Evening Cat's Eye
町並みが茜色に染まり、遠くに聞こえる人々の喧噪は昼間と色を変え、少しずつ広がる夜闇に溶け込むように僅かな湿度を帯びる。
黄色いジャージ姿の少年──ラガルートは、視界の端で弟がちらちらとこちらを窺っていることにも気付かず、公園のベンチに腰掛けて力無く項垂れていた。
ふと、そんな2人の元に数人分の影が差す。
「──ほれ、あったぞ」
「あっ、僕のボール……! ありがとう!」
青々とした茂みに囲まれた太い木の根元に落ちていたボールを見つけるには、少々時間が掛かった。
あれから本当に探してくれているとは思っていなかったのか、土方が手渡したボールを、弟は驚きながらも嬉しそうに受け取る。
ラガルートはそこで円堂たちがやって来ていることに気が付いたのだろう。円堂たちがそこから動く気配がないことに気付くと、彼は訝しむような、それでいて疲れた顔を持ち上げた。
「何か用か……?」
「ロニージョに会いたいんだ。どこにいるか知らないか?」
「さあな……」
尋ねる円堂に、ラガルートは弟から差し出されたボールを受け取りながら短く答える。
どうして彼らは自分のチームのキャプテンに会いたがっているのだろう。そんなことを考える気力も沸かない。
「……さっきの男たちは何者だ?」
「……」
更に尋ねた鬼道に、彼は口を噤んで押し黙る。今度は知らないわけではなく、意図しての沈黙だった。
「ガルシルドめ、って言ったよな。……自分たちの監督を、そんな風に言うなんてヘンだぜ」
ラガルートに答えない気がないことを察し、土方が視線を弟に変えて続けると、ラガルートは図星を突かれた風に眉間に皺を寄せる。
やはり、このチームは何かがおかしい。円堂は意を決し、更に踏み込んだ。
「ロニージョが、俺に負けてくれって頼みに来たのと関係があるのか?」
「ッ何……!?」
途端、顔色を変え瞠目する彼に、「知らなかったのか?」と円堂は目を瞬いた。どうやらロニージョは、独断で円堂に会いに来たらしい。
「ロニージョのやつ……そこまで思い詰めていたのか……」
「っ兄ちゃんたちがこんな苦しい思いをしてるのは、ガルシルドのせいなんだ!! みんなだまされたんだよ……!!」
呆然とする兄の横顔に我慢の限界が来たのだろう、弟が突然声を張り上げた。
「騙された……? どういうことなんだ?」
「……なぁ、話してくれないか」
真剣な面持ちの円堂たちを見上げ、ラガルートはやがてぽつりぽつりと語り始める。それは何もかもを諦めた、年頃の少年らしくない声だった。
「……ガルシルドは、貧しくて困っていた俺たちに、サッカーをするためのお金や場所を提供してくれて……家族にも仕事を与えてくれた。でも……」
そこまで言って、彼は肩を震わせる。脱力した手からボールがこぼれ落ち、転がっていくそれを弟が追い掛けて行った。
「あいつの命令に逆らったり試合にミスをしたら、厳しい罰を受けるようになったんだ。俺たちの家族にまで……」
「何?」
そんな弟を何となく目で追っていた土方は、不穏な話に眉を吊り上げる。
「ガルシルドは、自分の作戦通り完璧に勝つことを要求した。ミスは一切許さない──」
「……だから選手への負担がもの凄く大きいのか」
「あれは強制されたプレーだったんですね……」
言葉の続きを察したヒロトが目を眇め、織乃は信じられない、と口元を覆った。選手の限界を識り、無理をさせないようにするのも監督の務めであるはずなのに。
「既に2人、オーバーワークで動けなくなってしまった。このままでは、二度とサッカーが出来なくなる奴も出てくる……!」
──今のままじゃ、みんながボロボロに。
円堂の脳裏に、今朝方聞いたロニージョの呟きが甦る。あれはやはり、自身のチームを指しての言葉だったのだ。
「そうだったのか……」
「ロニージョは君たちを、強いチームと認めたからこそ負けてくれと頼んだんだ。確実に勝って、チームメイトや家族を守るために……自分のプライドを捨てて!」
話している内に憤りが抑えきれなくなったのか、ラガルートは語気を荒らげ吐き捨てた。
家族を守るためにって、と呆然と呟く土方に、彼は淀んだ目を向ける。
「奴は『家族にも』って言っただろう? もし試合に負けてしまったら、俺たちも家族もどうなるか……」
「そんな……それじゃあまるで人質みたいなもんじゃねえか!」
憤る土方に、とうとう堪えきれなくなったラガルートは俯いて嗚咽を漏らす。円堂たちはガルシルドの善行の裏に隠された闇の深さに絶句していた。
「そんなことを自分のチームに……」
「選手を道具としか思っていないのか……!?」
「……」
織乃は呟く鬼道やヒロトを一瞥し、目を伏せる。
かつて影山や吉良に盤上の駒として扱われていた彼らにとって、他人事とは思えない話だろう。
「……許せない。絶対に!」
「ああ、こんなのおかしいぜ! なぁ、何とかなんねえのかよ!?」
拳を握り締め、怒りに顔を顰めた円堂に土方が声を荒らげる。しかし、落ち着きを取り戻したラガルートの表情からは生気が抜けていた。
「……どうしろって言うんだ?」
「っそれは……」
咄嗟に何か解決策が見付かるわけもなく、言葉に詰まる土方から視線を外しラガルートは立ち上がる。
「俺たちにはどうすることも出来ない。ガルシルドの言うことを聞くしかないんだ」
「それで、本当に良いのか……!?」
「……いいんだ」
背の高い、丸まった背中に土方は諦めきれないように漏らす。彼は小さく諦めを滲ませた声で一言返すと、傍らに寄ってきた弟を促してその場から立ち去っていった。
「そんな……こんなことって……」
酷い無力感に襲われて、織乃は足下の影に視線を落として呟く。助けを求めるような弟の目が、記憶に焼き付いて離れない。
意気消沈した一行は、そのままザ・キングダムの合宿所へ向かう気にもなれず──ただ腹の中に渦巻く感情を持て余しながら、バス停へと戻る道をのろのろと歩いていた。
「──やっぱりダメだ。このままじゃ、準決勝を戦うなんて出来ない!」
人通りのない道に差し掛かったところで、それまで黙りこくっていた円堂がついに口を開く。
織乃や鬼道、ヒロトは顔を見合わせ近くの階段に腰を降ろして話し合いの体勢になり、土方もまた不機嫌そうな顔で壁に背中を預けた。
「ああ。あの2人の辛そうな姿を見たらほっとけないぜ! 何とか助けてやらなきゃよぉ……!」
「ザ・キングダムを、ガルシルドの手から解放するんだ……!」
円堂と土方は怒りが治まらないようで、今にもガルシルドのところへ走り出してしまいそうな雰囲気だ。落ち着いて下さい、と宥める織乃の顔も同じくらい険しい。
「確かにガルシルドのやってることは、選手を指揮する人間として最低の行為です。でも……」
「ああ。解放するとひとえに言っても、簡単には行かないだろう」
「家族のことがあるからね……」
鬼道やヒロトの尤もな意見に、円堂たちもそこは承知しているのかぐうと唸って大人しくなった。
「くそっ、どうすればいいんだ……!」
「ラガルートたちも、家族も自由にする方法か……」
頭を捻る円堂と土方、思考を巡らせる鬼道とヒロト。
織乃はガイドブックの表紙を指でなぞりながら、はたと思い付いたことを口に出した。
「あの人って、FFIの運営委員長なんですよね。そんな立場の人間が、選手たちに家族を人質にして限界以上のプレーをさせているなんて、大問題の筈では?」
「ああ。トップのしていることとは言え、運営委員会がそんな横暴を容認しているとは考えにくい」
鬼道は織乃の疑問に頷いて、何かを思い付いたのか眉を持ち上げる。
「……このことが知れ渡れば、ガルシルドを監督はもとより、この大会から排除することが出来るかもしれない」
彼がそう言うと、円堂たちはハッと鬼道を見た。
「知れ渡ればって、どうやって?」
「……! そうだ、手下が選手たちをチェックしていると言ってた。ガルシルドの手元になら証拠があるはずだよ」
「ブラジルエリアの郊外に、ガルシルドの邸宅があるそうです。一般人は立ち入り禁止みたいですけど……そこなら、もしかしたら」
ヒロトの提案に、織乃が手早くガイドブックを開いて地図を広げる。証拠か──と地図の一点、ガルシルドの邸宅の位置を確認した5人は、示し合わせたように顔を上げた。
「だったら手に入れるしかないな」
「……危険だぞ」
「サッカーだって、敢えて危険に挑んで局面を変えなきゃいけない時がある」
「何かあっても、降り掛かる火の粉は私が払います。選手を守るのがマネージャーの仕事ですから」
渇いた唇を舐めて不敵に口角を上げる土方に、鬼道は警告はすれど強く止めはしない。
最善の道を選ぶ為に危険を冒すことを覚悟するヒロトへ、織乃が語気は静かに血気盛んな使命感を露わにする。
要するに、既に彼らの気持ちは決まっていた。
「よし、行こう!」
円堂の号令で一行は頷いて走り出す。
目指すはブラジルエリアの郊外、ガルシルド邸だ。
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なるべく目立たぬように人気のない道を選び、目的地に辿り着いた頃には辺りはすっかり暗くなっていた。
雑木林を走り抜け、大きな屋敷の影が見えてきたところで5人は足音を潜ませて、正門に立つ警備に見付からないよう茂みの中を進む。
「うっ……」
正門から大きく逸れて塀の傍までやって来たものの、円堂はその高さを恨めしそうに睨んだ。一番上背のある土方がつま先立ちをしても、縁に手が届きそうにない。
「どうやって中に入る?」
「……あれだ」
辺りを見回し、鬼道が指差したのは近場に生えた大きな木だった。人の胴ほどありそうな太い枝が、おあつらえ向きに敷地内まで突き出している。
「あの木を伝って行こう。……御鏡、お前はここで待っているんだ」
「へっ」
いざ足を踏み出そうとしていた織乃は、ここに来て待ったを掛けてきた鬼道に出鼻を挫かれて間の抜けた声を上げた。
「ど、どうしてですか。もしも中で何かあったら……」
「だからこそだ。俺たちがしばらく経っても戻らなかったら、お前は久遠監督たちに連絡を取れ。万が一全員が捕まったら元も子もない」
鬼道の言うことも一理ある。それでも心から納得することも出来ず、でも、と言い募る織乃に、土方が大袈裟に首を振る。
「男心を汲んでやってくれよ、御鏡。大事な女をわざわざ危険なとこに向かわせる野郎がどこにいるってんだ」
「んぐぅ……」
なっ、と土方が鬼道の背中を叩けば、織乃は言い返す言葉も出なくなって頷くしか出来なかった。鬼道は気まずそうに赤らんだ顔をしかめ、軽く咳払いをする。
「……では、行くぞ」
「み、みんな気をつけて……!」
頷き合った4人は、体重の軽い順から1人ずつ木を伝い敷地内へと潜入する。最後に土方が幹をよじ登り、塀の向こうで着地した気配がすると、足音は徐々に遠ざかっていった。
「(待て、とは言われたけど)」
それでも気になるものは気になる。織乃は再度周囲を見回すと、よし、と小さく気合いを入れて自身も木によじ登る。
周りに誰もいなくて良かった。慣れない木登りに容赦なくスカートが捲れ上がるのを感じながら、ややあって織乃は枝葉に身を隠しつつ一番太い枝に腰を降ろし、屋敷の方へ目を凝らす。
「(改めて見ると、ほんとに大っきな屋敷……)」
ガルシルド邸は異国情緒の溢れる、それでいてどこか不気味な雰囲気の漂う屋敷だった。
屋敷を囲うように引かれた水路には石橋が架かり、塀を越えても侵入経路が限定されていることが分かる。既に姿は見えないが、円堂たちもあそこを渡って行ったのだろう。
その中に併設されているサッカーフィールドを見て、織乃が嫌なものを見たように顔を顰めた次の瞬間だった。
「……ッ!?」
──突如として、屋敷からけたたましい警報が鳴り響く。
ビクン、と大きく体を揺らした織乃は危うく枝から落ちそうになった。再度辺りを慌てて見回すが、どうも自分が見付かったわけではないらしい。
と言うことは、だ。
「み、見付かっちゃったんだ……!」
円堂たちが屋敷に向かってからまだ十分と経っていない。やはり警備がいるような邸宅に気付かれず潜入するなど、無理な話だったのだろうか。
木の上に隠れたまま今すぐ久遠に連絡すべきか迷っていると、正門の方から警備たちの声が聞こえてくる。
「侵入者か?」
「──ああ、今連絡があった。中々すばしっこくて捕まらないらしい……万が一の為、俺たちはまだしばらく待機していろとのことだ」
そんな会話の後で、正門にいた警備の男2人が門の内側へ入り屋敷を警戒する様子が見える。どうやら円堂たちも、まだ捕まってしまったわけではなさそうだ。
「だったら……」
つい先程まで静まり返っていた屋敷が騒がしくなっていく。ぐっと唇を引き結び、織乃は一番近い石橋に目を向けた。
「──みんな、急げ!」
背後から迫る追っ手の数が段々と増えていく。円堂たちはそれを振り切ろうと、迷路のように張り巡らされた通路を無作為に走り回っていた。
土方が閉じていた窓を無理矢理開けたことで警報が発動した時はどうなることかと思ったが、探していたデータは逃げている最中に見つけた情報室で発見し、ヒロトが織乃から預かったメモリースティックに吸い出してある。
あとは警備の男たちを撒くだけなのだが──
「くそっ、中々しぶといなあいつら!」
「……あったぞ、玄関だ!!」
長い廊下の先に見つけた両扉から、円堂たちは体当たりの勢いで飛び出した。
正門から人影が走ってきているのが見える。そうなれば当初の予定通り、潜入してきた木を登って脱出するしかないだろう。
「いたぞ、逃がすな!!」
「やべっ……」
逃走経路を確認し、4人は慌てて駆け出した。
あの木を登ってしまえばこちらのものだ。しかし、追っ手はすぐ後ろまで迫っている。
「まずいぞ、追い付かれる──」
「そのまま走って!!」
石橋を渡りきった瞬間、円堂たちは物陰から飛び出してきた人影とすれ違った。
「御鏡!!」
屋敷の外で待っていた筈の織乃である。
円堂たちが驚きながら振り向くと、警備の男たちが突然目の前に飛び出してきた織乃に不意を突かれ、思わずその場でつんのめっているのが見えた。
「ハッ!!」
「ゴぅっ……!?」
「な、何──へげっ!」
「ぐぇっ!?」
一切の迷いのない掌底が、油断していた先頭の男の顎を突き上げ大きく脳を揺らす。
その場に崩れ落ちる同僚に、男たちは何が起こったのか分からず目を白黒させて絶句した。
彼らが平静を取り戻すのを待たず、織乃は息つく間もなく次々と攻撃を急所に叩き込んでいく。
「フーー……ッ」
──そして、最後に大きく息を吐き出し呼吸を整えた彼女の足下には、瞬く間に失神した男たちの山が出来上がった。
「あ、相変わらずスゲえな……」
「今の内だ、早く脱出しよう!」
織乃と合流した円堂たちは、そのまま木をよじ登り塀を越えてガルシルド邸を後にする。
屋敷からは未だに警報が鳴り響き続けていたが、あれで一時の追っ手は撒けたのか誰かが追い掛けてくる気配はない。
一行はそのままブラジルエリアの喧噪に紛れ、日本エリアに向かうバスへと飛び乗った。
「──待ってろと言ったのに、お前と言うやつは……!」
「だ、だって心配だったんですもん!」
バスが走り始めて開口一番、眉を吊り上げた鬼道に織乃は慌てて言い訳する。
「まぁまぁ、お陰で助かったんだから」
「ああ、ありがとう御鏡!」
宥めるヒロトと素直に礼を言う円堂に、全く、と頭を振って鬼道は溜息を吐いた。事実、あそこで織乃が助けに入らなければ危なかっただろう。
「っそれで、データは……?」
「大丈夫、ちゃんと手に入れた」
一番重要なことを思い出して尋ねた織乃に、頷いたヒロトは屋敷を出てからずっと握り締めていた拳を開いた。
掌に乗ったメモリースティック。これにガルシルドからザ・キングダムたちを解放するためのデータが入っている。
「これで、ロニージョたちが助かると良いんだけど……」
「ええ……」
:
:
宿福へ戻ると、円堂たちが中々帰ってこないことを心配したのだろう、丁度玄関先に出てきてキョロキョロとしている秋と鉢合わせた。
「あっ、円堂くん! 織乃ちゃんたちも……こんな時間までどこに行ってたの?」
もうみんな夕飯食べ終わっちゃったわよ、と安堵の後にぷりぷりと怒った様子を見せる秋の言葉を聞いて、一行はそこでようやく自分が空腹であることに気が付いた。もういつもの夕飯の時間は過ぎているのだから、仕方のないことだろう。
だが、今は腹を満たしている場合ではない。
「ごめん、秋。みんなと監督たちを、談話室に集めてくれないか?」
大事な話があるんだ、といきなり真剣な面持ちで頼んできた円堂に秋はキョトンとしていたが、織乃たちの表情が同じように険しいものになっているのを見ると、困惑しながらも頷いた。
手を洗い、身なりを軽く整えた円堂たちが談話室に入ると、そこには既に秋の声掛けによりチームメイトとマネージャー、久遠と響木、そして先日から宿福に泊まっているリカと塔子が集合していた。
「木野から大事な話があると聞いたが……一体何があったんだ、円堂」
「うん……少し長くなるんだけど、聞いてくれ」
尋ねてきた豪炎寺に頷いて、席に着いた円堂は朝から今に至るまで今日あったことを包み隠さず説明する。
早朝、ロニージョからの八百長の頼みがあったこと。午後の休みから、ブラジルエリアにいるであろう彼にもう一度話を聞きに行ったこと。夕方にラガルートの話を聞き、ガルシルドの裏の顔を知ったこと。
「──それで、お前たちだけでガルシルド邸に潜入したと?」
「すっ……すいません。あいつらの状況を知ったら、いても立ってもいられなくて……」
最後にガルシルド邸へ忍び込みデータを探しに行ったことを話し、一区切りしたところで重々しく口を開いた久遠に、円堂たちは居心地悪そうに顔を顰めた。
自分の管理する選手やその家族に危害を与えようとするような、危険な人物の邸宅に潜入したのだ。こうして無事に戻ってきたから良かったものの、もし捕まっていたらどうなっていたことか。
久遠は多くを語らなかったが、語気にはそんな怒りが滲んでいる。言い換えれば、それは彼らを心配してのことである。
彼は大人≠ナ監督≠ネのだから、円堂たちを心配するのは至極当然のことなのだ。
「それで……これが、見つけてきたデータです」
だが、ガルシルドはそんな当然のこと≠全く気にも掛けず、真逆のことをしている。
ヒロトは自室から持ち出したノートパソコンにメモリースティックを差し込むと、テレビに画面を共有していくつもあるファイルを開いていく。
バラバラと展開されるのは、選手たちの練習記録や試合の記録だ。これを読み込めば、ガルシルドがどれほど無茶なトレーニングやプレーを彼らに強いているのか一目瞭然だろう。
「──待て、ヒロト」
「はい?」
一同が渋い顔で画面を睨んでいると、ふいに響木が険しい声を上げた。
ヒロトは言われるがまま、キーボードを叩く手を止めた。画面が新しいファイルを展開したところで止まる。
ガルシルドの手がける事業のデータのまとめだろうか。より多くの数字とグラフの並んだそれは、明らかに選手の記録ではない。
「! これは……」
「……どうやらとんでもないデータを取ってきてしまったようだな」
「とんでもないデータ?」
瞠目する久遠や目を眇める響木に円堂は首を傾げ、改めて画面を見る。
そこに記されたデータは、多種多様な言語で溢れかえっていた。母国語以外では基礎的な英語しか学ぶ機会の少ない子供たちでは、その詳しい内容を読むことは出来ない。
故に、彼らの視線は自然と添えられた図面や画像へ向く。
頷いた響木は、低い声でこう告げる。
「ここにあるのは、──ガルシルドが世界征服を企んでいる証拠だ」
データと共にまとめられた画像のデータ。ミサイル、戦車、戦闘機──それに写されたものは全て、軍事兵器と呼ばれる物だった。
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