Invisible enemy
ブラジル戦から一夜明けた朝、ライオコット島全域は快晴に恵まれていた。
窓から差し込む朝日を浴びながら、イナズマジャパンのマネージャーたちは食堂で朝食の準備に勤しんでいる。
「お皿は足りてる?」
「はい、大丈夫です!」
今日は朝食が終わったら午前中に行われるコンドルスタジアムの試合を観戦しに行く予定だ。
イタリア対コトアールの準決勝である。勝った方がイナズマジャパンと決勝を戦うことになることを考えると、対策を打つためにも観戦は必至だろう。
「それにしても、みんな起きてきませんね……」
食堂の入口を見やり、ふと織乃は言った。
いつもならば、鬼道や虎丸など早起きが身に付いている選手はもう食堂に入ってくる時間だ。しかし、今日に限ってはまだ誰も食堂にやって来ない。
「きっと、みんな昨日の試合で疲れてるのよ。まだ時間はあるし、もう少しだけ寝かせておいてあげましょう?」
「そうですね」
にこやかに言う秋に頷いて、織乃はテーブルを拭き上げる。
それから30分後。
「……誰も来ませんね」
「うん……」
薬缶にたっぷりお湯を沸かしながら、春奈が言う。テーブルはもう汚れひとつ残っていない。
更に15分後。
「あれ、みなさんまだ起きてきていないんですか……?」
久遠の私室へ朝食を届けに行っていた冬花が食堂へ戻ってくる。秋の笑顔は先程よりも幾分か硬い。
それから更に15分が経過しても、選手が降りてくる気配はなかった。
「流石に遅すぎます!」
「そうね……ちょっと様子を見に行きましょう」
テーブルを叩いた春奈に、ついに笑顔を引っ込めた秋が頷く。マネージャーたちは階段を駆け上がると、手分けして選手たちの私室へと向かった。
「き、鬼道さ〜ん?」
春奈に背中を押しやられて、織乃は鬼道の部屋の扉をノックする。
しかし、声は帰ってこない。織乃は意を決すと、失礼します、と一声掛けて中へと足を踏み入れた。
「鬼道さん? 朝ですよ〜……?」
鬼道はベッドの中で丸くなっている。試しにカーテンを空けて日差しを部屋に取り入れてもビクともしない。
「起きて、鬼道さん! 準決勝の観戦に行くんでしょう?」
「う……ん……」
体を揺すると、鬼道は僅かに顔を顰めて身動ぎする。だが、まだ覚醒には至らないようだ。余程深く寝入っているらしい。
織乃は諦めず、懸命に彼の体を揺すって声を掛け続けた。
「起きてったら、鬼道さん! 早く起きないと……」
そこで織乃は、一旦言葉を切る。そして、何と言えば一番効果的だろうかと一瞬考えて──
「……は、早く起きないと、簀巻にして食堂に運び込んじゃいますからね!!」
「……そこは……もう少し夢のあることを言ってくれ……」
眉根をギュッと寄せ、しぱしぱと瞬きした睫毛の隙間から赤い瞳が覗く。
起きてるんじゃないですか、と憤慨する織乃に、鬼道は目を擦りながら「今ので起きたんだ」と欠伸を噛み殺した。
「……ん。御鏡、何でわざわざ俺の部屋に……」
「……」
宿福のあちこちで秋や春奈の大きな声、けたたましい目覚まし時計の音が上がっている。
まだ少し寝ぼけているらしい鬼道に口をへの字に曲げた織乃は、ベッドサイドにあった目覚まし時計──止められないまま鳴り止んでしまったのだろうそれを、彼の眼の前に突き付けた。
「ね、ぼ、う! してるんです!!」
「……!!」
鬼道の手から今しがた付けようとしていた髪ゴムが滑り落ちる。
「寝過ごした〜〜〜〜ッッ!!」
──それから十数分後、いくつか離れた部屋から円堂の絶叫が響き渡るのが聞こえた。
§
ブレーキ音を響かせて、イナズマキャラバンはスタジアム行きの船が出る港へ続く道を爆走する。
「古株さん急いで! フィディオたちの試合が始まってるんだ!!」
「寧ろ終わるまでに到着出来るかが心配なくらいです……!」
腰を浮かし気味にしながら古株を急かす円堂の隣で、目金は冷や汗を滲ませている。壁山を起こしに行った彼の頭には、目覚まし時計と間違われて引っ叩かれたせいでタンコブが出来上がっていた。
「何で起こしてくれなかったんだ!?」
「起こしました!」
堪らず言う円堂に、秋は珍しく声に怒気を含め、間髪を入れず言い返す。
「何度も、何度も、何度も起こしましたけど! 誰も起きなかったんです!!」
「あ、そうなの……」
席から身を乗り出すほどの秋の勢いに、円堂は思わずたじろいだ。まぁまぁ、と冬花が困った顔で秋を宥める。
「仕方ありませんよ、あんなすごい試合だったんですから……」
「確かに、立ち上がることも出来ないくらいお互い全てを出し切ったからな。だから起きれなくても仕方がない!」
「開き直らないで下さい!」
沁み沁みと言って満足げにウンウンと頷く土方に、春奈が苦笑交じりで声を上げる。
「とにかく急いで! 試合が終わっちゃう!」
思わず貧乏ゆすりをしそうになりながら、円堂は古株に繰り返した。
これでは、少なくとも前半戦は見られないだろう──織乃は心の中でフィディオたちに謝罪した。
船に乗ってコンドル島に到着し、スタジアムへ駆け込む。
時間はすっかり過ぎ去って、試合はもう終わる寸前だ。それでも諦めきれず、大慌てで観客席への階段を駆け上がった彼らの目に飛び込んできたのは、信じられない光景だった。
「──何だよ、これ」
目を見開き、円堂が言葉を零すのと同時に試合終了のホイッスルが鳴り響く。
前半3点、後半5点のトータル8対0。
オルフェウスは、大差を付けられて敗北していた。
「あのオルフェウスがここまで徹底的にやられるとは……」
「……みんな、先に帰っててくれ」
「っ円堂さん、私も行きます!」
鬼道の呟きに円堂が踵を返してスタジアムに駆け戻って行くのを、織乃は慌てて追いかける。
オルフェウスの控室は、重く苦しい空気で覆われていた。
「すみません、キャプテン。キャプテンが託してくれたこの試合、勝つことが出来ませんでした……」
フィディオは感情の失せた声で言って、中田へキャプテンマークを差し出す。
イナズマジャパンとの試合以来、中田はフィディオにキャプテンを完全に委任していたのだ。
「謝ることはない。俺は君の可能性に賭けたんだ。負けたことは悔しいが、君たちには未来がある」
微笑んだ中田は、フィディオの拳ごとキャプテンマークを掌で包んで彼の方へ押し返す。
「次は優勝してくれ、フィディオ。いや、キャプテン」
「はい……」
「──フィディオ!!」
力なく声を返したところで、勢い良く扉を開いて息を切らした円堂と織乃が控室へ飛び込んできた。
「! マモル、シキノ……」
一瞬目を丸くしたフィディオは、来てくれたんだな、と無理やり口角を持ち上げる。
「すまない、マモル……もう一度戦うという約束、果たせなかったよ」
覇気のない笑みを浮かべるフィディオの頬は、フィールドでついたらしい土埃で汚れたままだ。それを気にする余裕も今はないのだろう。円堂は沈痛な面持ちになった。
「何でお前たちが、こんな……」
「……途轍もない相手だったよ。リトルギガントは」
呻くように尋ねる円堂に、フィディオはポツリと返す。
リトルギガントはいくら情報を集めても、その戦い方は一向に見えてこなかった。彼らはこれまでの試合の全てを、必殺技も必殺タクティクスも使わず個々の地力のみで勝ち続けていたのだ。
分かるのはただ、『強い』という漠然としたことだけ。そんな中臨んだ試合、リトルギガントはオルフェウスの先制攻撃をいとも容易く止めると、カウンターであっと言う間に先制点を入れた。必殺シュートでもなんでもないごく普通のシュートだったのにも関わらず、その勢いは止めきれなかったのである。
「ただのシュートが止められなかったって言うのか? ブラージが……!」
「ああ……強烈だったぜ。今でもこの手が痺れてやがる」
自分の手を見下ろして、ブラージは悔しさに震える。
「そこから俺たちは、更に思い知らされたよ。本物の絶望ってやつをね……」
「絶望?」
不穏な単語に織乃は眉を顰める。
オルフェウスが点を取り返そうと躍起になり疲労を重ねていく一方で、リトルギガントはそれを流れるようにいなしていくのだ。
フィディオの渾身のオーディンソードさえ、相手キーパーのロココは必殺技を使うことなく止めてみせた。
「悔しいけど、攻撃は全て潰された」
「俺たちのサッカーは、完璧に分析されていたんだ……」
「だから、リトルギガントは一度も必殺技を出すことなく俺たちを抑え込みやがった」
オルフェウスの選手たちは口々に、しかし独り言のように言う。あまりに一方的な試合は彼らの体力だけでなく、気力そのものを著しく奪っていた。
「完璧に分析するなんて……」
「恐らくは──いや。あとは自分の目で確かめるべきだろう」
途中まで言いかけたフィディオは、ややあって目線を落として俯く。
「すまない、2人とも……しばらく俺たちだけにしてくれないか。今は、少し休みたい……」
「あ、ああ。ごめん」
ぎこちなく頷いた円堂と織乃はフィディオたちに背を向ける。織乃は掛ける言葉が見つからず、ギュッと唇を引き結んだ。
じゃあまた、と別れの挨拶をすることすら憚られ──2人は無言でオルフェウスの控室を後にした。
「リトルギガント……一体、どんなチームなんでしょう」
スタジアムの外へ続く廊下を円堂と並んでとぼとぼと歩きながら、織乃は呟く。
円堂からの返事はない。きっと今の彼の頭の中は、フィディオたちの敗北と彼らを下したリトルギガントのことで一杯なのだろう。
会話もなくそのまま廊下を歩いていると、ふと前方で扉が開く音がして、2人はそちらへ顔を向ける。
すると、丁度控室からオレンジの帽子を被った髭面の老人が出てきた。
「……む?」
老人は円堂に気が付くと、ぴたりと足を止める。円堂もまた彼に見覚えがあったのか、あっと小さな声を漏らして立ち止まった。
そして口を開く間もなく、彼に続いて控室から出てきた少年を見て、円堂は思わず大きな声を上げる。
「リトルギガント……!」
褐色の肌に所々逆立った深い色の髪。それはくだんのリトルギガントのキーパーである、ロココ・ウルパだった。
「──どうしたんですか、監督?」
廊下に響く円堂の声を聞きつけたのか、それとも立ち止まって動かなくなった老人を見てか、聞き覚えのある声が割って入ってくる。
反射的にその声の主を振り向いた円堂と織乃は、更に目を丸くした。
「な……夏未っ?」
「! 円堂くん……」
そこに現れたのは、先日の大騒動が落ち着いた後から姿を消していた夏未だった。
「お前、何でこんなトコに……それに今、その人のこと監督って」
「……ええ。こちらはミスター・アラヤ。コトアール代表の監督よ」
「この人がフィディオさんたちを倒した、コトアールの……」
アラヤ、と呼ばれた老人は、帽子の鍔を軽く上げる。
織乃はそこで、夏未たちが出てきた扉を見やる。監督と選手が出てきたということは、そこはリトルギガントの控室ではないのだろうか、と。
「そしてここにいるのが、キャプテンのロココ。リトルギガント──私のチームメイトよ」
「“私”、の?」
「ど、どういうことだよ……」
夏未の言葉の端々にある違和感に、2人は嫌な予感を覚えながら彼女を見つめ返す。
「私、リトルギガントのチームオペレーターになったのよ。情報収集から相手戦術の収集まで何でもやるの。このチームを世界一にするためにね」
「えっ……!?」
目を見開いた織乃は、ぱっと円堂を見た。
そもそも、夏未がチームを抜けたことすら織乃は初耳である。久遠からも、これに関していそうなことは何も聞いていない。
「まさか、オルフェウスのサッカーを分析したのって……夏未、お前このために……!?」
握り締められた円堂の拳は、動揺で小さく震えている。夏未は目を細め、瞳を強く煌めかせた。
「──お別れはしたはずよ」
「……!」
お別れ、と小さくオウム返しして、織乃は絶句する円堂の横顔を一瞥する。
あの騒動の後、夏未を見送ったのは偶然彼女が宿福を出ていったところを目撃した円堂だけだった。
その時夏未とどんなやりとりをしたのか、円堂は尋ねられても曖昧に相槌を打つだけでまともに答えなかったが──きっと夏未の言う『お別れ』が、その理由だったのだろう。
「……行くぞ」
「はい」
老人──アラヤの嗄れ声に、夏未は頷いて2人に背を向ける。
「……決勝戦で待ってるわ」
「何で……何でなんだよ、夏未ッ……!」
円堂の絞り出すような声にも、結局夏未は最後まで振り向かなかった。
奥歯を噛み締めて俯いた円堂に、織乃は困った様子で夏未たちの消えた廊下の先を見つめながら口を開く。
「円堂さん、お別れって……?」
「……この前、あいつ言ったんだ。イナズマジャパンを辞めたって。理由は……その時は分からなかったけど」
まさか、リトルギガントのオペレーターになるためだったなんて。円堂は怒っているような悲しんでいるような、色々な感情を綯い交ぜにした複雑な表情で廊下の床を睨んでいた。
あまり見たことのない表情を浮かべる円堂に、しばし悩んだ織乃は一呼吸置いて彼の肩を叩いた。
「とりあえず……1度、宿福へ帰りましょう。みんなも待ってるでしょうから」
「……うん……そうだな」
意気消沈した様子で、円堂は小さく頷く。
夏未が一体何を考えてイナズマジャパンを抜け、そしてリトルギガントに入ったのか。明確な答えこそ出なかったが、織乃は何となく彼女の考えが予想出来るような気がしていた。
§
宿福に戻ると、円堂たちの帰りが遅いことを心配していたのだろうマネージャーたちがエントランスのベンチで待っていた。
「あ、帰ってきました!」
「おかえりなさい、2人とも。大丈夫……?」
2人の顔色が優れないことが見てわかったのか、冬花が心配そうに眉を下げる。
何から話せば良いのか分からず曖昧に頷いていると、ポケットの中で携帯が震え出して織乃は体を跳ねさせた。
「あ、で、電話だ……鬼瓦さんから?」
着信元を確認した織乃は思わず怪訝な顔になる。
彼から電話が来る時は、大抵何か良くないことが起きているときなのだ。電話に出る織乃を、円堂たちは同じように硬い表情になって見守る。
「はい、御鏡です」
『ああ織乃ちゃん、突然すまないな……』
電話口の鬼瓦の声は、いつもより草臥れているように聞こえた。
何度か相槌を打った織乃は、ぱち、とゆっくり1度瞬きをして円堂へ視線を送る。
「円堂さん、鬼瓦さんが話があるって……」
「俺に……?」
自分を名指しされるとは思わなかったのだろう、円堂は呆けた声を上げて差し出された携帯を受け取った。
その様子にいつもと違う雰囲気を感じ取ったのか、秋は円堂を窺うような目で見る。
「円堂くん、何かあったの……?」
「い、いや、何でもない。……もしもし、円堂です!」
慌てて首を振る円堂に、織乃は目を伏せた。まだ夏未のことを話すまでの心の整理が付いていないのだろう。それは織乃も同じことだった。
円堂は時折大きな声を上げつつ二、三言葉を交わすと、ハッと笑顔になってマネージャーたちに告げる。
「響木監督が一般病棟に移ったって……!」
「……! じゃあ、お見舞いに行けるわね!」
不安そうな表情から一転、マネージャーたちは晴れやかな笑顔になって顔を見合わせた。
織乃はホッとした気持ちになりながら、鬼瓦との通話を終えた円堂から携帯を受け取る。
「鬼瓦さんの連絡、響木監督のことだったんですね!」
「あ、いや……それだけじゃなくて」
困ったように眉根を寄せた円堂は、逡巡のあと「みんなが揃ったら話すよ」と首を振った。
「──ガルシルドに逃げられた?」
病院へ向かう道中、イナズマキャラバンに仲間たちの怪訝な声が響く。
ああ、と頷いた円堂は渋面で言った。
「連行中に、工事現場から鉄骨が降ってきたって……」
「それで、鬼瓦刑事は無事だったんだな?」
「ああ。ガルシルドはザ・キングダムを打ち負かしたイナズマジャパンを許しはしないはずだから、気をつけろ、って……」
円堂から伝えられた鬼瓦の忠告に、車内に重たい空気が降りる。
世界大会の試合中という大勢の目がある中で検挙した以上、ガルシルドも目立ったことは出来ないだろうが、それでも油断は出来ない。
キャラバンが駐車場に停車すると、円堂たちは気持ちを切り替えて病院へと向かった。何はなくとも、今は響木のことが心配だ。
「響木監督の病室は……」
「いま聞いてきますね!」
春奈がそう言って病院へ入ろうとすると、丁度エントランスの自動ドアが開く。
中から出てきたのは、先程スタジアムで別れたばかりの夏未とアラヤだった。
「な、夏未さん!」
「どうしてこんなところに……?」
目を白黒させる秋たちに、夏未はふと目を細めて円堂へ視線を投げかける。
「まだ話してなかったのね」
「……あ、ああ……」
顰め面になって頷く円堂に対し、夏未は微笑を浮かべ隣にいるアラヤを指した。
「こちらはミスター・アラヤ。コトアール代表、リトルギガントの監督よ」
「で、でも、コトアールの監督さんと夏未さんが、どうして一緒に?」
不安そうに尋ねる春奈に、夏未は笑みを深めて言う。
「私がリトルギガントのマネージャーだからよ」
「な、夏未さんが!?」
「どういうことッスか!?」
「円堂くん……」
夏未の突然の宣言に、特に雷門イレブンの面々は驚きを隠せない。先程の織乃と同じように、彼女がチームを離れたことさえ聞いていなかったのだから当たり前だ。秋は円堂へ不安そうな視線を向けた。
「──おーーーい! 監督! ナツミーーっ!」
ふと、そこへ緊迫した空気を揺らす大きな声が響いてくる。
そちらを見ると、リトルギガントのジャージを着た赤いバンダナの少年が、慌てた様子で駆け寄ってくるのが見えた。
「リュー……?」
夏未は不思議そうに彼の名前を呼ぶ。
リューと呼ばれた少年はアラヤたちの傍までたどり着くと、勢い余ってその場に崩れ落ちた。
「ど、どうしたの、リュー!?」
「何があった?」
「大変なんです! コトアールエリアが……!」
休みなく全力で走ってきたのだろう、リューはそこまで言うと、激しく咳き込んだ。夏未は彼の背中を擦りながら辺りを見回して、ハッとエントランスの方を指差す。
「監督、テレビを……!」
「!」
夏未の言わんとすることに気づき、アラヤは荒々しい足取りで病院の待合室へ戻る。円堂たちも慌ててそれに続くと、待合室に置かれたテレビは丁度ニュース速報を流していた。
『ライオコット島の、コトアールエリアが襲われています! 襲っているのは何者なのか、その目的は何なのか一切不明です……!』
画面に映されているのは、飛び交うサッカーボールが家屋を容赦なく打ち崩していく衝撃的な光景だった。
現場へ急行したらしいナレーターは安全ヘルメットを被り必死に現場中継を続けているが、土煙が立ち上り最早何が起こっているのかさえ定かではない。
一瞬、強い風が吹いて土煙が晴れる。
その合間に臙脂色の襟巻きを付けた複数の人影が写り込んだ次の瞬間、画面は砂嵐しか見えなくなった。
「今のって……!」
織乃は目を見開き、砂嵐になってしまった画面を凝視する。一瞬だったが、映り込んだ集団に彼女は見覚えがあった。
仲間たちはそんな彼女の変化には気づかず、凄惨な光景に言葉を失っていた。
「ひどい……」
「誰がこんなことを……!」
監督、と夏未は切羽詰まった風にアラヤを見上げる。
アラヤはサングラスに隠れ表情こそ分からなかったが、声に怒りを滲ませて呟いた。
「……どうやら奴は、本当にわしを怒らせたみたいだな」
「──おじさん、夏未!」
突然大きな声で名前を呼ばれ、夏未は思わず弾かれたように肩を跳ねさせる。
「コトアールエリアに行こう! 古株さんにキャラバンを出してもらう!」
「え、ええ……! 行きましょう、監督!」
「うむ……!」
叫ぶように言った円堂に、夏未とアラヤは硬い表情で頷く。
ここが病院であることも忘れ、一行は円堂を先頭にして足音荒く大急ぎで駐車場へととんぼ返りして行った。
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