VS. The kingdom
太陽に照らされ渇いた空気が震えている。
前半の試合の録画を確認しながら、織乃は考えていた。
ガルシルドはもういない。抑圧され支配されていたロニージョたちのサッカーも、恐らく前半とは全く違うものになるだろう。
だとすると、イナズマジャパンに必要なのはまず攻撃力だ。見れば、久遠が染岡と虎丸を呼び寄せて指示を出している。
「織乃ちゃん」
ふと手元に影が落ちて、織乃は視線を上げた。吹雪とヒロトが真剣な面持ちでこちらを見下ろしている。
「きっと、ザ・キングダムから点を奪うのは一筋縄じゃ行かないと思う。だから……あれ≠試してみようと思うんだ」
「あれ≠?」
密やかに決意を示したヒロトに、織乃は片眉を僅かに吊り上げた。
ザ・キングダムのキーパーであるファルカオは、今までの試合記録を見た限りかなりの実力がある選手だ。イナズマジャパンの技がどこまで通用するかまだ分からない以上、二人の提案は最良とも言えるだろう。
「──分かった。でもあれは隙が大きいから……タイミングに気を付けて」
「ああ」
二人は頷いて、他の仲間に続いてフィールドに戻っていく。
久遠は虎丸の代わりに染岡を投入するようだ。ガルシルドに買収されていた審判も別の者と入れ替わり、不正はもう行われないだろう。
後半開始のホイッスルが響き、ロニージョのマークに着くのは鬼道だ。
ロニージョはそのまま強引に攻め込むことはせず、サイドにいたガトーにパスを送り出す。
即座に風丸がガトーに向かって行くと、ガトーはボールを後ろへ戻しそこからボールはどんどん後方へと繋がれて行った。
「……ん?」
明らかに攻める気配のない消極的なプレーに、織乃は眉を顰めた。ガルシルドが連行され、彼らはもう自由を手に入れたはずなのに、よくよく見れば彼らの表情は先程と大して変わらない。
「どうして? もうロニージョたちに強制する人はいないのに……」
「それに何だか、前半より動きが悪いような……?」
何かを恐れ、怯えを抱えたままプレーするザ・キングダムに、秋や冬花が不可解そうに首を捻る。
ボールは依然としてブラジル陣内でのみ動き続けている。動きのない試合展開に、観客たちの反応も次第に雲行きが悪くなってきたその時だ。
「──ガッカリだ!!」
「!」
叩き付けるような怒声を発したのは、土方である。
土方は腕を組み、怒りを露わにした表情でロニージョを睨め付けた。
「ガルシルドから解放されて、本気のザ・キングダムが見れるかもって期待してたのによ!」
「……っ」
その言葉に、ロニージョは居心地悪そうに土方から顔を背ける。
──隙を突くなら今だ。レオナルドがパスを繰り出し、ロニージョがそれを受け取った刹那、鬼道とヒロトがその進路を塞ぐように同時に走り出した。
「っこれじゃパスが出来ない……!」
歯噛みして、ロニージョはパスを諦めて自陣へ駆け戻る。その背後に、土方が猛然と迫った。
「ブレードアタック!!」
「ぐわっ──」
剣山のように地を走る衝撃波に、ロニージョの体が弾き飛ばされる。
転がるボールを抑えた土方は、尻餅を突いたロニージョを見下ろし声を張り上げた。
「これがイナズマジャパンのプレーだっ!!」
土方はそのままボールを持ってザ・キングダム陣内へと攻め上がっていく。このままでは点を奪い返されてしまう──焦りを滲ませたラガルートが、土方の進路へ飛び出した。
だだ、土方はそれに慌てる様子も見せず、あわやボールに足が伸ばされようという寸前でボールをノールックで後方へ送り出す。
それを受け取ったのは吹雪だ。
驚くラガルートを後目に、二人はワンツーパスでボールを繋いであっさりディフェンスを突破していく。
「サンダー──!」
「──ビースト《改》!!」
目配せを交わし、放たれた雷の獣が勢い良くゴールへと飛び掛かる。そのエネルギーはファルカオが必殺技を繰り出すよりも早く彼の体を押し退けて、ゴールへ深々と突き刺さった。
円堂はハイタッチをする吹雪たちに労いの言葉を掛けた後、項垂れるロニージョを見遣り駆け寄っていく。
「ロニージョ、どうしたんだ? 前半よりプレーにキレがなくなってる」
「……」
ロニージョは俯いて何も答えない。仮にザ・キングダムが勝利したとしても、サポーターたちはこの過程に納得しないだろう。
「ガルシルドは、刑事さんが必ず逮捕してくれるって約束してくれた! もうお前たちを脅かしたり、命令してくるヤツはいないんだぞ!?」
「……違うんだ……」
しばし置いて、ロニージョの口から絞り出されたのは随分と覇気の無い声だった。
「確かに、俺たちの目の前でガルシルドは連行された。でも、それだけじゃ何も解決してないんだ」
「どういうことだ……?」
眉を顰める円堂に、ロニージョは苦しげに唇を噛む。代わりに口を開いたのはラガルートだ。
「俺たちの家族は、ガルシルドのグループ企業から仕事をもらっていたんだ。もしガルシルドが逮捕されることになれば、俺たちの家族は仕事を無くしてしまう……」
「サッカーで優秀な成績を収めることで、家族の生活を楽にしてやろうと頑張っていたのに……逆に家族を苦しめることになってしまう」
頭上から小さな影が差し込み、いくつも横切っていく。見上げると、島の渡り鳥たちが悠々と空を泳いでいくのが見えた。
確かに、サッカーでの自由は手に入れたのかもしれない。だが、ほんとにこれで良かったのだろうか? その考えが首輪になって、彼らを締め付け続けている。
「ガルシルドの言うことを聞いていれば、少なくとも家族は──」
「お前たちは何も分かっていない!!」
ロニージョの独り言にも似た呟きを遮ったのは、それまで黙って彼らの話を聞いていた土方の声だった。ロニージョはカッとなって土方を振り返る。
「ッお前に何が分かると言うんだ! 恵まれた環境で生活してきたお前に、俺たちの何が分かる!!」
「……家族の思いだ」
悲痛な叫びに反し、土方の答えは落ち着いたものだった。
家族の、と虚を突かれたように反芻するロニージョに、土方は頷いて続ける。
「俺にも兄弟がいる。一番上の俺がこの世界大会に出場している間、弟たちは寂しい思いをしているはずだ。だが、それでも弟たちは俺を世界大会に送り出してくれた。何故だか分かるか」
ロニージョは口を噤んだ。少しずつ冷静さを取り戻していく彼に、土方は真剣な面持ちで続けた。
「自分たちのことよりも、俺がサッカーで活躍する姿が見たいからだ。弟たちのその思いがあるから、俺は頑張れる」
その言葉をザ・キングダムの選手も、そしてイナズマジャパンの仲間たちも静かに聞いている。皆それぞれに、母国で自分を応援してくれているだろう家族や友人のことを思い出していた。
「ロニージョ、きっとお前たちの家族もそうだ。お前にサッカーをさせてやりたい。お前の活躍を見たいからこそ、お前をこの大会に送り出してくれたはずだ」
ロニージョの瞳が動揺に揺れ動く。ザ・キングダムの選手たちが胸の詰まる思いで俯いていると、ふいに幼い声がフィールドに振ってきた。
「しっかりしろ、兄ちゃん!!」
観客席の階段を駆け下りて、息を切らし手摺りから身を乗り出すようにしながら叫んでいるのは、ラガルートの弟だった。
「俺はカッコいい兄ちゃんが見たいんだ!! 兄ちゃん!!」
「あいつ……」
必死に語りかけてくる弟に、ラガルートは土方の言ったことを真に理解する。そしてそれは、仲間たちも同じだった。
「──俺たちは勘違いしてたようだな」
「! ロニージョ」
肩を叩いてきたロニージョを見遣ると、ロニージョは苦笑を浮かべて空を見上げる。
「あの日、家族が俺たちを笑顔で送り出してくれたのは、サッカーで活躍する俺たちを見たかったから、か……」
「……ああ!」
ザ・キングダムの選手たちは視線を交わし、小さく頷き合う。その顔にもう迷いはない。
「やろうぜ! 俺たちザ・キングダムの、本当のサッカーを!!」
「おう!!」
一気にやる気を取り戻したロニージョたちに、余計なことしちまったかな、と土方は頭を掻きながら悪戯っぽく笑った。
「緑川風に言えば、『寝た子を起こした』……かな?」
「ディフェンス、忙しくなりそうだな」
答えるヒロトや鬼道もまた、同じように満足そうな笑みを浮かべている。
円堂はホッと息を吐くと、よーし、と気合いを入れて仲間たちを振り仰いだ。
「みんな! こっちもイナズマジャパン魂、見せてやろうぜ!!」
「おーーッ!!」
試合状況はまだ同点のままだ。まだ後半は始まったばかりとは言え、今度こそここから先は未知の領域と言っても過言ではないだろう。
緊張感が漂う中、遂にホイッスルが吹き鳴らされた。
ガトーのタッチしたボールを受け取ると、ロニージョはふと円堂の方を見てニッと口角を持ち上げる。
「え……?」
すると彼は徐に、その場で軽快なステップを踏み始めた。
先程までの緊張感のある空気はどこへ行ったのか、唐突に踊り出すロニージョに円堂たちは思わず目を丸くする。そこで思い至った──もう彼らのサッカーは始まっているのだ。
不敵に笑い、先に仕掛けていったのは鬼道だった。向かってきた鬼道に一笑すると、ロニージョは素早くそれを踵で打ち上げて背後に回す。
「凄い……まるで踊ってるみたい」
ボールが脚に吸い付いているような見事な動きに、織乃は目を瞬き感嘆の呟きを零した。
驚いている鬼道を後目に、ロニージョはレオナルドへパスを回す。
そこへ飛び掛かるのは吹雪だ。しかし、同じように軽快なステップを踏むレオナルドに翻弄され、思うようにボールを奪えない。
イナズマジャパンのデフェンスを次々と退けて、ついにゴール前まで進出したロニージョにパスが渡る。
「ストライクサンバ《V2》!!」
「《真》イジゲン・ザ・ハンド!!」
ロニージョの体が中空へ躍り、色とりどりの花火と見紛う光と共に放たれたシュートが円堂の展開した障壁と激突する。
凄まじい回転力は障壁にぶつかっても落ちることを知らず、シュートは円堂の体を押し弾いてイナズマジャパンのゴールを貫いた。
「す、ストライクサンバが進化した……!」
「心を覆っていた霧が晴れたことが、新たな力を生み出す切っ掛けになったのかも……」
ズレ落ちた眼鏡にも気付かず放心する目金に対し、冬花は半ば独り言のようにそう呟いていた。円堂たちは、正しくロニージョたちを闇から救い出した──救い出してしまったのだ。
「相手の実力を引き出してしまうなんて!」
「円堂くんたちらしいじゃない」
それを見ていた春奈や秋は、どこか嬉しそうでもある。冬花が晴れやかな気持ちで頷くと、「そんな呑気なこと言ってる場合ですか!」と気を持ち直した目金が叫び声を上げた。
「ゴールを決められてしまったんですよ!」
「だ、大丈夫ですよ目金さん! 円堂さんなら何とかしてくれますって!」
暴れ出しそうな勢いで3人に食ってかかる目金を押さえつけながらも、織乃は自分もまたワクワクした気持ちが湧き上がっているのを感じていた。
前半の規律の整ったプレーとは相反する、個人技の光るサッカー。昨日まとめたデータが役に立たないことすら気にならない。あれこそがザ・キングダム本来のサッカーなのだ。
ボールを拾い上げ、ロニージョと視線の合った円堂は楽しそうに歯を見せて笑う。
「大会得点王ってのは伊達じゃない。スゴいぜ、ロニージョ! ますますお前を止めたくなってきた!」
「本気になった俺たちを止めることは出来ないぜ、ボーイ!」
その後もイナズマジャパンは果敢に挑んでいくが、勢いに乗るザ・キングダムに押され防戦一方を余儀なくされるまま時間が過ぎていく。
それでも、円堂は依然として笑顔のままだった。
「スゴい……スゴいぜ、ロニージョ! こんな楽しくて強いサッカーは初めてだ!」
だが、彼らの家族が応援してくれているように、円堂たちにも負けられない理由がある。
響木が自分の病を隠してまでイナズマジャパンをここまでバックアップしてくれていたのは、サッカーで活躍する彼らを観たいが為。その気持ちに、何の差もあるわけがない。
「流星ブレード《V2》!!」
「カポエイラスナッチ!!」
ヒロトの放ったシュートが、ファルカオの鋭い蹴りに高く弾き返される。だが、それは予想の範疇だ。
「──行くよ!!」
跳ね上がったボールを、ヒロトは即座にヘディングで下方へ送り出した。そこには既にシュート体勢に入った染岡と豪炎寺の姿がある。
「ドラゴン──スレイヤー《V3》!!」
「《真》爆熱スクリュー!!」
染岡の放ったシュートを、豪炎寺の炎が更に加速させる。繰り出されるファルカオの必殺技に蹴り飛ばされたボールは、地面に叩き付けられるだけではその威力を殺し切ることは出来なかった。
「行けえええッ!!」
芝生を散らし、地面から力強く跳ね上がったシュートが気を緩めたキーパーの脇を突き抜けていく。
大きくゴールネットを揺らし、同点ゴールを決めたイナズマジャパンに盛大な歓声が沸き上がった。
「良いぞ! ヒロト、染岡、豪炎寺!」
三人に声を掛けた円堂は、丁度こちらを振り向いたロニージョと不敵な笑みを躱す。
楽しくて仕方がない──二人とも、そんな笑顔だった。
同点を奪い返したことを追い風に、イナズマジャパンはそこから猛攻を仕掛けていく。ザ・キングダムも負けじと対抗し、一方が攻めればもう一方が攻め返す激しい展開に会場の熱気もますますヒートアップしていった。
「スゴい試合……」
「でも、円堂くんたち楽しそう!」
「もう時間がありません。次の一点が勝負の決め手になりそうです……!」
刻一刻と迫る終了時間を気にしながら、目金が落ち着かない様子で呟く。
緊迫感の漂う中、先に攻撃に転じたのはザ・キングダムだった。
「ロニージョ!!」
染岡からボールを奪い、ラガルートからロニージョへとパスが通る。
「行くぞ! これが本当の必殺タクティクス──『アマゾンリバーウェーブ』だ!!」
力を解放したロニージョを起点に繰り出されたアマゾンリバーウェーブは、身構えていたイナズマジャパンのMFたちを怒濤の勢いで押し流していく。
DFはサイドへ散ったまま、フォローに間に合わない。一対一の状況に、円堂は丹田へ力を込めた。
「行くぜ!! ストライクサンバ《V3》!!」
ここに来て更なる進化を遂げたロニージョの必殺技が、何とかシュートコースへ体を捻じ込んだ土方や壁山の巨体を容易く吹き飛ばし円堂の眼前へと迫る。
「止めてみせる……! 《真》イジゲン・ザ・ハンド!!」
展開された障壁は今まで以上に分厚く、ゴールを守る盾になる。しかしそれさえも、辛酸を舐め続けようやく乗り越えたロニージョの執念を越えるには、今一歩届かなかった。
「あっ──」
シュートが障壁を突き破り、テクニカルエリアから悲痛な叫びが上がる。
あわやゴールラインをボールが越ようとした、その寸前だ。
「させねえ……! 絶対に入れさせちゃならねえんだ!! 真空魔《V2》!!」
円堂の背後に飛び込んだ飛鷹が空間を脚で薙ぎ払い、切り裂かれた境界にシュートが吸い込まれていく。
その一瞬、確かに得点を確信していたロニージョは、驚きに目を丸くした。
「響木さんに報告するんだ──勝利を!!」
奮励の思いと共に放たれた飛鷹のパスは高く弧を描き、既に反転して走り出していた鬼道の元へと届く。
鬼道は前方から繰り出されたモンストロのスライディングを跳び越えると、中空からヒロトへとボールを回す。ヒロトに並走するのは、ディフェンスラインから突出した吹雪だ。
「ヒロトくん、特訓の成果を!!」
「うん!!」
ゴールを目前に走る脚を止めた二人は、その場で息を整える。その間にも迫り来る追っ手に目金が悲鳴を上げた。
「追い付かれてしまいますよ!!」
「いいえ、大丈夫!!」
瞬きもせず、織乃は絶叫に程近い強い口調で返す。
次の瞬間、ヒロトと吹雪の体からそれぞれ赤と青の闘気が爆発的に噴き上がり、二人は天高く跳躍した。
「ザ・バース!!」
圧倒的な脚力で放たれたシュートは螺旋状の軌跡を描き、激しい勢いでゴールへと落下していく。凄まじい突風が巻き起こり、周囲の選手は近付くことも許されない。
「カポエイラスナッチ《V3》!!」
「行けええええええッッ!!」
「勝つんだーーッ!!」
繰り出されたカポエイラスナッチがシュートを捉える。
しかし、ボールの回転はまだ収まっていない。ヒロトと吹雪の咆哮が轟き、飛鷹の絶叫が響いたその刹那、ザ・バースはファルカオの膂力を捻じ伏せてザ・キングダムのゴールを割った。
──イナズマジャパンの逆転のホイッスルが鳴り響く。
それは飛鷹の執念が引き寄せた、渾身のディフェンスで獲得した一点だった。
「……っ!!」
詰めていた息を緩く吐き出した瞬間、再びホイッスルの甲高い音がピッチ全体に響き渡る。試合が終わったのだ。
「終わっ、た……」
「てことは……」
マネージャーたちは一斉に顔を見合わせると、スコアボードを見上げて喜色満面になる。
三対二──イナズマジャパンの決勝進出が、とうとう決まったのだ。
「やったーーーー!!」
フィールドの選手たちに負けず劣らない歓声を上げた秋と春奈が力一杯抱き合う隣で、織乃は込み上がる感情に早くも目頭を熱くしていた。
「(ってダメダメダメ!! まだ泣くには早すぎる!!)」
それを何とか気合いで退けると、丁度こちらを振り返った鬼道がこちらに笑いかけるのが見える。織乃はそれに心からの笑顔で応えた。
「ボーイ──いや、エンドウ! 君たちこそ、決勝に行くのに相応しいチームだ」
「ありがとう!」
選手たちがセンターライン際に集まると、ロニージョが晴れやかな笑顔で円堂に声を掛ける。
「礼を言うのはこちらの方だ。準決勝の相手が君たちで良かった……!」
円堂とロニージョが握手を交わすと、会場は一際大きな歓声に包まれた。国境を越え、結ばれた絆がこの試合で得た何よりも大きなものだろう。
そんな折、秋の携帯に着信が入った。
電話先の相手と二、三言葉を交わした秋は通話を切ると、テクニカルエリアに戻ってきた円堂たちに言った。
「手術、成功したそうよ」
「ホントか!? やった!!」
喜んだのも束の間、秋は硬い声でこう続ける。
「ただ、かなり長い時間の手術だったから、体力の消耗も激しかったみたいで……目が覚めるまで安心できないって」
状況としては、ようやく半歩前進したと言ったところだろうか。手放しで喜ぶには足りない情報に、円堂は「そうか……」とゆっくり空を見上げた。
──だが、円堂たちは響木がしぶとい男だと言うことを知っている。そして、約束を破るような男ではないと言うことも。
暗闇の中、遠く輝く一点の光を見つめるような思いのイナズマジャパンの憂いも知らず、ウミガメスタジアムは両チームの健闘を称える歓声が響き続けていた。
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警察署へ続く真っ直ぐな道を、二台のパトカーがひた走っている。
『──お伝えしたとおり、FFI準決勝はイナズマジャパンがザ・キングダムを下し決勝進出を決めました! 来たる決勝戦は……』
ラジオから聞こえてくる大会の最新情報に一笑し、鬼瓦はラジオの電源を落とした。
「お前の悪行もここまでだな」
「…………」
隣に座るガルシルドは、沈黙を貫いている。
余裕ぶっているのも今の内だ──鬼瓦が内心顔を顰めていると、ふとパトカーが信号もないのに減速した。
「ん。どうした?」
「それが……」
運転席の警官が言い終わる前に、鬼瓦は急な減速の理由を知った。前方の脇に巨大なクレーン車が止められ、道が三角コーンとポールで通行止めになっている。
「通行止めだと?」
「そんな連絡は受けていませんが……」
訝しげに眉根を寄せ、鬼瓦はちらりとガルシルドをみやった。
──まさかな、と心の中で呟いて、鬼瓦はパトカーを停めた警官に続き車外へと出る。辺りを見回すが、責任者らしき人間どころか周囲に人の気配はない。
「迂回路はないのか?」
「ええ。かなり戻ることになります」
こんな時に限ってツいていないこともあるものだ。溜息交じりに呟いたその時、──頭上から金属同士がぶつかり合うような不快な音が響いた。
「なっ……」
ズガシャアアンッ!! ガラガラ──と、耳を劈く音と共に、クレーンに吊られていた何本もの鉄骨が激しく降り注ぐ。
パトカーの車窓は巻き上がる砂埃に覆われ、ガルシルドはゆるりと落ち着いた様子で面差しを持ち上げた。
──砂塵の中に、追走して来ていたパトカーに乗せられていた筈のヘンクタッカーが佇んでいる。
「お迎えに上がりました、ガルシルド様」
「ああ……待ち兼ねたぞ」
ガルシルドは愉しそうに、目を細め笑った。
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