The Master of Fate
「御鏡……」
砂時計の前に腰掛け、上機嫌でフィールドを見下ろしている織乃──もとい、観測者≠見やり、鬼道は唇を噛んだ。
今、織乃本人の意識はどこにあるのだろう。試合に勝てば体を返すとは言っていたが、本当に信じて良いのだろうか。そんな考えがぐるぐると頭を巡る。
「鬼道。始まるぞ」
「……ああ」
豪炎寺が短く声を掛けてくる。彼は同じように織乃を一瞥して、鬼道に視線を戻して小さく頷いて見せた。
そうだ、彼女を心配しているのは何も自分だけではない。鬼道は渦巻いていた思考を振り払い、ダークエンジェルを睨み付けた。
砂時計が反転し、後半の試合が始まる。
ボールをタッチするなり、ダークエンジェルは嵐のような勢いで突っ込んできた。彼らは次々とイナズマジャパンの選手たちにシュートと見紛うほどに鋭いボールをぶつけ、薙ぎ倒していく。
どうやら前半戦でイナズマジャパンに対する彼らの怒りは頂点に達したらしい。あっという間に選手の半数が地に伏して、それを見た豪炎寺は顔を顰め虎丸とヒロトへ叫んだ。
「これ以上は無理だ! 俺たちも守備に回るぞ!」
「はい!!」
頷き合った3人は急いで自陣へと駆け戻るが、最早デスタたちはルールなど構わずに、豪炎寺たちも同じように間髪入れず薙ぎ倒して行く。
「喚け! 叫べ! 恐怖しろ!!」
「ぐわぁッ!!」
フィールドの選手たちを倒し、その牙はついにゴールの円堂にも剥かれた。
ゴールを狙うわけでもなく、ただ円堂の体を傷付けるだけを目的に放たれたシュートは確実に彼の残った体力を削り取っていく。
「え、円堂さん……!!」
「アカン、やられっぱなしや!」
手も足も出ない選手たちにフィールドの外で待つ仲間たちも焦燥に駆られるが、交代を許されない以上、ただここで試合を見守るしかない。
「ふん……どうやらここまでのようだな」
「我らに刃向かった結果がこれだ。くはははは……!」
疲労と痛みで倒れるイナズマジャパンたちを見下ろし、デスタとセインは自陣へ戻りながら高笑いを上げる。
「……違う……」
そこで背後から聞こえた絞り出すような声に、2人は眉を顰め立ち止まった。
肩越しに振り向くと、痛みに耐えながら起き上がった円堂が、肩で息をしながらこちらを睨み付けている。
「お前たちがやっているのは、本当のサッカーじゃないんだ……っ!」
「愚かな……我らを認めぬだと?」
「ならばトドメを刺してやろう……お前たちのサッカー諸共なぁ!!」
瞬間、吼えたデスタが高く跳び上がり、黒いエネルギーを集約させたボールを蹴り落とした。
落下地点で待ち構えたセインの力がボールに加わり、再び黒白の力を纏ったシュートが円堂に襲いかかる。
「シャドウ──」
「レイ!!」
「円堂!!」先程より明らかに威力の増したシュートに、仲間たちは誰もが彼の名を呼んだ。
大きく息を吸い込んだ円堂は、その場から地面を蹴り跳躍すると、握り締めた右拳を力一杯振りかぶる。
「≪真≫──イジゲン・ザ・ハンド!!」
放たれた光は今までよりも更に大きく、強い。この土壇場に来て新たなステージへ上がった円堂に、仲間たちもまた大きく目を見開いた。
「でやああああッ!!」
「……!?」
強固になった障壁にシュートが受け流される。円堂はそれがゴールの向こうへ飛んでいく寸前、咄嗟に跳び上がってそれをしっかりと胸に受け止めた。
「な──」
「受け止めただとッ!?」
渾身のシュートを止められたデスタとセインの動きが動揺から一瞬鈍くなる。もう時間ないで、絶叫するのはリカだ。
「仲間の思いに答える……! これもサッカーだ!!」
叫んだ円堂は、誰かが受け取ってくれることを信じ前線に向かってボールを蹴り込む。
それを受け止めたのは既に立ち上がっていたフィディオだ。ダークエンジェルは、それまで地面に這いずっていたはずのイナズマジャパンがいつの間にか全員立ち上がり、走り出していることに気付いてギョッとする。
フィディオは向かってきたギュエールとエルフェルを突破して、ダークエンジェルのディエンスラインをこじ開けた。
「オーディン──ソーード!!」
「やらせぬ!!」地面を切り裂き向かってくる切っ先にアスタロスは身構える。が、そんな彼の視界に3人の人影が飛び込んできた。
「グランド、ファイア!!」
豪炎寺たちイナズマジャパンのFWだ。3人の炎の力を受けて灼熱の一閃と化したフィディオのシュートに、アスタロスはそれでも平静を保ち手を掲げる。
「ジ・エンド≪V3≫……!!」
「V3!? 奴らも進化したぞ!?」
「っでも、オーディンソードの威力が加わったグランドファイアなら……!!」
こちらもまたここに来て進化した必殺技に塔子が驚きの声を上げ、それに釣られた春奈が大声になる。歪んだ空間に飲まれたシュートは瞬きの間に闇を燃やし尽くし、アスタロスの必殺技を打ち破った。
「ああっ──」
「……!!」
だが、シュートはそのままゴールするには至らなかった。ボールがラインを超える寸前、デスタとセインがシュートコースに割り込んできたのだ。
2人掛かりのブロックを受けたシュートは、再びイナズマジャパン陣内に逆戻りしていく。
「あっ!」
リカが短い声を上げる。だがそれは、ボールが打ち返されたことへの反応ではない。
「円堂ッ!!」
ゴールを飛び出し、猛スピードで駆け抜けて行った円堂に豪炎寺が声を張り上げる。
迫るボールに急ブレーキを掛けた円堂は、今度は拳ではなく頭を思い切り振りかぶった。
「行くぞ!! メガトン──ヘッドぉ!!」
更に打ち返されたシュートが、身を挺しゴールの前に立ちはだかったセインに激突する。
胸元でボールを押し戻そうとしながらも、セインはそのシュートが摩擦熱とは違う熱を孕んでいるのを感じた。
「(何だ、この熱さは……! このボールに込められた熱さ、これがお前の言う──)」
刹那、1つの考えに辿り着いたセインは、シュートの威力に負けて吹き飛ばされる。
そのまま円堂のシュートは、守る者のいなくなったダークエンジェルのゴールに突き刺さった。
「ぃやったー!!」
大きく拳を振り上げて喜ぶ円堂に、仲間たちが駆け寄っていく。
喜び合うイナズマジャパンを、セインはぼんやりと見つめた。
「仲間を信じ、反対側のゴールまで駆け上がってきたと言うのか……」
そこで砂時計の砂が全て滑り落ち、ホイッスルが吹き鳴らされる。
岩壁に反響する音に、円堂たちは反射的にスコアボードを見上げた。試合が終わったのだ。
──ぱん、ぱん、と渇いた破裂音がする。それは、ただ1人の観客である観測者が満ち足りた笑顔で手を叩く音だ。
「馬鹿な……ダークエンジェルが……魔王が負けただと……!」
その一方で、2対1で終わりを告げた試合にダークエンジェルが茫然自失としていた。ぽかんと口を開け、デスタは今起きたことが信じられない顔で呟く。
彼らからそれまであった覇気が抜けていくのを感じた老人2人は、顔を見合わせフィールドに背を向けた。
「儀式は失敗に終わった」
「魔王は再び千年の間、封印される」
2人はそう呟くと、そのまま音も無く闇の中へ姿を消す。
観測者はそれを一瞥し、すっくと立ち上がった。
彼女が軽く指を鳴らすと、それまで落胆に項垂れていたセインたち天空の使徒がビクンと体を揺らす。
「! 体に満ちていた悪魔の力が消えていく……」
「セイン……! 戻ったんだな、お前たち!」
一瞬淡い光に包まれたセインたちは、元の白い装束姿に戻っている。円堂が笑顔になって駆け寄ると、セインはホッとした表情を彼に向けた。
「感謝するぞ、エンドウくん……!」
円堂に礼を述べたセインは、一呼吸置くと一転して眉を上げ、デスタに険しい視線をやる。
「デスタ。使命により、お前たちを封印する」
「く……っ!」
魔王の力を失った魔界軍団Zの姿もまた元の黒装束に戻っている。イニシアチブを奪われたデスタたちは、顔を顰めて僅かに後退った。
「待った!」
──だが、そこへ制止を掛けたのは円堂だった。円堂は小首を傾げ、何てことないようにこう言う。
「サッカーは使命とかそんなもんでやるんじゃない。もっと楽しいものだぜ?」
「お前、何を……」
外野からの想定外の言葉に目を瞬いたセインが円堂を振り返った次の瞬間、石の扉が開く音がした。
セインがハッとそちらを見ると、いつの間にか魔界軍団Zは扉の中に逃げ込んでいる。
「今回は失敗したが、次の千年後には必ず我ら魔界の民が天界を征服する! はははは!」
「っ待て!!」
懲りない様子で高笑いするデスタにセインが声を上げるが、時既に遅く。彼が駆け出した時には、扉は固く閉ざされてしまっていた。
悔しげに扉を睨んだセインは、行き場のない怒りをぶつけるように円堂を振り返る。
「〜〜ッお前が止めなければ、奴らを永遠に封じ込めることが──」
そこまで言い掛けて、セインは不意に口を噤んだ。
そして一瞬何かを考え込み、そうか、と呟く。
「セイン?」
「今、分かった。私の中にいる憎しみの心……そのせいで私は悪魔につけ込まれたんだ」
心配そうに声を掛けたギュエールに、セインは半ば独り言ちるように答えた。
「我ら天界と魔界の者とが合体したチームが魔王そのものだとするならば、魔王とは我々の中にある醜く争う心だということになる……」
「どう言うことだ?」
セインの説明に、天空の使徒たちも頭が着いていかないらしく首を傾げている。セインは声に熱を込めて続けた。
「伝説にあったような魔王はいないのだ。魔王は……自分の中にあったのだから」
「──その答えに辿り着いたのなら上出来だ」
ふと響いた涼やかな声にセインや円堂たちがそちらを振り向くと、観測者がゆっくりとした足取りで階段を降りてくるところだった。
「伝承とは、長い時の中でいつしか捻じ曲がってしまうもの……千年と言う時間は、私の願いを後世に正しく伝えるにはあまりに長すぎた」
「私の=c…?」
気に掛かることがあったのか、セインは小さく眉を上げる。そして彼は、同じ目線まで降り立った観測者に向き直ってこう言った。
「意識を奪われている間も、私はずっと心の中の悪魔に抵抗していた。だが、あなただけには逆らう気持ちが起きなかった……まるでそれが当然であることのように」
それを聞いていた鬼道は、デスタも観測者には従順な姿勢を見せていたことを思い出す。セインは慎重な声音で観測者に問いかけた。
「改めて問いたい。あなたは……一体何者なんだ?」
はつり、と彼女はゆっくりと──目の前の光景を網膜に焼き付けるように瞬きをした。
ややあって、「私に逆らう意思を持てないのは当然のことだ」と観測者は口火を切る。よくよく見ると、彼女の瞳はオーロラめいた色をしていた。
「天界の民と魔界の民……お前たちの先祖はかつて私が力を与え、従属させていた人間たち。その力と忠心は、子孫であるお前たちの血にも刻まれている」
そしてその唇は弧を描く。それは織乃の顔であることを忘れてしまいそうになるほど妖しく、人外めいた美しい笑みだった。
「私は千年祭の観測者。かつて島の者が『天と地の王』と呼んだもの。そして人間が言うところの、この島の……」
守り神というところさ。
──そう言って彼女がニコリと目を細めた次の瞬間、その体は唐突に膝から崩れ落ちた。
「御鏡ッ!!」
目を見開いた鬼道は仲間たちの輪から弾かれたように飛び出して、彼女の体が地面に激突する寸でのところで受け止める。
「織乃さん!」
「御鏡……しっかりしろ、御鏡!」
ギョッとした春奈を筆頭に、仲間たちは動かなくなった織乃に大急ぎで駆け寄った。鬼道に抱きかかえられた織乃はぐったりと脱力して動かない。
「こういう時はキスで目覚めるて相場が決まっとる! やれ! 行ったれ鬼道!!」
「言ってる場合か!」
後ろで叫ぶリカや突っ込む塔子の声を無視して、鬼道は織乃の冷たい頬に手を当て息を詰める。
そして一拍置いて、彼女の睫毛が微かに震え、薄く開いた唇から吐息が漏れた。
「──う、ん……?」
「織乃さん!」
目に涙を浮かべていた春奈が大きな声を上げる。
眉を顰めた織乃は、仲間たちが心配そうに自分を見下ろしているのを見て「これも夢……?」と夢現で呟いた。
「しっかりしろ、御鏡。俺が分かるか?」
「鬼道さん……? 何が起きて……ん? えっ? な、何この変な服ッ!?」
そこでようやく意識が覚醒したのか、織乃はギョッとした様子で上体を跳ね起こした。思いの外元気そうな反応に、鬼道はホッと胸を撫で下ろす。
「──行ってしまわれたか。天と地の王……あの方が、伝承に出てくる我らが神……?」
すっかり元通りになって赤くなったり青くなったりしている織乃を見て、セインは小さく呟いた。
しばし何かを考え込んでいた彼は、ここでは答えが出ないことを悟ったのだろう。どこか憑き物が落ちたような穏やかな表情で暗い天井を振り仰いで、ぽつりと独り言ちる。
「真意を確かめることは出来なかったが……あの方は自分自身の醜い心を押さえる為の修行として、我らの先祖にサッカーという手段を与えたのかもしれないな」
「修行かどうかはよく分からないけど……楽しいもんだぜ!」
そんなセインの呟きに、円堂は笑ってそう言った。
そちらを一瞥したセインは、「楽しい、か」と反芻する。試合中にも円堂が言っていた言葉だ。そう言えば、試合を見ていた観測者──天と地の王も、ずっと楽しそうにしていた。案外、それだけの為に彼女は先祖にサッカーを与えたのかもしれない。
同じ島の者同士、互いに武器など捨ててサッカーを楽しみ、通じ合えと。
「──そうだな」
セインが晴れやかに微笑むと、地下空間に暖かな光が差し込む。それは天空の使徒がヘブンズガーデンに帰るための標の光だ。
「また千年後に備えなければならない。魔界の民に、このことを伝承する為にも……さらばだ。サッカーの素晴らしさを教えてくれたこと、感謝する……!」
笑顔でそう言い残し、セインたちは光の中へと消えていく。円堂は薄れていくその姿に、笑顔で声を張り上げた。
「セイン! また一緒にサッカーやろうな〜!!」
長い階段を登り、険しい山道を下る。ようやくマグニード山の麓に降りた頃には、辺りはすっかり夕暮れ時の茜色に染まっていた。
「一生の不覚です……あんなに大見栄切ってみんなと別れたのに、まさかあんなことになって……」
「もう気にするなって、御鏡。何にせよお前が無事に戻ってきて良かったよ」
織乃は道中延々と1人反省会をしている。慰める佐久間の声がいつにも増して優しいのが更に彼女の惨めさを誘った。
「筋トレ増やそうかな……」
「筋肉で解決できる問題だったのか、あれ」
「さあ……っと、あったぞ。バス停だ」
ぼやく織乃にテレスが若干の訝しむ視線をやり、肩を竦めたエドガーがふと道の先を指差す。海外チームとはここでお別れだ。
「今日はありがとうな、みんな」
「多少予想外なことはあったが、お陰で中々面白い1日を過ごせたよ」
バスを待つ間、円堂がそう声を掛けると、エドガーが軽くウィンクをする。脚潰し掛けといてよう言うわ、とリカが呆れ混じりに小さく微笑んだ。
「エンドウ、フィディオ。決勝トーナメントでの活躍を期待してるぜ」
力強い笑みで言うのはテレスだ。頷いたフィディオは円堂に向き直り片手を差し出す。
「マモル、俺たちが次に戦えるのは決勝だ。お互い準決勝を勝ち抜いて、必ず決勝で会おう!」
「ああ。必ずだ!」
円堂と固い握手を交わしたフィディオは、テレスたちと共に丁度やって来たバスに乗り込んでいく。
円堂は彼らの姿が豆粒ほどに小さくなるまで、しばらくバスに向かって手を振り続けていた。
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その翌日、イナズマジャパンは何事もなくいつもの日常へと戻った。
昨日の騒動が良い方向に働いたか、練習に勤しむ円堂たちの表情は今まで以上にやる気に満ち溢れている。
「もうすっかりみんなの気持ちは決勝トーナメントに向かってるわね!」
「はい。頼もしい応援団のお陰かもしれませんね」
そう言って冬花がチラリと脇を見る。そこには選手たちへ力強い声援を上げる、リカと塔子の姿があった。
「しっかり気張らんかーい!」
「みんな頑張れぇ!!」
持参してきたメガホン片手に叫ぶリカがやけにツヤツヤしているのは、一晩掛けて渋りに渋る織乃から鬼道とのあれそれを聞き出したからだろう。
一方で、恋バナと言う名の尋問を受けた織乃はまだどこか疲れた表情をしていたが。
そんなマネージャーたちの輪に、夏未の姿はない。
彼女は1人、イナズマジャパンの練習風景を少し離れた場所から見つめていた。
「! 夏未……?」
ふと円堂は視線を感じ、そちらを振り返る。
夏未は円堂と目が合う前に踵を返し、無言でグラウンドから離れていった。
まだ朝も早い時間帯なこともあり、辺りは観光地であるにも関わらず静まり返り、耳を澄ますと穏やかな川のせせらぎだけが聞こえてくる。
「夏未ーッ!」
──そんな中、静寂を破り背中に投げかけられた呼び声に夏未は立ち止まった。
「おい、どこに行くんだ夏未! まだ練習中だぞ?」
円堂の声だ。練習を抜けて走って追い掛けてきたらしい、少しばかり息が切れている。
「──行くわ」
「んぇ? 何か調べることがあんのか?」
主語もなく短く答えた夏未に、円堂は首を傾げる。夏未は緩やかに頭を振った。
「いいえ……そうじゃないの。私今日で、イナズマジャパンを辞めたの」
「……えっ?」
静かにそう言った夏未に、円堂は虚を突かれ掠れた声を漏らす。
「辞めたって、どうして……」
その疑問に彼女は答えない。先程から振り返りもしない彼女に痺れを切らし、円堂は夏未の前に回り込んだ。
「っどうしてだよ? あと少しで俺たちみんなの……世界一になるって夢が叶うところまで来てんのに!」
夏未の考えが分からず、円堂は無意識の内に責めるような声になっていた。しかし彼女は、そんな円堂に小さく口角を上げる。
「──今の円堂くんの言葉を聞いて、私の考えは間違っていないと確信できたわ」
「夏未……?」
それまで俯きがちだった夏未は、ゆっくりと面差しを上げる。その表情は笑顔であるのに、何故か彼女が今にも泣いてしまいそうな気がして、円堂は少しドキリとした。
「さよなら、円堂くん」
最後にそう言って、夏未は今度こそ円堂から離れて行く。
その背中が最早手を伸ばすことすら拒んでいるような気がして、言葉を失った円堂は彼女の姿が完全に見えなくなるまでその場に立ち竦んでいた。
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