Hearty shout out

フィディオたちのと練習試合を終えた夜、夕食の後イナズマジャパンは再び談話室に集められていた。
理由は知らされておらず、ただ秋や春奈が『始まってからのお楽しみ』と言って教えてくれなかったのである。

「なぁ、一体何を始めるんだ?」
「もうすぐ分かりますよ」

円堂は席に着いて近くにいた織乃に尋ねたが、彼女もまたニコニコと笑うだけで答えてくれる気配はない。
その間にも他のマネージャーたちは着々と何かの作業を続けており、最後に春奈がテレビの上部に設置した小型カメラと自分のノートパソコンを繋ぐ。

「それじゃあ繋げま〜す!」

そう言って春奈がキーを操作すると、スピーカーからひと足さきに雄叫びにも似た騒がしい声が響いてきた。

「な、何だぁ?」

キーンとする耳を押さえて驚いていると画面が切り替わり、真っ先にそこに映ったのは雷門イレブンである半田、そして松野と少林である。どうやら日本──雷門中の体育館と中継が繋がっているらしい。
半田は「あっ!」と小さく声を上げると、カメラに向かって両手を振った。

『おーい、イナズマジャパンのみんな、こんにちわー!! 見てくれ、ここにいるみんな、雷門中サッカー部なんだ!』

カメラが引いて画面いっぱいに映ったのは、40人近い男子生徒たちだ。そしてそこには勿論、影野や栗松や宍戸、そして闇野も含まれている。

「ええ!?」
『うちの学校からイナズマジャパンに沢山選手が行ってるだろ? おかげでサッカー部の人気が一気に上がったんだ』
『アジア予選の頃からどんどん部員が増えてきてるんだよねー』
『毎日入部希望者が来てるんです! 1年から3年まで!』

半田の左右からカメラに身を乗り出して、松野や少林が口々に喋る。わいわいと賑やかな新入部員たちに、涙ぐんだ壁山が後ろの席から円堂に抱きついた。

「キャプテン、信じられないッス! こんなに部員が増えてるなんて!」
「す、すごい……!」
『それにキャプテン、すごいニュースがあるんです!』

興奮した様子の宍戸が言うと、それに合わせて画面が切り替わる。それは円堂たちも使っていたサッカー部の部室だ。しかし、イナズマジャパンに入る前まで使っていたそれとはどこか趣が違う。

「あ……!」

その違和感に気付いた円堂は、ハッと声を上げた。
実は40年前から部室棟エリアにあったサッカー部の部室は、エイリア学園で壊されて以降、プレハブ小屋を経て新しく建てられたよく似たデザインのものを使っていたのである。だが今目の前に映っているのはプレハブ小屋ではなく、かといって真新しい建造物でもない。慣れ親しんだかつての部室、ほぼそのままだった。

『復活、雷門中サッカー部部室〜!』
『理事長がサッカー部のモニュメントとして建て直してくれたんです!』
『ツギハギでやんすけど、前の時のをほとんど使ってるでやんすよ!』

円堂は目を輝かせると、勢い良く席から立ち上がる。それを見て同じように立ち上がるのは、マネージャーを含めた雷門イレブンの面々である。

「ありがとうございます、理事長!!」

誰が号令をかけるでもなく頭を下げる11人に、理事長は満足げに頷いている。
ビックリしただろ、と鼻を擦った半田は、にこ、と笑って続けた。

『でも、まだ未完成なんだ』
「未完成? 何で??」

あんなに再現度も高いのに、と円堂が首を傾げると、画面にヌウッと誰かの顔面が割り込む。カメラとの距離感を間違えた影野である。

『看板、そっちに持ってっただろう?』
「あッ」

ここはイナズマジャパンのほぼ全員が声を上げた。お守り代わりに、と日本を離れるときに円堂が持ってきてしまったことを思い出したのだ。

「ごめんごめん……帰ったら付けるよ!」
『うん。決勝戦、ここに集まってみんなで見るからな!』
『応援してるでやんすよ!』
『みんな、エール行くよ!』

松野が前に飛び出して合図を出すと、「イナズマジャパン、ファイトー!!」と体育館にいっぱいのエールが響き渡る。円堂はそれを見て、思わず涙目になった。

「っみんな、ありがとう!」
「世界一になってやるぜ!」
「俺、盛り上がってきたッス〜!」
『よぉし、みんなもう1本行くぞ! 』

次々に感謝と気合を口にする雷門イレブンの面々に、今度は理事長が部員たちを先導してエールを送り始める。
そう言えば昔は応援団長してたって言ってたわね、と呆れ交じりに呟いた夏未の表情は柔らかい。テレビの向こうの応援、そして嬉しそうな円堂たちの笑顔を見て、秋は顔を綻ばせた。




それからしばらく時間を置いて、グラウンドには夜にも関わらず練習に興じる鬼道と染岡、ヒロトと風丸の姿があった。
その近くには鬼道に頼まれて着いてきた織乃もいる。彼女は膝に乗せたモバイルPCと4人がボールを取り合う様子を交互に見比べ、チャカチャカとすっかり慣れた手つきで一心不乱に文字や数字を打ち込み続けていた。

ふとそこでライトに照らされる人影が一つ増えたことに気が付いて、織乃は顔をそちらに向ける。吹雪だ。

「何だ、お前もかよ」
「雷門サッカー部のエールを聞いたら、じっとしていられなくて」

横入りする形でボールを受け止め笑顔で答えた吹雪に、染岡はどこか照れくさそうに頭を掻いた。

「あんなエール飛ばされたら、頑張らないわけにはいかねえよな」
「うん。きっと白恋のみんなも……って思ったら、もっと強くなりたくなった。今日のキャプテンみたいに……!」

持ち上げたボールを胸に抱えて、吹雪は真剣な表情で言う。それを聞いた4人が同じような顔でこっくり頷くのを見て、織乃は小さく口角を上げた。

「今日のオルフェウスとの試合で、キャプテンはまた一つ強くなった。大介さんのノートの言葉を、自分の力に変えたんだ」
「ゴッドキャッチの完成に囚われていては、決勝は戦えない。円堂はそこに気付いたんだ」

以前も同じようなことがあったな、と鬼道は懐かしむ口調で呟く。
世宇子戦の時ですね、と同調した織乃に彼は薄い笑みを浮かべて頷いた。あの時の円堂はマジン・ザ・ハンドの完成に躍起になって完全に周りが見えなくなっていた。昼間の円堂もそれと同じような状況に陥りかけていたものの、その一歩手前で留まったのは成長だろう。

「自分がどう決勝に臨んでいくか……あの笑顔が、答えだったんじゃないかな」
「それが”迷わない自信“か」

あの時見せた円堂の笑顔を思い出し、そう言ったヒロトに鬼道は先日聞いたノートの内容を思い出した。
必殺技のヒントといい、やはり大介が円堂に与える影響は大きいということだろう。

「きっとみんなにも、あのノートからみんなに響く言葉があるよ。それに気付いたとき、僕たちはまた一つ強くなれる……!」
「お前にとって、響く言葉はあったのか?」

染岡はどこか真剣な眼差しで吹雪に尋ねる。吹雪は笑顔で頷いて、4人より向こうの景色へ視線を向けた。

「あったよ。みんなのおかげでね」

その視線を追って振り向き、彼らは思わず破顔する。

「じっとしていられないんだな、みんな」

ユニフォーム姿でボールを抱えて、宿福からぞろぞろと出てくる仲間たちを見て呟く鬼道の声は楽しそうだ。
しかし全員が集まったかと思いきや、約2名が足りない。お前らここにいたのか、と目を細めた佐久間に頷いて、鬼道は彼らの顔を見回した。

「円堂と豪炎寺は来なかったのか? 珍しいこともあるな」
「誘おうと思ったんですけど、何だか2人で話し込んでいたので邪魔するのも悪いかと思って」

頬を掻き、そう答えた立向居は「シュート練習の相手なら任せてください!」と握り拳を作る。
織乃は苦笑を浮かべ、早くもボールを蹴り始めた選手たちへ声を掛けた。

「明日も早いんですから、9時には切り上げてもらいますからね!」
「はーい」

後輩たちの良い子の返事に、織乃は満足そうに口角を上げてベンチへ座り直す。

「朝もお昼もあんなに動き回って、まだ練習し足りないなんて……ほんとに、よっぽど雷門中のエールが効いたんですね」

丁度水分補給をしにベンチへ戻ってきた染岡にふとそう声を掛ければ、彼は口元を拭った後で、まぁな、と首肯した。

「壁山なんかは、特に嬉しかっただろうよ。人数が足りなくてろくに試合も出来なかったサッカー部が、あんなにデカくなったんだから」
「え……そうだったんですか?」

意外な話に織乃は少し目を丸くする。確かに雷門サッカー部は織乃が入部した頃から人数がギリギリだったが、まさか試合可能人数に届いていない時期があったとは思わなかった。

「聞いたことあるかもしれねえが、雷門サッカー部は元々雷門にはなくてよ。1年の頃、円堂と木野が立ち上げた……正確に言うと、立ち上げ直したんだ」

雷門イレブンの仲間たちの顔を久々に見て少し郷愁に駆られたのか、染岡は織乃の隣に少し間を空けてどっかりと腰を降ろし、ぽつぽつとサッカー部開設当時のことを語り始める。

古びて物置になっていた部室を片付け、修繕し、円堂と秋は根気強く部員を探していた。
入学当初サッカー部がないのなら仕方がない、とどの部活にも所属していなかった染岡と半田がサッカー部へ入部したのは、彼らが部員募集を始めて丸1ヶ月程経った頃である。
何となく気恥ずかしさを覚えながら部室にやって来た2人を見て、円堂たちは目を輝かせて大層喜んだ。

結局その1年の内に部員は増えず、円堂が目指したFFには参加資格さえ得られなかった。
色々な運動部に頭を下げて場所を借り、出来ることは基礎トレーニングとちょっとしたパス練習、シュート練習ばかり。

部員がようやく少し増えたのは、2年生になってからのことである。
壁山、栗松、宍戸、少林。緊張した面持ちで1年生たちが部室にやってきた日のことは、まだ昨日のことのように思い出せる。

それでもまだ11人には届かなかったが、今年こそ、と息巻いた彼らはやる気に満ち溢れていた。
けれど現実は非情で、人数は足りず他校との練習試合も出来ず、練習する場所も校内にはろくにないまま。

そのやる気は徐々に萎びてしまい、初夏に差し掛かる頃には1年生はおろか、染岡や半田もすっかりやる気を削ぎ落とされてしまっていた。

「それでも辞めなかったのは、キャプテンの円堂があんな調子だったからだな……」

ふ、と小さく噴き出すようにして染岡は笑って立ち上がる。
サッカーやろうぜ、としつこいくらいの熱血を振り撒いて、小さな希望をずっと捨てることが出来なかったから、今がある。小さな部室から、世界に羽ばたいたのだ。

「──おい御鏡、俺がこんなこと話してたって、他の奴らには言うなよ」
「え、どうしてですか?」
「……小っ恥ずかしいだろ、なんか」

お前は口が硬いだろうから話したんだ、と頭を掻いた染岡は、織乃の答えを聞かないまま練習に戻っていく。
ポカンとその後姿を見送った織乃はやがてそっと笑って、分かりました、と誰にも聞かれないような声で答えた。

練習風景を眺めながら、織乃はポケットのメモ帳に挟んであった1枚の紙を取り出して開く。
春奈から11の言葉をPCでメモしていたので、それをプリントアウトしてもらって何となく持ち歩いていたのだ。

「(心のその1……)」

心のその1、どんな時も諦めない『ガムシャラガッツ』。心のその2、どんな敵も恐れない『タチムカウユウキ』。
心のその3、大切なものを守りたいと思う『ソコナシノヤサシサ』。心のその4、仲間の全てを信じられる『ゼッタイテキシンライ』。
心のその5、どんな事態にも動じない『コオリノレイセイ』。心のその6、隠された真実を見抜く力『ミヌクシンガン』
心のその7、人の過ちを赦す心の強さ『ユルスツヨサ』。心のその8、他人の喜びと悲しみを分かつ『ワカチアウナミダ』。
心のその9、高き志を持つ者だけが見る『ハテシナキユメ』。心のその10、自分の力を信じる心『マヨワナイジシン』。
心のその11、どん底でも消えることのない『センシノホコリ』。

「(技を生み出す根源は、心の強さである。新たなる技を生み出すには新たなる心を身につけること)」

心の中で11の言葉を復唱して、織乃はゆっくりと深呼吸をした。
大介のノートにあったこれは、紛れもなく選手の為に残されたものだ。だが、これはきっとチームを支えるマネージャーにとっても大事なことに違いない。

「(私も気持ちを新たにして決勝に臨まないと。出来る限りのことをして、チームに貢献したいから……!)」

マントを翻し駆ける鬼道へ視線を向け、織乃は心の中で決意を新たにする。


§


それから一夜明け、翌日の早朝。朝練を始める前に、久遠は選手たちへ改まった様子で語りかけた。

「いよいよ明日はFFI決勝戦だ。今日1日は、今まで身に付けてきたことの仕上げとして使いたい。明日を万全の体制で迎えるためにも、今日はしっかりと調整してくれ」
「はい!!」

答える円堂たちの声にも気合が入っている。目金は自分が戦うわけでもあるまいし、緊張で眼鏡を曇らせていた。

そうして練習が始まると、みんな昨日よりも一段と覇気があるのがベンチから見ていても分かった。緊張も勿論あるだろう、しかしそれ以上に明日への期待で表情が輝いているのだ。

「吹雪!」
「ああ!」

高く打ち上がったボールを視線で追って風丸が叫ぶと、吹雪がそれを追いかけて地面を蹴った。空中で回転して勢いを付けた吹雪は、そのままゴールへ向かってシュートを打ち込む。

空を鋭く切り裂いたシュートは、カーブを描いて円堂の射程圏内から逃れると、ゴールネットの端を抉るように刺さった。

「吹雪! お前、やっぱパワーアップしてるぞ!」
「確かにあのシュート、今までとは違う!」

駆け寄って称賛してくる仲間に、吹雪は額に浮かんだ汗を拭って微笑んだ。

「キャプテン。心のその7……もらったよ」
「え?」

ふいに思い出したようなタイミングで円堂へそんなことを言った吹雪に、仲間たちは目を瞬く。

「僕は、ずっと完璧と言う言葉に囚われて……それが出来ない自分を許せなかった。僕は僕なんだって思えなかったんだ」

織乃は眉根をそっと寄せる。もう一つの人格であるアツヤを仲間たちから無意識のうちに求められ、自分が何者か分からなくなってしまった吹雪の姿は見ていてとても痛ましく、そしてそれを助けられないことは織乃にとっても辛い出来事だった。

「でもみんなのおかげで、強さも弱さも間違いなく僕自身なんだと気付いたんだ」

そう告げて、吹雪は自身の胸を軽く叩く。まるで、そこに自分の心が仕舞ってあるのだと言うように。

「あのノートは、自分自身を見つめ直すためのものなんだ」
「……自分を見つめ直す」

呟いた鬼道を、佐久間がちらりと見る。他の仲間たちも、思うところがあるように視線を交わし、あるいは遠くを見つめた。

「自分が分かれば、心の奥底に眠っていた力を引き出せる。僕にとってその力は、心のその7……『許す強さ』だ」
「それじゃあ俺も、自分を見つめ直せば強くなれるッスか!?」
「うん、強くなれる!」

目を期待に輝かせる壁山に頷いた吹雪は、だからさ、と後ろを振り返る。

「──鬼道くん、ヒロトくん!力を貸してくれないかな?」

名指しされた2人は一瞬顔を見合わせ、過去を振り返る。どうしようもないと思っていたどん底から引っ張り出してくれた手の力強さは、今だって心の支えだ。

「……俺は円堂と会って、サッカーへの思いを見つめ直し変わることが出来た」
「ああ、……俺もだ!」

2人はそう言うと、笑みを交わす。彼らの共通点は、『円堂に救われたこと』だった。

「そんな僕たちだからこそ、手を組めばもっと大きな力を手に入れられる。やってみようよ、新しい技を!」
「うわぁ! 良いじゃないか!」

パッと笑顔を弾けさせた円堂は、吹雪の肩に腕を回す。ヒロトと鬼道は小さく頷き合うと、吹雪の意見を快諾した。

「やってみるか……!」
「ああ! 俺たちのサッカーの全てを注ぎ込む、新たな技を作るんだ!」
「よしっ、そうと決まれば練習再開するぞ〜!」

飛び跳ねるような足取りでゴールへ戻っていく円堂を見送って、鬼道たちはそれじゃあ、と言わんばかりの顔で織乃の方を見る。

「御鏡! あとでまた練習に付き合ってくれ!」
「! ……はいっ!」

当たり前のように頼られることが、何よりも嬉しい。笑顔で頷いて応えた織乃に一瞥をくれながら微笑を浮かべ、夏未がそっと口を開く。

「吹雪くんだからこそ、見出せたのかもしれないわね」
「そうね……吹雪くんのサッカーは、ずっと自分自身の心との戦いだったから」

そう呟く夏未に、秋は染み入るように頷いた。
短くも長い、冬のような冷たい孤独を過ごしてきた吹雪が、今ああして仲間たちと前を向いてサッカーをして出来ていることは、もしかすると奇跡に近いことなのかもしれない。

「明日の決勝戦、大介さんの考える以上に、熱く激しい試合になりそうよ。円堂くんを中心に、イナズマジャパンはまた一つ進化を遂げようとしているんだもの……!」

そう言って円堂を見つめる夏未の瞳は煌めいている。言葉にこそしないものの、彼女もまたワクワクしているのだ。

「さあ、やろうぜ! 明日はイナズマジャパンにとって、最高の1日になる!!」

底抜けに明るい声がグラウンドに響く。仲間たちは円堂の言う『最高の1日』を、そして勿論リトルギガントたちも、心から信じ待ち侘びていた。