VS.The empire

イタリアエリアの町並みを、明るいグリーンの小型バスが走り抜けていく。
オルフェウス専用の移動用車両。乗り込んでいるのは円堂らと、バスを港まで回すために付き添ってくれたフィディオだ。

「──うん……うん、分かった。2時35分の船に乗れば、3時前にはヤマネコ島に到着するんだな?」

合宿所に残り、船の出港時間を調べる仲間とフィディオは険しい表情を浮かべ携帯電話で連絡を取っている。
港への到着を待つしかない円堂たちは、それをただじっと押し黙って見守っていた。

『ただし、それに乗り遅れたら次の船は4時半……次の便が最初で最後のチャンスってことだ』
「……分かった、ありがとう」

最後に小さく頷き携帯をポケットに入れたフィディオは、「飛ばして下さい!」と前方の運転手に声を掛ける。
ぐん、と背中が背凭れに押し付けられる感覚。姿勢を直しながら、円堂はホッとした様子でフィディオに言った。

「ありがとう、フィディオ。お陰で何とか間に合いそうだ」
「ありがとうだなんて……元はと言えば、俺たちのせいで」
「それは違う」

目を伏せがちにしたフィディオの沈んだ声を遮ったのは鬼道だった。未だ警戒を解いていない顔で、彼はフィディオを見据える。

「全ては仕組まれたことだった……俺たちが影山を見た、あの瞬間からな」
「影山のやりそうなことだ……」

イタリア代表の座を奪おうとしたこと、円堂たちを拘束し試合に出れなくすること。どちらの優先順位が上だったのかは分からないが、何にせよこの2つの出来事を同時に進行する機会を得たことは影山にとって渡りに船だったに違いない。

「フィディオも気を付けろよ。またどんな卑怯な手を使ってくるか分かんないからな」
「……ありがとう、マモル」

忠告する円堂に一瞬頬を緩めたフィディオは、正面に向き直り真剣な顔をする。

「でも、負けはしない。彼がどんな手を使っても、俺たちは俺たちのサッカーを貫くだけ。……そして、決勝トーナメントへは必ず行く!」

そう言って拳を固めて再び笑みを向けるフィディオに、「お前、やっぱスゲーやつだ!」と円堂は釣られたように破顔した。

「……それにしても、妙ですよね」
「妙って?」

そこでぽつりと呟いたのは織乃だ。後ろの座席から尋ねてきた佐久間に、彼女は眉間に皺を寄せながら答える。

「今の影山さんは、あくまでイタリア代表の監督でしかない筈ですよね? それがどうして世界大会で試合の日程を変えるなんて大掛かりなことが出来たんでしょう……」
「それは……」

返答しかけた円堂が押し黙る。

以前FFの決勝戦の際、影山は試合直前になって会場の場所を変更すると言う強引なことをやってのけた。
だが、あれはあくまで当時の彼が大会の運営を取り仕切るトップだったから出来たことだ。今の一介の監督業を担っているだけの影山が、世界大会でそれほどの権力を持っているとはどうしても考えにくい。

「ふん……ヤツのことだ、大方スポンサーでもついてて、そいつらからしこたま搾り取ってるんだろ」

鼻を鳴らし、不動が興味無さげに吐き捨てる。
流れる景色に視線をやった織乃は、窓ガラスに映った難しい顔の自分と睨み合った。

「(スポンサーか……)」

思えば、影山の今までの暗躍や資金繰りには謎が多すぎる。スポンサーがいると言う不動の言葉は的を得ているのかもしれない。

バスはイタリアエリアを出て、港へと続く森の道へと差し掛かる。

「この森を抜ければ、港はすぐそこだぞ!」

そう明るい声を掛けてくるのは運転手だ。フィディオは携帯を覗き込み、安心した様子で言った。

「まだ6分ある。これなら間に合うな……!」
「ああ!」

一時はどうなることかと思った、と円堂が苦笑いしていると、突然バスが赤信号を前にしたわけでもないのに減速を始める。
やがて完全に停まってしまったバスに、一同は不思議そうに運転席を見やった。

「どうしたんですか?」
「事故みたいだな……」
「えっ!?」

目を丸くした円堂が開け放した窓から体を乗り出し、前方を覗き込む。
遥か遠くにチカチカと見える救急車の赤いランプ。それに伴い、何台もの車が列をなし立ち往生しているのが見えた。

「くっ……こんな時に!」

渋滞は解消される様子はなく、寧ろオルフェウスのバスの後ろにも続々と後続車が集まってきている。
こうしている間にも船の出港時間は刻一刻と迫ってきている。円堂は車の列で埋まった道を睨み付けた。

「……行くぞ!」
「マジかよ!?」
「それしかないだろうな……御鏡、行けるか?」
「へ、平気です!」

「ありがとうございました!」運転手への礼もそこそこに、円堂たちはバスを飛び出して行く。

「最悪なタイミングです……!」
「まさかこれもあいつの──」
「喋ってる暇があったら走りやがれ!」

車道の脇を走り抜ける円堂たちを、渋滞に捕まった車の運転手や同乗者たちが不思議そうに見送っていく。
途中で事故の処理に来た警察であろう声が彼らを制止するのが聞こえたような気がしたが、今はそれに応えている余裕はない。

やがて森が終わり、目的地である港へ辿り着くと、遠目に見えた停泊所にまだ船が停まっているのが分かった。

「──船だ!」
「間に合ったな……!」

これで時間内にスタジアムに着ける──そう安心したのも束の間、汽笛を鳴らし船が動き出す。
「おい嘘だろ!」ギョッとした円堂たちはそれでも諦め切れず走り続けたが、船は止まらない。そのまま港を出てどんどん小さくなっていくその姿に、彼らは呆然と立ち尽くした。

「そ、そんな……」
「……次の船は、確か」
「4時半出港だな……」

5人は息を切らしながら肩を落とす。これでイナズマジャパンは、キャプテンと司令塔を両方欠いた状態で戦うことを余儀なくされてしまったのだ。
フィディオはそんな彼らを見て、居たたまれなさそうに視線を外す。テトラポットに波がぶつかり砕ける音が、より彼らの悲壮感を強めた。

「……なぁ、ここの待合所ってテレビあるかな?」
「え? あ、ああ……あったと思うけど」

ふと思い付いたように尋ねた円堂に、フィディオは虚を突かれたのか肩を小さく揺らして答える。
分かった、と頷いた円堂は、仲間たちを振り返り励ますような明るい声で言った。

「行こうぜ、みんな。試合に出られないことは悔しいけど……今回は、あいつらに任せよう。大丈夫さ、風丸たちならきっとやってくれる!」

どん、と胸を叩いた円堂は歯を見せて笑う。口ではそう言っても、彼にも少なからず不安はあるだろう。今までキーパーとして出なかった試合や一時的に控えに置かれた試合はあっても、試合の現場にいなかったことは一度もなかったのだから。

「……そうだな。俺たちがいない状況でチームがどう機能するのか、確かめる良い機会かもしれない」
「ちっ。仕方ねえな……」

顔を見合わせ、鬼道たちは円堂に続き待合所へ歩いていく。
その背中を申し訳なさそうな表情で見送るフィディオの肩を、織乃の手がそっと叩いた。

「フィディオさん、私たちなら大丈夫です。……行きましょう?」
「……ああ。そうだね」

豆粒ほどの小ささになって水平線の向こうへ消えた船を一瞬振り返り、頷いたフィディオは織乃と連れ立って円堂たちの後を追い掛けた。




──午後2時58分。
ヤマネコ島、ヤマネコスタジアムでは突然の試合日程の変更があったにも関わらず、両チームのサポーターが挙って観客席を埋め尽くしていた。

「両チーム、グラウンドへ!」
「!」

審判から掛かった声に、イナズマジャパンの面々はハッとそちらを振り返る。

日程の変更を知らされて数時間。風丸たちは円堂たちの帰りを待ち続けていたが、彼らはついぞ戻ってくることはなかった。
そして更に不幸なのは、監督である久遠と響木も昼頃から合宿所を留守にしておりこの場にいないことである。
マネージャーの誰にも、特に久遠など娘の冬花にすら何も伝えずに姿を消したのだから、余程急な用事が出来たのだろう。それにつけてもあまりに最悪なタイミングだ。

アルゼンチン代表であるジ・エンパイアの選手たちは、そんなことも露知らず続々とフィールドに入って行っている。

「どうするッスか……」
「風丸さん……!」

後輩たちに困った視線を向けられ、風丸は思わず俯いた。
帰還を信じていた円堂たちも来なかった。監督2人にも連絡が取れず、今頃どこにいるのかさえ分からない。今まで頼りにしてきた者がいないこの奇特な状況に、風丸は唇を噛む。

「(一体、どうすれば……)」
「──やるしかないだろう」

答えあぐねる風丸の背中を押すように言ったのは豪炎寺だった。
顔を上げた風丸に対し、豪炎寺はもう一度同じ意思を示すかのように険しい表情で小さく頷いている。

「そりゃあそうだけど、監督もキャプテンもいないんじゃ……」
「だからどうした!」

弱々しく反論する木暮に、珍しく強い口調で言ったのは綱海だった。
肩を竦めた壁山と栗松、木暮の3人に近付いた綱海は、威圧するように腰に手を当てて彼らを見下ろす。

「キャプテンキャプテンって、お前らだって日本代表のメンバーだろ。だったら意地を見せてみろ、意地を!」
「……」

でも、と居心地悪そうに顔を見合わせ、足元に視線を落とす壁山たちの表情は暗い。綱海は少し目尻を釣り上げ、更に続けた。

「俺たちにはなぁ、円堂たちだけじゃねえ。吹雪や緑川、砂木沼たち! みんなの思いが掛かってんだ! 今その思いに答えなくて、いつ応えるんだ!?」
「う……」

押し黙り、肩を落として反省する様子を見せる3人を見て、綱海は頭をがしがしと掻いた後ふっと表情を緩める。

「……なーんてな。ま、いずれにせよだ。乗り掛かった波は、越えるしかねえってことだ」
「……! は、はい!」

「綱海くん……」にか、と最後に笑って見せる綱海に、3人の表情も僅かに明るくなる。何だかんだ言って、彼はチームでは最年長の『先輩』なのだ──彼らしい励まし方に、秋が小さく微笑んだ。

「風丸」
「……ああ」

再度声を掛けた豪炎寺に、風丸は小さく頷く。
その顔にはもう迷いはない。風丸はベンチに歩み寄ると、念のためにと持ってきておいた赤いキャプテンマークを自分の腕に巻いた。

「ジ・エンパイアの強さは、何と言っても予選大会を通してこれまで失点0の強力ディフェンスです!」
「この試合は、そのディフェンスをいかにして破るかに懸かっていると言っても良いでしょう!」
「任せとけ! そんなディフェンス潰してやるからよぉ!」
「ああ!」

ポジション決めが終わり、春奈や目金が事前に調べた情報を開示すると、染岡や豪炎寺が力強く頷いて応える。
中にはまだ不安を捨てきれていない選手もいるだろう。だが、ここまで来たらやるしかない。風丸は仲間たちの顔を見回し、声を張り上げた。

「それじゃあ行くぞォ!!」
「おおッ!!」

拳を振り上げ、イナズマジャパンはついにフィールドに駆け込んでいく。
それぞれが自分のポジションに着く中、壁山は隣を走っていた立向居の表情がまだ優れないことに気が付いた。

「……大丈夫ッスよ、立向居くん! あんなに特訓したんだし、絶対守れるッスよ!」
「立向居、頑張るでヤンス〜!」
「ファイト、ファイトー!!」

背後からの声に振り向けば、テクニカルエリアで控えの栗松と春奈が大きく手を振っている。
この数日間、壁山や栗松や木暮、そして綱海と春奈はほぼ付きっきりで自分の特訓に付き合ってくれた。その時間が無駄に終わるわけがない。意を決し、立向居は応援してくれる友人たちにしっかりと頷いて見せた。

「みんな、気合い入れて行くぞ!!」
「おう!!」

青空にホイッスルの鋭い音が高らかに鳴り響く。
キックオフはイナズマジャパンからだ。初手から短いパスを繋ぎ、イナズマジャパンは敵陣の中盤へ攻め込んでいく。

「虎丸くんっ!」

土方からのボールを受け取ったヒロトが、前線右サイドの虎丸へパスを上げる。完全にフリーのFWへのパス──かに思えたが、虎丸がボールを受け取る寸前、彼の背後から飛び出したエステバンがパスをカットされてしまった。

「あいつ、いつの間に……!」
「っ戻るぞ!」

ジ・エンパイアのカウンターに、前線へ上がっていた選手たちは一斉に自陣へ駆け戻っていく。

「行かせねえぞぉっ! ブレードアタック!!」
「ぐわ──ッ」

一番先にゴール前に戻ってきたのは土方だ。振り下ろした踵落としは衝撃波を生み出し、ドリブルで攻め込んでいたレオーネからボールをカットする。

「豪炎寺!」

ボールが高く弧を描き、豪炎寺の元へ落下していく。
今度こそフリーだ。「ぃよし、獲った!」と綱海が拳を握り締めた瞬間、相手のゴールエリア付近からDFがカタパルト射出されたような勢いで飛び出して豪炎寺へのボールを奪い去って行く。

「くっ……!?」
「また取られた!」

ジ・エンパイアの選手たちは、彼らが思っていた以上に素早い。姿勢を低くしフィールドを駆け抜けるその姿は、まるで獲物を狙う狼のようだ。

その後もイナズマジャパンはボールを奪い返しては果敢に敵陣に攻め込んだが、ジ・エンパイアは多彩な技とスピードでことごとくそれを阻止し続けた。
鉄壁のディフェンス、ジ・エンパイア──その異名は伊達ではなかったと言うことだろう。

「(でもこのディフェンスを崩さなければ、勝つことは出来ない!)」

風丸自身も前線へ上がり、出来うる限りFWの3人にボールを繋ぐが、その度に相手のMFに止められてしまう。ゴール前に辿り着くことすら許されない。
お互い無得点のままではあるが、流れは完全にジ・エンパイアが掴んでいる。身動きの出来ない状況に、風丸は歯噛みした。

そうこうしている間にも、ジ・エンパイアは少しずつ前線を食い込ませてきている。
「風丸くん!」ドリブルで前へ進もうとする風丸に、ヒロトがハッと声を上げた。彼の前方に相手のMFが2人迫ってきている。

「くそ……っ」
「っ虎丸くん、フォローを!」

「え!?」予想以上に遠くから聞こえた声に、ヒロトは振り返る。いつの間にか虎丸は随分と前に出ていた。あそこからでは到底間に合わない。

「く……豪炎寺くん──」

直ぐ様ヒロトは豪炎寺を探したが、豪炎寺もまた虎丸と同じように前方で立ち往生していた。
とは言え、相手がフォローに来る選手を待ってくれるわけもない。一瞬の逡巡の内にボールは奪われ、ジ・エンパイアは更に前線を押し上げる。

「(どうして攻撃の起点もない内からあんなに前に──……そうか!)」

走りながら、とある考えに至ったヒロトは目を見開く。

今のイナズマジャパンには、チームの連携を操る要とも言える鬼道がいない。だからこそ彼らは──チームの全員が、焦っているのだ。
自分の力でこの状況を何とかしなければならない、と。

「染岡さん──」

攻め込むレオーネから壁山がボールをカットする。咄嗟にそれを正面を走っていた染岡に回そうとした壁山だったが、すぐ横からそれを制止する声が割って入った。

「こっちだ、壁山くん!!」
「えっ!?」
「風丸くん、上がれ!!」

声を掛けたのはヒロトだった。続け様に名前を呼ばれた風丸は、ヒロトの意図を察し前線へと駆け上がる。

「ヒロトさん!」
「ああ!」

「ロベルト!!」壁山からボールを受け取ったヒロトに、テレスが新たなMFをけしかけた。繰り出されたスライディングを飛び越えたヒロトは、サイドに走る風丸へボールを戻す。

「そう言うことか……!」

ヒロトのやらんとしていることに気付き、豪炎寺が動き始める。ヒロトはそれを視界に入れると、風丸と並走しながら言った。

「風丸くん、豪炎寺くんへパスだ!」
「ああ!」

風丸から豪炎寺へのパスが通る。ここへ来て連携が機能し始めたイナズマジャパンに、テレスは目を細め短く口笛を吹いた。

「ちょっとはまともなサッカーが出来るじゃないか……フリオ、ゴルド!!」
「おう!」

テレスの呼び掛けに答え、DF2人が豪炎寺の進路へと飛び出して行く。

「こっちだ、豪炎寺くん!!」
「……!」

後ろから聞こえたヒロトの声に、豪炎寺はすかさずヒールパスを繰り出した。
ボールを受け取ったヒロトは、豪炎寺に気を取られた2人のDFの横をドリブルで素早くすり抜けていく。

「(司令塔がいない今、俺がみんなを繋いでみせる!)」

チーム全体を見渡し、連携をスムーズにするのは本来司令塔である鬼道の役目だ。
だが、ヒロトなら──かつて長年キャプテンとして1つのチームをまとめ上げ導いてきた彼ならば、その代わりを担うことが出来る。

「行け、風丸くんっ!!」
「ああ!!」

ヒロトからボールを受け取った風丸は、向かってきたDF2人のチャージを風神の舞で退ける。
「豪炎寺ッ!!」ディフェンスラインは崩した。目指すはゴールだけだ。風丸はサイドへ走り込んでいた豪炎寺へボールを打ち上げる。

「爆熱──スクリューー!!」

唸るような熱を孕み、炎を纏ったシュートがジ・エンパイアのゴールへ直進する。だが、迫るシュートに腰を深く落として身構えたテレスは余裕の表情を浮かべていた。

「アイアン、ウォーーーール!!」

気勢と共に築き上げられた巨大な鉄の壁に、豪炎寺のシュートが大きく弾かれる。
目を見開くイナズマジャパンの視線を受けながら、テレスは落下してきたボールを片膝に乗せてバランスを取りながら不敵に笑った。

「何だよ、今の技……」
「豪炎寺さんの爆熱スクリューが止められた……!」

パワーもタイミングも申し分無かった筈の渾身のシュート。これでようやく流れを掴める、と抱いた希望が指の隙間から溢れていく。

「これがアンデスの不落の要塞>氛氈I」

眼鏡のフレームを押し上げ、険しい表情で目金が呟いたのはテレスの持つ二つ名。ジ・エンパイアが鉄壁のディフェンスと呼ばれるのも、キャプテンである彼の強力なディフェンスがあったからこそなのだ。

「これでもシュートかよ。小学生でももうちょっとマシなシュートを打つぜ」
「くっ……!」

鼻で笑うテレスに、豪炎寺はムッと眉間に皺を寄せる。
そして監督と目配せを交わしたテレスは口角を上げると、ボールを足元に降ろし突然短く指笛を吹いた。
すると、それに応えるように方々に散らばっていたジ・エンパイアの選手たちが一斉にその場で姿勢を低くした。

「──上がれェ!!」

雄叫びと共にボールが打ち上げられると同時に、彼らは走り出す。その走りは明らかに先程よりも速く、力強い。
パスを繋いだジ・エンパイアたちは、その速さに翻弄されるイナズマジャパンを瞬く間に抜き去っていく。

次々とイナズマジャパンのDFたちは突破され、気付けばゴールの前には立向居しかいなかった。

「止めて立向居くん!!」

思わずベンチから立ち上がった春奈が叫ぶ。緊張の面持ちで身構えた立向居に、FWのレオーネが迫った。

「ヘル──ファイア!!」
「ムゲン・ザ・ハンド!!」

炎を纏ったシュートに金色の腕が食らい付いていく。
けれど、その炎の威力は立向居の力を僅かに上回っていた。

「あっ──!」

咄嗟に腕を伸ばした立向居の肩口を掠めるかのように、ムゲン・ザ・ハンドを打ち破った必殺シュートがイナズマジャパンのゴールに突き刺さる。
鳴り響くホイッスルがやけに耳に刺さる。今大会で無失点を貫いてきたジ・エンパイアを相手に奪われた先制点は、あまりに重い1点だった。