている円堂に聞こえないようにボソボソと耳打ちしてきた春奈に、織乃は頭を振りながらフィールドを見た。
円堂に代わりキャプテンマークを着けるのは鬼道だ。彼もまた何か考え込むような表情で、左腕のキャプテンマークを握り締めている。
「──監督が円堂さんを試合に出させないのには、きっと何か理由があるはずだから」
「……そう、よね」
その言葉に不安げに声を返したのは秋だ。円堂のベンチスタートは、瞳子でさえ取らなかった手段だ。1年生の頃から円堂のサッカーを見てきた秋が不安になるのも仕方のないことだろう。
織乃は気遣うように秋に視線を向けるが、いつまでも分からないことばかり考えていても、答えが出るまで時間が止まってくれるわけではない。
それぞれ困惑を抱えたまま、ついに試合開始のホイッスルが鳴り響く。アジア大会決勝戦の幕開けだ。
「──行くぞ吹雪!」
「うん!」
キックオフはイナズマジャパンからだ。ホイッスルの音を聴けば、嫌でも気持ちが切り替わる。豪炎寺のボールを受けた吹雪を筆頭に、選手たちが一斉に走り出した。
「吹雪、右サイドだ!」
「ああ!」
鬼道の声に応じてアフロディを突破した吹雪は、右サイドに走り込んだ風丸へロブパスを繰り出す。ボールを受け取った風丸は、そのままライン際を駆け上がった。
走りながら周囲を見渡し、仲間たちが前線深く切り込むのを確認すると、風丸はウミャンのスライディングをジャンプで躱し中央へセンタリングを上げる。
「よしっ!」
「先制点のチャンスです!」
いつもより早い試合展開にテクニカルエリアも沸き立つ。
だが、ファイアードラゴンもそれを大人しく見守るようなことを当然するわけもない。
フィールド中央に陣取っていたチャンスウが素早くハンドサインを出すと、ボールを取るべく詰めていた豪炎寺と吹雪にマークが張り付いた。
これではボールを取ってもすぐに奪われてしまうかもしれない──そんな心配が胸を過る瞬間、センタリングは予想に反して大きくカーブする。
だが、その軌道に豪炎寺と吹雪は戸惑わない。最初から風丸のパスが自分たちに向けられたものではないと気付いていたからだ。
「行け、ヒロトくん!!」
ボールを受け取ったのは中央へ切り込んでいたヒロトだ。絶好のチャンスに織乃も思わず大きな声を上げる。
「流星──ブレード!!」
ダイレクトシュートで放たれた流星ブレードが、星屑を散らしフィールドを駆け抜ける。対し、身構えたファイアードラゴンキーパー、ジョンスの両手は、気合いの一声と共に炎を放った。
「大爆発張り手──!!」
「何ッ!?」爆発的な威力で繰り出された張り手に、シュートが正面に来たこともあったのだろう、流星ブレードはあっさり止められてしまう。
「ああ、惜しい〜!」
「あと少しだったのに──」
歯軋りする春奈の傍ら、織乃は感じた違和感に眉根を寄せる。そしてその違和感は、隣の目金が解説することで解消された。
「サイドを使って揺さぶりを掛ける鬼道くんの戦術に、ディフェンス、そしてキーパーがぴったり合わせてきました……それも全てあの7番の指示です」
「! さっきのハンドサイン……!」
ヒロトのシュートは打たされたものだったのだ。それも、1手2手前から鬼道の戦術を読んだ上で。
眼鏡のブリッジを押し上げて、目金は噛み締めるように呟いた。
「出来ますね……チェ・チャンスウ」
そのチャンスウは、今まさに投げ戻されたボールを追って鬼道と並走している。
だが、走りに関しては足のリーチが長い方が断然有利だ。鬼道より先にチャンスウがボールを押さえたことで、ファイアードラゴンの反撃が始まる。
「涼野、南雲、アフロディ! 上がりなさい!」
「おう!」
チャンスウの声を合図に、FW3人が一斉に走り出した。
3人それぞれのシュートの威力は立向居も知っている。及び腰になりそうな自身を叱咤して、彼は身構えた。
「(誰だ──誰がシュートを打つ!?)」
けれど、FWの誰かにボールが渡る前に止めてしまえば。チャンスウの進路にイナズマジャパンの双璧、土方と壁山が飛び出した。
「行かせるかァッ!!」
土方のスライディングに対し、チャンスウは焦ることもなく薄く笑みを浮かべる。ボールは土方の頭上を飛び越え、緩やかな弧を描いてセンタリングされる。
ボールを受け取ったのは──アフロディだ。
「まずい!」
円堂が思わずベンチから立ち上がる。来る、あの時自分を散々苦しめたシュートが。
苦い記憶とは裏腹に、アフロディの背中から現れた三対の白い翼は美しく燦然と輝く。
「≪真≫──ゴッドノウズ!!」
「ムゲン・ザ・ハンド≪G2≫!!」
放たれた神の一撃に、黄金に輝く手が伸びていく。
一瞬の鍔迫り合いの後、シュートをセーブしたのは立向居だった。仲間たちもホッと胸を撫で下ろしたが、一番安心したのは立向居本人だろう。ボールを見つめ、安堵の溜め息を吐いている。
「少しは上達しているようだね……そうでなくては!」
アフロディは必殺技を止められた瞬間こそ瞠目していたが、彼ももうそこでいつまでも立ち止まるような選手ではない。笑みを浮かべ、即座に気持ちを切り替える。
立向居のスローイングしたボールは、不運にも相手チームのペクヨンが押さえた。
ドリブルで進むペクヨンに対し、前線から駆け戻ったから豪炎寺がスライディングタックルを仕掛ける。
──途端、ピー! と鳴り響いた鋭いホイッスルの音に、豪炎寺の足が中途半端に止まった。ファウルを取られたのだ。
どうも足の当たった角度が悪かったらしい、ペクヨンは患部を押さえ痛みに顔をしかめている。
「珍しいですね、豪炎寺さんがファウルを取られるの……」
「そうなんですか?」
「ええ……」
気遣わしげに頷いた秋は、そっと円堂の方を窺う。円堂は先程から百面相で試合を見守っているばかりであったが、その時だけはどこか険しい顔つきになったように思えた。
一言二言、審判と言葉を交わした豪炎寺の肩を慰めるように鬼道が叩いたのち、試合は再開される。
スローインから土方とウンヨンの競り合いで零れたボールを押さえたのは飛鷹だ。目尻を気合いにキリリと吊り上げた飛鷹は、そのままドリブルで攻め上がる。
その足取りに以前まであった迷いはなく、スピードはぐんぐんと上がっていく。織乃は特訓の成果に胸を踊らせると同時に、彼の周りが見えていないような走りに不安を覚えた。
「飛鷹、あまりボールを持ちすぎるな! 緑川とヒロトがノーマークだ!」
背後から駆け込んだ鬼道が声を掛けるも、耳に届かなかったのだろうか──飛鷹の独走は止まらず、彼はトップスピードに乗ってファイアードラゴン陣内へと単身突っ込んでいく。
それを追うのは元カオスの2人、南雲と凉野だ。
「何だこいつ、隙だらけじゃないか!」
「フン! 所詮その程度のスピードでは──」
一瞬目配せを交わした2人は、たちまち飛鷹の前方へ躍り出て鮮やかにボールを奪っていく。
「──私たちを突破することなど出来ない!!」
「っくそ……!」
慌てて飛鷹は踵を返したが、ボールを奪うにはもう間に合わない。
形勢逆転だ。南雲と涼野はフィールドに赤と白の軌道を残し、イナズマジャパン陣内へ切り込んで行く。
「みんな……」
「何とか凌いで……!」
一転してピンチになった展開に、マネージャーたちの祈る手にも力が籠る。その傍ら、じっとフィールドを見ていた冬花がポツリと溢す。
「飛鷹さん、どうしてパスを出さなかったのかしら……」
「え?」
「だって、緑川さんもヒロトさんも、マークが着いていなかったのに……」
冬花の言う通り、飛鷹の後ろにはフリーの仲間が2人いた。あのまま1人で走りきらずにどちらかにパスを出していれば、もっと違う展開もあっただろう。
「(飛鷹さん……何を焦ってるの?)」
織乃は走る飛鷹の横顔を窺ったが、今の彼からはボールを取り戻そうと躍起になっていることしか感じ取れない。
一方、ワンツーパスで土方と壁山を抜き去った南雲と凉野は、とうとうゴールの目前まで走り込んでいた。
残るはキーパーである立向居のみだ。身構える彼の視界に、冷たい風と共に逆立った白い髪が写る。
「っ吹雪さん!?」
「ここは行かせない!」
前線から駆け戻っていたのは吹雪だった。
吼えた吹雪が跳躍すると、彼を中心にゴール前一帯に冷たい風が吹き抜け、一瞬にして辺りを凍てつかせる。
「スノーエンジェル──!」
「何っ!?」
地面から突き出た氷塊に足を取られた2人から吹雪が颯爽とボールを奪い取ると、観客は一斉に感嘆の歓声を上げた。
「すげーぜ、吹雪!」
「い、いつの間にあんな名前を考えて──いやっ、あんな技を完成させていたのでしょう!」
うっかり本音を漏らす目金に、マネージャー陣の少しだけ呆れた視線が刺さる。
そして織乃は見た。フィールドに目を戻した瞬間、吹雪が確かに自分に向かって視線を送るのを。
「これだけじゃない! 土方くんっ!!」
「おう、あの技だな! よっしゃあ!!」
バックパスを受け取った土方を伴い、吹雪は一気にファイアードラゴン陣内へ攻め上がった。
「行くぞ吹雪!」
「ああ!」
──あれ≠やるつもりだ。反射的に浮かんだ考えに織乃は思わず弾かれたようにベンチから立ち上がる。
「これが俺たちの連携技!!」
土方の打ったシュートが電撃を帯びる。シュートに追走した吹雪が更にそこへ衝撃を加えると、威力を増したボールは青白い火花を激しく放った。
「あれは……!」
「まるで雷を纏って荒野を駆け抜ける獣!!名付けるならばそう──」
「サンダービースト!!」
握り拳を固め半ば叫ぶように織乃が言うのと、雷獣のシュートがキーパーの張り手を押し退けてゴールに突き刺さるのはほぼ同時だった。
やった! と小さく織乃が跳び跳ねる後ろで、「また既に名前が!!」とついに目金がベンチからずり落ちた。
「すげーぜ、吹雪、土方!」
きっとあの泥沼の練習のあと、織乃の協力の元自主練を積んだのだろう。先取点に沸き立った円堂だったが、ふとそこで久遠がしかめ面のままなことに気付いた。
「(どうして監督はさっきからずっとあの調子なんだ……? 先取点を取った、みんなの調子だって悪くない。……だけど、監督が意味のない指示をするわけがない)」
──お前には、何も見えていないようだな。キャプテンでありながら。先程聞いた久遠の言葉が頭の中で反響する。
久遠には見えて円堂には見えていないもの。それを見つけないと、イナズマジャパンは絶対に勝つことは出来ない。
円堂が久遠の言葉の意味を考えるその一方、先取点と新しい技に仲間たちが沸き立つ中、輪から少し離れた鬼道は緊張を緩めぬままファイアードラゴンの選手たちの様子を窺っていた。
「(このまま終わる連中ではなさそうだな……)」
──1対0。しばしスコアボードを見上げていたチャンスウは、呟くように言う。
「なるほど、イナズマジャパンの実力はよく分かりました。……では、始めましょうか。皆さん」
仲間たちに視線を戻したチャンスウは、薄く笑みを浮かべている。それを見たアフロディは、楽しげに口角を上げた。
「やるんだね。完全なる戦術……!」
「ええ──見せてあげましょう。パーフェクトゾーンプレス≠……!」
笑みを深めたチャンスウは、細めた目でイナズマジャパンに一瞥をくれる。前半はまだ始まったばかりだ。
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