Hand level seeing
キャラバンに揺られ何時間経っただろうか。腰が悲鳴を上げ始めた頃、雷門イレブンは立ち往生に陥っていた。
奈良県内に入って向かった先。エイリア学園が襲撃したという奈良鹿公園が、厳重に封鎖されていたのである。
「やっぱり、総理が誘拐されたとなると警備もここまで厳重になるんだ……」
「パトカーだらけですもんね」
窓から外を覗き見た織乃が呟けば、それに倣う春奈が小さく返した。
道路はパトカーが走り回り、奈良鹿公園の入り口は黄色いテープが張られている。
「中には、入れそうもないでヤンスねぇ」
「ここまできて門前払いかよ……」
窓に張り付いたイレブンたちが舌打ちするその視線の先では、警察官たちに掛け合う瞳子の姿。
横顔の険しさから察するに、状況は芳しくないようである。
それを見た円堂が、我慢できなくなったのか弾かれたように窓から離れた。
「っ俺、お巡りさんに頼んでくる!」
「ちょっと! ここで待てって監督に言われたじゃない!」
秋の慌てたような制止を聞かずに、円堂は転がりでるようにキャラバンのステップを駆け下りていく。
「……もぉ」肩を落とす秋や、瞳子監督に駆け寄っていく円堂を一瞥した夏未が、溜め息をひとつ吐いて携帯電話を取り出した。
「──もしもし、場虎? お父様に繋いで」
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──5分後。雷門イレブンは、無事公園内に入ることを許された。夏未が理事長に園内に入れるよう警察に掛け合って貰ったのである。
「どんだけ顔が広いんだよ、理事長って……」
呆れも混じったような苦笑を浮かべた土門が独り言ちる中、園内を見回した円堂が顔をしかめた。
「こりゃひどいな……」
「ちくしょう、エイリア学園め……!」
園内にある建築物や橋は、今まで破壊された学校のように粗方壊されている。
脳内に蘇った校舎の様子を振り払うかのように大きく首を振った円堂は、表情を引き締めて拳を突き上げた。
「よしっ! 必ず奴らの手掛かりを掴むぞ!」
おおっ、と声を上げたイレブンたちは、ばらけて園内の捜索を始める。
ざっと辺りを見回した夏未が、表情を引き締めながらもポツリと呟いた。
「総理大臣を狙うなんて……奴らの目的は何なのかしら」
漠然とした疑問に答える者はそこにはいない。ただ、彼女の後ろに佇む瞳子が何か考え込むようにしながら、顎に手を添えていた。
「やっぱり、身の代金目的ですかね?」
丁寧に整備された緑の芝にしゃがみ込みながら、そう呟くのは春奈である。
その傍らで、織乃は首の折られた巨鹿像を見上げながら首を捻った。
「でも、学校とかも簡単に壊せるような力を持ってる相手だよ? あの力を盾にすれば、総理を誘拐しなくてもお金の要求なんていくらでも出来るんじゃないかな」
第一、相手は宇宙人≠セ。
本来の目的が何なのかなど、物の基準が判明しない限りは到底分かることはないだろう。
「成る程……それもそうですね」納得したように頷いた春奈は、膝を延ばしてスカートに付いた芝を払った。
ニュースや理事長たちの調べでも、総理が誘拐された明確な理由も、その所在もまだ解っていない。
身の代金の線は薄いとして、仮に相手がテロ組織や過激派の宗教団体か何かだったら、何らかの目的があるのだろうと推測出来るが──そこまで考えたところで、織乃は頭を振る。
「(今はまだ無理、か)」
情報も少ない現時点では、円堂の言うようにここで何か手掛かりを見つけるしかないのだろう。
溜め息を吐いて巨鹿像を撫でた矢先、壁山の慌てたような声が園内に轟いた。
「あ、あったッスーーーー!!」
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「──でも、何で池に落っこちちゃったの?」
「そ、それは探求心の暴走と言いますか、い、良いじゃないですかお陰で見つかったんですから!」
秋からタオルを受け取りながら唇を尖らす目金が、水滴の付いた眼鏡をそれで拭く。
顔を見合わせ首を傾げるマネージャーたちを尻目に、円堂たちは壁山が池の中で見つけた──エイリア学園が使っていたものと同じと思われる、黒いサッカーボールをしげしげと観察していた。
「ふん、ぎ、ぐぐぐ……!!」
ボールを両手に抱え込んだ円堂が、それを必死に持ち上げる。
数センチ程持ち上がったボールは円堂の手が離れるなり、ズンと重そうな音を立てて地面に落ちた。
「お、重い……!」
こんな物を軽々と蹴っていたのか、と呟く円堂の声色には、驚愕と少しの絶望が入り交じっている。
──その時だ。
「全員動くな!!」
唐突に、鋭い声が飛んでくる。
「えっ?」驚いたように円堂が顔を上げ、一同が振り返った先には、唯一形を残した橋からこちらを見つめる黒いスーツに身を包んだ男たちがいた。
「もう逃がさんぞ、エイリア学園の宇宙人!」
先頭切ってこちらにやってくる色黒の男は、そう叫びながら橋を渡って来る。
「俺たちのこと?」風丸たちはポカンとした顔を一転させて、訝しげな表情になった。
「財前総理はどこだ! どこへ連れ去った!」
「え、あのー、ちょっと……」
「黙れ!」
弁解の余地も与えないらしい男は、円堂の言葉を遮る。驚いたように肩を揺らした春奈が、隣の織乃の袖を掴んだ。
「その黒いサッカーボールが何よりの証拠だ!」
「ち、違う! 違います! これは池に落ちてて──」
円堂がどれだけ説明しても、黒いスーツの男たちは聞く耳を持たない。
警察には話が通っているんじゃなかったのか、と眉を顰め尋ねる鬼道に、「私に言われても」と夏未が困ったように顔をしかめた。
「我々は、総理大臣警護のSPだ」
「だからと言って、いきなり宇宙人呼ばわりなんて、失礼じゃありませんか!」
風丸が珍しく、苛立ちを露わにした声で反論する。
彼らの不審な物を見る目つきは未だ変わらない。どうしようかと夏未や織乃が目を合わせた矢先、また新しい声が割り込んだ。
「宇宙人はどこだッ!」
少女特有の高い声。
塔子お嬢様──と呼ばれ駆け寄ってきたのは、同じく黒いスーツを身にまとった、円堂たちと同じ年頃の少女だ。
「だから、俺たちは宇宙人じゃないって!」
厳しい顔つきの塔子に、円堂が早速反論の声を上げる。
彼を上から下までざっと眺めた塔子は、一瞬少し悩んだような顔をした後、ふっと口角を上げた。
「俺たちはFFで優勝した──」
「動かぬ証拠があるのに、往生際の悪い宇宙人だね」
「何度言ったら分かるんだ!」にやりと口元を緩め、黒いサッカーボールを見やりながら言い放った塔子に、円堂がバンダナの上から頭をかきむしる。
「俺たちは、宇宙人じゃない!」
「キャプテンの言うとおりでヤンス!」
「俺たちのどこが宇宙人に見えるんだよ!」
「疑うにも程がある!」
叩きつけるような円堂に倣ったように抗議の声が上がるも、塔子たちは信じようとしない。必死に否定するところが益々怪しい、とさえ言われてしまう始末だ。
「宇宙人じゃないったら、宇宙人じゃない!」
「いーや、宇宙人だ!」
2人は顔を突き合わせて睨み合う。秋と夏未の複雑そうな表情に、織乃は思わず苦笑した。
そして、依然同じ問答を繰り返す2人を見やる。
「(あの塔子って人も、多分、総理と関係があるんだよね。……でも、だったら何で)」
何故、彼女の表情の端々に余裕のようなものが見えるのか、それが分からない。
やがて延々と続くかと思われた問答を断ち切ったのは、塔子の方だった。
「──よし。そこまで言うなら、証明してもらおうか!」
「ああ! 望むところだ!」
大きく頷く円堂に、塔子はまたひとつ笑う。
それはまるで、彼がその言葉を言うのを待ち望んでいたような顔だった。
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「……で、何でサッカーなのよ」
「円堂さんだからとしか……」半眼になりながら芝に引かれた白線で出来たフィールドを見つめる夏未に、織乃は苦笑いする。
その傍らで、瞳子が涼しげな表情で髪を掻き上げた。
「でも、やって損はないわ。大人相手に、彼らが戦えるのか見てみたいもの」
そう目を細める彼女の視線の先には、仲間たちを鼓舞する円堂の姿がある。
円堂はグローブをはめた手を握りしめながら、仲間を見回した。
「向こうが大人だからって、怯むな! ピッチに立ったら同じサッカー選手だ!」
「ああ、どんどんゴールを決めてやる!」
「──でも、相手が相手なだけに体力的差がある」
「ペース配分に注意しないと」冷静に意見を述べるのは風丸だ。
その上、こちらは1人足りないという状況。顔をしかめて零す土門にも、円堂は変わらず笑顔を向ける。
「大丈夫! 足りない分は、全員でカバーすれば良い!」
力強い言葉に、その隣の豪炎寺が頷く。
「一体どんなプレーをするチームなんだ」言いながら、鬼道が妹を振り返った。
春奈は片膝に置いたパソコンを操りながら、やがて「あった!」と声を上げる。秋や一之瀬がそれを覗き込むと、春奈は全員に聞こえるよう画面の字を読み上げた。
大のサッカーファンである財前総理のボディガードでもあるサッカーチーム──それが彼ら、SPフィクサーズ=B
秋がその内容に、ぱっと顔をしかめる。SPは要人警護の警察官。体力も腕っ節も相当なものに違いない。
「サッカーで体を鍛えてるってわけか……」
顎の先を摘みながら呟く一之瀬に、1年生と目金が不安げに顔を見合わせた。
「相手が大人というだけでも大変なのに……」
「どうやって戦えば良いでヤンスかね?」
「監督、アドバイスをお願いするッス!」
期待を込めた目で、壁山たちが瞳子に視線を向ける。
瞳子は順々に彼らの顔を見た後、やがて口を開いた。
「……とりあえず、君たちの思うようにやってみて」
その一言だけを言って、彼女はその場から颯爽と去っていく。
「どうする?」風丸に問われた円堂が、首を捻った。
「覚悟しといてって言ってましたけど……意外と放任主義なんですかね?」
一方で、フィールドの傍らに控えたマネージャー陣。首を傾げる春奈がそう呟く。
「そう言うわけではないと思うわ。だってあの人は、まだみんなのプレーを見たことがないんだもの」
春奈の問いに返すのは夏未だ。
「でも、どうするつもりかしら?」彼女は腕を組ながら、仲間に指示を出していく円堂を見やる。
「体力もパワーも、あっちが上なのは確実だから……大事なのは、先取点を取ってペースをこっちのものにすることですよね」
だったら、攻撃型の布陣にするのが妥当ではないか──と、響木たちから授かったモバイルを慣れない手つきで操りつつ、織乃は言った。
それと意志の疎通をしたかのように、雷門イレブンは攻撃型の陣形を組んで持ち場に着いていく。
「──見せてもらいましょうか」
小さく呟いた瞳子の鋭い視線が、フィールドを射抜いた。
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