Beautiful leader
遠い宇宙からやってきた星の使徒──宇宙人たちは、自分たちの属する組織をエイリア学園≠ニ名乗った。
彼らはサッカーによる勝敗に則り、地球を制圧するつもりらしい。
──というのが、織乃が入院行きを免れたメンバーから聞いた内容だった。
負ければ破壊という一方的な言葉に恐怖を抱くと同時に、正直、わけが分からないという思いがあるのは事実。だがしかし。
『……このように校舎は破壊され、幸い死傷者は出なかったそうです』
こうしてニュースに崩れた学校が映るのを見てしまうと、あれがどうしようもない現実だと思い知る。
星の使徒、エイリア学園に完敗したあの後。特に怪我の酷かった5人は入院を余儀なくされ、また残った10人は何とか帰宅を許された。
雷門中学校及び被害に合った学校は、当然ながらしばらくの間休校。ぽっかりと空いてしまった時間の穴は、酷く大きく感じる。
あの時。守りきれなかった傘美野の校舎を見つめながら、鬼道たちは言っていた。──全く、歯が立たなかったと。
呆然と、しかし腹の底に怒りをため込んだような声で鬼道が呟いたのを思い出した織乃は、中学校破壊のニュースを流し続けるテレビを睨みつける。
向かいでは、朝食を黙々と食べる大樹を、双子が不安げな表情で見上げていた。
「──エイリア学園……サッカーで地球を征服、か」
自室に戻った織乃は、ぼそりと小さく呟く。
「……サッカーで」再度噛み締めるように呟き、ふと鏡の中に自分の顔が映ったのが見えた。
眉は真っ直ぐに保たれ、目はやや険しい光を宿している。
「(………みんななら、きっと)」
瞼を伏せ、ゆっくりと深呼吸した彼女が学校指定のリボンを鷲掴んだその瞬間、机に置いていた携帯が軽快な音楽を奏でた。
「織乃さんなら、そう言ってくれると思ってたんですよ!」
黒塗りのリムジンの車内。鬼道を挟んで鼻息を荒くするのは、先の電話の相手だった春奈である。
学校に行ってみないか──と、兄と織乃に声を掛けた春奈。
2人は二つ返事でその案に乗り、バスで行くより車の方が早いと、鬼道がリムジンを回してくれたのだ。
「まぁ何にしろ、考えることはみんな一緒だろうな」
春奈と織乃に挟まれた鬼道が、軽く鼻を鳴らして笑う。
「そうですよね」織乃は窓の外を眺めながら、小さく微笑んだ。
やがてリムジンは唯一形を残した正門の前で止まる。
瓦礫が飛び散った道を進み、部室のあったクラブ棟エリアへ向かうと、スパイクが地面を擦る聞き慣れた音が聞こえた。
そこにいたのは、こちらに視線だけを向ける豪炎寺。そして部室跡からサッカーボールを拾い上げてきた円堂と、それを見守っていた秋である。
言葉は交わさず、ただ視線だけが交わったその時、また新しい声が加わった。
「──やっぱり、ここにいた」
「夏未さん……」
佇む夏未に、秋が小さく呟く。
「滅茶苦茶とは分かっていても、気になるものね」夏未はゆっくりとしゃがみ込んで、地面に横たわっていたサッカー部の看板を拾い上げた。
手や頬が煤けるのも構わず看板の汚れを払う夏未に、秋たちが駆け寄って行く。
「──俺は、エイリア学園を許さない」
秋が夏未の頬についた煤を拭き取ってやっていると、円堂がふいに呟いた。
その手にはサッカーボールが抱えられており、傍らに立つ豪炎寺と鬼道も、それを見つめている。
「サッカーは何かを壊したり、人を傷つけるためにやるんじゃない……! 宇宙人に本当のサッカーが何か、教えてやる!」
顔を上げた円堂の目が、火が灯ったように色付いた。
マネージャーたちは微笑んで目配せし、豪炎寺と鬼道が力強く頷き合う。
「俺もだ。やろう円堂」
「俺もそのつもりでここに来た。もう一度奴らと戦おう。──そして勝つんだ!」
鬼道のゴーグルが、日の光に反射した。2人を見比べた円堂が、にっと口角を上げる。
「──よし、やろうぜ!」
命運を分けるのは、馴染みのあるサッカー。映画のような驚異的な武力で制圧されるのではなく、自分たちの大切なものでそれをされるとなれば、黙ってはいられない。
「俺たちもやるぜ!」
──そう。考えることは、みんな同じなのだ。
「みんな……!」力強い声色に振り返った円堂たちの表情が明るくなる。
そこにいたのは、先のエイリア学園との戦いから生還した残りの7人だった。
「全くお前は……相手は宇宙人だぞ? いつもの調子でやろうぜ、はねェだろうがよ」
「へへっ」
呆れたような染岡に、円堂が歯を見せて笑う。その傍らの風丸が、ふっと唇を持ち上げた。
「どんな相手でも一歩も引かない──それが円堂なんだ。引かないぜ、俺も」
入院した仲間の為、地球の為。エイリア学園からの宣戦布告を受け、何としても勝たねばならない。
「待って」行き巻くイレブンたちを、夏未が少し厳しい声色で制止した。
「時間がないわ。怪我してるみんなの回復を待てる?」
現在ここにいる選手は10人。試合をするには一人足りない上、控えがいない状態は危険極まりない。
「だけど、やらなきゃ」円堂は顔をしかめながら、ボールを見つめた。
「──そうだ! やらねばならん!」
ふいに嗄れた声がその場に響く。
そこに並んで立っていたのは、響木と雷門の校長である火来。
驚く部員たちの視線を一手に受けながら、火来が口を開いた。
「みんな、こっちへ。着いてきなさい」
連れてこられた先は、崩壊から免れたイナビカリ修練場。その入り口だった。屋根に倒れがかった樹木が、酷く痛々しい。
「そうか! 次のエイリア学園との対戦に向けて、特訓するんですね!?」
円堂が目を輝かせて響木を見上げたが、彼はそれに首を横に振って扉を開けた。
いつもであれば、ここから真っ直ぐ階段を降りていけば修練場に辿り着くのだが。
「ここから動かないように」踊り場で注意を促した火来が壁にポツリと1つあるボタンを押す。
「っうわ!?」
──ガコン、と振動が走り、足がふらつく。ゆっくりと遠ざかっていく壁と天井に一同は目を見開いた。
「これって……エレベーター?」
「ああ、そうだ」
呆然と呟いた織乃に、響木が髭を揺らした。一見ただの踊り場と見えたエレベーターは、ギアをキュルキュルと鳴らしながら降下していく。
「でも、最初にここの見取り図を見つけた時はこんな位置にエレベーターなんて……」
「このエレベーターは、後から付けたものなのです。理事長が、影山の動きを調べる時、万が一のことがあった時の為にと」
「お父様が?」眉を跳ね上げた夏未が怪訝そうにおうむ返しする。しばらくすると、再び足下に軽い衝撃が走った。目的地にたどり着いたらしい。
ポーン、と軽い音を立てて扉が開き、目の前に広がった光景に、一同は息を呑んだ。
「これは……!」
1歩そこに踏み込んだ円堂が、小さく呟く。
最低限の照明に照らされる、薄暗い部屋。立ち並ぶ精密機械のランプは赤い光を放ち、眼前の大きな画面は様々な図形を映しだしている。その光景は、まるでSF映画のセットのようでもあった。
「──来たか」
ふいに、重たい声が降り注ぐ。
カツン、と革靴の音を響かせ照明の下に現れた影に、円堂が「理事長!」と声を上げた。
「お父様!? 怪我はもう大丈夫なの?」
慌てたように夏未が駆け寄れば、理事長は二の腕を軽くさすりながら頷く。
「ああ。こんな状況だ──私ばかり、大人しくはしていられない。君たちだけでも無事でよかった……!」
彼は愛娘の肩に手を回しながら呆気にとられたようにその部屋を見回す雷門イレブンを見つめると、眼鏡の奥にある眼光を鋭くして続けた。
「最早一刻の猶予もない。奴らはこれからも破壊活動を続けることだろう」
何としてでも欠けたイレブンを集め、地上最強のサッカーチーム≠作らねばならない──轟く声に、サッカー部たちがざわめく。
「地上最強のサッカーチーム……」
小さく呟いた円堂の肩に、豪炎寺の手が乗った。そして、背後の仲間たちを見やった円堂はぐっと唇を持ち上げる。
「そして、あのエイリア学園を倒す為には──」
「俺たちにやらせて下さい!」
言葉を遮られた理事長が円堂に視線を向けた。彼の後ろでは、選手とマネージャーも各々決意を固めた表情で、それに頷いている。
周りの大人たちは何も言わない。彼らなら、そう言うだろうと分かっていたのだ。
「俺たちがやります! ──みんな、やろう!日本一の次は、世界一だ!!」
「おー!!」
人差し指を天高く突き上げた円堂に続き、声が上がる。
理事長たちは視線を交わすと、やがてゆっくりと確かめるように頷き合った。
──本当は、一介の中学生たちに地球の運命を委ねるという事がどれほど無責任で無謀なことかは、十二分に分かっている。
だが、相手が狙っているのはサッカーチームのある中学校ばかり。恐らく、同じ土俵に上がらない限り、つまり子供たちがサッカーで押し伏せない限りは、向こうが引くことはないだろう。
「──準備が出来次第、出発だ」
「円堂、頼んだぞ」続いた響木の言葉に、やる気に満ち溢れていた円堂の顔から一瞬で覇気が失せた。
「んぇっ?」
「頼んだぞって……監督は?」
風丸が眉を顰めて尋ねる。
「俺は行かん」あっさりとした返答に、サッカー部から一斉に反感の声が上がった。
「響木監督には、私から頼んでいることがあるのだ。これもエイリア学園と戦うために必要なことでな」
「そんなぁ……じゃあ俺たち、監督なし!?」
理事長の弁明に、円堂がしょぼくれたように眉を下げる。
口々に不安と不満を述べるイレブンに、響木が口を開いた。
「なに、心配するな」
その次の瞬間、背後のエレベーターが、またポーンと音を立てる。
そちらを振り返りポカンとしたサッカー部一同に、理事長がその先を手で指し示した。
「紹介しよう。──新監督の、吉良瞳子くんだ」
開いた扉の先にいたのは、背中に届く艶のある黒髪の女性。
クリーム色のスーツは皺1つ寄っておらず、きりりとした表情から厳格な雰囲気を漂わせている。
彼女──瞳子と呼ばれた女性は、エレベーターから降りると同時にざっとイレブンたちに視線を走らせた。
「──ちょっとがっかりですね、理事長」
冷静な声色で、まず一声。細身の靴が、固い音を鳴らす。
「監督がいないと何もできないお子様の集まりだったとは、思いませんでした」
雰囲気に違わぬ棘のある厳しい言葉に、1年たちは身を竦め、2年生の一部は表情を険しいものに変える。
「本当にこの子たちに地球の運命は託せるんですか? 彼らは一度、エイリア学園に負けているんですよ?」
「だから勝つんです!!」
苦言をはねのけるような円堂の言葉に、瞳子がちらりと視線を投げかける。
円堂は怯まず、表情を引き締める仲間たちを背にして続けた。
「一度負けたことは、次の勝利に繋がるんです!!」
「……頼もしいわね。──でも、私のサッカーは今までとは違うわよ」
呟いた後に、試練を叩きつけるかのような毅然とした声色で瞳子は言う。
選手とマネージャーたちに見つめられる中、彼女は髪を靡かせ彼らに居直り、不敵に笑って見せた。
「──覚悟しておいて!」
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