Please put feeling in a cage
次の試合の日取りが決まってから、稲妻町は抜けるような晴天が続いている。
グラウンドや校舎に配備されたトレーニングルームで特訓を行う選手たちが多い中、彼らは冷風機を利かせた体育館にいた。
「──うーん、ちょっと違うかな……」
「そうですね……」
立てたポールをゴールに、三角コーンをゴールを守る選手に見立ててボールを蹴った風丸は、コーナーに立って首を捻る。
その傍ら、モバイル片手に控えた織乃は録画画面と睨み合って唸った。
「始めてから結構時間が経ちますし、一度休憩しましょうか」
「ああ、分かった」
少し換気しますね、と織乃が体育館の扉をひとつ開けると、ぶわ、と暖かい外気が一気に流れ込んでくる。今日は一際日差しが強く、日射病や熱中症を避けるために体育館で特訓を行うという選択は間違っていなかったらしい。
冷風機で冷えた体が少しずつ暖まっていくのを感じながら、壁に背中を預けて座り込んだ風丸はジャグを傾けた。
その隣にぺたんと座った織乃は、分厚い書類とモバイルの画面とを見比べながら言う。
「高度はあのままで良いと思います。ただカーブが甘いので……次は、もっと回転を掛けてみましょう」
「あれよりもか……」
ふむ、と顎を摘まみ、風丸は足元に転がしたボールを睨む。
得点の大きなチャンスであるコーナーキック。それを更に確実なものにするため、敵の意表を突くようなシュート技にしたい──そう織乃に相談したのは風丸だ。
「……よし、分かった。やってみよう」
「はい。きっとあと1歩です、頑張りましょう」
明るく言ってタオルを差し出す織乃に礼を言いながら、風丸も短くああ、と答える。
立ち上がり、コーンの位置を吟味しながら調整するその横顔を一瞥して、風丸はポニーテールを結び直しつつ呟いた。
「でも、何か悪いな。午後から付きっきりになってもらって……」
「大丈夫ですよ。今日はもう他の技精錬の予定は終わってますから」
肩越しに笑顔を返す織乃に、一瞬風丸はきょとんとして「えっと……」と言葉を濁して頭を掻く。
何か煮えきらない様子の風丸に首を傾げ、どうしました、と織乃が不思議そうに尋ねると、彼はごにょごにょと続けた。
「それもあるんだけど、その……鬼道は大丈夫なのかな、と」
「へ? どうして鬼道さんが?」
「えっ?」
「えっ?」
2人は顔を見合わせて、同時に首を捻る。
ええとな、と風丸は更に言いにくそうにしながら指を組む。ようやく口を開いた頃には、その頬は綺麗な朱色に染まっていた。
「その〜……あんまり彼女を独占してると、鬼道も良い気はしないんじゃないかと思って」
「かのじょ……………………彼女ッ!?」
メシャアッ。その瞬間、織乃が持ったままだった三角コーンの天辺が見るも無惨な姿へと変貌する。
「うわっ、御鏡! コーンが、三角コーンが!」
「えっ、あ、あわわわわ」
織乃は慌ててペンケースからセロハンテープを取り出し、破壊してしまったコーンの一部を修復し始める。傍目から見ても明らかにうろたえている織乃に、風丸は少し申し訳ない気分になった。
「わ、わた、私が鬼道さんのか、かかか彼女だなんてそんな! おそれ多い!!」
「お、おそれ多いって…… 俺はてっきりお前たちは付き合ってるもんだとばっかり」
「違いますっ、お付き合いしてないです! そ、それに」
メシャアッ。補修した箇所がまた破壊される。
あわわ、と新たにテープを引っ張り出しながら、織乃は真っ赤になった顔をブンブンと横に振った。
赤いコーンが不格好な形で復活していく。新しいコーンを倉庫から取り出して、織乃はポツリと溢す。それはまるで、自分に言い聞かせるような声だった。
「──それに、私じゃ……鬼道さんには釣り合いませんから」
「そうかな……」
「そうですよ!」小首を傾げた風丸に、織乃は困ったように笑って見せる。
開け放っていた扉に手を掛けて、さて、と彼女は元気良く振り返った。
「そろそろ再開しましょう! 今日中に完成させて、試合までに精錬しないと!」
「あ、ああ」
「ドリンク補充してきますね!」
閉めた扉の向こうで、ぱたぱたと足音が遠ざかっていく。
立ち上がり、軽く屈伸した風丸は軽く息を吐くと、ついポツリと疑問を溢した。
「別に、お似合いだと思うんだけどなぁ」
けれどきっと、それを織乃に言えば本人はさっきと同じように真っ赤になって首を激しく横に振るのだろう。
実際、織乃が鬼道をどう思っているのかは分からないが、おそれ多いなどと言わずにもう少し自分に自信を持てば良いのに、と彼は内心思った。
「(そう言えば、鬼道は御鏡のことどう思ってるんだろう?)」
一瞬興味が湧くも、でも俺だってそういう話題苦手だしなぁ、やっぱりやめておこう──と自己完結して、風丸は織乃の帰りを待つ。
隅に置かれた壊れたコーンにチラリと目をやると、中途半端なテープが剥がれてさらに不格好な形になっていた。
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