VS.Little Gigant

全世界が注目するFFI決勝戦。イナズマジャパン対リトルギガントは同点の状態で後半戦を迎えようとしていた。

「すいません。間に合わなくて……」
「別にお前が謝ることじゃねえだろ」

イナズマジャパンは風丸に変わって不動を投入することになった。前半とは攻撃のリズムを変えようというのが久遠の狙いだ。
顔を顰めて謝罪する織乃に、不動は屈伸しながら何てことないように答える。

「技が完成しなかったのなら、試合の中でどうにかすりゃあ良い話だ。うちのキャプテンみたいによ」
「……そうですね。タイミングには気を付けて」
「分かってる」

うるさそうに肩を竦め、不動は織乃に背を向けた。
ちらりと鬼道がこちらに視線を向けたのを見て、織乃が小さく頷いてみせると、彼は微かに口角を持ち上げて同じように頷き返した。

歓声が響き続ける中、イナズマジャパンは円陣を組み額を突き合わせる。
円堂は無言で仲間たちの顔を見回した。仲間たちもまた、何も語らず力強い眼で彼を見つめ返す。皆一様に、口元に笑みを浮かべている。
それを見て、円堂も口角を上げてスゥッと息を深く吸い込んだ。

「……みんな行くぞ!!」
「おおッッ!!」

青空に11の雄叫びが反響し、吸い込まれる。
そして割れんばかりの拍手に浴びながら、両チームはピッチへ入った。

「みんな、頑張って……!!」

秋は手を握り締め、絞り出すような声で呟く。こちらの方が緊張で倒れそうだ。
織乃は彼女の背中に手を添えながらリトルギガントの様子を窺って、──ハッと息を漏らした。

ゴールキーパーのロココが、フィールドプレイヤーのユニフォームに着替えている。

「ロココさんがFWに……!」
「……」

織乃の緊張した声に、夏未はきゅっと唇を引き結んだ。
エリア別予選ではロココは確かにFWとして出場し得点を記録している。だがこの大会に入ってから彼がフィールドプレイヤーとして出るのは初めてだ。
前半で見せたゴールからのシュートを考えれば、彼もまたドラゴに並ぶアタッカーということだろう。

「ロココがFWとはな……」
「……あいつのキック力を思い出せ。油断は出来ないぞ」
「分かってる……!」

思案げに呟く佐久間に鬼道が円堂に目線をくれながら忠告する。
険しい顔で答えた円堂に、小さく頷き合った吹雪と綱海が言った。

「僕と綱海くんがマークにつくよ」
「おう! ヤツにシュートは打たせねえよ!」
「ああ。頼んだぞ!」

相手が一筋縄ではいかないということは嫌と言うほど分かっている。よし、と気合を入れ直し、円堂がゴールエリアに入ろうしたその時だ。

「円堂!」
「んっ?」

声をかけてきたのは豪炎寺だった。肩越しに振り返った円堂に、豪炎寺は一瞬逡巡したように足元に視線を落とす。
そしてすぐに力強い笑みを浮かべ、握り拳を作って言った。

「──必ず点を取る」
「……ああ。頼んだぞ!」

観客のボルテージが上がり、それに比例してフィールドの空気が張り詰めていく。
泣いても笑ってもこれが最後。高らかなホイッスルの音を合図に、勝利の栄冠を掴む戦いの幕が切って落とされた。

「お手並み拝見と行こうか!」

ゴーシュからボールを受け切り込んできたロココに、早速不動が立ちはだかる。
しかしロココは不敵に口角を持ち上げると、不動が何かアクションを起こすよりも早くその隣を猛スピードで過ぎ去っていった。
だが、それはまだ想定の内だ。不動を抜き去ったロココの進路へ、すかさず吹雪と壁山が立ちはだかる。

「“スノーエンジェル”!!」
「あっ!」

猛烈な寒風にボールが舞い上げられ、主導権はイナズマジャパンへ移った。
このままロココを抑え込めるかどうかが勝負の分かれ目になるはずだ。織乃は唇を噛み締めて試合の流れを見つめた。
ボールは吹雪から虎丸へ、そしてダイレクトでヒロトへと渡る。

「“天空落とし”!!」

「ウォルターッ!」マキシが声を張り上げると同時に、ウォルターは巨木のような腕をフィールドに叩きつけた。大地が割れ、衝撃で浮かび上がった瓦礫がシュートの威力を殺す──が、それで止まるヒロトの必殺技ではない。
土煙の壁を突き抜けゴールへ一直線に向かっていくシュートに、ロココと交替でキーパーに入ったケーンが身構える。それは先程見たばかりの構えだった。

「“ゴッドハンドX”──!」
「何ッ……!?」

放たれた赤い閃光がシュートは完全に押し留め、ボールがケーンの手に収まる。あれはロココだけに使える技ではなかったのだ。

「控えと言えど、彼もまたリトルギガントのゴールを守るキーパーよ」
「実力はロココさんにも劣らないってことですか……!」

腕を組み、硬い表情で言う夏未に、織乃は思わず顔を顰めた。改めて恐るべき力を持ったチームだ。
何にせよ、イナズマジャパンにとっては宜しくない展開である。ボールを受け取ったゴーシュを起点に、リトルギガントはカウンターアタックを仕掛けてくる。

「ロココには出させない!!」
「止められるものなら止めてみろ!」

向かってくる鬼道にマキシはゴーシュからのパスを受け取りながら声を荒らげた。ボールがボード状に変形し、それに飛び乗ったマキシは一気に加速する。

「“エアライド”!!」
「なっ……!」

鬼道の頭上をスカイサーフィンのトリックを決めながら飛び越えたマキシだったが、着地点には既に不動が待ち構えていた。
マキシは素早くロココへ視線を送るも、彼には吹雪や綱海、壁山がピッタリとマークに付いている。

「ッ、ゴーシュ!」

あんな状態でパスを出せるわけもなく、マキシは後方のゴーシュへボールを戻した。パスを受けたゴーシュは果敢に攻めてくる飛鷹を押さえ、キートへボールを送る。

「中々ボールを奪えませんね……!」
「ええ……でも、付け入る隙はあるはずです」

歯痒そうに呟く目金に、織乃はボールを目で追いながら言った。
個人技では僅かにイナズマジャパンを上回っているリトルギガントだが、ロココにボールを繋げようという思いが強いのか、僅かだが先程よりもプレーが粗くなっているのが分かる。
これならば必ずボールを奪えるタイミングが来るはず。その機会を窺うイナズマジャパンだったが、とうとう痺れを切らしたロココがマークを振り切って飛び出した。

「ロココーッ!!」
「くっ……!」

マキシが放ったセンタリングに、綱海が咄嗟に足を伸ばす。つま先が微かに掠め、軌道の変わったボールはゴールの方へ緩やかに飛んでいく。

「みんなが守ったボール……取らせやしない!!」
「!」

円堂がそれに飛びつくより先に、ロココはスライディングでボールを押さえた。
距離は誤魔化しようもない目と鼻の先。文字通りの一対一だ。

「──来いッ、ロココ!!」
「……!」

こうなれば腹を括るまでだ。構える円堂に、ロココは無言で応える。高く打ち上げたボールを追って跳躍したロココは、空中で独楽のようにバク宙した。

「“Xブラスト”──!!」
「“ゴッドキャッチ”!!」

回転の勢いを与えられたボールは赤い十字の閃光を放ち、円堂の繰り出す金色の巨人と激突する。
けれどボールの威力は押さえきれるものではなかった。体全体を痺れさせる波動を生み出しながら円堂を吹き飛ばしたシュートは、ネットを突き破らん勢いでゴールに突き刺さる。

「ゴッドキャッチが、破られた……!」

地面に膝を突いたまま、円堂は震える声で呟いた。
ボールに触れた手がまだ痺れている。これがロココの実力なのだ。
円堂が顔を上げると、仲間たちと喜びを分かち合っていたロココがふとこちらを振り向いた。
その目は得点を決めた高揚感で爛々と輝いている。円堂はそれを見つめ返して、胸の奥から──きっと今のロココと同じだろう──激しい感情が沸き立つのを感じた。

「……次は止める!!」

ホイッスルが鳴り、イナズマジャパンのキックオフで試合が再開される。
虎丸、そして不動が並走したのを横目に確認し、豪炎寺がドリブルを続けながら口を開いた。

「……“あれ”をやるぞ」
「っでも、あれはまだ……!」
「そんなの分かってる!」

焦った様子を見せる虎丸を、不動は食い気味に制す。

「一か八かだろ……やるぞ!!」

不動が合図すると、三人はボールを中心にして円を描くようにして走り始めた。
風が集まり、巻き怒った旋風はあっという間に竜巻へと変わる。

「行くぞ!!」

気勢の声を張り上げ、パワーの集まったボールに同時に蹴りを叩き込む。蹴り上げられたボールは激しい風を纏いながらゴールへと向かっていった。

「足りない!」

表情を強張らせて織乃が口走ると同時に、風は途中で力を失ってシュートは容易く弾かれ止められてしまう。

「やっぱりダメか……」

織乃は項垂れて呟く。フィールドでは不動は顔を歪めて舌打ちしていた。
FW二人のパワーに対し、一人のコントロール力を上乗せした絶妙なパワーバランスで成り立つシュート。試行錯誤を重ねてフィールドプレイヤーの中で一番適したステータスを有しているのが不動しかいないと分かったまでは良かったが、他の技の精錬にも追われている中それを完成に導くにはどうしても時間が足りなかった。

「マキシ!」

ケーンがフィールドに勢い良くボールを蹴り入れる。
このままロココにボールを回し三点目を取ろうと目論むマキシの目前で、コースを読んだ鬼道がボールをトラップでカットした。

「何っ!?」
「お前が攻撃の起点だ!」

一笑する鬼道の目線には、既にゴール前に走り込む三人のFWの姿がある。鋭いパスが芝生を走り、ボールを受け取った豪炎寺の足元に火花が散った。

「“グランドファイア”《G2》!!」

炎を帯びたロングシュートが真っ直ぐゴールへ突進する。身構えたケーンの腕から再び赤い閃光が迸った。

「“ゴッドハンドX”《改》!!」
「!!」

ここに来て新たな段階へと進んだ必殺技は、三人がかりのシュートを抑え込む。
有り得ない話ではないとは言え、このタイミングであちらも技を進化させてくるとは。豪炎寺は眉間にぐっと皺を寄せた。

「手強い……」
「──リトルギガントは強いチームよ。でも、決定的に足りないものがあった」

口元を押さえて呻きにも似た声で織乃が言うと、夏未がぽつりと口を開く。

「足りないもの?」
「……ライバルの存在」

首を傾げた春奈に、夏未は頷いてそう答えた。
リトルギガントは地元で敵無しのチームだった。まともに研鑽し合える相手はチームの外にはおらず、仲間同士での練習ばかりでは成長するにも限界がある。

「個々の成長はチームの成長を生む……その逆も然り。イナズマジャパンと戦うことで、リトルギガントも強くなってるんですね」

競い合う相手が出来たことにより彼らはより強く進化する。イナズマジャパンは試合中に強くなることで、結果的に自分たちをより苦境に追いやってしまっているのだ。

二度目のシュートを止めたことでペースを掴んだか、リトルギガントは攻守共に調子を上げてくる。

「あいつら、ますます強くなっている……!」
「だったら尚更負けるわけにはいかねえ!!」

目を見張る佐久間に即座に不動が言い返す。鬼道はキートのボールを不動とのコンビネーションで奪うと、そのまま深く敵陣へ切り込んだ。

「行くぞッ!!」

ボールを天高く蹴り上げ、鬼道は高らかに指笛を吹き鳴らす。

「“皇帝ペンギン3号”《G3》!!」

また更に強くなったシュートに、これなら、と春奈が零した。
しかしその希望を打ち砕くように、相手もまた強くなっていく。

「《真》“ゴッドハンドX”!!」
「っ、また進化しただと……!?」

握り潰されたシュートに、思わず鬼道の頬を嫌な汗が伝った。ゴールは見えているはずなのに、遥か遠くに感じてしまう。
その動揺は隙を生み、押さえられたボールは自陣へ押し戻されて再びロココに繋がってしまった。ロココはゴールを正面に捉えて跳び上がる。

「“Xブラスト”!!」
「そっちか強くなるなら──俺たちはもっと強くなる!! “ゴッドキャッチ”!!」

咆哮を上げ、円堂はシュートに喰らいついた。
激しい摩擦の煙を上げながら、抑え込まれたシュートの回転が緩んでいく。
数歩分円堂の体をライン際に押し込んで止められたシュートを見て、ロココは驚きに目を剥いた。そして同時に、湧き上がる興奮に笑顔さえ浮かべる。

「行け鬼道!!」
「!」

何度でも止めて見せる。だから諦めるな──言葉はなくとも、円堂の目は力強く語っていた。
ボールと共にその意思を受け止め、鬼道は一拍置いて頷いて再び走り出す。

「そうだ……円堂だけじゃない!!」
「僕たちだって──」
「もっと強くなれる!!」

背後から吹雪とヒロトが追走してきていることに気付いた鬼道は、今しかない、とゴールを真っ直ぐに見据えた。

「ヒロト!!」

声を張り上げ、鬼道はヒロトに鋭いパスを回す。ヒロトがすかさずそれを中空に打ち上げると、三人は跳躍してそれぞれボールに蹴りを叩き込み高度とパワーを蓄積させていく。

「“ビックバン”!!」

そして最高到達点へ辿り着いた瞬間、同時に三人の脚力を受けたボールは爆発的な威力を纏ってゴールへ墜とされた。

「《真》“ゴッドハンドX”──!!」

肌を焼くような熱量を浴びながらも一切の怯みも見せず、ケーンはシュートに手を伸ばす。掌型に展開された闘気に、シュートは一瞬押し止められたかに見えた。

「行けーーッッ!!」

ベンチから聞こえた織乃の絶叫がそれを後押ししたかは分からない。
だが、確かにその次の瞬間、鬼道たちのシュートはケーンのゴッドハンドXを打ち破って、ゴールを貫いた。
2対2。イナズマジャパンは再び同点に追いついた。

「よしっ……!」

降り注ぐ歓声を浴びながら、ヒロトや吹雪とハイタッチを交わした鬼道はベンチを見やった。
織乃はホッと胸を撫で下ろしてから、両手でガッツポーズを作っている。それを見た鬼道は思わず破顔してそっと口元を隠した。

「!」

──その時、ふいにホイッスルが短く鳴らされた。まだキックオフはしていない。
振り向くと、ゴール前でケーンが手首を押さえて倒れ込んでいた。

「ケーン!」

仲間たちが慌ててゴール前に駆け寄っていく。どうも先程のシュートを止めるのに随分と無理をしたようだ。
選手交代、と大介が主審に向かって声を張り上げる。

「ロココ! キーパーに戻れ!」
「……!」

ハッと大介を振り向いたロココは頷いてテクニカルエリアへ駆け戻る。
空いたFWにはリューが入ることとなり、ロココは再びキーパーユニフォームに着替えてグローブを着けた。

リトルギガントのキックオフで試合が再開し、リューのパスを受けたキートがボールを蹴り上げる。

「“ダブルグレネード”!!」
「“ゴッドキャッチ”《G2》!!」

素早く2撃を入れたシュートに繰り出されたのは、先程よりも強力になった必殺技だ。受け止めたボールは間髪入れずフィールドの鬼道へと繋がれる。

「もう一度行くぞ!!」
「ああ!!」

二度目のビックバンが放たれ、迫るシュートにロココは鼻っ柱に皺を寄せた。ボールに触れる前からとんでもない威力であることが分かる。ケーンがやられてしまうのも無理はない。
だが、と彼は目に闘志を燃やした。

「(マモルはXブラストを止めてみせた! 負けられない──マモルに、イナズマジャパンに!!)」

腹の底から溢れる思いにざわりと肌が粟立つ。瞬間、ロココの体から光が迸った。

「“タマシイ・ザ・ハンド”!!」

胸元に集まった光は巨大な掌の形になって、シュートをぐっと握り潰す。
それは仲間も、そして夏未や大介ですら初めて目にした、ロココの新しい必殺技だった。

「進化を飛び越えて、新しい技を生み出すとはな! 競い合う心から生まれた必殺技か……!」

大介は呵呵と声を漏らす。互いが強くなるだけ強くなる。これだからサッカーは面白い。

拮抗した両チームの戦いは、そこから更に熾烈を極めた。
何せ自分が進化すればするほど相手も進化していくのだ。どちらも譲らない膠着状態が続き、観客たちにもその緊張が伝わる。

「あっ……!」

虎丸のヘディングがゴールを逸れて、止めそこねたボールがラインの外へと転がり出る。
張り詰めていた糸が僅かに緩まったその時、嗄れた笑い声がフィールドに弾けた。

「わっはっはっはっは!」
「──ダイスケ?」
「じいちゃん……?」

笑い声の主は大介だった。選手たちが不思議そうに彼を見る中、ひとしきり笑った大介はロココたちに向かって言った。

「よーし! お前ら、“重り”を外せ!」
「えっ……?」
「まだ着けていたと言うんですか!?」

後半も半ばなのに、と動揺した目金が呟くも、ロココの表情を見るにそういうわけではないらしい。

「そういうことか……」
「ロココ! 今のどういう意味だ?」

仲間たちも大介の意図が汲めなかったようで、俺たち試合前に重りは外したのに、とマキシは首をひねってロココを振り返る。
ロココはひらりと手を振って、笑顔でこう答えた。

「心の重りってことさ。『気負うな、思い切りやってこい。後悔しないように』……ってさ」
「なら、そう言えば良いのに……ま、ダイスケらしいけど」

何だ、と肩を竦めてマキシたちは視線を戻す。
小さく微笑みを称えたロココは、大介を一瞥してイナズマジャパンのゴールを、円堂を見た。

その瞬間、円堂は突然冷水でも掛けられたようなゾッとした感覚を覚える。この距離からでは相手の表情などろくに見えていないはずなのに、ロココの目が獲物を狙う獣のように感じたのだ。
また何かを仕掛けてくるのかもしれない。グローブをぎゅっとはめ直し、円堂は深く深呼吸をした。