VS.Team Garciled

「円堂!」

止められなかった。あっと言う間に奪われた先取点に、円堂は奥歯を噛み締めて地面を睨んだ。
地に片膝を突いたまま失点に呻く円堂に、仲間たちが駆け寄っていく。

「まだ1点取られただけだ。……これからだ、円堂!」
「っああ。今度こそ止めてやる……!」

拳を握りしめて活を入れる豪炎寺に、円堂は即座に気持ちを切り替えて頷いた。

試合が再開され、豪炎寺からボールを受けた虎丸がドリブルで切り込んでいく。
「こっちだ!」正面切って向かってくるマンティスを視界に入れ、豪炎寺は虎丸へ声を掛けた。
虎丸は即座にそれに応えパスを出したが、一瞬の内に加速したマンティスはパスコースに滑り込みボールを掻っ攫ってしまう。

「任せろ!!」

不動がそれを止めに行くも、マンティスは高々とジャンプしてそれを飛び越えた。
呆気に取られている内にボールはマンティスからクロウへ渡り、ディフェンスに向かった吹雪を軽くいなしたクロウはボールを更にヘッジへ回す。
強化された異様なまでの身体能力と反射神経に、イナズマジャパンは反撃どころかボールを触ることすら叶わない。

「これが究極の強化人間プレイヤー……確かに恐るべき身体能力ね」
「世宇子と戦った日のことを思い出します……」

顎を片手で抑えて呟く夏未に、織乃はぎゅっと手を拳の形にしたまま言った。
もしかすると、あの世宇子の選手たちもまた、元を辿ればガルシルドの実験による被害者と呼べるのかもしれない。

「でも、全てが完璧な選手なんて存在しない。きっとどこかに穴があるはずです……!」

その言葉に、はつ、と夏未はゆっくりとした瞬きをした。以前、コトアールで大介から聞いた話を思い出したのだ。




「完全なものはない?」
「ああ」

選手たちの練習風景を眺めながら、ふいに大介から零された言葉を夏未はオウム返しした。
どんなチームにも必ず穴がある。穴があるからこそ、そこを埋めようと努力する。そして、その穴が埋まることでそれまで完全だったと思われたところに新たな穴が生まれる。さらにまた、穴を埋めようとして努力するのだと──大介は訥々と語る。

「そうやってチームは進化していく。もし選手が自分のチームを完全であると思えば、そこで進化は止まり必ず自分たちには見えない穴が生まれる」




「(そして、その穴を見つけ、フィールドの外から冷静にチームの状態を把握して戦術に役立たせるのがチームオペレーター……)」

どんな試合の流れになっていようと、感情を波立たせてはいけない。夏未は深呼吸を一つして、じっとフィールドを見つめ直した。

「”デーモンカット“!!」
「うわあっ!!」

「ヒロト!」地面を割いて現れた亀裂から、勢いよく吹き出した闇にヒロトの体が吹き飛ばされていく。
やはり一対一では叶わない──鬼道の頬を冷たい汗が滑り落ちる。ならば、と彼はゴーグルのレンズを煌めかせた。

「うおおおっ!」
「……!」

雄叫びを上げ、向かってきた虎丸を見てバファロは一瞬の逡巡の後、ボールをヘンクタッカーへ逃す。

「お前らの好きにはさせねえぜ!!」

そこへすかさず飛び出して行った不動が、ようやくボールをカットすることに成功した。同時に鬼道は鋭く声を張り上げる。

「今だッ! 『デュアルタイフーン』!!」
「ッ! 綱海、吹雪、壁山、飛鷹!」

鬼道の号令に、素早く風丸が仲間の名前を呼ぶ。おう、とそれに応えた彼らは一斉に前線へと駆け出して、飛鷹と壁山、豪炎寺とヒロトは不動の四方を囲むような位置へ付き、そして吹雪と綱海、風丸と虎丸は同じように鬼道の周辺へと位置取った。
両サイドに二手になって別れた司令塔たちが息を合わせて走り出すと、風丸たちもそれに合わせ並走する。敵が向かってくればグループ内で素早くパスを回し、相手の対応が遅れた隙に対岸のグループへとボールを渡す。それを繰り返し、イナズマジャパンは前線を押し上げていく。

「良いぞ、みんな!」
「鬼道、不動! その調子だ!」

自陣の守りが手薄になる諸刃の剣の必殺タクティクス。しかし、こうでもしなければチームガルシルドから点は奪えない。ヘンクタッカーたちはここで僅かに焦りを覚えたか、忌々しげに顔を顰めた。

「行かせません!」
「……虎丸!」

短く名前だけを呼ばれた虎丸はと鬼道を背中越しに窺うと、1人台風の中から風から外れて飛び出した。刹那、タイミングを見計らった不動の打ち上げたパスはヘンクタッカーの頭上を超えて、一足早く彼の背後に回った虎丸に届く。

「”グラディウスアーーチ“!!」

鋭く研ぎ澄まされた幾本もの剣を伴って、放たれたシュートがゴールへと向かって飛来する。
キーパーであるフォクスは、閉ざされた目を開くことなく両腕を大きく広げた。

「──”ビックスパイダー“!!」

叫びと共に彼の背後に現れたのは、巨大な毒蜘蛛の腕だ。空を切り裂く音と共に一斉に振り抜かれた8本の巨腕は、その硬い外殻で剣を弾き落として虎丸のシュートを受け止める。

「そんな……グラディウスアーチが止められるなんて……」

チームの中でもトップクラスの攻撃力を持つシュートを止められた事実に、織乃は唇を噛んで冷たい笑みを湛えているフォクスを睨んだ。
薄々感じてはいたが、チームガルシルドの選手たちは身体能力が強化されている以前にそもそものサッカーセンスが高い集団らしい。そこは腐っても世界大会運営委員長の私設チームと言ったところか。

「コヨーテ!」

イナズマジャパンの動揺を嘲笑うかのように一笑したフォクスは、ボールを大きく振りかぶってフィールドに投げ入れた。
ディフェンスラインも軽々と超え、フィールドの中頃でそれを受け取ったコヨーテは一気にゴールに向かって突き進んでいく。

「今度は止めてやる!」

先ほど以上に力んで意気込む円堂に、ロココは胸の奥からにじり寄る焦燥感に眉を顰めた。
さっきの技ではコヨーテのシュートは止められない。それとも、彼にはまだ公式試合で披露していない強力な技があるのだろうか──そんな考えが頭を巡っていたその時だ。

「ガン! シャン! ドワーーンだッ!!」
「えっ?」

突如として、それまで試合を静観していた大介が声を張り上げた。
一体全体何事かと目を丸くして一同が目を丸くする一方で、円堂とロココ、そして立向居はハッと真剣な顔になって大介を見つめる。

「ガン、シャン、ドワン……?」

今までの特訓で、幾度となく聞いてきた──見てきたのと同じようなオノマトペ。次の瞬間、円堂とロココは同時に口を開いた。

「そうか! そうやって気を溜めれば……!」
「”ガンショット“!!」

その言葉が終わるのを待たず、再びコヨーテのシュートが円堂に襲い掛かる。
これ以上考えている暇はない。迫り来るシュートに、円堂は肘を深く引いて構えた。

「ガン、シャン、ドワーン!!」

気合いの雄叫びと共に腕を前に突き出すと、円堂の背後に光の魔人の姿が浮かび上がる。
しかし、それも刹那のこと。瞬きの間に消えた魔人はボールに触れることもなく、円堂はボールごとゴールネットに押し込まれた。

「え、円堂くん!」
「気が溜まらなかった……!?」

ゴールの中で頽れた円堂に、秋が悲鳴染みた声を上げる。
ロココは不発に終わった円堂の技に目を剥いた。彼の目からも、円堂は大介のアドバイス通りにしたようにしか見えなかったのだ。

「う、ぐ……くそ……!」
「ちがーうッッ!」

呻きながら体を起こす円堂に、大介は憤慨したように叫ぶ。

「ガン、シャン、ドワーンではない! ガン! シャン! ドワーーンだッ!!」
「えっ……!?」

大介は身振り手振りで熱弁するが、どう聞いても先ほどのそれと同じようにしか聞こえない。ガンシャンドワン、と小さく繰り返し首を傾げた目金は、すぐ後ろにいた立向居を振り仰いだ。

「どこが違うんですか、立向居くん!」
「えっ!? それは、その〜……!」

突然疑問をぶつけられた立向居は、慌てて口を開いたが言葉が出てこない。
分からないんですか、と真正面から言われ、立向居は項垂れて頷いた。

「技の分析と言えば織乃さんです! どうですか、織乃さん!?」
「む、むり……」

そう言って期待の籠った目で無茶振りする春奈に、織乃は思わず半眼になりながら返答する。

大介の特訓ノートに当たり前のように登場してきた数々の擬音。円堂も立向居も、今まで散々それに悩まされながら何とか技を物にしてきた。
もしも大介本人から直接アドバイスを受けられれば、もっとスムーズに技を会得出来たのではないかと考えたこともあったが──よもやそれが叶っても尚難解であるとは思いもよらなかった。

一方で円堂とロココは大介の言葉の意味を、その違いを深く考え込んでいた。
口の中で擬音を反復し、脳内のイメージを練り直し、そしてまた同時に顔を上げて叫ぶ。

「ガン、シャン、ドワン……ッそうか、そうすれば……! よしっ、今度こそ!!」

自身の頬を両手で叩いて気合いを入れ直した円堂は、鼻息荒く正面を見据えた。どうやら何かを掴んだらしい。
既に点差は2点。これ以上の失点は致命傷になりかねない。

「……とにかく1点だ! 挽回していくぞ!」
「おおっ!」

横目でスコアボードを見やって、鬼道は気勢を上げ仲間たちを鼓舞する。

気を取り直し試合を再開させるイナズマジャパンだったが、やはりただ気合いを入れただけでは状況は好転しない。
ボールはあっという間に奪われて、奪い返そうにも強化された身体能力を持つ選手たちに翻弄されるばかりだ。

「こんにゃろうッ!」
「”ジャッジスルー3“!!」

DFたちが次々と突破され、最後の砦であった綱海が凶弾に倒される。
ゴール前を守る選手はもういない。まずい、と即座に鬼道や豪炎寺が円堂を振り返った。

「来るぞ!!」

パスを受け、その場から跳び上がったスコーピオにロココが円堂に向かって声を張り上げる。
狙いを定め、口唇を持ち上げたスコーピオは空中で宙返りしながらボールへ向かって足を振り下ろす。けれど放たれたのは必殺技でも何でもない、ただのシュートだった。

「ひ、必殺シュートじゃない、普通の……っ!?」
「円堂くん!」

どうやら彼らは、円堂の実力ならば必殺技でなくとも十分だと判断したらしい。予想外のプレーにテクニカルエリアには動揺が走るが、空を切り裂きゴールへ降下していくシュートの威力は必殺技でなくとも高威力であることは明白だ。
舐められている。言葉にせずとも分かる事実に、円堂は腹を立てるでもなく冷静に身構え、頭にあったイメージそのまま体を動かした。

「ガン、シャン、ドワーーン!!」

叫びと共に右腕を突き出す。先程と同じようにうっすらと現れた魔人は、やはり一瞬で姿を消してしまう。

「──うわっ!」
「あっ!」

だが確かに、円堂は少しではあるが正解に近づいたらしい。右手はボールを完全に受け止めることは出来なかったものの、尻餅をつきながらも円堂はどうにかシュートを弾くことに成功した。
しかし、弾かれたボールはクリアとまでは行かずフィールドの中に転がってしまう。「円堂さんっ!」と聞こえてきた立向居の必死な声に顔を上げると、スコーピオが容赦なく2撃目を放つのが見えた。

「くっ……!」

円堂はそれに飛びつくようにしてシュートを弾く。体勢が整わないままでは上手くボールをクリアすることは出来ず、チームガルシルドはボールがフィールドに戻る度、ひっきりなしにシュートを打ち込んだ。
イナズマジャパンもどうにかそれを止めようと奔走するが、ボールに追いつく暇もなくシュートを打ち込まれてしまう。

「このままじゃ、円堂さんの体が保たない……!」

唇を噛み、織乃は苦しげに呟いた。
シュートの応酬は最早得点のためではなく、円堂の体力を消耗させることにシフトしている。そうして動けなくなったところにトドメの一撃を加える魂胆なのだろう。

「(そうまでして、あの人は大介さんのサッカーを潰したいの!?)」

ガルシルドは愉悦の表情で試合を眺めている。他者を散々傷つけて回って得た偽りの力をひけらかすその姿に、織乃は煮えたぎるような怒りを覚えた。

「コヨーテ!」

やがて、ボールはついにFWへ渡る。コヨーテはイナズマジャパンのDFたちの間を風のようにすり抜けて一気にゴールへ駆け上がった。

「しまった!」
「マモル!」

鬼道とロココの叫びが重なる。大介はフィールドに体が入らん勢いで身を乗り出して声を張り上げた。

「自分の気≠コントロールしろ! もっと体全体を使うんだ!!」
「……!」

自分の気≠コントロールする、もっと体全体を使う──大介の言葉を心の中で反復している間にも、放たれたコヨーテの必殺シュートは容赦なく眼前に迫っている。

「──ガン! シャン! ドワーーンッ!!」

咆哮と共に、光の魔人が三度姿を現した。
しかし、今ままでとはどこか様子が違う。瞬きをしても姿を保ち続けたそれはバチバチと電流のようなものを放ちながら、円堂の動きに合わせて両腕を前へを突き出した。

「ぐ、う、……ぐああッ!」

一瞬シュートの威力と肉薄したかに見えたその力は、形を保つことが出来ず打ち砕かれてしまう。
ボールはネットには入らず、ガツン! と激しくポストに激突して跳ね返る。視界の隅でスコーピオが再びシュートを打とうとしているのを捉えた円堂は、即座にボールに飛びかかってそれをセーブした。
完全とまでは行かなかったが、確かに円堂は必殺シュートを止めたのだ。息を切らし、腕に抱えたボールを見下ろした円堂がヨシ、と噛み締めるように小さく呟いた次の瞬間、前半終了を告げるホイッスルが鳴り響いた。

「さて……夏未」
「!」

詰めていた息を緩めた夏未は、ふと声を掛けられてハッと肩を揺らす。
どうかな、と短く尋ねられた彼女は、チームガルシルドを一瞥し、そしてイナズマジャパンを見て、小さく頷いた。