On this fine day
鏡を前に髪を整え、軽く首をひねっておかしなところがないか確認する。
制服の裾を軽く伸ばしていると、「織乃ちゃん、」と背後から柔らかい声が掛けられた。
「リボン曲がってるわよ」
「ありがとう、お母さん」
こちらに伸びた手は傾いた緑色のリボンをちょいと戻し、戻りすがら織乃の肩を優しく撫でていく。
「……月日が過ぎるのは早いわね。中学生になったのなんて、まだ昨日のことみたいに思い出せるのに」
目尻を緩ませて、母は染み入るような声で呟いて、さてと微笑んだ。
「道中気を付けて行ってらっしゃい。式はママも見に行くからね」
「うん、行ってきます!」
笑顔で手を振り、織乃は最低限のものだけ入れた軽い鞄を肩に掛けて家を後にする。
激闘のFFTから、早いもので約1年半が経った。
あれから無事平和な日常生活を送った織乃たちは、今日めでたく雷門中学校を卒業する。
日本のサッカーブームの炎は消えることなく燃え盛り続け、今も尚全国のサッカーファンは増えつつあるらしい。
そしてその切欠を作った円堂、そして彼が立ち上げた雷門サッカー部の名前は今や全国各地に轟いて、特に最初のメンバーである7人などは伝説になりつつあると言う。
「(私が入部した時にはもう、中堅のサッカー部になりつつあったから……弱小だったころ雷門イレブンって、実はちょっと想像がつかないんだよね)」
話に聞くに、まだマネージャーになっていない頃の夏未などは率先してサッカー部を取り潰すことも考えていたというから驚きだ。それを初めて本人の口か聞いた時は思わず大袈裟なほど驚いてしまったくらいである。
「今じゃあんなに円堂さんのことが好きなのに!?」
「おっ……大きな声で何てこと言うの!! 本人に聞かれたらどうするのよ!!」
顔を真っ赤にした夏未に、負けず劣らず大きな声で叱られたのは言うまでもない。
その雷門サッカー部も、受験勉強に専念する為に引退したのはフットボールフロンティア2連覇を制した夏の終わり頃のこと。円堂の後継は協議した結果、栗松に決定した。
最初は一度も脱退を経験していない壁山でも良いのではないかとの意見もあったが、彼は下級生の中でも一際プレッシャーに弱いのでキャプテンという肩書は重過ぎると結論が出たのだ。
最初こそ「俺なんかにキャプテンが務まるでヤンスかね……」と不安そうにしていた栗松だったが、その年の春に入部してきた虎丸や他の後輩たちに背中を支えられ、最近ようやく自信が着いてきたという。
「……んっ?」
バスを降りて学校に程近いバス停から歩き始めたところで、視界に入った黒塗りの高級車が路肩に留まる。その後部座席から降りてきた見慣れた人物は、織乃を振り返って軽く手を挙げた。
「おはよう、御鏡」
「鬼道さん!」
織乃は現れた鬼道にパッと笑顔になって駆け寄る。おはようございます、と鬼道に声を掛けてから運転席の袴田に軽く会釈をすると、袴田はゆったりとした動作で会釈を返してそのまま車を走らせて行った。
「良かったんですか? 校門まで送ってもらわなくて」
「ああ。せっかくお前と一緒に登校出来る最後の機会だからな」
歩き始めた鬼道はそう言って口角を持ち上げる。
ふうん、と織乃は相槌を打って、去年よりも少しだけ背の高くなった鬼道を見上げた。
「高校では一緒に登校してくれないんですか?」
「む、……あそこはバス停から学校まで直通のものが何本か出ているからな。一緒に登校するならバス停で待ち合わせれば……あるいはいっそ、俺が御鏡の家まで迎えに行けば」
「鬼道さん、冗談。冗談です」
ほんの戯れのつもりだったと言うのに思いの外真剣に考え始めた鬼道に、織乃は慌てて両手を振る。
「同じ高校に行けるだけでも十分なのに、毎朝一緒に登校だなんてそんな高望みしませんよ」
「そうか? 俺はやぶさかでもないんだがな」
「もう……」
このままでは自分が彼にからかわれる流れになりそうだ。反応を苦笑するだけに留めて、織乃はふと学校の柵近くに植わっている桜を見上げた。3月に入り少しづつ色づき始めた蕾は、高校に入学する頃には美しく花開くだろう。
本格的にフィジカルコーチを目指すのに必要な知識や資格を得るために、それらが学べる帝国学園の高等部に進学を決めたのはFFIが終わって間もないタイミングだった。
帝国学園は影山が理事長を辞めて以降少しづつ体制が変わり、以前のような軍隊然とした雰囲気は幾分か薄まったらしい。とは言え求められる学力のレベルは中等部から変わりなく高いままで、織乃は『日頃から勉強を怠らなくて良かった』と自分の日々の行いを密やかに褒め称えた。
佐久間を始めとする帝国イレブンも高等部への進学を望んだ者は無事に受験を突破したらしく、来月からはまた同じ学び舎の生徒となるわけだ。
かつて弱者を見下し、力を振りかざし完膚なきまでに相手を叩きのめす影山が示した”強者”のサッカーで戦っていた帝国サッカー部。
強くなければ存在価値がないという絶対的指導者の掛けた呪いから解き放たれ、鬼道という優秀な司令塔を失った帝国イレブンだったが、彼に変わる新たな“司令塔”を得たことで今も強豪校の一校として名を連ね続けている。
昨年のフットボールフロンティアでは地区大会優勝に返り咲いたが、シード枠として再戦した全国大会では鍛え直した雷門イレブンに敗れ、準優勝という成績を収めた。
「──そうか、鬼道さんは元帝国学園……」
校門を潜って幾分かもしない内に、どこかから聞こえてきた声に二人は同時にそちらを見る。
校舎へ続く道から見下ろす形で整備されたグラウンドに円堂と虎丸と秋、豪炎寺が集まって何事か話している。鬼道はちらと織乃と目配せを交わすと、そのまま円堂たちへ視線を戻し彼らの方へ歩みを進めた。
「朝から人の噂話か?」
「あ、鬼道!」
「おはよう、鬼道くん織乃ちゃん」
「おはようございます」
鬼道がまず声を掛ければ、三人は一斉に振り返る。
何の話してたんですか、と織乃が問えば、ああ、と頷いた円堂がグラウンドを指さして言った。
「虎丸に、俺たちの出会いがここだったって話してたんだよ」
「ああ……そうだったな」
ゴーグルの奥で目を細め、鬼道は懐かしそうにグラウンドを眺める。
そんな彼を横目に見て、ふと秋が微笑んで呟いた。
「……何だか不思議。あの時、敵として出会った鬼道くんが今はこうして雷門の制服を着てるなんて」
「最初は世宇子と戦うためだったのにな」
感慨深げに学ランの袖を撫でる鬼道に、織乃はそっと眦を下げる。
織乃は雷門イレブンと帝国イレブンが初めて相対した練習試合を見たことがない。その頃はまだ春奈もマネージャーをしておらず、映像を残せる部員がいなかったのだ。
ただ壁山たち後輩が口々に『圧倒的で恐ろしい相手だった』と当時の感想を話すので、どのような内容だったかは想像がつく。
「いつの間にか、お前たちと一緒にいることが当たり前のようになっていた」
「俺はこの雷門で、お前と卒業出来るなんて夢にも思わなかったよ。嬉しいぜ!」
「……俺もだ」
笑顔でそんなことを恥ずかしげもなく言う円堂に、鬼道は小さく笑った。
そのまま豪炎寺も連れ立って校舎へ歩いていく三人を後ろから眺め、ふと虎丸が口を開く。
「良いなぁ……」
「え?」
何が? と秋が首を傾げると、虎丸は少し照れくさそうに鼻を擦ってから言った。
「親友って、何だかカッコいいですよね!」
そう溢した虎丸に、秋と織乃は顔を見合わせる。そうして笑顔で頷いて、彼女たちもまた円堂たちを追いかけて行った。
§
『これより、雷門中学校卒業式を始めます。卒業生、起立!』
火来による挨拶で、いよいよ卒業式が始まる。
硬い椅子に掛け、織乃は制服の裾に安全ピンで留めた赤い花の飾りのズレをそっと直して緊張を誤魔化した。
『卒業証書授与。──雷門夏未』
「はい!」
ピンと張り詰めた空気を、最初に名前を呼ばれた夏未の凛々しい声が突き抜けていく。
夏未は壇上へ上がると、証書を受け取り一礼して席へ戻っていく。生徒会長である夏未を例外として、生徒たちは名前順に呼ばれ次々と入れ替わり立ち替わり席を立った。
「(短いような長いような……色んなことがあった2年間だったな)」
瞼を閉じると脳裏に様々な思い出が蘇る。
薬による肉体改造を施した強敵に勝利し、宇宙からの使者と戦い、サッカーを私欲と利益を満たすための道具として利用した悪を押さえ頂点に立った世界大会。
放課後まで準備に勤しんだ文化祭、騎馬戦の騎手として自分でも予想していなかった大活躍をしてしまった体育祭、地道な積み重ねを続けてきた受験シーズン。
サッカー以外にも、語り尽くせない思い出が沢山ある。
『御鏡織乃!』
「はいっ!」
背筋を伸ばし、声を返す。
壇上へ上がり、証書を受け取った織乃はちらりと眼下に広がる参列者たちを見やった。
親しい顔は皆一様に涙を流し、あるいは堪えるように微笑んでいる。それを見ると不意に涙が込み上げてきて、織乃はそっと唇を噛んで堪えた。
そうして本年度の雷門中学校卒業式はつつが無く、厳かに終了した。
§
校舎から少しずつ人が捌けていく。
織乃は教室でのクラスメイトとの語らいも程々に、秋や夏未、冬花と一緒に目的地へ向かっていた。
「皆さ〜〜ん!」
「あ、春奈ちゃん」
廊下を歩いていると、背後から元気な声と共に春奈が手を振りながら駆け寄ってくる。
「改めて、ご卒業おめでとうございます!」
「ふふ、ありがとう。招集を掛けたみんなは……」
「グラウンドに集まってもらってます。ユニフォームも渡しておきましたよ!」
胸を張って仕事の速さをアピールする春奈に微笑んで、彼女たちはグラウンドに直行する昇降口ではなく中庭側の西口を目指した。
「──何だ、お前たちもか」
道中、同じように教室からやって来た豪炎寺や鬼道、二年生の後輩と虎丸を含めた新旧雷門イレブンのメンバーと合流する。豪炎寺の言葉から察するに、皆考えていることは同じのようだ。
ブルーシートで覆われた骨組みの大型建造物を視界に入れつつ向かうのはサッカー部の部室である。
古びた小さな部室の扉は半開きになっている。彼らは軽く目配せを交わすと、風丸が代表して中に半身を滑り込ませた。
「円堂! みんなもう集まってるぞ」
「! ああ」
扉の隙間からくぐもった声が漏れ聞こえ、風丸の後から円堂が顔を出す。
「みんな、待たせてごめん」
「キャプテーン!!」
彼が部室から出てくるや否や、二年生たちが円堂に駆け寄って行く。メソメソとべそを掻いて学ランの裾を掴んでくる栗松に、円堂は苦笑を浮かべた。
「おいおい……キャプテンはお前の方だぞ、栗松」
「はっ! ハイでヤンス!!」
我に返った栗松は直様円堂から距離を取って姿勢を正す。
引退する円堂からキャプテンを引き継いで半年近くが経つ栗松だったが、どうも円堂を前にするとどうしてもただの一部員に戻ってしまうらしい。
「みんなも、栗松キャプテンを盛り上げてくれよな!」
「はい!」
円堂が後輩たちにそう言うと、彼らは声を揃えて返事をする。その中にはしっかり栗松の声も混じっており、円堂たちは諦めたように笑った。
「……音無さんもこれからは、マネージャーのキャプテンと言ったところかしらね」
「ハイッ、頑張ります!」
夏未が言うと、春奈は勢いよく振り向いて鼻息荒く両手でガッツポーズを作った。
「チームのフォローは任せて下さい!」
「得点王なら俺なりますんで! 守りは固めて下さいよ、キャプテン?」
「ううっ、プレッシャーでヤンス……」
茶化すような声音で言う虎丸に、栗松は胃の辺りを押さえる。
「しっかりな。来年はフットボールフロンティア3連覇が懸かってるんだ」
「そうだぜ、雷門は追われる立場にあるんだ」
「存在感を出すんだぞ……」
そこに風丸、染岡、そしてトドメとばかりに影野がダメ押しすると、栗松の顔色は可哀想なほどに目に見えて青くなった。
「本当に俺で良いでヤンスか……?」
思わずここに来て不安げに溢した栗松に、お前だから良いんだ、とフォローを入れたのは豪炎寺である。
「脚を負傷しながらもチームを繋げたお前のプレーを、俺たちは決して忘れない」
豪炎寺が持ち出したのは、いつかの世界大会での彼の活躍である。
結局あの試合で勝つことは出来なかったが、痛みを堪えてボールを繋いだ栗松の存在は仲間を、特に当時の一年生たちや虎丸を大いに勇気づけたのも確かだったのだ。
「そんなお前だからこそ、俺たちは託せるんだ」
「〜〜ッはい! 目指すは3連覇、頑張るでヤンス!」
鼻を啜った栗松は涙を拭うと、気合の入った声で宣言する。
円堂は満足そうに頷くと、「じゃあ行くか!」と気持ちを切り替えてグラウンドへ向かった。
全員揃ってグラウンドへ出ると、既にそこにはアウェイカラーの白い雷門ユニフォームを身に纏ったの友人たちの姿があった。
「──みんな!」
「あっ」
円堂が声を張り上げると、準備運動をしていた彼らは一様に声を上げてこちらを見る。
「卒業おめでとう、円堂! パパからもよろしくってさ」
「ああ、ありがとう塔子!」
真っ先に駆け寄って来たのは塔子だ。彼女の通う学校はつい先日同じように卒業式を迎えたらしい。
「しかし気が利くねぇ。サッカー部の卒業はサッカーで締めるなんてさ」
「ああ……それ考えたの、夏未だよ」
小さく微笑んで応える夏未を見て、ああ、と塔子は得心の行った顔になった。
「ナットク。円堂じゃないだろうな〜とは思ってたんだ」
「ええ……」
「──円堂!」
肩を落とす円堂に、続け様に聞き覚えのある声がかかる。
やって来たのは招集を受けてアメリカから一時帰国した一之瀬と土門だ。一之瀬はあれから無事に手術とリハビリを終え、今度こそ怪我を完治させ今はプロユースに向けて最後の調整中だと言う。
「一之瀬、土門! 久しぶりだな!」
「今日は招待ありがとう! 雷門は俺たちにとっても特別さ!」
「またみんなでサッカー出来るんだからな! 来ないわけにはいかねえだろ?」
円堂はそこで、嬉しそうに話す二人の背後に一人の人影が猛進してくるのを目撃した。
「キャ〜ッ! ダーリンてば良いオトコになっちゃってェ! 逃した魚は大きいわ〜!!」
勢いよく一之瀬の腕に抱き着いたのはリカである。
振られたにも関わらず相変わらずの態度のリカに、一之瀬はありがたいような困ったような、複雑な表情になって「それはどうも……」と返した。
それをさておきと言いたげな顔で、風丸は集まってきたかつての仲間たちに改めて声を掛ける。
「みんな元気だったか?」
「元気元気、チョー元気! 吹雪のとこは先週卒業式だったんだと」
大きく頷いて、沖縄から船で──意地でも飛行機には乗らなかったらしい──一足先に高校生になった綱海は、隣にいる吹雪を指差した。
「この日が待ち遠しくって仕方なかったよ。今日はよろしく!」
その言葉通り、吹雪は嬉しそうに笑っている。同学年の中では比較的小柄だった彼の背は、以前より大分伸びたようだった。
「あとな、立向居は陽花戸中のキャプテンになったんだと」
「ほう……正に円堂が歩んできた道を追っているわけだ。頑張れよ」
「ありがとうございます!」
立向居は激励を送る鬼道に照れ臭そうに礼を言って、それを言うなら、と話題の矛先を足元に逸らす。
「木暮だって……」
「そうなんだよね〜、俺こう見えてもキャプテンなんだってさ〜」
木暮はどこか間延びした関心のなさそうな声で返したが、内心は鼻が高くて仕方がないのだろう。以前よりもほんの少しだけ丸みのなくなった頬がほんのりと赤い。染岡はニヤニヤ笑いながら栗松の肩を叩いた。
「栗松ぅ、ライバルが増えたな?」
「だっ……大丈夫でヤンス、負けないでヤンス! なぁみんなっ!?」
「おーっ!」
1年生たちがそれに応じて挙って拳を振り上げる様子は、円堂がキャプテンをしていた頃に見た光景とよく似ている。何だかんだで栗松も少しずつキャプテンらしくなって来ているということだろう。
「チームって……仲間って、良いですよね」
笑い合う選手たちを見て、ふと冬花が呟く。頷いた秋は口角に笑みを湛え、目を細めた。
「円堂くんたちが築き上げて来たものが、栗松くんたちに受け継がれていく。また、新しい歴史が始まってるんだわ……」
そう呟くと、収まっていた涙がまた滲み始めたような気がして、秋はそっと瞼を閉じて唇を噛む。
彼女は雷門イレブンのマネージャーとして一番長い時間を過ごしてきたのだ。その寂しさも一際強いのだろう。
そんな秋に代わり、織乃は深呼吸で一つ間を置いて、さて、と手を打ち鳴らした。
「それじゃあ、私たちも最後のお仕事しましょうか!」
「ええ、そうね」
事前に考えていたメンバーでいよいよチームを二手に分けて、ユニフォームに着替えた選手たちはそれぞれフィールドに入る。
両チームが準備を整えたことを確認して、夏未は小さな空咳をして喉を整えた。
「──それでは、雷門中サッカー部卒業試合≠始めます!」
卒業の記念にと夏未が企画したのは、雷門イレブンといつかの旅で仲間として活躍した選手たちを交えた交流試合だった。
それがきっと円堂たちには相応しいし、後輩たちや学校とは直接関係のない地方の仲間たちも喜んで参加してくれるだろうと考えたのだ。その予想通り、彼らはその提案に一も二もなく乗ってくれた。
監督は円堂が率いる『最初の七人を中心にしたAチーム』には仕事を休んで駆けつけてくれた響木が、鬼道が率いる『後から雷門イレブンに参加したBチーム』には現雷門イレブンの監督でもある久遠がそれぞれ引き受けてくれた。
とはいえ、もしかすればこれが最後になるかもしれないチーム混成の交流試合だ。二人とも余計な口出しをするつもりは一切ない。
それに加え、公平さを保つため夏未と織乃のアドバイスは求めてはいけないものとする。正真正銘、選手たちの地力だけで戦う試合である。
「今までになかった組み合わせだな」
「本当だね。どんな試合になるか楽しみだよ!」
「気楽に行こうぜ!」
「おーッ!」
笑みを浮かべ言葉を交わす鬼道と吹雪にいつもの調子で綱海が声を張り上げると、チーム関係なく方ぼうから気合の声が上がる。
「いよいよキックオフです! 撮り逃せませんよ〜……!」
目金が興奮した様子でビデオカメラの録画ボタンを押そうとしたその時だ。
ズゴゴ、とどこからか地響きが聞こえ、それに連れ地面が振動を始める。
「な、何だぁ!?」
「宇宙人が攻めて来たのかもよ!?」
「洒落にならんて!」
よもやこんなタイミングで地震か、はたまた塔子の言う通り今度こそ本当に宇宙人が攻め込んできたのか。
各々が不安と緊張の面持ちで周囲に警戒していると、冬花があっと声を上げた。
「何か来ますよ!」
「えっ!?」
あそこ、と冬花が指差した方を見ると、敷地を区切る塀の向こうに土煙が上がっているのが見えた。それは徐々に学校に近付いて、あろうことか校門の目の前で立ち止まる。
「これは、まさか……」
土煙の中、うっすらと見え始めたそのシルエットに鬼道はハッとした。
記憶を揺さぶられた秋や春奈は、それを見てポカンと口を開ける。
「何だか昔……」
「こんなの見たような……」
舞い上がった土煙が少しずつ晴れていく。あれは、と呟く円堂の視線にはためくのは、軍旗のように高々と掲げられた校章の描かれた旗だった。
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