15 minute battle
朝食を終えた午前7時半。少しずつ高くなり始める太陽の光を背に受けながら、鬼道は佐久間と共に朝練前のランニングに勤しんでいた。
「決勝戦まであと2日か……円堂はそれまでに新しい必殺技を完成させられるかな?」
「やると決めたらやる奴さ、あいつは」
一定のリズムで地面を蹴りながら話題を振ってきた佐久間に、鬼道は笑みを湛えて答える。
だが、佐久間の疑問も分からないわけではない。昨日円堂から聞いた話では、あの『ガン、シャン、ドワーン』という擬音は大介がその場の勢いで発しただけのものだったらしい。
普通ならばそんなアドバイスで必殺技のヒントなど掴めないだろうが、そこは血の繋がりが成せる技でもあったのか、円堂は見事にそれを掴んでみせた。
「──おーい、キドウ!」
「!」
グラウンドの近くへ差し掛かり、もう一周、となったところで自分を名を呼ぶ声に気付いた鬼道は減速した。佐久間も釣られて足を止める。
「よう、朝から気合い入ってるな」
「……ブラージ?」
グラウンドに佇んでいたのは、イタリア代表オルフェウスのキーパーであるブラージだった。
彼だけではない、そこにはオルフェウスの面々が勢揃いしている。そしてそこには何故か織乃の姿もあり、鬼道たちは「どうしたんだ」と目を軽く見開きながらグラウンドへ入った。
「昨日、フィディオさんから連絡があったんです。オルフェウスを相手に、仮想リトルギガント戦をしてみないかって」
「仮想リトルギガント?」
「……そのフィディオがいないようだが……」
佐久間が首を傾げる横で、鬼道はオルフェウスたちの顔をざっと見渡して織乃に尋ねる。
「フィディオさんは円堂さんのところです。久遠監督にも話は通してあるので、今は自主練してる人たちに声を掛けて談話室へ集まって貰ってるんです」
円堂さんを除くと鬼道さんたちが最後ですよ、と微笑んで、織乃はオルフェウス一行を宿福へと案内した。
「仮想リトルギガントっていうのがよく分からないんだが……」
「詳しいことは全員が集まってから話すが、まぁ簡単に言えば、リトルギガントのプレーを俺たちが出来る限り再現するんだよ」
靴は脱がなくて良いのか、日本ではそれがマナーなんだろう──と織乃と軽い問答を挟みつつ、ブラージは佐久間の疑問にそう答える。
「なるほどな。お前たちをリトルギガントに見立てて試合をすることで、彼らの攻略への糸口を掴めるかもしれないと言うことか」
「そういうこった」
鬼道や佐久間が談話室へ入ると、織乃の言う通り先に集められた仲間たちが既に席に着いていた。
それから5分と待たずして円堂とフィディオがやって来ると、織乃がフィディオから預かった試合記録を再生し始める。
「リトルギガントは、後半の動きがまるで違っていた。無駄のない動きと恐るべきスピード……まるで相手の人数が倍になったようだったぜ」
「どこにパスしても奪われ、どんなに守っても突破されたよ。カテナチオカウンターでさえもね」
テレビの脇に立ち、フィディオとブラージは試合を要所要所で解説していく。カテナチオカウンターすら通用しなかったという情報を改めて知らされた鬼道は、ぐっと唇を噛んだ。
「奴らに勝つには、あのスピードとパワーを封じることが必要だ!!」
「俺たちは全力で、リトルギガントの戦い方を伝える。今日は決勝戦本番のつもりでぶつかってきてくれ!」
真剣な眼差しで語るフィディオたちに頷いて、円堂は席を立つ。
「よーし、みんな! やるぞ!」
「おお!」
気合の入った声で返し、イナズマジャパンはオルフェウスと一緒に談話室を出ていく。円堂はその最後尾へ続こうとするブラージを呼び止めて、ニカ、と笑った。
「ブラージ、お前がこの試合のことを言ってくれたんだってな。ありがとな」
織乃と連絡を取り試合を取り付けたのはフィディオだが、その発案者はブラージだとフィディオ本人から円堂は聞いていた。
チームKに乗っ取られそうになった時、円堂たちに助けてもらったから自分たちはイタリア代表としてFFIを戦えた。その恩を返すのは今しかない。
リトルギガントと戦った自分たちであれば、イナズマジャパンにリトルギガントの戦い方を教えられるかもしれない──と、意気消沈する仲間たちに彼はそう語ったのだと言う。
「礼はいらねえさ。敵とか味方とかは関係ない、ライバルだから力になりたいって言ってくれたのは……エンドウ、お前だぜ」
大きな手で肩を叩きながら言うブラージに、そっか、と円堂は嬉しそうに笑った。
そうして一同はユニフォームに着替え、グラウンドに集合する。
オルフェウスたちが額を寄せあわせて打ち合わせをするのをちらりと一瞥して、久遠は選手たちへ口を開いた。
「鬼道、お前はベンチだ」
「えっ?」
開口一番告げられた指示に目を丸くしたのは円堂だった。しかし当の鬼道はその指示に異論はなかったのか、分かりました、とすんなり頷く。久遠の意図を察したのだ。
「ゲームの組み立ては不動に任せる。良いな」
「フッ……そういうことか。ま、ベンチでよぉく見ておくんだな。鬼道クン」
「ふん……お前こそ、半端な仕事はするなよ」
鼻を鳴らして軽口を叩く不動に、鬼道は慣れた様子で不敵に笑う。
何か策があってのことらしい、と納得した円堂がフィールドに入ろうとすると、ふとフィディオが彼を呼び止めた。
「マモル。この試合は15分ハーフだ。久遠監督にも了承してもらった」
「15分……?」
練習試合にしては随分と短い。円堂は不思議そうに首を傾げたが、フィディオの表情は真面目そのものだ。
「それが”限界“なんだ」
彼はそう言って、自陣へと入っていく。どういうことだ、と円堂がその疑問に答えを得られないまま首を捻っていると、「エンドウ!」と遠くから名前を呼ぶ声がしてくる。ゴール前についたブラージだ。
「リトルギガントの攻撃は半端じゃないぜ。俺はコテンパンにやられちまったが、お前は奴らを止めて見せろ!!」
「……っおう!!」
力強い激励に、円堂は負けじと声を張り上げ拳を握りしめて答える。
そしてオルフェウスが全員自陣へと入り、ポジションへとついたところで──ベンチに腰掛けていた鬼道は、思わず声を上げた。
「何だ、あのフォーメーションは……!?」
ゴールを守るのは文字通りキーパーのみ。あとは残ることなく全員が自陣前盤に出るという超攻撃的な布陣に、練習試合とはいえ流石のイナズマジャパンも動揺を隠せない。
「全員FWかよ……!」
「どういうつもりだ……?」
オルフェウスの意図することが読めず、円堂たちはただ困惑する。だが、そんなことをいつまでも気にしていたら練習にはならない。審判を買って出た古株が久遠の一瞥を受けてホイッスルを鳴らすと、両チームは一斉に動き出す。
キックオフはオルフェウスからだ。ドリブルで向かってきたアンジェロは、ブロックに迫る風丸やヒロトと衝突する前に後方へ向かってボールを逃す。パスを受けたアレクサンドロへ即座に駆け寄る豪炎寺だったが、ダイレクトパスと変わらないスピード感でボールはまた更にジュゼッペへと渡った。
「流石に全員がFWに回ってると、手数が多いですね……!」
驚愕半分、関心半分といった具合で呟いた織乃は、ボールの行先を食い入るように見つめる。
そうして短くも素早いパス回しでイナズマジャパンを次々に抜き去ったオルフェウスは、ゴール前に辿り着いたフィディオまであっという間にボールを通してしまった。
「行くぞ、マモル!」
「来いっ!!」
身構える円堂へ、フィディオはボールへ目掛け力一杯足を振り抜いた。
「”オーディンソード 《改》“!!」
以前よりも一段と輝きを増した光の剣が、土煙を蹴立ててゴールへと伸びていく。
フィディオたちがくれた、新しい必殺技を掴むための最大のチャンスを逃してはならない。迫り来るシュートを前に、円堂はスゥッと大きく息を吸い込んだ。
「ガン、シャン──ドワーン!!」
気合いの雄叫びと共に発された闘気は、形になることなく消えていく。それで止まるシュートがあるわけもなく、円堂はそのままボールに吹き飛ばされて地面に転がった。
「円堂さん……!」
「まだダメか……!」
やはり必殺技をものにするには、今の円堂には何かが足りないのだ。仲間たちが落胆と焦燥に肩を落とす一方、フィディオは冷静に円堂を見下ろして言った。
「しっかりしろ、マモル! リトルギガントの攻撃はもっと厳しいぞ!」
フィディオも日本対イタリア戦の時よりも、格段に力をつけたはずである。それなのに彼は、自分よりもリトルギガントの方がもっと強いと言うのだ。
こんなことではリトルギガントを止められない。円堂はグッと奥歯を噛み締めながら立ち上がる。
「(さて、どうしたもんか……)」
乾いた唇を湿らせて、不動は冷静な顔で考えていた。全員が攻撃に転じたフォーメーションは、懐に入られれば一瞬で自陣を引っ掻き回されてしまう。
一方でカウンターに弱いという最大の弱点はあるが、そもそもオルフェウスはボール支配率が高い。カウンターを仕掛ける隙が容易に見つけられないのだ。
そんな状況でこちらが点を取るには、どうゲームメイクするのが一番良いのか。
考えている間にフィールドにボールが戻り、センターサークルに豪炎寺が入る。
その瞬間、豪炎寺が驚いた声を漏らすのを聞いた不動は、敵陣へ視線を向けて同じように目を見開いた。
「何だと……!?」
先程まで全員FWに入っていたオルフェウスの選手たちが、今度は全員後ろへ下がってDFになっている。
その光景を観察していたベンチの鬼道は、そうか、とハッとした声を上げた。
「人数が倍になったようだと言うリトルギガントの状態を教えるために、敢えてこのフォーメーションを組んでいるのか……!」
実際に試合に参加できる人数を増やすわけにもいかない。だがああしてどちらかのポジションに選手を集中させれば、擬似的にではあるが人数を倍にした状態を再現出来る。これこそがブラージの言っていた、『仮想リトルギガント』だったのだ。
「風丸くん!」
「おう!」
ヒロトからのパスを受け、オルフェウス陣内へ切り込んだ風丸を一気に4人が取り囲む。四方を囲まれた状態ではボールをキープすることすら難しい。
「甘いぞ! リトルギガントの守りはもっと激しかった!!」
「くっ……!」
辛うじてパスを出しても、オルフェウスは直様その相手を取り囲んで逃げられなくした上でボールを奪う。そこからすぐに攻め込もうとしないのは、あくまでこれが『リトルギガントのプレーを再現するため』の試合だからだろう。
「パスが全然繋がらない……」
「オルフェウスは全員が休まらずに動き続け、こちらの動きを封じています。物凄い運動量ですよ」
「だから15分ハーフの試合形式でしか戦えないのね……」
驚嘆の入り混じった様子で言う目金に、秋は眉根に皺を寄せた。実際のリトルギガントとの試合では、あの状態で更に選手の数が増えるのだ。
「このぉっ!」
「こっちだ!」
やがてイナズマジャパンのディフェンスラインが突破されると、ついに再びフィディオが動き出した。アンジェロからボールを受け取ったフィディオは、そのままゴールへ向かって直進していく。
「もう一度だ、マモル!!」
「おう!!」
放たれる2発目のオーディンソードに、円堂はもう一度闘気を練り上げた。
気をコントロールし、体全体を使って止めるイメージ。頭の中で繰り返し唱え、腕を掲げるも──やはり、必殺技は形にはならない。
「うわぁっ!!」
シュートの風圧に吹き飛ばされ、ベシャリと地面に落ちた円堂は悔しそうな唸り声を上げてボールに触れることすら出来なかった拳を握りしめる。
「くそっ……何で出来ない……!? どうして上手く行かないんだ! こんなことじゃ、リトルギガントには勝てない!!」
苦悶に満ちた呟きを漏らす円堂に、フィディオも、そして仲間たちも何も言わずそれを静観した。今の円堂の苦しみは彼自身が解決するしかないことを分かっているからだ。
そしてそれ以上に、円堂が大切なことを見失いかけていることも。
腕時計を見下ろした古株がホイッスルを吹き鳴らすと、一同はハッとしてそちらを見た。15分が過ぎたのだ。
「このままじゃやばいぜ。エンドウたちには俺たちの二の舞になってほしくねえのに……!」
「……俺は最後までマモルを信じて、ボールを蹴り続ける」
ハーフタイムに入ると、ブラージはどこか焦った声音でフィディオに声を掛ける。
フィディオもまた心の奥底に焦りがあるのは彼と同じだったが、それ以上に彼は円堂とイナズマジャパンの可能性を直向きに信じていた。
イナズマジャパンは前半の状況を受けて、作戦会議を始めている。
「攻撃も守備も、常にこっちより人数が多い」
「あれがリトルギガントの強さなのか……」
「実際の倍の選手と戦っているような、圧倒的運動量を持ったチームということだろう」
前半を振り返り所感を呟く風丸とヒロトに、鬼道は冷静に返す。
「そんな相手とどう戦えって言うんですか?」
「イタリアから8点もとった上に無失点なんて、完全無欠っスよ!」
困惑した表情で言う立向居や壁山に、鬼道はそうだな、と低く呟いて口元を押さえ思案する。しかし彼が何か言うよりも先に口を開いたのは夏未だった。
「完全なチームなんてないわ。大介さんは言ってた……どんなチームにも必ず、自分たちにも見えない穴が生まれると」
「じいちゃんが?」
ぱち、と大きく瞬きをして円堂は夏未を見やる。
あそこまで強いチームを育てても尚、祖父はまだ進化しようとしているのだ。円堂の目に、失敗続きで燻り掛けていた闘志に再び火が灯る。
「虎丸、土方、吹雪、そして鬼道。後半はお前たちで行く」
「はい!」
会話が途切れたタイミングで久遠から出された指示に、名指しされた選手たちは力強く答えた。鬼道の表情はやや硬く見えるが、焦っている様子はない。前半を外野から観察した甲斐あって、何かを掴み掛けているのだろう。
そうしていつもより少し短いハーフタイムを終え、選手たちはフィールドへ戻る。
「──円堂!」
ゴール前に戻る直前、円堂は不意に豪炎寺に呼び止められた。
きょとんとした顔で振り返った円堂に対し、豪炎寺はこちらを安心させるような穏やかな笑みを湛えている。
「どんな相手だろうと、俺は必ずゴールを奪ってみせる」
「俺だってやります! リトルギガントのゴールに、ハットトリックを決めてみせますよ!」
駆け寄ってきて口を挟んだ虎丸に、円堂は小さく笑って頷く。仲間たちの気遣いが、今は何よりも心の支えだった。
ホイッスルが再び吹き鳴らされ、15分の後半戦が開始される。
ボールは豪炎寺のタッチで虎丸へ、そして虎丸からパスを受けた鬼道はそのままドリブルで切り込んでいく。鬼道は並走してきた佐久間と目配せを交わすと、声を張り上げた。
「行くぞッ!」
「ああ!」
急ブレーキを掛け、鬼道は佐久間に向かってパスを打とうと足を振りかぶる。
しかしその直前、目の前に割り込んできたアントンの妨害を受け、ボールの軌道がぶれてしまった。
「ッ、しまった……!」
ボールは明後日の方向へ飛ぶと、選手のいないスペースへ落ちてラインの外へ転がり出ていく。
それを見て、あ、と織乃は小さく声を漏らした。
「御鏡さん、どうかした?」
「あ、その……あのフォーメーションの攻略法、分かった気がして」
口元を押さえ、織乃は一瞬考え込むと、「鬼道さん」とフィールドの鬼道に声を掛ける。
そして彼がこちらを向くと、織乃はあれを、と音を発さず口を動かして、転がったボールを指差した。
「……」
鬼道はそれを見てしばし考え込むと、小さく頷いてそっと不動に近寄った。
「不動」
「ん?」
「次にボールが来たら……俺に蹴ると見せかけて、奴らのど真ん中へ転がせ」
「何……?」
頼んだぞ、と言い置いて、鬼道はサッとそこから離れていく。
その一連のやりとりを見た織乃がホッと胸を撫で下ろすと、あの、と立向居が控え目に声を掛けてきた。
「御鏡さん、あのフォーメーションの攻略法って……?」
「うん。多分、今からやってくれると思うよ」
織乃はそう言って、仲間たちの視線をボールへ誘導する。
ボールがフィールドへ投げ込まれ、それを取った不動が佐久間と鬼道と並んで敵陣へ切り込んだ。
そして5人がかりの守備の壁を前に、彼は鬼道の言葉の意味を理解してニヤリと口角を上げる。
「そういうことか……っと!」
「!」
鬼道に一瞥を向けて足を振り上げると、5人が彼に向かって一斉に飛びかかっていく。その直後、鬼道の言う通り彼らの後方ど真ん中目掛けボールを放った。
こちらへボールが来るものと予想していたフィディオたちは、虚を突かれ一瞬体が硬直する。
鬼道はその隙を突いてディフェンスラインの隙間を掻い潜りボールを拾うと、そのまま前線を押し上げた。
「(思った通りだ。どんなに人数がいても、予想外の事態には一瞬だけ対応が遅れる。相手がリトルギガントならば、選手間のスペースは遥かに広い! そこに突破口がある!!)」
暗雲の立ちこめる中、僅かに差し込む一筋の光。
向かってきた残りのDFを抜き去って、鬼道は追いついてきた不動と佐久間に号令を掛けた。
「行くぞ! 佐久間、不動!」
「ああ!」
跳躍した鬼道は高らかに指笛を吹き鳴らすと、5羽のペンギンたちを召喚した。エネルギーの集約されたボールに3人同時に足を叩き込んで解き放つと、ペンギンたちはそれを追いかけてゴールへ飛来していく。
「”皇帝ペンギン3号 《G2》“!!」
空気をネジ曲げる程の威力を持った、イナズマジャパンでもトップクラスのパワーを持つシュート。
だがきっと、これではリトルギガントには届かない。
「”《真》 爆熱スクリュー“!!」
だからこそ、彼はゴール前で鬼道たちがディフェンスラインを突破するのを信じて、既にそこへ到着していた。
豪炎寺の炎の威力を受けて、更に強力になったシュートはブラージの必殺技を打ち砕いてゴールへと突き刺さる。
「よし……!」
「やりましたね、豪炎寺さん!」
静かに拳を握り締める豪炎寺に、虎丸が嬉しそうに駆け寄っていく。鬼道はそれを横目に佐久間と軽くハイタッチを交わし、満足そうに鼻を鳴らしている不動へ一瞥を向けた。
「ついに点を取りましたね!」
「ああ……!」
テクニカルエリアで見守る仲間たちも、ようやく見えた光明に目を輝かしている。
円堂はその様子に顔を綻ばせて、未だ満足のいく結果を残せていない自身の拳を睨んだ。
「(みんなが点を取った。俺もやるんだ……やらなくちゃ!)」
攻略の糸口を掴んだイナズマジャパンは、そこから一気に形成逆転を始める。倍の人数を相手取る方法は分かった。あとは体に覚え込ませれば良い。
しかし、練習試合と言えどオルフェウスにもチームのプライドというものがある。
イナズマジャパンが仮想リトルギガントのプレーに順応すればするほど、彼らの攻め方もより激しく苛烈になった。
その一方で円堂の必殺技は完成の兆しも見えず、ただただスコアボードにオルフェウスの点が追加されていくばかりである。
「何で……どうしてなんだ……!」
ついに4点目を奪われた円堂は、ボールを抱えて苦しげに呟いた。
せっかく大介のアドバイスで何かを掴んだと思ったのに。これではロココを超えられない、ゴールを守りきれない。呻く円堂を見て、フィディオはふと彼に近付いた。
「マモル。君はどんな絶望的なピンチだって、自分の力で乗り越えてきたんだろう。どんな必殺技だって、必ず身に付けてきたんだろう?」
円堂はその言葉にゆっくりと顔を上げた。フィディオは眉間に皺が寄せ、叱りつけるような声音で続ける。
「その新しい必殺技のヒントだって、ただの掛け声から自分で見つけ出したものだって言ったじゃないか」
「……!」
円堂は表情を引き締めて立ち上がる。フィディオはそこで、小さく笑みを浮かべた。
「君には出来る。君なら必ず出来る! ……俺はそう信じてるよ」
「必ず、出来る……」
その言葉を反芻した円堂は、後方にいた豪炎寺がフィディオと同じような目でこちらを見ていることに気付いて、いつもの力強い笑顔を取り戻す。
「円堂さん、まだ1本も止めてない……」
「出来るんでしょうか、新しい必殺技は」
テクニカルエリアの仲間たちは、迫るタイムリミットと上手く運ばない円堂のレベルアップに焦りを覚え始めていた。不安そうな立向居に、目金はカメラを回しながら呟く。
いくらフィールドプレーヤーの動きが良くても、守備を突破されてしまえばゴールを守るのは円堂たった1人。そして円堂自身の力が足りなければ、チームは負けてしまう。
「! またフィディオにボールが回った!」
思わずベンチから腰を浮かせながら立向居が声を上げる。
「行くぞ!!」1人、そしてまた1人と守備を単身突破したフィディオは円堂へ向かって吼える。時間は残り僅かだ。これを止めても止められなくても、シュートチャンスはこれが最後になるだろう。
「(止めるんだ! 今度こそ絶対に!!)」
協力してくれたフィディオたち、ここまで一緒に戦ってきてくれた仲間たち。彼らが円堂を信じる心に応えるために。
──自分の力を信じる心、迷わない自信。刹那、円堂の脳裏にふいに蘇ったのは、先日大介のノートで見た言葉だった。
「”《真》 オーディンソード“!!」
「ここに来てまた進化した!?」織乃の驚愕の声を掻き消すように、放たれたオーディンソードは風を切り裂き音を立ててゴールへと直進する。
「うおおおッ!!」
地を鳴らすような咆哮を上げ、円堂はシュートへ向かって腕を伸ばした。瞬間、彼の背後に今までで一番はっきりとした闘気の陰影が浮かび上がる。
しかしシュートは両掌にガッチリ掴まれて尚、その威力はまだ衰えていない。ぐ、と爪先が地面から離れる感覚のあと、円堂はボールごとゴールネットに押し込まれた。
「マモル!」
ネットにぶつかった反動で前方へ倒れ込んで動かなくなった円堂に、フィディオとオルフェウス、イナズマジャパンの仲間たちは慌てて彼に駆け寄っていく。
「大丈夫か!?」
「……た」
心配するフィディオに、円堂はボソリと声を漏らす。それはフィディオの問いに対する答えではなかったが、顔を上げ起き上がった円堂の顔は、土埃こそ付いていたが喜色に溢れていた。
「見えた──やっと見えたぞ! 新しい必殺技の姿が!」
「……! やったな、マモル!」
ああ、と頷いた円堂が片手を差し伸べたフィディオに応えたところで、試合終了を告げるホイッスルが鳴り響く。
結局イナズマジャパンは1点しか奪うことが出来なかったものの、得たものは大きい試合だったと胸を張って言えた。
「あのフォーメーションのおかげで、決勝の戦い方が掴めた。ありがとう」
「ああ。力になれて本当に良かった」
全員がフィールドの中央に集まったところで、鬼道は改めてフィディオへ礼を言った。自分たちだけではきっとここまでの対策は練られなかっただろう。
「お前たちなら必ず世界一になれる。頑張れよ!」
「ああ!」
サムズアップするブラージに力強く頷いて、円堂は意気揚々と拳を掌へ叩きつけた。
「よーし、絶対に新しい必殺技を完成させるぞ!」
「世界一を決める戦いに相応しい、新たな必殺技……あれはゴッドハンドを超えた、ゴッドキャッチと名付けるべきですね!」
すかさず横から口を挟んで来た目金に、円堂は嬉しそうに頷く。どのみち技の名前も必要だったのだ、異議を唱える必要もない。
選手たちが笑い合い、決勝戦への覚悟をまた更に強くするその様子を、久遠がじっと見つめていた。
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