It's a gear and is a pillar
チームの精神的主柱でもある円堂がベンチから離れられぬまま、とうとう後半が始まった。
緑川に代わり不動が入り、治療の為に一時鬼道が抜けたイナズマジャパンは10人でのスタートだ。加え、今まで見る機会のなかった8番の背番号──不動の存在に、選手たちの表情はどことなく強張っている。
ホイッスルが鳴り響き、アフロディのキックオフで後半戦が始まった。
周りの仲間たちが一斉に走り出す中、フィールドに佇んだ不動はベンチの鬼道たちを一瞥すると、挑戦的に口角を上げる。
「見せてやるよ、不動明王のサッカーを……!」
呟いた声は誰に届くこともなく風に掻き消され、不動もついに走り出した。
アフロディからボールを受け取りドリブルで攻め上がってきた南雲に並走し、不動は激しいチャージを始める。
「その程度で俺に勝てると思うなよ!」
「……」
吠える南雲に構わず、不動はボールを奪わんとチャージを続ける。その執拗とも言えるディフェンスに──元々短気な性格なのだろう──南雲の表情は次第に苛立っていく。
「ッしつけえんだよ!」
とうとう痺れを切らした南雲が肘を振りかぶった。
けれど、それこそ彼の思惑通りだったのだろう。不動がスイと身を引くと、肘が空振った南雲は体勢を崩してしまう。そして足元から離れたボールを、不動はたちどころに浚ってしまった。
「……やっぱり上手いですね、不動さん」
その様子を観察していた織乃が呟くと、隣に座る鬼道の肩が僅かに揺れた。
選考試合の時もそうだったが、不動は駆け引きを使った頭脳プレーに長けている。特に、相手の心理的な隙を利用する不動の技術は、他の選手たちはあまり活用しないものだ。
「相手の動きを計算するのが早い……今まであまり見る機会がなかったから分からなかったけど、理論派のプレイヤーなんでしょうね」
「……どうだかな」
答える鬼道の声は、はどことなくつまらなさそうだ。
織乃が注意深く目を細めるその先で、不動はマークについたペクヨンに対し挑発するようにリフティングを見せつけている。
ペクヨンは一瞬の逡巡ののち、肩を怒らせ不動に突進した。
「なめるなぁッ!!」
「ふん──」
激高したペクヨンのタックルに、不動は軽々と身を躱してそれをいなす。体勢を崩したペクヨンはそのままつんのめり、思わずフィールドに膝を突いた。
『不動は……ジョーカーだ』
鬼道の脳裏に、先程の久遠の言葉が蘇る。
ジョーカーはカードゲームでは切り札として使用されることが多い。だからこそ、久遠はここで敢えて不動を投入したのだろう。
「油断なりませんね。あんな選手が日本にいたとは……」
それまで涼しい顔をしていたチャンスウも、他のメンバーとは明らかに毛色の違う不動のプレーに低い声で独り言ちる。
その間にも、不動はドリブルで韓国陣内中盤まで駆け上がっている。そんな彼の進路へ飛び出したのはウンヨンだ。
「行かせるか!!」
「……」
次の瞬間、不動は敵も味方も予測していなかった動きを見せる。立ち塞がるウンヨンに対し背を向けると、そのまま自陣へと駆け戻り始めたのだ。
「なっ、何だ……!?」
「どういうつもりッス!?」
不動がボールを持っている以上、それを奪わない選択肢はない。ウンヨンは困惑しながらも、自陣へ引き返す不動を追いかける。
そして不動は意図の読めない不動のプレーに思わず立ち竦んでいた壁山の目の前まで走り込むと、あろうことか彼の顔面へ向けてボールを打ち込んだ。
「な──……!?」
「ぐわっ!」
突然のことに対応出来なかった壁山は衝撃でその場に尻餅を突き、不動はここまで追いかけてきたウンヨンの背後まで跳ね返ったボールを受け止めて再び韓国陣内へ攻め込む。
「今のは……」
「……」
思わず顔をしかめた織乃がちらりと隣を見ると、鬼道はこれでもかと言うほど眉間に皺を寄せて不動を睨むように見つめていた。
中盤まで舞い戻った不動は、それからも先程と同じように風丸にボールをぶつける形で相手のディフェンスを掻い潜り、並走したヒロトの声掛けも無視して単身ゴール前へ突っ込んでいく。
打ち込んだシュートは正面だ。あっさりとジョンスにセーブされたボールに、不動は小さく舌打ちした。
「──不動!」
背後から聞こえた風丸の怒り籠った声に、不動は顔をしかめて振り向く。壁山やヒロトと共に足音荒くやって来た風丸は、不動と目が合うなり激しく噛みついた。
「何でヒロトに回さなかった!? 何故パスしない!」
「うるせえな……どうしようと俺の勝手だろ」
「何だと……!?」眦が吊り上げた風丸を意にも介さず、不動は面倒くさそうに耳を掻く。苛立ちに燃える瞳に、不動は肩を竦めた。
「熱くなんなよ、風丸くん=H」
「この……っ」
「やめるんだ! 今は仲間同士いがみ合ってる場合じゃないだろう?」
声を荒らげ掛けた風丸の肩を押さえ、ヒロトが仲裁に入る。
不動はそんな彼に目もくれず、鼻を鳴らしてその場から立ち去って行ってしまった。
フィールドの選手たちが一気に険悪なムードになったのは、テクニカルエリアからもよく見えた。つまらなさそうな顔で歩く不動の横顔を眺めながら、冬花がぽつりと呟く。
「あの人、誰も信じてないのかも……だからみんなも彼を信じようとしない……」
元々積極的に人に関わる性格でもないのだろう。練習の際にも、不動が仲間と協力してサッカーに臨む姿はついぞ見られなかった。
不信は不信を呼び、チームの不和となる。円堂が沈痛な面持ちでフィールドを見つめる傍らで、鬼道の眉間はますます酷くなっていた。
「不動……」
「どうしてあいつは……!」
「鬼道さん……」ギリリと握り締めた拳が震えているのは、怒りか苛立ちか。織乃は切羽詰まったその横顔に、不安そうに眉根を下げる。
「──強い思いを持ったものは強くなれる」
ふと聞こえてきたしゃがれた声に、久遠を除く一同が一斉に振り返ると、一体いつピッチに入ったのかベンチの脇から響木が姿を現した。
「例え、それが正しき方向でなかろうとな」
「響木監督……」
ワンマンプレーを続ける不動を眺めながら、響木は鬼道に語り掛ける。
「鬼道……お前は俺に聞いたな。『何故不動をスカウトしたのか』と」
「はい」
鬼道は真剣な顔で頷いた。そしてその疑問は、今も彼の胸の内を占めている。佐久間や源田の件だけではない。鬼道にとって、現在進行形でチームに不和を呼び込む不動の存在は、あまりにも不可解だった。
「あいつが異常なまでに力を得ようとするのは、理由がある」
そう切り出すと、変わらぬ声音で響木はゆっくりと語り始める。
それは、かつて不動明王の身に起きた過去の話だった。
「不動の父親は、上司の失敗の責任を負わされ、不当に会社を辞めさせられた。以来、借金取りに追われる毎日……あいつの家族は暗く沈んでいった」
──あなたは、偉くなって人を見返しなさい。それが母の口癖。父親と父親を否定する母親を、いつしか不動は歪んだ形で受け入れた。
力を手に入れられなければ何も出来ない。
力を手に入れ、強くなることが自分を守る唯一の手段──そう思い込んだのだ。
「その後、真帝国学園を設立した影山に取り入ろうとしたが失敗に終わった」
「あっ……」
思い当たる記憶に、織乃が小さく声を上げる。真帝国学園と戦った際、織乃はまさに不動が影山から見放される瞬間に居合わせていた。
「だが、俺はあいつにサッカープレイヤーとしての才能を感じた」
織乃や春奈から預かった真帝国学園戦の映像データを見たとき、響木は直感したのだ。彼は必ずチームに必要な歯車になると。
お前の中に眠る、本当の力を見せてみろ──そう勧誘した時の不動の表情は、何とも複雑なものであった。
「そんなことが……」
不動の身に起きた過去に、テクニカルエリアはしばし重たい静寂に満たされる。
ややあって、足を少し庇いながら立ち上がった鬼道は響木の隣に並び立った。
「ありがとうございます。……少しあいつが分かってきました。──ですが」
そこで鬼道はちらりとフィールドを一瞥する。
不動はやはり仲間にパスを出す気配はなく、1人でボールをキープし続けている。風丸たちは、後方から苦虫を噛み潰したような表情で不動の後ろ姿を見つめているだけだ。
「……それとこれとは別です。あんなプレーをする不動を受け入れることは出来ません」
「勿論、それはお前たち次第だ」
返る言葉に、鬼道は唇を引き結ぶ。
わっと聞こえてきたサポーターの歓声に、一同は思い出したようにまたフィールドを見た。どうやら不動がまた1人でゴール前まで持ち込み、シュートしたらしい。だが、残念ながら今回も得点には至らなかったようだ。
「──このままでは間違いなく日本は負ける。どうする、円堂」
ふいに、それまで黙り込んでいた久遠の問い掛けに、円堂はハッと俯いていた顔を上げる。
仲間たちの視線を受け、じっとフィールドの不動たちを見た円堂は、膝に置いた手を握り締めた。
「──分かりません」
絞り出されたのは、否定の言葉だ。再び俯いてしまった横顔に、秋の眥がそっと下がる。
「俺には……この試合をどう戦ったら良いのか……」
このままではチームはバラバラだ。これではチャンスウの思惑通り、龍の餌食になるのは目に見えている。ならば、一体どうすればいいのか。
沈痛な面持ちで口を噤む円堂に、久遠はフィールドを見据えたまま言った。
「試合を見ていても答えは出ない。今はチームを見るんだ」
「勝つためには、チームを見る……」
ぼんやりと反復した円堂は、ひとつ深呼吸をして再びじっとフィールドを見つめる。
パーフェクトゾーンに捕らわれ、風丸が外側から声を掛けてもなお、不動は頑なにボールをパスしようとしない。
だが、あの中で1人でボールをキープするのにも限界がある。弾かれ、凉野へ渡ったボールを何とかクリアした風丸は、めげずに不動に噛みついた。
「いい加減にしろ、不動! パスを出せ、みんなに合わせろ!」
「俺に命令するな! 俺は出したい時に出す!」
何かを言い掛けた風丸は奥歯を噛み締めると、勝手にしろ、と不動に背を向ける。
敵も完全に不動の存在をイナズマジャパンの穴だと認識したようだ。スローボールをカットし、単身韓国陣内へ切り込む不動を、MFとFW、5人がかりで包囲する。
「味方に嫌われても敵には人気だなぁ?」
「俺の力を認めたと言うことだろう?」
「何だと?」皮肉に目を細めた不動に、南雲が怪訝そうに眉を顰める。次の瞬間、不動はニヤリと口角を上げた。
「お前らとの遊びの時間は終わりだ……!」
呟くと、不動はすかさずディフェンスの隙間を通すようにしてボールを打った。
そのボールが向かうのは──サイドを走っていた風丸の進路だ。
「パス!?」
それまで1人でボールを持ち込み続けた不動の突然のパスは、韓国チームの不意を完全に突く。
だが、不意を突かれたのは風丸も同じだった。進路の数メートル先へ送り込まれた鋭い弾速のパスに、風丸は追い付けずボールはコートの外へ出てしまう。
「チッ……しっかりしやがれ!」
「っ今更何を……! しかも、どこに蹴ってるんだ!」
舌打ちする不動に風丸が咄嗟に言い返す。その光景を、円堂と鬼道はじっと観察した。
試合再開し、不動は次にウンヨンからチャンスウへのパスをカットする。
前方から向かってくるアフロディと凉野に対し、今度は壁山の進行方向へ先程と同じようにパスを送り出すが──こちらもまた追い付けず、ボールはまたもやコート外へ転がっていく。
「っいい加減にしろよ!!」
「あんなの、追い付けないッスよ!」
壁山が珍しく怒りを露にして言い返すが、2人はそれをきっかけにある違和感に気付いた。
確かに不動のパスは弾速も速く突然だ。けれど、いつもの壁山なら決して追い付けないパスではない。恐らく、風丸もそうだ。
では、何故パスが通らないのか。
その後も不動のパスはことごとく不発の連続で、誰も彼からのボールを受け止めることが出来ない。
相手の動きを計算するのが早い、理論派のプレイヤー──ふと織乃の言葉を思い出した2人は、ある結論に至った。
「そうか……! 不動は闇雲にパスを出していたわけじゃない! 敵の動きも、味方の動きも分かった上であんなパスを出してるんだ!」
弾速が早いのは、風丸たちが本気で取ろうと思えばボールに追い付くことが出来ると分かっているからだろう。不動は自分の計算したもの──言うなれば、仲間たちの能力を信頼しているのだ。
それでもパスを受けとることが通らないのは、彼らが疑心から不動を信頼出来ていないが故。そのせいで、いつものプレーが出来なくなっているのだろう。
「南雲、凉野!」
アフロディからFWの2人へのパスは、ゴール間際へと放物線を描いていく。
跳躍した南雲と凉野はそれぞれ炎、冷気を脚に纏わせると、渾身の力でボールに叩きつけた。
「ファイア──」
「ブリザード!!」
炎と氷の螺旋を描き、2人の必殺シュートがゴールに襲い掛かる。
「止めてやる!!」目前に迫るファイアブリザードを果敢に見上げ、ゴール前へ飛び出して行ったのは飛鷹だ。
「な──」
「あっ!」
けれど、雄叫びと共に振り上げた振り上げた飛鷹の脚は空を切り、シュートは彼の脇を通りすぎて行く。
肩越しに振り向いた飛鷹が目にしたのは、ファイアブリザードが立向居が繰り出したムゲン・ザ・ハンドを打ち砕いた瞬間だ。
ゴールが割られてしまう──その寸前、シュートの進路に飛び込んでいった木暮と栗松の体を張ったディフェンスで、ボールはコートの外へと弾かれていく。
間一髪だ。DFたちが安堵の溜め息を漏らす一方で、飛鷹は自分の爪先を見つめ歯を食い縛った。
「くそ──これ以上格好わりいところは見せらんねえ……鈴目たちのためにも……!」
呻くような飛鷹の独り言は誰にも届かない。だが、円堂の位置からは、焦燥に駈られた彼の横顔がよく見えた。
前半戦から彼の様子がどこかおかしいのは察していたが、その理由が今やっと分かった気がする。
「(飛鷹……お前もしかして、ミスを恐れてボールを怖がってるのか!?)」
度重なる優勢、イナズマジャパンの不調によりファイアードラゴンの攻撃はより勢いを増して行く。
「今度こそ!!」
スローボールを追って飛鷹はウンヨンと並び跳躍したが、振りかぶったヘッドバットはまたも空振りしてしまった。
動揺する飛鷹の顔の横を通り過ぎたボールをウンヨンがヘディングでシュートするが、正面だ。立向居は危なげなく受け止めたボールを中盤に向かって思いきり投げつける。
「壁山ぁっ!」
「行くぞ、反撃だ!」
「はいッス!」
壁山からのダイレクトパスを受け、風丸を筆頭に走り出したイナズマジャパンは反撃に繰り出した。
韓国陣内中盤まで切り込み、パスコースを探す風丸の視界に不動が映る。だが彼は、反射的に不動から目を逸らした。
「──ヒロト!」
「!」
ボールは不動の頭上を飛び越えて、彼の向こうに走るヒロトへ届く。不動は小さく舌打ちしながらも、ボールを追い走り続ける。
「豪炎寺くん、虎丸くん!」
進路へ飛び出してきた相手DFに、ヒロトがすかさずパスを上げたのは虎丸だ。
落下してくるボールに注意を払いながら、虎丸は一歩先を走る豪炎寺へ向かって叫ぶ。
「豪炎寺さん! 今度こそアレを決めましょう!」
「……!」
豪炎寺が頷くのと、虎丸がボールを受け取ったのはほぼ同時だった。
再び放たれる、タイガードライブからの爆熱ストーム。だが豪炎寺の打ったシュートはゴールを目前にして、またもあらぬ方向へと飛んでいってしまう。
「豪炎寺さん……前よりもっとタイミングがズレてますよ。本当にどうしたんです!?」
「……すまない」
訴えるような問いに短く謝罪した豪炎寺は、虎丸の顔を見ることなく俯いたまま自陣へ戻っていく。それを見た円堂は、ギュッと眉間に皺を寄せた。豪炎寺の今抱えている悩みは、彼しか知らないのだ。
不動のこと、風丸たちのこと、飛鷹のこと、豪炎寺のこと。いつもと違う視点から仲間たちを見回すと、それまで彼の気が付かなかった些細な亀裂、不和が見えてくる。
「(──みんな焦ってる。全員がちぐはぐで、どう動いたらいいか分からないんだ)」
どうしてこんな事態になるまで気付けなかったのだろう。べちん、と自分の頬を叩いた円堂は、ふと身に着けたグローブに目をやった。
汚れ、擦り切れ、ボロボロになったグローブは、今まで特訓に打ち込んできた証だ。けれど、今は。
新たな光を目に宿した円堂は、久遠の前に駆け込んだ。
「監督! 俺……」
「……」
久遠は何を言うでもなく、無言で円堂を見下ろす。
「円堂くん……?」突然の円堂の行動に、仲間たちも固唾を呑んで事の次第を見守った。
「俺は、世界と戦うために、自分を鍛えることばかり考えていました。そのせいで、大事なことを忘れていたんですね。みんなを、──チームを見るってことを」
ゆっくりとまばたきをして、久遠は静かに問う。
「……分かったのか円堂。自分のやるべきことが」
「はい、監督!」
振り返り、円堂は真剣な眼差しでフィールドを見つめる。
自分は1人のプレイヤーだ。歯車の1つだ。だが、一番欠けてはならない、みんなを支えるべき柱でもあるのだ。
「俺……キャプテン≠ネんですね。あいつらの」
噛み締めるように答えた円堂の隣に、久遠は並び立つ。
その背中を押したりはしない。ただ、道を指し示す。
「なら行ってこい円堂。あいつらを、世界の舞台へ連れていってやれ。お前の力でな……!」
「はい!」
円堂は力強く頷いて、グローブをギュッと着け直す。
「円堂!」名前を呼ばれ肩越しに振り向くと、脇から鬼道の腕が延びてくる。その手に握られているのは、見慣れたキャプテンマークだ。
ボールがコートに出たところを見計らい、久遠は審判へ声を掛ける。
「選手交替! 立向居勇気に変わって──円堂守!」
「キャプテン!!」キャプテンマークを右腕に着け、ライン際に立った円堂の姿に疲れの見え始めていた仲間たちの表情に明るさが戻る。立向居もホッとしたような表情になると、足早に円堂に駆け寄った。
「お願いします、円堂さん!」
「ああ! 行ってくる!」
立向居と入れ替わりにフィールド入りする円堂を見送り、氷嚢をベンチに置いた鬼道が立ち上がる。織乃はゆっくりと、その横顔を見上げた。
「鬼道さん」
「もう大丈夫だ。──行ってくる」
いってらっしゃい、と微笑む織乃に頷いて、鬼道は久遠に駆け寄る。
久遠は一瞬そちらを見ると、鬼道が口を開くより先にこう言った。
「……お前の答えも、プレーで見せてみろ。鬼道」
「はい!」
赤いマントを靡かせて、鬼道もまたフィールドに駆け戻って行く。
得点は未だ1対2。龍は彼らの体を噛み千切らんと、その目を獰猛に光らせている。やっと揃った11人の歯車は、果たして龍の進軍を止めることが出来るのか──真の戦いが、今ようやく始まろうとしていた。
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