Stage where I shine

他の機体よりも一回りほど小さな飛行機が、エンジンを唸らせ滑るように滑走路へ入っていく。
しばらくそれを見守っていると、駐車場から走ってきたイナズマキャラバンがゆっくりと口を開いたその格納庫へと吸い込まれていった。

「すっげえ、見たでヤンスか!?」
「イナズマキャラバンを食べたッス!」

1年生たちは初めて間近で見る飛行機に興味津々な様子で、先程から窓に張り付いてはしゃいでいる。
機体の名前はイナズマジェット=B青と白、そしてシンボルである稲妻マークの塗装が施された、彼ら日本代表の為に用意された専用機だ。

「これでライオコット島まで飛んでいくでヤンスね!」
「楽しみだな〜!」

興奮した様子を押さえきれない1年生たちを暖かい笑みで見守るのは、見送りに来た雷門イレブンのメンバーである。
あいつらのこと頼んだぞ、と言う半田の小声に、風丸は笑顔で頷いた。

世界へと見送られる者がいる一方で、このまま日本に留まることとなったメンバーもいる。吹雪と緑川だ。
先日のファイアードラゴン戦で足を負傷した吹雪は治療のため、緑川は疲労の残る状態を鑑みて本戦で戦い抜くにはスタミナ不足と判断されたためである。
彼らと入れ替わりでメンバーに選ばれたのは、自身を鍛えながら代表入りを待ち望んでいた染岡と佐久間だ。

「染岡くん、佐久間くん。僕たちの分も暴れて来てね!」
「おう! 任せとけ」

ようやく叶えた代表入りに、2人はしっかりと頷いて見せる。
そんな彼らを一瞥し、ヒロトは無念さを隠しきれない目を傍らの緑川に向けた。

「緑川……一緒に行きたかったな」
「すまん。だけど、やれるだけのことはやった。後悔はしていない」

そう答える緑川は、まるで憑き物が落ちたかのようにすっきりとした顔をしている。その言葉に偽りはないのだろう。
清々しいその横顔を見た円堂は、試合の前日に見た緑川の必死の特訓を思い出しほんの少しだけ胸が痛んだ。

「へっ……湿っぽいこった。これが最後の別れってわけでもないのによぉ」

少しだけ落ち込んだ空気に水を差すように、気だるげな声が耳を突く。ベンチにだらりと横になった不動だ。
不動、と咎めるように声を上げた鬼道にも、不動は気にする様子もなく鼻を鳴らしている。

「でも、不動さんの言う通りですよ」
「え?」

ふと話に混じってきたのは、先程まで何やらマネージャーたちに詰め寄られて待合室の隅で縮こまっていた織乃だった。
織乃は少し草臥れた風であったが、穏やかな笑みを浮かべてこう続ける。

「ルール上、チームに合流すれば試合に出ることは可能です。世界大会でも、選手の入れ替えは認められていますからね」
「そうなのか!?」
「はい!」

その答えを聞いた円堂はパッと表情を綻ばせると、腕を広げ左右2人の肩をしっかりと抱き寄せた。

「よーし! 吹雪、緑川。向こうで待ってるぜ! 世界と戦う為には、イナズマジャパン全員の力が必要だからな!」
「頑張ろうね、緑川くん! もう一度みんなと一緒にプレーするために……!」

僕もこんな怪我すぐに治して見せるよ、と吹雪は松葉杖に支えられた足を見下ろして微笑む。
しばし呆気に取られていた緑川は、円堂や吹雪の輝くような表情に眩しそうに目を細め、嬉しそうに笑って見せた。

「七転び八起き──諦めなければ必ず道は開ける、か。よし! きっとみんなに追いつくから!」
「うん!」

若草色のポニーテールを靡かせて振り向いた緑川は、ヒロトと固い握手を交わす。

それらを微笑ましく眺めていた佐久間が、ふいに「ところで」と思い出したように織乃を振り返った。

「御鏡、さっきマネージャーたちに随分詰め寄られていたが……何かあったのか?」
「えっ!?」

途端、織乃はギョッとしたように目を見開く。
そして未だに目敏くこちらに視線を投げ掛け続けている春奈、そして明後日の方向を見ている──ほんの少しだけ耳の端を赤くした鬼道に視線をやると、引き攣った笑みを張り付けた。

「た、大したことじゃないですよ! あは、あはは……」
「……ふぅん、そうか」

裏返った声に一拍空け何か察したらしい佐久間は、呆れたようにすがめた目を一瞬鬼道に向けて肩を竦める。
その様子を眺めていた吹雪は、やや考え込んだ後そっと鬼道の隣に移動した。

「鬼道くん」
「……何だ」
「おめでとう」

ぎゅむ、と普段から皺が寄りがちな鬼道の眉間に、更に深い皺が刻まれる。

「……どうも」
「んぇ? ん? お前ら、何の話してるんだ?」

水面下で行われたらしい2人の密談に、円堂と染岡は不思議そうに首を傾げた。ヒロトと緑川は赤い顔で俯いてしまった織乃を見やり何かに感付いたのだろう、釣られたように頬を赤らめて苦笑する。

そんな風に、空港のあちこちで家族や友人との三者三様な別れが粗方終えたところで、手続きを終えた久遠と響木が戻って来た。

「全員集合! これより出発する!」
「はい!」

召集を掛けた久遠に、選手たちは表情を引き締めて答える。
行ってらっしゃい、と鈴を鳴らすような幼い子供の声はきっと夕香のものだろう。選手たちを乗せ、イナズマジェットはついに遠い空へ飛び立った。




──一方、海を越えた遥か南の島。
燦々と太陽の日差しが降り注ぐ中、大きなパラソルの下でノートパソコンと向き合う少女がいる。
作業が一段落したのか、少し崩れた前髪を直し傍らのフルーツジュースに手を伸ばした彼女は、ふと大きめのサングラスをずらして青々とした空を見上げると、柔らかな微笑みを浮かべた。

「(やっと会えるのね。円堂くん……!)」




ライオコット島は日本から南東に位置する、本島とそれを囲む5つの小島から成る諸島だ。別名『サッカーアイランド』とも呼ばれているが、そう呼ばれ始めたのはごく最近のことである。

かつて島に住んでいた島民たちはもう何十年も前に別の土地へ移住しており、ある程度整えられた土地と豊かな自然に目を付けた世界サッカー協会が、FFI世界大会のために島を丸ごと買い取り会場にしたそうだ。
数年前から行われていた工事は予選が繰り広げられている間も急ピッチで進められており、ついに始まる世界大会を前に満を持して会場として完成したらしい。
穏やかな気候と豊富な資源は観光地としても一目置かれており、きちんと正規の手続きを踏めば移住も許されているそうで、既に移住を決めた人々も少なくない。

「──うわぁ、すっげー!!」

日本から約4時間の空の旅。
とうとうライオコット島の空港に降り立った円堂たちイナズマジャパンは、自分たちを出迎えた異国の空気に歓声を上げた。

選手を始め、多くの観光客たちを迎えるメインエリアは南国らしい雰囲気が漂っているが、そんな中でも街のあちこちにはサッカーボールを思わせる装飾が点在し、サッカーアイランドの名前に劣らない徹底振りがなされている。
中でも一際目立つのが、空港前のターミナル中央には地球儀とサッカーボールを模した巨大なモニュメントだ。
訪れた観光客たちは、そのモニュメントを背に思い思いに写真を撮り、あるいは他の国のサポーターや現地のスタッフと交流を図り、島の雰囲気を楽しんでいる。

「サッカーアイランドか……その名に相応しい島だ」
「ここに集まってくるんだな。世界に選び抜かれた、最高のプレーヤーたちが……!」

辺りを見回して満足げに口角を上げた鬼道に、風丸が目を輝かせて呟く。
遂に世界に来たのだ。その実感が、彼らの胸を震わせる。

「せっかくだ、宿泊地に向かう道すがら他のエリアも軽く見て回るか」
「良いんですかっ?」

響木の思い付きに円堂を始め子供たちが勢い良く振り向くと、今回もキャラバンの運転手を買って出た古株が笑顔で頷いた。
やはり来たからには観光地としても楽しみたい気持ちもあったのだろう、円堂たちは軽い足取りでキャラバンへ乗り込んでいく。

「はいっ! 不肖音無春奈、僭越ながらここはライオコット島の解説を務めさせて頂きますっ!」
「お、良いぞー!」
「解説って、パンフレット読むだけじゃん」

席へ着くなりパンフレットを握り締めた片手を振る春奈に、土方が合いの手を入れ木暮がぼそりと突っ込む。
「そこ、水を差さない!」ぴしゃりと言って空咳で喉を整えた春奈は、キャラバンの出発と同時にパンフレットを開いた。

「ここが島の中心となる、セントラルストリートです。異国情緒溢れてますね!」
「南の島って感じだな……! 良いじゃねーか、元気出てきたぜ!」

沖縄の市街地を思わせる風景が気に入ったのだろう、先程まで自身が最も苦手とする飛行機での旅ですっかりグロッキーになっていた綱海は気力を取り戻したのか、嬉しそうに窓の外を眺める。

各チームの特色を盛り込んだ風貌のサポーターたちの姿が目立つセントラルストリートをしばらく進んでいくと、風景は先程とは打って変わり赤煉瓦の建物が立ち並ぶウェスタン風の街並みへと様変わりした。

「あれ……南の島じゃなくなったぜ?」
「よく気が付きましたね。何とこの島は──」
「出場チームが最大限に力を発揮できるように、そのチームが滞在するエリアには母国と同じ街並みを再現しているそうですよ!」

満を持して用意していた台詞を取られ、涙をのむ目金に構わず、見てください、と春奈は外を指差し目を輝かせる。

「まるで映画のセットみたいです! すごいなぁ……!」
「ここはアメリカ代表のエリアなんだね」

街を行き交う人々も、風景に合わせたのかウェスタン調の格好をしている人間がちらほら見える。西部劇みたい、と溢した織乃が小さく笑った。

大きな橋を渡り、次に訪れたのは先程のアメリカエリアとはまた違う落ち着いた色合いの街だ。

「ここはイギリスエリアですね! 街並みを再現するために、本国から取り寄せた煉瓦を使っているそうです」
「へぇー!」

風丸が物珍しそうに建物を眺めたが、流石に素人目からでは煉瓦の違いは分からない。
メインストリートには休憩所が点々と設置されており、パラソルの下で紅茶とスコーンに舌鼓を打つ観光客たちの姿が見える。

「落ち着いた雰囲気が、歴史と伝統を感じさせるわね……」

こういうところでゆっくりとティータイムを楽しめたらきっと素敵だろう。うっとりと秋が呟くのと、後部座席から大きな腹の虫が聞こえてきたのはほぼ同時だった。

「紅茶も良いッスけど……」
「何だか腹減って来たなァ」
「はいッス……」

腹を抱えて溜め息を吐く壁山に、綱海が同じように頷く。その隣の席では土方がいつの間にか鼾を掻いて寝こけており、ロマンチックな空気を壊された秋はガックリと肩を落とした。

更に進むと、風景は水路の多い明るい色合いの街並みへと変わった。細い水路を進む特徴的な小舟を見た織乃が、あっと声を上げる。

「ゴンドラ……ってことは、ここって──」
「はい! お察しの通り、ここはイタリアエリアです。地中海の街並みが正確に再現されています!」

へぇ、と織乃は感心したように窓の外を眺めた。ある程度元より誇張されてはいるが、確かに良く作り込まれている。

「凄いですね、この島!」
「ここにいるだけで世界旅行が出来るじゃねーか」

今まで見てきた街並みに、虎丸や染岡が感嘆の声を上げる。この施設の充実振りを考えると、移住を決める人々が多いのも納得だ。
その時、楽しそうに外を眺めていた円堂が、あっと短く声を上げて腰を浮かせた。

「古株さん、止めてください!」
「どうした、円堂?」

円堂のリクエストに応え、キャラバンは路肩で停車する。
不思議そうに首を傾げる隣席の風丸に、円堂は窓を大きく空けてそこから半身を乗り出した。

「ほらあれ、見てみろよ!」
「あれは……?」
「恐らく、イタリアの代表チームだな」

円堂が指差したのは、遠くに見えるサッカーフィールドだった。
整備されて間もないのだろう、青々とした芝生を青いユニフォームを身に纏った選手たちが駆け回っている。
その顔こそよく見ることは出来ないが、選手たちの声はキャラバンまではっきりも届いてくる。

円堂は遠目に見える選手の1人が、プレーしながら仲間たちへ事細かに指示を出しているのに気付いて目を輝かせた。

「あいつ、フィールドの真ん中にいるのに後ろのDF陣の動きまで見えてるのか!?」
「まるで、後ろにも目があるみたいだ……!」

腕にマークが窺えないことからキャプテンではないのだろうが、その選手自身の動きも卓越しており、相当な実力の持ち主であろうことが窺える。
それを観察しながら、聞いたことがある、とふと口を開いたのは佐久間だ。

「世界のトップレベルの中にはいるそうだ。空から見ているかのように、フィールドの全てを見ることが出来るプレーヤーが……」
「フィールドの全て……」
「俯瞰視点、というやつですね」

呟いた鬼道に、窓に張り付いた織乃が答える。
俯瞰で物を見るということは才能で片付けられることも多いが、間接視野を鍛えれば決して出来ない芸当ではない。ただ、それを習得するには努力と根気が必要なのも事実だ。
あの選手は前者か、後者か。どちらにせよ、あれが世界レベルであることには変わりないだろう。

「ふかんしてん……鍛えたら俺も出来るようになるかな? なぁ御鏡! ……御鏡?」
「……どうしたの? 織乃ちゃん」

返ってこない答えに円堂がそちらを見ると、丁度同じようには不思議に思ったらしい冬花が織乃に声を掛けた。
織乃は目をうんと細めながら、食い入るようにフィールドの選手を見つめている。

「いえ……何だかあの人、どこかで見たことがあるような……」
「そう言えば、御鏡はイタリアのサッカークラブを手伝ってた時期があったんだったな。案外そのクラブの選手が代表に選ばれたんじゃないか?」

やや冗談めかして言った佐久間に、「どうでしょう……」と織乃は難しい顔をしたままだ。
確かにプレーや声はイタリアの友人に良く似ているが、顔が見えない以上ただその二点が似ているだけという可能性も否めない。

「もういいかい? そろそろ出発するぞ!」
「あ、はい!」

腕時計をちらりと見た古株に急かされ反射的に円堂が答えると、織乃がうんうんと考え込んでいる間もなくキャラバンは出発し、フィールドはあっという間に見えなくなる。

それから走ること十数分。
日もすっかり落ちた頃、キャラバンは遂にイナズマジャパンの拠点となる宿福≠ヨと到着した。

全体的に和風で纏まっているものの、所々に和洋折衷が入り交じったような装飾が施されているのは、きっと日本対韓国戦が予選の一番最後──昨日終わったばかりで、ギリギリまでどちらが代表に選ばれるか分からなかったことに原因があるのだろう。

「やっと着いたでヤンス!」
「お腹ペコペコッス……」

続々とキャラバンから降りた選手たちは、久遠から順に手渡された鍵の番号に従い割り振られた部屋に荷物を置きに行く。
小さな木製のナンバープレートが着いた鍵を手の中で弄びながら、織乃はふと秋がキャラバンのトランクから大きな紙袋を取り出したのに気が付いた。

「秋ちゃん、その紙袋は……?」
「ああ、これ? これはね……」

そう言いながら、秋は中身を袋から少し持ち上げて見せる。彼女の手が掴んでいたのは、使い古されたロープだった。

「あっ、それってキャプテンのタイヤ用のロープですか?」
「そう。絶対使うだろうと思って、持ってきておいたの」

タイヤ特訓と円堂は切っても切れないものだ。円堂は荷物を整理次第、すぐにでも特訓場所とタイヤを探しに出掛けるだろう。そうなればきっとこのロープが必要になる。

「なるほど、それを見越してわざわざ部室からロープを……愛ですねぇ」
「そうだねぇ」
「ちょ、ちょっと! そんなんじゃないってば!」

頬に手を当て、ほうとため息混じりに──からかうように言う春奈に織乃も悪乗りするものだから、秋はたちまち真っ赤になって言い返し、辺りを忙しなく見渡す。
幸いなことに、円堂は既に自室のある2階へ向かった後だった。

「ほら、早く夕飯作りましょ? みんなお腹空かせてるんだから……!」
「はーい」




夕食を終え数時間後、空に大きな月が昇った頃。

秋の用意したロープを片手に街を探索し、無事新たな特訓場所を見つけた円堂が宿福へ戻ってきたタイミングを見計らい、イナズマジャパンは再びキャラバンに乗り込みFFI本戦開会式が行われる会場へと向かった。

会場上空では花火がいくつも打ち上がり、まだ開会式始まってもいない内から観客たちの歓声が夜空にこだましている。

「──はい、入場の説明は以上です。こちらがイナズマジャパンの旗になります。旗は入場と同時に肘の位置で掲げて、ラインに着いたら降ろすようにお願いします」
「はい!」

関係者用の入り口から会場入りし、受け付けで大きな旗を受け取った円堂は嬉しそうにそれを見上げた。
身の丈より少し短めな旗竿、括り付けられた大きな旗。それなりの重量はあるが、常日頃から体を鍛え尚且つテンションが最高潮に登り詰めている円堂に取っては大した問題ではない。

ピッチへと繋がる少し薄暗い廊下を進むと、マイクで拡大された実況の声が響いてきた。

『さあ! 全世界が注目するサッカーの祭典、フットボールフロンティアインターナショナル世界大会! 予選を勝ち抜いた強豪10チームが、サッカーの為に作られたこの聖地ライオコット島で激突します!!』

どうやら他のチームの会場入りがもう間もなく始まるらしい。実況者は観客の歓声に負けないよう、良く通る声を張り上げる。

『実況は私マクスター・ランド、解説はヨーロッパリーグMVPストライカー、レビン・マードックさんでお送りします!』
『よろしく!』

マードック、とふと耳に届いた名前を反復した豪炎寺に、円堂が「有名な人なのか?」と振り向いた。

「何年か前の世界大会を最後に引退した選手だな。日本ではあまり話題にならなかったが、海外ではかなり名の売れた選手だ」
「へ〜、流石世界大会ってなるとそんなすごい人が解説してくれるんだな……!」

円堂の疑問に答えたのは鬼道だ。よくよく考えたら解説付きの試合に出場するのは初めてかもしれない。何とも言えないむず痒さに、円堂は口を緩める。

会場にはついに選手一団がピッチに姿を現したらしい。観客の歓声は更に大きくなり、ビリビリと空気を震わせた。
1番手はブラジル代表のザ・キングダム、続くはイタリア代表オルフェウス。オルフェウスの旗手の紹介がされたところで、織乃がカッと目を見開いたことには誰も気付かない。
さらに実況による各チームの紹介は続く。アルゼンチン代表ジ・エンパイア、イギリス代表ナイツオブクィーン──そしてとうとう、イナズマジャパンの順番が回ってきた。

「──全員揃っているな」

直前、久遠は整列した選手たちを振り向いた。
はい、と返ってきた僅かに緊張の入り交じる返事に、彼は無言で頷く。

「よし……! 行こうぜ!!」
「おう!!」

旗を掲げた円堂を先頭に、イナズマジャパンは幾台ものライトに照らされたピッチへと入場した。

「どれ……俺たちは控え室で見学するとしよう」
「はいっ」

選手たちを見送り、踵を返した響木にマネージャーたちは早足で着いていく。
関係者用に、といくつか解放された控え室へ入りモニターの電源を入れると、丁度アメリカ代表ユニコーンがピッチに入るところだった。
真っ先にその選手の中に見知った顔を見つけた秋が思わず大きな声を上げる。

「──一之瀬くん、土門くん!」
「えっ!?」

釣られてユニコーンの選手たちを注視すれば、成る程確かに列の中頃に白いユニフォームを着た一之瀬と土門の姿があった。

「お知り合いですか……?」
「2人とも、元々雷門イレブンに所属していたんです。でも何ヵ月か前に、大切な用事があるとかでアメリカに行ってしまって……」

それがまさか、こんな形で再会するとは。織乃は冬花の問いに答えながらも、目を丸くしてモニターを見つめる。恐らくその大切な用事≠ニ言うのも、この大会に関わることだったに違いない。
サプライズ成功だな──そんな2人の声が聞こえたような気がして思わず笑ってしまいそうになった次の瞬間、織乃の口があんぐりと空いた。

「……や、やっぱりフィディオさんだ!?」
「え?」

目を剥いた織乃が叫ぶのに釣られてモニターを観ると、カメラがオルフェウスの旗手に寄ったところだった。
うわあ、と感嘆とも驚きとも取れる何とも言えない声を漏らす織乃とモニターを交互に見て、春奈がやや慌てた様子で尋ねる。

「じゃあ、イタリアのサッカークラブのお友だちって、あの人のことだったんですか?」
「う、うん……うわぁ、マルコさんとジャンルカさんまでいる……」

そう言えば、いつか中田から渡されたフィディオたちからのビデオメッセージで、彼は重大発表があると言っていた気がする。
これがその重大発表か、と呆然とする織乃の耳には、春奈の「早速お兄ちゃんに手強そうなライバルが……」と言う呟きは届いていない。

とにもかくにも、これで参加チームは全て揃った。
国は違えど、ピッチに並び立つ選手たちが胸に抱くのは同じ思いだろう。
ついに世界での戦いが始まろうとしている。自分たちはこの激戦を勝ち抜き、頂点に立つのだ。

花火の打ち上がる空を見上げ、円堂はゆっくりと熱気の混じる空気を吸い込む。
『円堂大介さんは生きている』──思い出すのは、夕飯前に密かに再会した夏未の言葉だ。何故彼女が他の仲間たちに自分と会ったことは伏せてほしいと頼んだのか、その理由は分からない。
けれど、彼女の調べた情報は、高みを目指す円堂の心を更に熱く燃え上がらせた。

「(待っててくれよ、じいちゃん……必ず世界の天辺まで行くからな!!)」

祖父はきっと、この会場のどこかにいる。頂上で待つ──その約束を果たした時こそ、自分は写真の中でしか知らない祖父と会うことが出来る。
そんな漠然とした予感を胸に、円堂はこれから始まる戦いに心を踊らせるのだった。




時を同じくして、会場の一角、照明を落とした薄暗い部屋。

大きなモニターの淡い光に照らされながら、今まさに行われている開会式の様子を眺める2人の男がいる。
1人は大きな椅子に腰掛ける長い髭を蓄えたやや年老いた男。もう1人は、椅子の傍らに控えた小太りの男である。小太りの男は、少し突き出た腹を揺らして笑うように言った。

「いよいよ始まりますな……ガルシルド様」
「……ああ」

ガルシルド──そう呼ばれた男は、しゃがれた声で頷く。
髭で隠れた乾いた口唇を三日月のように曲げた男は、モノクルをぎらりと輝かせモニターを見つめた。

「この開会式は、私の計画の始まりの儀式でもあるのだよ。ヘンクタッカーくん──」

少年サッカーの世界一を決める、フットボールフロンティアインターナショナル。輝かしいその舞台の裏で大きな闇がその鎌首をもたげたことを、少年たちはまだ知らない。