VS. Dark angel

敵対していたはずのデスタたちと並び立ち、緑色の羽を背負い現れた天空の使徒。明らかに先程と様子の違う彼らに、円堂は動揺を抑えきれずセインに掛ける声が上擦った。

「セイン……セインなのか!?」
「──う」

円堂の声に、一瞬セインの目が大きく見開かる。蹌踉めいた彼は自分の額を押さえ、呻き声を上げた。

「エンドウ、くん……!」
「っセイン! どうした!?」

しばし苦しむように呻いたセインだったが、次に彼の口から漏れ出たのは『黙れ』と言う地を這うような声。
顔を上げたセインは、円堂と和解の握手を交わしたことなど忘れてしまったように敵意に満ちた目で彼らを見下ろしている。

「どうなってるんだ……!?」
「──魔界が天界を飲み込んだのだ」

背後から聞こえた嗄れ声に振り向くと、あの老人たちが今度は2人揃って佇んでいた。

「また出たっ!」
「お前たちは何者なんだ!?」

神出鬼没な出現に塔子がギクリと顔を引き攣らせる。警戒心を露わにした鬼道が尋ねると、老人たちは口々にこう答える。

「我らは天界魔界の儀式を執り行う者」
「そして、観測者様≠導く者」

「観測者?」豪炎寺が眉を顰めると、老人たちはふと左右に退いて恭しく頭を垂れた。
すると2人の間をすり抜けて、先程円堂たちの前に現れた謎の人物が再び姿を見せる。

「お前、さっきの……セインに何をしたんだ!?」
「何もしていないさ。私は、な」

円堂の問いかけに、その人物は顔を見せないまま静かに答えた。
どういうことだ、と眉を顰める円堂たちの疑問に答えたのは、跪いていた老人たちである。

「数刻前、この者たちは花嫁と生贄を奪われたことで、最早互いに相手を実力で封じようと考えた」
「古寄りの定めで、魔界は天界を、天界は魔界を憎む……その憎しみはデモンズゲート地中深くに溜め込まれていった」

ふとどこからか聞こえてきた風のうねる音に、春奈が小さく悲鳴を上げて兄にしがみつく。その音はまるで、この地下深くに潜む不気味な怪物が唸っているかのようだった。

「長い時間を掛けて満たされた、双方の憎しみは新たなる邪悪な力を生み出すこととなり……」
「均衡していた2つのバランスは崩れ、そして魔が天を呑み込み──世界を絶望に染める。その天魔の化身こそ、ダークエンジェルなのだ!」

瞠目して老人たちの言葉を聞いていた円堂は、信じられないような顔でセインを見上げる。
デスタは肩を揺らし、笑い声を上げた。それに呼応するように、雲もないのに彼の頭上に雷が落ちる。

「ついに……ついに復活したんだ。魔王様が!!」
「魔王……!?」
「ど、どこ? どこにいるっスか!?」

慌てて辺りを見回す一行を、デスタは鼻で笑う。そちらを見ると、彼はゆっくりと自分を手で指し示した。

「いるだろう? お前たちの目の前に!」
「まさか……!?」

その言動から導き出される答えに円堂がハッと目を見開くと、デスタは邪悪な笑みを浮かべ芝居がかった口調で言い放つ。

「そう──俺たちこそが、魔王だったんだよ!」
「ダークエンジェルが魔王だと……!?」

鬼道が声を上げると、ふいにセインがびくりと肩を揺らした。

「っ悪魔に意識を支配されるなど……何という事だ……!」

どうやら今の彼の意識は酷く不安定になっているらしい。僅かに正気を取り戻したセインは、苦しみながらも必死に叫ぶ。

「止めてくれ!! 我らの手が……汚れぬうちに……!」
「セイン!」

伸ばされた手に、円堂が咄嗟に叫ぶ。しかし次の瞬間、電流が走るように肩を跳ねさせたセインは、再び目に暗い光を宿していた。

「──く、ははは……はははは!」

突然笑い出したセインは、足下に転がっていたボールを拾い上げ、躊躇なく円堂目掛けて蹴り込んでくる。

「うわっ!」
「円堂!」

唐突なことに驚いたのもあってか、円堂はそのシュートを受け止めきれなかった。
後ろに弾き飛ばされてしまった円堂に、ギョッとした仲間たちが駆け寄っていく。

「ははは……お前たちの魂、寄越すが良い」
「っサッカーはそんなことの為に使うんじゃない……! 」

低い声で笑うセインに、円堂は唸るように言って起き上がり、声を張り上げた。

「お前は! 俺たちと試合してサッカーの楽しさを分かってくれたんじゃないのか!?」
「知らんなぁ……」

「セイン……!」冷たく言い放つセインに、円堂は歯噛みする。既に彼の心は闇に隠されてしまったのだろう、正気に戻る兆しはない。

「我らは魔界も天界も超えた存在、ダークエンジェル。 魔王なのだ!」
「デスタ」

高笑いするデスタに、ふいにフードの人物──観測者が声を掛ける。
デスタがピタリと笑いを止め、鬱陶しそうにそちらを見ると、観測者は顔を円堂たちに向けたまま続けた。

「はしゃぎすぎだ。お前のやるべき事を成せ」
「チッ……」

舌打ちしながらも反抗する様子はないデスタに、鬼道は眉を顰める。自身を魔王と称する割には、あの人物に対してはやけに従順だ。

「観測者、と言ったな……お前は一体何なんだ? お前が全ての元凶なのか!?」

語気を強め、尋ねた鬼道に観測者はちらりと彼を一瞥する。そして、観測者は小首を傾げ、小さく笑いながら言った。

「全ての元凶、か……ふふ、そう言われればそうなのだろう。だが、私がここで成すべき事はたった1つ」

ばさり、と観測者はそこでフードを脱ぎ捨てる。露わになったその素顔に、円堂たちは言葉を失った。

「この儀式──千年祭を見届ける。それが、観測者としての私の役目だ」
「御鏡ッ!?」

目を見開いた鬼道を始め、仲間たちが次々とその名を叫ぶ。
観測者と呼ばれ、老人たちにかしづかれていたのは、山に入る際に別れた織乃だった。

「あ、あんた、一体どうしてもうたんや織乃!?」
「シキノ? ……ああ、この娘の名前か」

リカが叫ぶと、彼女はキョトンとして頬に掌を添える。まるで自分の名前を初めて知ったかのような反応に、鬼道はぎりりと拳を握り締め老人たちに向かって声を荒らげた。

「御鏡に何をした!!」
「導きの鍵≠フ役目は2つ……1つは、儀式に挑む者を彼の地へ導くこと」
「もう1つは、観測者様の器となること」

老人たちは交互にそう答える。
何だと、と眦を吊り上げた鬼道に、観測者は小さく口角を上げた。その表情も仕草も、明らかにいつもの織乃のそれではない。

「俺たちと別れた後、御鏡はお前に体を乗っ取られたと……そう言うことか!?」
「有り体に言えば、そうだな。案ずるな、儀式が終わればこの体は娘に返そう。まぁ──」

そこまで言って、彼女はひらりと跳び上がった。
まるで体重を感じさせない身軽さで砂時計の前に着地した観測者は、胸に手を添えて冷たく微笑む。

「お前たちがこの戦いに敗れれば、その限りではないが……な」

鬼道たちが息を呑むと同時に、観測者はパチンと指を鳴らした。
すると、突然頭上からスポットライトのような丸い光がいくつも地上を照らし、一行の逃げ場を塞ぐようにぐるぐると回り始める。

「な、何やこれ……!?」
「戦って分かった。お前たちの魂は素晴らしい──よって、我々がより完璧な魔王になるための生贄にしてやるぜ」

デスタが言うと、一瞬消えた光がばつん! と音を立て、困惑する一行の中から11人の選手を照らし出した。眩い光が目に刺さる。

「今の光に照らされたのが、選ばれた11人だ」
「選ばれた……!?」

声に笑みを含め、観測者が言う。
光に照らされたのは虎丸、壁山、テレス、吹雪、ヒロト、飛鷹、フィディオ、鬼道、不動、豪炎寺──そして円堂だ。
光に顔を顰めながら、円堂はデスタたちを見上げる。

「共にこの11人で儀式を行う。交代は無しだ!」
「さあ、昇天するが良い。お前たちが愛するサッカーでな……!」

デスタとセインがそう告げると、観測者はゆっくりと右手でフィールドを凪いだ。
その瞬間突風が吹き荒れ、円堂たちは思わず顔を伏せる。そしてそろりと顔を上げると、選ばれた11人はフィールドに、選ばれなかった残りのメンバーと春奈はラインの外へと移動させられていた。

「さあ、待ちに待った祭りの始まりだ。楽しませてくれよ、人間!」
「チッ……偉そうにふんぞり返りやがって」

両手を大きく広げ、観測者は高らかに言い放つ。
顔を顰めた不動は、それを見て鬼道を肩越しに振り向いた。

「テメーの彼女だろ、何とか出来ねえのか!?」
「それが出来るならとっくにやっている!」

反射的に声を張り上げ、鬼道は唇を噛んだ。不動もああは言っているが、どうしようもないことは分かっているだろう。
砂時計の前に腰掛け、頬杖を突いた観測者は楽しそうにフィールドを見下ろしている。まるで、本当にこの戦いを千年の間待ち望んでいたかのように。

「御鏡を助けるにも、俺たちが助かるにも……全ては、この試合で勝利するしかない。……円堂!」
「ああ。みんな、絶対に勝つぞ!!」

ばん、と両手を打ち鳴らし円堂が叫ぶと、おお、と仲間たちがそれに呼応する。ダークエンジェルは、それを薄ら笑いを浮かべ眺めていた。

「……これより、儀式を執り行う!」

双方の準備が整ったことを確認し、老人がホイッスルを鳴らすと同時に砂時計がぐるりと上下反転する。島の命運を賭けた試合の始まりだ。

「ダークエンジェルの力──」
「思い知るが良い!」

口々に呟いたデスタとセインは、勢い良くドリブルで切り込んでくる。
そのスピードはまるで光の如く、イナズマジャパンのFWたちが咄嗟に対応出来ないほどだ。

「速くなってる……!」
「パワーアップしてるのか!?」

デスタとセインは今まで憎しみ合っていたとは思えない息の合ったパス回しで次々とイナズマジャパンの選手たちを突破し、あっという間にゴールの前へ辿り着く。

「アカン、もうゴールの前や!!」
「円堂ーーッ!!」

テクニカルエリアのリカや塔子が声を張り上げる。
円堂は2人の怒濤の勢いに若干気圧されつつも、表情を引き締めて身構えた。

「恐怖しろ!!」
「そして魂に還るが良い!!」

跳躍したデスタはボールにエネルギーを集約させて、遠慮無くセインに打ち込む。落下してきたシュートへ、セインは光の力を乗せた蹴りを叩き込んだ。

「シャドウ──!」
「レイ!!」

黒白の光は螺旋状に軌跡を残し、ゴールに突進してくる。
迫る来るシュートに、円堂は渾身の力で右手を振りかぶった。

「イジゲン・ザ・ハンド≪改≫!!」

展開された分厚い障壁が、シャドウ・レイと激突する。
力が拮抗したのは束の間のこと、2人のシュートはイジゲン・ザ・ハンドを粉々に打ち砕き、イナズマジャパンのゴールを割った。

「あっという間に1点……」
「な、何やこいつら……」
「このスピード、破壊力……これがダークエンジェルの力なのか……!?」

文字通り瞬く間に先取点を奪われ、テクニカルエリアの面々も開いた口が塞がらない。
0対1に切り替わるスコアボードを見上げ、鬼道は唖然と呟いた。

「いいぜぇ、その顔! 恐怖を味わうほど魂は美味くなる……もっと恐怖しろ、もっと!!」

楽しげに肩を揺らして笑うデスタの隣で、セインも冷たい笑みを浮かべている。
円堂はそんな彼に、悲しげに表情を曇らせた。せっかく解り合えたと思ったのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう。

「──何ボーッとしてんだ、お前ら!!」

そんな中、ふいに不動が沈痛な空気を振り払うような、それでいて苛立ちを隠そうともしない大声を張り上げた。

「取られたら取り返す、それがサッカーってもんだろ!?」
「不動……」

彼にしては珍しく、熱く実直で分かりやすい鼓舞に鬼道が目を瞬く。彼もまた、それ程までにこの状況に腹が立っていたのだろう。

「っそうだみんな! 反撃だ!!」

その言葉で目が覚めた円堂は、弾かれたように声を上げた。
天使だの悪魔だの、島の命運だの、途方もないことに巻き込まれている実感は正直まだ沸かない。だが、このまま仲間を奪われているわけにはいかないのだ。

ボールを持った不動は、鬼道と並走し敵陣へ切り込んでいく。

「キラーフィールズ!!」
「ゴー・トゥ・ヘル!!」

渾身の力で放たれたボールは、闇の炎に撒かれ奪われていく。
パスを受け切り込んでくるウイネルにフィディオとテレスが当たりに行くが、ウイネルは2人掛かりのスライディングを跳躍してこれを回避する。そこへすかさず吹雪がスノーエンジェルを放ち、ボールは再びイナズマジャパンに戻ってきた。

「良いぞ、吹雪!」
「3人掛かりでやっとだがな」

吹雪に声を掛けた円堂は、セインの水を差す嫌味にぐっと唇を引き結ぶ。
だが事実、こんな調子では状況はさして好転しないだろう。ボールを持った吹雪はそのまま敵陣へ攻め込み、そこに豪炎寺が追走した。

「クロスファイア──≪改≫!!」

炎と氷のエネルギーを纏い放たれたシュートに向け、キーパーのアスタロスは冷静に手を翳す。

「ジ・エンド≪V2≫……」

歪んだ空間にボールは吸い込まれ、そこから出てくることはない。豪炎寺と吹雪は悔しげに顔を顰めた。

「やばい……向こうの方が上手や……」
「恐怖しろ、魂はますます美味くなる……!」

爪を噛み、ハラハラと呟くリカをデスタが笑い飛ばす。
こちらの焦りを楽しむデスタに、リカはムッと目を吊り上げた。

「タマシイタマシイしつこいッ! 何ならお好みソースもつけたろか、ああん!?」

我慢出来ずに突っかかると、デスタは笑みを浮かべたままぐるりと彼女を見た。
「な、何や!」怯むリカに、デスタは目を細め更に意地悪い笑みを浮かべる。

「こいつらが終わったら、お前の魂も美味しく頂く……!」
「ひっ!? ……う、うちは根性が腐っとるから魂はめっちゃ不味いで! こ、こっちの2人でどうや!?」

大慌てで言い返し、隣にいた塔子と春奈を引き合いに出すリカに2人はじっとりとした視線を向けた。
首筋に刺さる視線にぐっと身を縮こめ、彼女はわざとらしく咳払いをする。

「な……なぁんて、冗談や冗談! さあっ、一緒に応援や! 円堂、頑張れーッ」
「……万が一の時はあいつからだな」
「はい……」

くるりと身を翻し、選手たちを応援し始めるリカに塔子と春奈は密やかに決意した。

その後も果敢に攻め込むイナズマジャパンだったが、攻守共にレベルアップしたダークエンジェルを中々突破出来ない。

「シャドウ・レイ!!」
「ザ・マウンテン!!」
「真空魔ァッ!!」
「イジゲン・ザ・ハンド≪改≫!!」

再び放たれたデスタとセインのシュートに、壁山と飛鷹、円堂は同時に必殺技を繰り出した。
2重の防壁を突き破ったシャドウ・レイは威力を分散されたか、円堂の展開した障壁の上を滑りゴールの向こう側へと飛んでいく。

「助かったぜ、飛鷹、壁山……!」
「ほう……よく守った」
「だが、それもどこまで保つかな」

安堵しながら仲間に感謝を述べる円堂に、セインとデスタは薄ら笑いを浮かべる。円堂は眉根を寄せ、小さく肩を揺らしながら位置に戻る2人を悔しそうに睨み付けた。

「(こいつらの力は本物だ。簡単に点を取れる相手じゃねえ……)」

一方で、不動は苛立ちながらも試合を冷静に分析する。ちらりと前方にいる鬼道を見やるも、彼もまた流れを掴むべく頭を回転させている最中なのだろう、じっとダークエンジェルの選手たちを観察していた。

ダークエンジェルの怒濤の攻めに、防戦一方を強いられるイナズマジャパンにはただただ疲労と焦りだけが募っていく。

「──みんな、かなり疲れています。俺たちも戻って守りましょう!」
「よし……!」

ふらつく体に鞭打つ仲間たちを一瞥しながら、虎丸が豪炎寺やヒロトに進言した。
頷いた2人は連れ立って自陣へ戻ろうとしたが、そこへ不動が叩き付けるような声を上げる。

「来るんじゃねえッ!!」
「どうしてです!? こういうときこそみんなで協力して守備を──」
「お前たちは黙って前線にいやがれ! 邪魔だ!!」

取り付く島もなく怒鳴る不動に、カチンと来たらしい虎丸は眉間に皺を寄せた。
鬼道は焦る不動を見ると、無言で虎丸たちに歩み寄って声を掛ける。

「……不動の言う通りにしよう」
「鬼道さんまでどうして!?」

鬼道は不満そうな虎丸の言葉には答えず、無言で豪炎寺とヒロトを見やった。数秒視線を交えた後、2人は小さく頷く。

「──分かった」
「後ろは任せたよ」

そう短く答えた豪炎寺とヒロトは、反論もなく元の位置に戻って行った。

「豪炎寺さん! ヒロトさんまで……! もうッ知りませんよ!?」

虎丸は納得の行かない様子のまま、それでも感情のまま反抗することも出来ず先輩2人を追い掛けて行く。
それを見送り、戻った鬼道は不動と視線を交わすと小さく頷き合った。

「さて……ここからどうする? 人間たち」

片眉を持ち上げて、観測者は笑う。
試合が再開されても、状況は変わらず苦しいままだ。攻め込まれ続ける自陣の仲間たちに、虎丸は声に焦りを滲ませながら叫ぶ。

「もう限界ですよ! 俺たちも守備に協力した方が良いです!」
「今は耐えろ! それが俺たちの役目だ!」

今にも自陣へ駆け出しかねない虎丸を、豪炎寺が語気を強めて制止する。しかし彼もまたこの状況に焦りを覚えているのは同じなのだろう、眉間に深い皺が寄っていた。

やがて転がったボールをデスタが押さえ、彼はセインへ目配せをやった。

「おい、やるぞ──」
「ふん! また2人でシャドウ・レイか?」

そこへ挑発するような声音で言ったのは不動だ。額には汗が滲み、余裕を保とうとする表情は疲れで引き攣っている。

「1人で来いよ。それとも俺が怖いか……!?」
「息切れしているお前など、恐れることはない!」

にやついたデスタは単身ドリブルで切り込み、不動とぶつかり合う。不動はやはり体力の限界も近いのか、その一撃で膝を突いてしまった。

「ふん……話にもならないな。セイン──」
「……ッ!」

鼻で笑ったデスタがセインへボールを出した瞬間、不動は弾かれたように顔を上げた。
そのまま体を投げ出す勢いで起き上がった不動は、セインへのパスコースへ無理矢理体を押し込む。

「何……!?」
「へっ──ナイスパスだ」

「ふざけるなァ!!」あくまでも挑発する姿勢を崩さない不動に、癇癪を起こしたデスタが突っ込んでくる。
──その瞬間、にやりと口角を上げた不動は素早くバックパスを出した。刹那、そこへすかさず駆け込んだ鬼道がそのボールを攫っていく。

「なっ──!?」
「豪炎寺!!」

「虎丸、ヒロト!!」ボールがついに前線を守っていた豪炎寺に繋がる。既に駆け出していた豪炎寺はドリブルで駆け上がりながら声を張り上げた。

「グランド──ファイア!!」

薄暗いフィールドに反撃の炎が弾ける。
迫るシュートに、アスタロスは平静を崩さず構えを取った。

「ジ・エンド≪V2≫……!」

炎が歪み、小さくなる。しかし3人の放った渾身の一撃は、その歪みさえ呑み込む強力な爆炎だった。

「そんなっ……!?」

炎はアスタロスの体を押し退けて、ゴールネットを焦げ付かせる。1対1に切り替わるスコアボードを見て、観測者はじわりと口角を持ち上げた。

「やった!!」
「やっぱりな! あいつは出来る子やと思ったんや!」

何とかもぎ取った1点目に、仲間たちは喜びに盛り上がる。丁度そのタイミングで前半終了を告げるホイッスルが吹き鳴らされ、選手たちは強張らせていた体から一旦力を抜いた。

「前半終了です……! これなら後半も行けますよ!!」

何の準備もなく攫われてきた春奈には、応援することしかやれることがない。彼女はやや興奮した様子で励ますが、試合に出ていた選手たちの疲労が溜まっていることには変わりない。
呼吸を整え、鬼道は織乃を──観測者を見上げた。彼女は変わらず何を考えているのか分からない薄い笑みを浮かべ、両チームを見下ろしている。

「(待ってろ、御鏡。必ずお前を解放する……!)」
「──ところで、鬼道。こないな状況やから、詳しいことは後で聞くけどな?」
「なん、……」

ふと後ろから掛かった声に、振り向いた鬼道はキュッと唇を引き結んだ。リカがニッコリと微笑んでいる。

「うちは不動が、織乃があんたの彼女やて口走ったの、聞き逃さへんかったからな……?」
「…………」
「おい、こっち見んな」

鬼道の責めるような視線に、不動は顔をしかめてその場で座り込む。前半の最後であれだけ動いたのだ、口にはしなくとも疲労はピークに達しているだろう。
鬼道はリカからの視線を振り払い、そのまま円堂も交え不動と後半に向けて話し合いを始める。

「不動さんはあれを狙って……?」
「ああ」

虎丸は流れる汗を裾で無理矢理拭いながら、気怠げに座り込みつつも真面目に鬼道たちと意見を交わす不動を見やった。

「俺たちが守備をすることで疲労し、シュートの威力が弱まれば、あのキーパーからは得点を奪えなかっただろうな」
「俺たちの力を温存させる為だったんですね……」

頷いた豪炎寺が答えると、それならそうと言ってくれれば良かったのに、虎丸は苦笑する。
そんな彼の反応も、不動がどんな性格なのかいい加減分かっていたヒロトは小さく微笑んだ。

「行動で示す──それが不動明王だ」
「……はい! 俺、謝ってきます!」

素直に頷いた虎丸は、不動の元に駆け寄っていく。
不動が虎丸に頭を下げられて戸惑うのを眺めながら、ヒロトは笑みを顰めふと声のトーンを落とす。

「しかし、これで今と同じ攻撃は使えなくなったな……」
「奴らのレベルなら、一度見たら次は必ず対応してくるはずだ」

目を眇め、豪炎寺は少し離れた場所に集まったダークエンジェルたちの方へ視線を向けた。まだ同点とは言え、点を奪われてハーフタイムを迎えた彼らの空気は見るからに刺々しい。

「くそっ! 無敵の力を手に入れた筈なのに、よもや失点など……!」
「──一人一人の力が強いから勝つんじゃない。思いが1つになるから勝つんだ!」

苛立ったデスタが足下の岩に怒りをぶつけ足蹴にしていると、ふいに円堂は彼にそう言葉を掛けた。デスタはそちらを見ないまま、煩わしそうに眉間の皺を深くする。

「だからサッカーは面白いんだ!」
「面白い……?」

セインが胡乱げな目を円堂に向ける。円堂の言葉がまるで理解出来ないと言いたげな顔だった。

「我らのサッカーに面白さなど必要ない。サッカーは儀式……憎い相手を叩き潰す手段に過ぎないのだ!」

吐き捨てるように言うセインの瞳に宿る怪しげな光が、彼の言葉に呼応して更に強い光を放つ。
観測者はそんな彼らの様子を眺め、値踏みするかのように静かに目を細めていた。